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◇◆ Nandasore! 1 ◇◆
 本日、旗日のお祭日。
 彼氏の居ない二十代中盤な女は、こうしてなにやら暇を持て余し、別段用事もないのに、先日程よく興味を惹かれたネズミの街にて、一人お買い物に励む。
 ここで大事なことは、今が昼過ぎと言うことだ。午前中は絶対に布団から出ないと断言する。
 けれど午後からは拙い。猫の手も借りたい感じな母の瞳が妖しく光り出し、ゴルフクラブを磨く父が、我が寂しい人生を語りだす。

 それでも一人での外食は何となく侘しいから、昼食と夕食の合間だけ、このように洋服や雑貨を訳もなく眺めるのがもってこいだ。
 帰り際、ネズミーワッフルでも買って帰れば、母親の機嫌は直るだろう。
 さらに駅前でDVDでも借りて帰れば、夕食後の暇つぶしにもなる。
 ということで、五千円強しか入っていない財布の中身。三千円の雑貨に心奪われるものの、折り合いが付かずに陶器相手の睨み合いが続く。

「あれ? 美也さんですよ…ね?」
 突然声を掛けられて、驚き序に、私の手から陶器が転げ落ちる。
 割ったら弁償だ。だから反射神経を総動員させて、三千円三千円と喚きながら、寸でのところで大事な三千円を捕まえた。
 否、正確に言うと、捕まえてくれたのは、声を掛けてきた人だけれどね。

「あ、えっと、えっと、い、石岡さん!」
 壊れ物注意な三千円を確かに受け取りながら、声主の名を思い出して笑顔で名を告げる。
 色々な意味で、心からホッとした相手は、優しい笑みでそれに答えた。
「そうです。よく覚えていてくださいました」
 先週末の居酒屋で、とんでもない失態を犯したばかりだというのに、再会もまた失態だ。
 それでも先ずは、居酒屋での件を謝罪せねば。記憶がないから抽象的にしか謝れないけれど。
「あの節は、本当に色々と失礼致しました」
「いえいえ、こちらこそ。とても楽しかったですよ」

 折り畳んだ身体を元に戻したところで、石岡さんの隣に佇む可愛らしい女性が目に入る。
 その気品ある柔らかい微笑みは、プリンセスの称号が似合うほど輝かしい。
 そんな私の目線に気づいた石岡さんは、プリンセスの背にそっと手を当て、互いへ紹介した。
「あ、萩乃です。萩乃、こちらは松本先輩の妹さんで、美也さんだよ」
 惜しいことをした。もう少し私たちの出会いが早ければ、この子を弟に紹介したものを。
 カシャカシャとシャッターを切り続ける妄想写真も、弟の相手がこの子なら完璧だ。
 だが私は、本間のような外道とは違う。人様の恋人を奪うような真似などしない。
 ところがそこで、小鳥のような、爽やかな朝のような声が、私に降り注がれた。

「石岡萩乃です。いつも兄がお世話になってます」
「あ、松本美也です。妹さんだったんですか。彼女さんかと思いました」
 平常心を保ち、社交会話を繰り出すけれど、心の中は淫らな妄想でいっぱいだ。
 確か、携帯のデータファイルに、弟の写真があったはず。先ずはそれを、然りげ無く落とすなどして、この子の反応を窺おう。それから……
「よく間違われるんです。兄が、私を妹と呼ばないからいけないんですよね」
 そう言われればそうだ。通常なら妹だと紹介するところを、石岡さんは敢えて萩乃と名を呼んだ。克っちゃんならこういう場合、妹の美也です。と、言うはずだ。

 そこでふと、朝からいそいそと出かけた兄を思い出し、嫌味加減で媚を売る。
「仲が良くて羨ましいです。うちの兄なんか、ここ数年、休日に家へ居た例がないですから」
 すると、予想外の言葉を、石岡さんが吐き出した。
「松本先輩は、鬼のような仕事魔ですからね。今日も会社に詰めてますよ」
「え? そうなんですか? てっきり彼女のところだと」
「確かに先輩はモテるから、彼女が居て当たり前なんですが、私は聞いたことがないですよ」
 石岡さんはにこやかにそう言うが、それはただ知らないだけであり、あの男が何処で何をしているかなど、実際は分かったもんじゃない。本当に会社へ居るかどうかだって怪しいものだ。
「克っちゃんは秘密主義なんですよ。何でも」

