目が覚めると、いつからそうしてくれていたのか、隣に寝転がった佐野が植木の頭を撫でている。 「ん、起きたんか?」 植木が起きたことに気付いて手を退けようとした佐野を、植木の腕が無意識に引き止める。 驚いて目を瞬きさせながら、植木は佐野を、佐野は植木を見た。 そして、どちらからともなく目線を逸らして――――口を開いたのは植木だった。 「・・・やめないで」 佐野は再度植木を見つめ、それから手を戻した。 仕草がどこかぎこちない。 居辛そうに目線を泳がせる佐野に、植木は思わず笑ってしまった。 「何や!笑うなや!こっちは必死なんや!!」 笑われたことが余程不満なのか、佐野は手を引っ込めてしまう。 ふとそこから去った温もりに、植木は言い知れぬ寂しさを感じていた。 「悪ぃ」 短く謝る植木。 植木としてはちょっとした戯れを詫びたつもりだったのだが、佐野はその言葉に違った反応を示した。 「その悪ぃは何に対しての悪ぃなんや」 「え・・・?」 言われても、他に謝らなければならないことが思い当たらない。 植木がしばし考え込むのを見て、佐野は諦めたようにため息をついた。 「その様子やと、覚えてへんみたいやな」 佐野が苦笑する。 しかし事実何も思い当たらない植木には、その表情に込められた意味はわからなかった。 「オレ、何かしたのか?」 訝しげに尋ねる。 「したっちゅーか言うたっちゅーか」 佐野は曖昧に答える。 自分から切り出したことではあるが、覚えてないと言うのなら無理に教える必要もないかと思った。 「教えてくれ。何か言ったんだな?」 しかし植木は知りたいと言う。 「言ったっちゅーか叫んだっちゅーか」 「だから何を」 急かされて、観念したように告げる。 「お前昨日、イクとき」 「どこに」 植木は大真面目なのだが、佐野にはからかっているとしか思えない。 「聞くなやアホ。せやから、そんとき、呼んだんや」 植木の質問には答えず、佐野が続ける。 植木も続けて聞いた。 「誰を?」 誰を――――― 本当に言ってもいいものなのだろうか、と佐野が惑う。 しかし、嘘をついていいことだとも到底思えなかった。 迷いながらも口を開く。 「せやから、そのやな・・・」 言い難そうに、ぼそぼそと呟くように告げる。 それでも、その言葉の意味はしっかりと植木に伝わってしまったようである。 植木の目線が痛い。 「昨日、最後な・・・コバセンて、言うたんや、お前」 言ってしまってから、逸らしていた目線を植木に戻す。 植木は目を見開いて固まっていた。 哀しいほど衝撃を受けた顔で。 「言わんとかったらよかったか?」 気まずそうに、佐野が聞く。 その声に、やっとで植木が現実に還ってきた。 「ごめん・・・」 呆然と呟く。 「ごめん・・・っ」 繰り返した言葉は、重みとなって植木にのしかかる。 「ごめん・・・!!」 繰り返すたびに、植木の表情が強張っていく。 佐野は、そんな植木を困った顔で抱き締めながら、優しく背を摩ってやった。 「謝らんでもえぇ。昨日は、オレもちょっとは悪かったし。途中から我忘れてしもた、勘忍な」 「なんでお前が謝るんだよ!!」 佐野にしがみついて、けれど決して涙を流すまいと張った背中を、佐野が優しく解す。 「そないなこと言われたかてしゃあないやん。悪い思たら謝る。人付き合いの基本やで」 尚も優しく撫でる手に、流されないようにと力の篭った指は血の気が引いて白くなっている。 そんな植木に気がついて、佐野は指を解いてやった。 「泣いてしもたらえぇやん。もう、一人で泣かんでえぇんやで」 指を解いた手で、植木の頭を優しく撫でる。 その手がスイッチとなって、植木の瞳から涙が溢れた。 「ふ・・・っ」 縋るように伸ばされた腕をしっかりと抱き留める。 「ちゃんと泣けるやん。泣けるうちに泣いとかんと、後で辛なるで」 「う、っ、さのっ・・・」 後悔と、謝罪と。 留まることを知らない涙は、涸れることなく流れ続けた。 植木の痛みと佐野の優しさの狭間で。 植木の悲痛な泣き声と共に。 |
いろいろとギリギリな記述が多くて申し訳ありません;だって好きなんだもの・・・としか言いようがない。(コラ) とりあえず、植木さんが乙女なのは私の少女趣味の表れです。しょうがない。(えー)あとトラウマ植木もね。好きなんですものー!(叫) |