逢瀬






太玄大皇の策略により、年齢の封印が解け魔獣にその体をのっとられていた蕾は、神扇山の皇子さま方や果ては霊元天神さまのお力をお借りすることで無事に聖仙郷へと戻ってくることが出来た。
しかし、事の原因となった東雲の心労はとても推し量れるようなものではなく、この出来事があってからしばらくの間は、目を覚ました蕾を片時も放すことなく何時でもその傍に置いていた。
「蕾・・・私は、君が死んでしまうのではないかとひどく怖かったのだよ・・・・・・本当に・・・・・・」
そう言っては蕾の無事を今一度確かめようと抱きしめる。
蕾も、自分の行動のせいで東雲を苦しめる結果になってしまった手前、強く断ることも出来ず甘んじて流されていた。
「蕾・・・・・・」
そんな状況下で、2人が一線を越えてしまうまでには大した時間はかからなかった。最も、東雲の心を和らげる意味合いで、というところが強かったのだけれども。
何しろ蕾がふらりと庭に散歩に出たところ、姿が見えないことに酷く心を痛めた東雲が、戻ってきた蕾をその心のままに押し倒してしまったことが始まりだったのだから。
蕾も、抵抗することもなくそれを受け入れた。本心のどこかでそれを望んでいたからかもしれない。
それでも、終わった後には頭を抱えて「こんなつもりじゃなかった」と繰り返す東雲。そんな東雲に、蕾は「もう苦しむな」とばかりに初めて自分からキスをした―――――




それからどれほどの月日が経ったか・・・満月の夜が来るたびに、蕾は鏡を通じて夢の中で第九皇子と逢うようになった。
東雲と似ていなければ、東雲と双子でさえなければ・・・・・・幾度となくそう思った。けれど、東雲の存在がなかったのならば彼にここまで心惹かれることもなかったはずなのだ。
蕾は、東雲と触れ合うたびに第九皇子とどう接すれば良いのか分からなくなっていった。
――――それでも、蕾にとっての第九皇子がいつまでも穢れのない存在であることに変わりはなかったのだが。
「蕾・・・っ」
東雲と同じ顔で、同じ声で、同じように名を呼ばれる。
だけど、そうやって微笑まれるから、より一層どうやって接すれば良いのかが分からなくなる。
「蕾・・・逢いたかった・・・・・・来てくれて嬉しいよ」
また、微笑む。
「俺も、お逢いしたくて堪らなかった・・・俺には、これくらいしかできないから・・・」
「そんなこと・・・!“これくらい”ではなく、“これほどのこと”を蕾はしてくれているのですよ」
「皇子どの・・・・・・」
この儚げな存在を抱きしめてやりたい。その健気な魂を少しでも癒してやりたい。
そう思う自分と、触れてはいけないと責め立てる自分がいる。
神聖なものに触れることへの背徳心、そして東雲への罪悪感。
2つの感情のせめぎ合いの中、蕾は僅かな時間の逢瀬を惜しむように重ねていた。


ある夜、いつものように蕾が感情の波に抗っているとき、第九皇子も同じように自分の感情を必死に押し止めていた。
「蕾・・・・・・」
言いかけては躊躇する。それが蕾には堪らなくじれったかった。
「皇子どの・・・言って下さい、何でもするから。俺は貴方に逢うためだけにここに来てるんじゃない。少しでも貴方の安らぎになれるならと・・・俺は、何もできないのは嫌なんだ!」
必死の訴えが功を奏したのか、しばらく静寂が訪れたあと、皇子が口を開いた。
「蕾・・・・・・私はお前に触れたい・・・触れられたい。お前は・・・私のものではないのに・・・・・・お前を手に入れたくて仕方がないんだ」
お前は私のものじゃないのに――――その言葉が酷く悔しくて・・・気付いたら、皇子の腕を引いて、唇を重ね合わせていた。
「皇子・・・ここにいる間は、俺は貴方だけのために存在する」
「蕾・・・・・・」
背徳心と罪悪感。
消えない重りに圧し掛かられたまま、秘め事は繰り返された。




誰の心も救われないままに。









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初BUD BOYです。が、書いたのは最終巻が出るか出ないかってな頃です多分・・・(何故今更UPする気になったのかは私でも謎なところ・・・)
うん、ま、ね、やっちまったね。救いはありません。続きもありません。これっきりです(あはは;)


ところでなんだか話が急いでいる気がしますね・・・(汗)
これでも多少手を加えてはみたのですが、何分書いたのが昔すぎて・・・元々小説向きの話じゃないんですよね;GIFアニメとかにしたらすっきり纏まりそう。(しかしその技量がない;)
そして入れそびれてしまったエピソードはこちらに(笑)


にしても、言葉が難しいのでね。下書きが間違ってたら終わりです。そのときは下書きを恨んでください。(え)



2005/11/2


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