 笑顔で言ったものの、心が痛い。何故克っちゃんは、ああも秘密主義なのだろう。
 私のことは一つ残らず問質すくせに、自分のことは一切語らない。
 そりゃ、惚気話など聴きたくもないが、それでもやっぱり、何処か淋しい。
 そう考えると、弟も余り自分を語らない。男は口が重いのか? 否、私の口が軽いのか。
 そこで、不自然な沈黙を破る、優しいプリンセスの囁きが発せられた。
「あの、これからお茶にしようと思っていたんですけど、美也さんも一緒にどうですか?」
「いえいえ、お邪魔になっちゃいますから」
「やだ兄妹ですよ? 気にしないでください」
 そう言われればそうだった。なんだかどうも、この二人の醸し出す雰囲気が、兄妹というより恋人同士ってな感じだから、直ぐそれを忘れてしまう。

 ショッピングモールの一角にある、チェーン店舗の喫茶店。
 うっかり御一緒させていただき、ちゃっかりプリンセスの隣をゲット。
 可愛げもなく、珈琲をブラックで平然と飲む私と、珈琲は苦くて飲めないと紅茶を頼むプリンセス。
 しかも、紅茶にお砂糖を入れちゃうところが可愛らしい。
 この子は、何歳なのだろうと思ってはいたけれど、うら若き十代の高校生と判明して驚いた。
 今時の高校生にしては、大人びているというか、擦れていないというか、キャピっとしたところがないから驚いたのかも知れない。
 それでも歳を聞き、その固定観念から萩乃ちゃんを見れば、やっぱり十代だ。特に肌艶とか。

「いいなぁ妹。超可愛い。私も妹が欲しかったなぁ」
 着せ替えごっごに似た、妹が居たらやってみたい妄想を馳せながら想いを告げる。
 すると、家族全員に聞かせたいほど素晴らしい模範解答が、萩乃ちゃんの口から吐き出された。
「私もお姉ちゃんが欲しかったです。美也さんみたいな」
「くぅぅ。私も萩乃ちゃんみたいな妹がいい!」
 萩乃ちゃんのぴちぴちした手を握り締め、感激したところで石岡さんの突っ込みが入る。
「すみません、私を忘れて意気投合しないでくださいね?」

 ところがそこで、何やら私を素早く何度も見ながら、落ち着かない仕草に変化した萩乃ちゃんが、躊躇いがちに呟いた。
「宗ちゃん、私、美也さんとお買い物したいな……」
 改めて思う。兄弟を、ちゃん付けで呼ぶ行為は美しい。特にこの、恥じらい加減は雅なり。
 さらにこの、妹を窘める優しい口調と頭なでなでは、神々にも勝る煌々し。
「萩乃、それは駄目だよ。美也さんに迷惑だろ?」
「で、でも、だって……」

 萩乃ちゃんが、何を言いたいのか解っちゃうのが同性だ。
 私も、まだまだ若いもんには負けない女だったらしい。
 けれどやはりどこか、女としての自覚が消えかけてもいるらしい。
「石岡さん、ユサユサ胸の素を買いたいんですけど、一緒に来ます?」
 そこで、何の買い物なのかを悟った石岡さんは、照れ笑いを浮かべて辞退を申し出た。
「変質者になりたくはないので、ここで待ってます」

 試着どころかサイズも曖昧なまま、ブラを買おうとする萩乃ちゃんに驚き、少しばかり偉そうに、姉発言を申し出る。
「駄目だよ、一度測ってもらわなきゃ。まだ成長期でしょ?」
「そういうものなんですか? 私、両親が居なくて、ずっと兄と二人きりだったから……」
 胸がきゅんとした。日に日に、こういった話に弱くなっていく気がする。この間も、昔懐かしい孤児物語アニメを観て、号泣したばかりだ。
 最期は愛犬と抱き合って、教会の中で死んじゃうの。すんごい悲しいの。

