「植木・・・」 ベッドに横たわり、それでも佐野にしがみついて離れない植木に、佐野は今までにないほどどうしようもなく植木を愛しく思う気持ちで満たされた。 「植木―――――」 横から髪を撫でて、目尻に口付ける。 びくりと震える植木に、怖くないようにと軽いキスを繰り返した。 そうしている間にも襲い掛かってくる抑えようのない凶暴な衝動を、どうにかしてやり過ごす。 これ以上傷付けたくなかったから。寒さに震える植木を、ただ温めてやりたかったから。 何度か口唇に口付けると、ふいに求めるように植木が佐野の背を抱いた。 試すように口付けに力を込める。 植木は拒まなかった。 「植木・・・・・・」 求めるままに顎を掴み、口唇を重ねる。 先程までのそれとはまるで違う感覚に植木の喉がなるが、そこで留まれるほど佐野も大人ではなかった。 「っ・・・!?」 ふいに入り込んできた舌に動揺を隠せない。 両手で佐野の背中を叩き、抵抗を示した。 しかし程なくそれも和らいでいく。 「ふ、は・・・」 息を継ぐのと同時に声が漏れる。 荒い息のまま、今度はそれが嬌声へと変わった。 「は・・・?ふ、や、ぁ・・・っ」 佐野の口唇が耳から首筋へ、胸へと移動する。 片方を舐め、片方を指でいじりながら植木に問うた。 「ここ、好きなんか?」 「やっ・・・ん、んぁ・・・っ」 植木は手で声を抑えようと試みるが、それでも止められない嬌声は更に佐野を煽る結果になった。 しつこく同じところを舐めては噛み、ひっ掻いた。 それに植木がいちいち反応を返してくるので、佐野には楽しくて堪らなかった。 ふいに、その先の反応が見たくなって下肢に手を伸ばす。 すると植木は、期待通りの反応を示してくれた。 「やっ!何す・・・っあ、そ、んなとこ、触んなっ」 耳まで真っ赤にして抵抗を示す。 ぞくりと、何か動物的なものが佐野を襲った。 「っ、や、さのぉ・・・っ、や、あっ!」 佐野は本能の赴くままに植木のそれを口に含んだ。 瞬間、食べられる、と植木は本能的に思った。 途端に怖くなって逃げ腰になる。 「やぁ、やだっ佐野っ!!」 植木の訴えを全く聞き入れない佐野に、恐怖が込み上げる。 植木の瞳に涙が溢れた。 「ん、やだ、ぁ、だっ・・・あ、んぁ」 それでもどうしようもなく感じてしまうのは仕方のないことで、快感と恐怖に苛まれて植木は最早わけがわからなくなっていた。 「ん、あ、ぁあっ・・・」 絶頂が近くなって、いよいよ何も考えられなくなる。 植木は、言葉と共に欲望を吐き出した。 後のことは覚えていない。 目が覚めると、いつからそうしてくれていたのか、隣に寝転がった佐野が植木の頭を撫でている。 「ん、起きたんか?」 植木が起きたことに気付いて手を退けようとした佐野を、植木の腕が無意識に引き止める。 驚いて目を瞬きさせながら、植木は佐野を、佐野は植木を見た。 そして、どちらからともなく目線を逸らして――――口を開いたのは植木だった。 「・・・やめないで」 佐野は再度植木を見つめ、それから手を戻した。 仕草がどこかぎこちない。 居辛そうに目線を泳がせる佐野に、植木は思わず笑ってしまった。 「何や!笑うなや!こっちは必死なんや!!」 笑われたことが余程不満なのか、佐野は手を引っ込めてしまう。 ふとそこから去った温もりに、植木は言い知れぬ寂しさを感じていた。 「悪ぃ」 短く謝る植木。 植木としてはちょっとした戯れを詫びたつもりだったのだが、佐野はその言葉に違った反応を示した。 「その悪ぃは何に対しての悪ぃなんや」 「え・・・?」 言われても、他に謝らなければならないことが思い当たらない。 植木がしばし考え込むのを見て、佐野は諦めたようにため息をついた。 「その様子やと、覚えてへんみたいやな」 佐野が苦笑する。 しかし事実何も思い当たらない植木には、その表情に込められた意味はわからなかった。 「オレ、何かしたのか?」 訝しげに尋ねる。 「したっちゅーか言うたっちゅーか」 佐野は曖昧に答える。 自分から切り出したことではあるが、覚えてないと言うのなら無理に教える必要もないかと思った。 「教えてくれ。何か言ったんだな?」 しかし植木は知りたいと言う。 「言ったっちゅーか叫んだっちゅーか」 「だから何を」 急かされて、観念したように告げる。 「お前昨日、イクとき」 「どこに」 植木は大真面目なのだが、佐野にはからかっているとしか思えない。 「聞くなやアホ。せやから、そんとき、呼んだんや」 植木の質問には答えず、佐野が続ける。 植木も続けて聞いた。 「誰を?」 誰を――――― 本当に言ってもいいものなのだろうか、と佐野が惑う。 しかし、嘘をついていいことだとも到底思えなかった。 迷いながらも口を開く。 「せやから、そのやな・・・」 言い難そうに、ぼそぼそと呟くように告げる。 それでも、その言葉の意味はしっかりと植木に伝わってしまったようである。 植木の目線が痛い。 「昨日、最後な・・・コバセンて、言うたんや、お前」 言ってしまってから、逸らしていた目線を植木に戻す。 植木は目を見開いて固まっていた。 哀しいほど衝撃を受けた顔で。 「言わんとかったらよかったか?」 気まずそうに、佐野が聞く。 その声に、やっとで植木が現実に還ってきた。 「ごめん・・・」 呆然と呟く。 「ごめん・・・っ」 繰り返した言葉は、重みとなって植木にのしかかる。 「ごめん・・・!!」 繰り返すたびに、植木の表情が強張っていく。 佐野は、そんな植木を困った顔で抱き締めながら、優しく背を摩ってやった。 「謝らんでもえぇ。昨日は、オレもちょっとは悪かったし。途中から我忘れてしもた、勘忍な」 「なんでお前が謝るんだよ!!」 佐野にしがみついて、けれど決して涙を流すまいと張った背中を、佐野が優しく解す。 「そないなこと言われたかてしゃあないやん。悪い思たら謝る。人付き合いの基本やで」 尚も優しく撫でる手に、流されないようにと力の篭った指は血の気が引いて白くなっている。 そんな植木に気がついて、佐野は指を解いてやった。 「泣いてしもたらえぇやん。もう、一人で泣かんでえぇんやで」 指を解いた手で、植木の頭を優しく撫でる。 その手がスイッチとなって、植木の瞳から涙が溢れた。 「ふ・・・っ」 縋るように伸ばされた腕をしっかりと抱き留める。 「ちゃんと泣けるやん。泣けるうちに泣いとかんと、後で辛なるで」 「う、っ、さのっ・・・」 後悔と、謝罪と。 留まることを知らない涙は、涸れることなく流れ続けた。 植木の痛みと佐野の優しさの狭間で。 植木の悲痛な泣き声と共に。 |
ノンカット裏要素有りバージョンです。この話は裏要素があってもなくてもあんまり内容に関わらないのでカットバージョンだけでもいいかなぁとも思ったのですが・・・一応両方UPしてます。趣味です。えへ。 |