アルフレド 「こらっ!何度言ったら分かるの?アルフレド!!」 丘の上に作られた小さな家の中に、ビアンカの甲高い声が響き渡る。 「どうしたのさビアンカ?」 別の部屋で明日の宿題を作っていたロミオが、その声に驚いてドアからひょこりと顔だけを覗かせた。 すると、すかさず幼いアルフレドがロミオの元へと走り寄る。 「お父さ〜ん、お母さんが〜っ」 文句を言うように口を尖らせて何事か続けようとするが、それはビアンカによって遮られることになる。 「お母さんがじゃないでしょう!?机はご飯を食べるところなのっ!上に乗って遊んじゃいけません!!」 アルフレドはまだ5歳。 やんちゃな盛りなのだからそれくらいは仕方がない。 それが日頃からのロミオの主張なのだが、ビアンカとしては小さな頃のしつけは後々役に立つから必要なんだということを身に染みて分かっていたので、その主張には賛同できないでいた。 それと、もう1つ。 決して意識してやっているわけではないのだけれど、アルフレドという名前を持つ子どもが粗野に育つのをビアンカは見たくないのだ。 それはまあ、ロミオも同じなのだけれど。 ともかく2人の子育て理論はそのように違っていたから、いつも母親に怒られてばかりいるアルフレドとしては、自分のことを庇ってくれる父親に頼ってしまうのは自然なことであった。 特にロミオはそれをそのまま受け入れてしまうから。 それでビアンカが拗ねてしまうことなども、言ってしまえば“いつものこと”なのだ。今回も、また。 「お母さん怖いねぇ、アルフレド」 「ねー」 ロミオがアルフレドに耳打ちするように囁くと、アルフレドも囁くように言葉を返してくる。 その様子が面白くてロミオはつい笑ってしまうのだが、子どもというものは不思議なもので、笑っている相手には笑いを返してくるので結果、2人で大笑いする羽目になる。 これではビアンカが疎外感を感じてしまうのも無理はない。 案の定ビアンカは不服そうな顔で2人のやり取りを見ていた。 「何よぉ2人で仲良くしちゃってぇ・・・これじゃビアンカ1人だけ除け者じゃない・・・」 そう泣き言を漏らす。 こうなるとビアンカはタチが悪いのだ。 慰め方によっては晩のおかずに関わる大喧嘩になってしまうことだってあった。 「ビ、ビアンカ、そんなことないよ!」 慌ててロミオがフォローに入るが、アルフレドはそれをただ見ているだけ。 尤もアルフレドにフォローを望むこと自体無理があるのだからこれは仕方がないことだろう。 そうやって、ビアンカを慰めるロミオ、それを見ているアルフレド、という構図を見てしまうと、ロミオはいつもつい考えてしまう。 ああ、アルフレドだったらきっとこの場を上手く収められるのに、と。 今はいない人を引き合いに出して考えても仕方ないとは思うのだけれど。 けれどそれはビアンカも考えてしまうことであって。 以前ビアンカは1度だけポロっと言ってしまった事があった。 「お兄ちゃんなら・・・」 お兄ちゃんなら、もっと上手にビアンカのことを慰めてくれるのに・・・そういった意味合いの言葉を、こんな何気ないやり取りの中でもらしてしまった。 つい口から出てしまっただけなのだけれど。 けれどそれは“つい”口に出してしまうほどアルフレドのことを考えているということで・・・それはやはりロミオも同じであった。 どれだけアルフレドのいない時を過ごしても。 ビアンカはもうアルフレドと過ごした時と同じほどアルフレドのいない時を過ごしてきたし、ロミオに至ってはそれが何倍の時間であるかさえ見当もつかない。 それでも2人の中にはまだアルフレドが生きている。 それがどんなに幸せなことか・・・アルフレドもこの青い空の上から感謝していることだろう。 不意に、ビアンカが微笑う。 「どうしたの?」 不思議そうに聞いてくるロミオに目線を合わせ 「ねぇ、私たち今きっと同じこと考えてるわ」 そう言ってまた微笑った。 「お兄ちゃんは幸せね」 目を瞑り、アルフレドに想いを馳せる。 ふと目を開けると、正面にきょとんとして2人を見ているアルフレドの姿があった。 ビアンカはアルフレドに手招きをして自分の元へと呼び寄せる。 そして、その場でひざまづいて、ふわりとアルフレドを抱きしめながら呟いた。 「アルフレドは、幸せね・・・」 それは当のアルフレドには理解しがたい行動であったのかもしれないけれど。 幸せね。 その言葉はとても心地よく、優しい響きを持っていた。 それを見守るロミオもまた、優しい笑顔を浮かべていた。 そんな2人に囲まれて、アルフレドも、嬉しそうに笑った。 |
最終回を知らない方が読むと全く訳がわからないであろうこの話。幼いアルフレドとはロミオとビアンカの子どものことです。一応補足。 ちなみに描く前にぼんやりと「こんな感じのを書こうかなー」と思っていたものはこんな内容です。 |