「大丈夫。私が絶対、萩乃ちゃんを死なせないから!」
「は、測らないと、死んじゃうんですか!」
 素直過ぎる。なんて可愛いんだ。本間に爪の垢を擦り込んで欲しいよ。
 けれど、萩乃ちゃんと一緒に試着室へ入り込んだ店員の台詞を聞いて、その爪の垢は私が飲むべきなのだと悟り、眩暈が起きる。
「アンダー65のトップが85なんで、Eカップがお勧めですね」
 ちょっと待て。どういうことだ。こいつはもしかして、ユサユサ予備軍なのか。

 けれど、青褪めて試着室から出てきた萩乃ちゃんは、驚愕な、何だそれ発言を繰り広げた。
「美也さん、私、可笑しいの? 友達は皆、Cって言ってたのに……」
 可笑しいよ。可笑しいだろ。友達からして既に可笑しいんだから。
 何だそれ、冗談じゃない、高校生の分際で。半分くらい分けてくれるという優しさはないのかね。
「ど、どうしよう。宗ちゃんに嫌われちゃう!」
「嫌わないだろ…逆に鼻血出して喜ぶさ……」
「本当に? 本当に宗ちゃん喜んでくれますか? 鼻血出して?」
「な、なんか聞いたことのある台詞だな……」

 強気な言葉を弱気な口調で呟いてみるものの、結局それは、ただの僻みに過ぎない。
 こんな幼くいじらしい子を捉まえて、大人気ない発言や思考は、いかがなものかと思い直す。
 さらに萩乃ちゃんは、弟同様に、私の溺愛スイッチを軽々と押すから堪らない。
「み、美也さん。いえ、お姉ちゃん……」
「うっ…くぅぅぅ。何? お姉ちゃんに何でも言って」
「じ、実は私…しょ、勝負下着が欲しいんです」
「オッケー任せろっ! ……えぇ? だ、だめだよ! 早いよ!」

「で、でも、お姉ちゃん…その、初体験って幾つでした?」
 その言葉で、思い出したくない過去プレイバック。
 今時の子は早いと聞くが、何事も早ければいいってもんじゃないはずだ。特に胸の成長とか。
 それでも妹が真剣に尋ねているのだから、姉として、嘘も、誤魔化すこともしてはならない。
「じゅ、十八です……」
「私と同じじゃないですか!」
 そうかも知れないが、私の場合は、勝負したわけではなく騙されたわけであって、今現在までそのような下着に着手したことがないのですが。

 けれどそこで、溜息とともに俯く萩乃ちゃんは、今にも泣きそうな具合で心中を語る。
「私、ずっと、凄く好きな人がいて…でも、その人は私を女と見てくれなくて……」
 またまた胸がきゅんとする。こういったレモンの香りが漂う話にも、日に日に弱くなっていく気がする。この間も、韓国のドラマを観て、嗚咽したばかりだ。
 擦れ違ってばかりなんだよ。互いに好きなのに、それが言えないの。
「もどかしいっ! よし、私が許す。買え。そして脱げ」

 その言葉で、花が咲いたような明るい笑顔に萩乃ちゃんが戻る。
 そんな萩乃ちゃんと手を繋ぎ、一度も足を踏み入れたことのないコーナーへ進んだ。
「や、やっぱり勝負といえば赤ですかね?」
「いや、こ、ここは純白ではないかと……ガ、ガーターベルトとかいっちゃう?」
「きゃあ! これはどうですか? お姉ちゃんもお揃いで買いましょうよ」

 ということで、つい、買ってしまいました。少々見栄を張り、『皆』のサイズを買いました。
 これでもう、ネズミーワッフルもDVDも無理ですが。
 しかし、このような下着を購入したところで、これを活用できるのかが今後の問題で、やはり本間に男を紹介してもらおうかと頭を過ぎるものの、弟との約束を破るのもどうかと躊躇われ、結局箪笥の肥やしとなることを、今、此処に誓う。

 仲良く同じ紙袋を手にし、仲良く腕を組んで、石岡さんの待つ喫茶店へと戻れば、先程まで私が座っていた椅子に、見慣れた後姿が腰掛けている。
「あれ? 克っちゃん?」
 振り向いたのは紛れもなく我が兄で、訝しがる私に、石岡さんの説明が入る。
「一人にされて淋しかったので、私が呼びつけました」
 そういえば、此処はネズミの街でした。
 平日よりラフな格好ではあるものの、これは完全に克っちゃんの仕事着だ。
 デートなどではなく、本当に仕事をしていたのだと解り、なんとなく嬉しい妹心。

 それでも、一人待たせた手前、石岡さんには謝らなければならない。
 妹の脱処女計画に加担したとは言えないけれど、とりあえず抽象的に謝ろう。
「あ、す、すみません……色々」
「色々?」
「しゅ、宗ちゃん違うよ。私がお姉ちゃんを引き止めちゃったの。色々」
「色々?」
 妹も色々大変だ。二人の兄の目が細まり、猜疑心の塊っぽく互いの妹を見据え始める。

 最近、弟から『キョドル』という言葉を教わった。疚しいことがあると、キョドキョドして挙動不審になるから、私は怪しまれるのだとも明言された。
 もう一つ新たな言葉を教わったけれど、それは、その、忘れた。
 それでも、今此処で適応されるのはこれだ。私は断じてキョドってはいけない。
 我が第二の妹、萩乃ちゃんのためにも、スマートな笑みを兄に向け、この危機を乗り越えよう。
 これが功を奏したのか、諦めたのかは知らないが、克っちゃんは溜息混じりに見据えることを止め、紙袋の中身に興味の対象を移したらしい。
「楽しげに、何を買ってきたんだ?」

「もう、すっごいよ。お財布空っぽだけど」
 ここで紙袋を開けるわけにはいかないが、実は少し、見せびらかしたかったりもする。
 喜色満面に、うずうずしながらそう告げると、兄もまた、そんな私に釣られて笑う。
 そして、完全に忘れていた事柄を、思い出させる台詞を放つ。
「それは、俺にここを奢れと言ってるの?」
「あっ!」
「これだよ……」

 兄の奢りと判ればこっちのものだ。兄のお財布片手に萩乃ちゃんと練り歩き、セルフのショーケースを覗き込んでケーキを選ぶ。
 栗だのチョコだの苺だの、女姉妹ならではの楽しい会話を弾ませているこちら側と、そんな妹を持ったばかりに、溜息が止まらない兄会話。
「初めてお会いしたときから思っていたのですが、美也さんと萩乃は似てますよね」
「よ、容姿はね。でも性格は真逆だろ。美也には品の欠片もない……」
「いえ、全て似てます。何と言うか、萩乃の数年後そのものかと」
「石岡、お前も、胃の痛みと胃薬が抱き合わせの男だったんだな……」
「えぇ。それはもう……」

 これを至福の時と言うんだ。最高の休日だと思わずにはいられない。
 あくまでも対等な、女友達とでは得られない無償の感情。弟は直ぐ、お節介だとか、俺は子どもじゃないとか宣うけれど、妹はそんなことを言ったりしない。当にやりたい放題だ。
「克っちゃん、私、妹が欲しい」
 心から想う。家に帰ったら、土下座で両親に頼み込もうと真剣に思う。
 けれど兄は、それを簡単に否定した。
「それはもう流石に無理だな。自分で産んだ方が早いだろ」

「やだよ。克っちゃんと亮ちゃんに似た子が欲しいのに」
 そう言いながらも、何だかそれは最高のような気分になってきた。
 私が子どもを産めば、家族皆が可愛がってくれるだろうし、今よりもっと賑やかになる。
「美也の子なら、少しは俺と似てるだろ?」
 当然、あの家から出て行くつもりなど露ほどもない。旦那もいらない。
 ということは、兄の言葉も含めて、この条件にぴったりな遺伝子といえば……
「あっ、私が亮ちゃんの子を産めばいいんじゃん! イタッ」

 突然、手首を翻され、強く握り締められた痛みに声を上げた。
 見上げれば、信じられないほど凄みを帯びた兄の眼に射られ、ぞっとする。
 枷を振りほどくこともできないまま固まれば、すっと手首を放して兄が言う。
「冗談でも、余りふざけたことを言うな」
「ご、ごめん……」
 そうでした。ちょっと調子に乗り過ぎました。やっぱり妹で我慢します。
 けれど、両親に無理ならば、妹はどうやったら手に入るだろう。
 そういえばそんなことを、数時間前にも考えていたような。

「ちょ、ちょっと待ってください! 亮ちゃんって、もしかして、秀和高の松本亮先輩?」
 興奮し、中腰気味に為りながら、萩乃ちゃんらしくない大声で奇遇な言葉を吐き出され、その場全員の身体がびくんと揺れる。
 秀和高とは理系で有名な工業大学付属の高校で、弟の出身校でもあり、兄の母校でもある。
 兄はそのまま付属の大学へ進学したけれど、弟は皆の反対を押し切り専学に進み、同級生よりも一足早く、社会人の仲間になった。
 どうしても進みたい道があるのだと、弟は皆に言っていた。だけど、その進みたかった道が、ユサユサ本間の部下というのが納得できないけれど。

「そうそう。何? 萩乃ちゃん、うちの弟を知ってるの?」
「知ってるも何も…や、あ、そ、」
「萩乃も秀和なんですよ。実は私も秀和で、松本先輩とは高校時代からのお付き合いだったりします」
「え? 石岡さんもですか? な、なんだこの秀和軍団は……」
 私が悲観に暮れるのも無理はない。
 秀和は世に言う完全なる進学校で、理数系ということも重なり相当レベルが高い。
 当然私も兄を追ってそこへ入学したかったけれど、中二の段階で既に諦めた。
 否、諦めたというより、無理だと説得された。が、近いかも。

 ちなみに私は、普通科を受験し、普通の短大を卒業し、普通の信用金庫に入社した。
 弟ではないけれど、あの頃もっと進路を真剣に考えていれば、私はきっと保育士になったはずだ。
 自分で言うのも何だが、その職は、私の天職な気がするんだよね。今更だけど。
 そこで、はたと思い出す。私の夢は保育士ではなく、妹獲得じゃなかったか?
 しかも、最適候補者が、弟の名を興奮しながら叫んでいましたよね?
 頭の中で、正解のチャイムがピロンピロンと鳴っている。これはもしかして……

「レモンの香りの韓国ドラマっ!」
「伝説のスーパーミヤコンっ!」

 何故か同時に立ち上がる女二人の、多分きっと、ちっとも噛み合っていない、ははん顔。
 そんな妹二人を見上げる兄たちの、間違いなく噛み合っている、何だそれ顔。
「美也、お前、コーヒーで酔ったのか?」
「萩乃、お前、紅茶に何か入ってたの?」
 しかも、似たようなツッコミを入れた後の、項垂れ加減も似ていらっしゃる。
「先輩、ね、似てるでしょ……」
「だからお前とは、昔から気が合ったんだな……」

 石岡兄妹と別れ、松本兄妹での帰宅途中。
 もちろん兄の財布で、ネズミーワッフルを買いました。さらに、DVDも借りました。
 姉妹が織り成す、素敵なアニメが観たいのだと店員に縋りつき、昔っぽい三姉妹泥棒物語を選んでいただいたものの、長女が本間に見えるのは何故でしょう。
 しかも、あいつなら遣りかねない、レオタードの腰にスカーフ巻きってな姿が気になります。

 家が近いというのに、自販でコーヒー缶を買う兄が、プルトップを開けながら切り出した。
「また、良からぬことを企んでるだろ?」
 当然だとばかりに缶を要求し、当然だとばかりに返答する。
「妹を手に入れるためなら、他人様の妹だろうとキャッツアイ!」
「キャッツアイってお前…石岡の妹と、亮をくっつける気か?」
「だって、萩乃ちゃんお姫様じゃん。克っちゃんもあんな妹が欲しいでしょ?」
 そこで兄が缶を取り上げ、残った中身を一気飲みした後、缶を捨てると同時に台詞も捨てた。
「胃がキリキリするのは、美也だけで充分だ」

 何だそれ、どういう意味だそれ、感じ悪っ!
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