目を瞑り、深く呼吸をする。 それからゆっくりと目を開けて。 「・・・なんかね、ホントにバカみたいなんだけどね――――その女の子が・・・もしも、もしだよ?もし蛮ちゃんだったらって。そう思ったんだ」 一語一語を思い出すように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 銀次にとって、その歌の歌詞というのは相当強烈なものだったらしい。 「もし蛮ちゃんがその女の子で、それで、オレだったらどうするのかなって・・・そんなこと考えてた」 銀次はすっかりその歌に取り込まれてしまっているようであった。 銀次の表情が、だんだんと苦しげなものになっていく。 「オレは・・・・・・オレは、蛮ちゃんを殺すのかな、って・・・殺してどうするんだろう―――――・・・蛮ちゃんは、ホントに殺して欲しかったのかな・・・って」 銀次はそれを本当に真剣に考えていたらしい。 感受性の強い銀次だからこそ、行き着いた問い。 そして、今も銀次はその問いの答えを探ることに頭を支配されそうになっている。 「・・・で?殺すのか?」 「え・・・」 まっすぐな蛮の言葉。 ぐちゃぐちゃになりかけていた頭が一気に冷えていくのが分かる。 だって、殺すことなんて出来るのか?蛮を。この愛しい人を。 「殺せ、ないよ・・・っ」 そう・・・きっと、少女を蛮に置き換えた時点で答えは決まっていた。 まだどこか戸惑いながらも、銀次ははっきりとその答えを告げる。 「殺せない・・・殺したくないよ・・・蛮ちゃんがそれで苦しむことになっても、オレは蛮ちゃんに生きていて欲しい・・・オレが、蛮ちゃんに生きていて欲しいんだっ」 言ってみてしまえば簡単なことだった。 あぁ、そうか・・・オレは蛮ちゃんに生きていて欲しい。 言葉に出したことですっきりしたのか、銀次は自分の言葉の意味を改めて確認した。 蛮に生きていて欲しい、蛮が生きていればそれでいい。 それが銀次の答え。 自分勝手だと罵られることになっても、自分は蛮を殺さない。殺せない。 だが、銀次の出した答えは蛮にとって予想とは違っていたものだったらしい。 驚いたような、目が覚めたかのような、そんな表情で今度は蛮が言葉を失った。 「・・・蛮ちゃん?」 もしかして、自分の出した答えは間違っていたのだろうか・・・ 不安が広がる。 「オレ、間違ってるのかな、やっぱ・・・」 誰に間違っていると言われてもいい。けれど、蛮にだけは。 蛮ちゃんが間違ってるって言うんなら、蛮ちゃんが殺して欲しいって言うんなら・・・オレは蛮ちゃんを、殺す、よ――――? ・・・そんなことを考えていた矢先だった。 お前の考えてることなんかバレバレなんだよ。 そう言うかのように、蛮が微笑った。 「お前は間違ってねぇよ・・・」 蛮の顔が歪む。どこか苦しげに。 「きっと、お前が正しいんだよ、銀次。そうさ・・・オレも言えば良かったんだ・・・殺したくない、生きていて欲しいって・・・」 蛮が何を指してそう言っているのかは分からない。 けれど、そのことでひどく苦しんでいた、もしかしたら今も、苦しんでいる・・・それだけは分かる。 そして・・・それはきっと、蛮の過去に抵触すること。 自分なんかが気軽に触れられることじゃないのかもしれない。 でも――――― 「蛮ちゃんがそうしたのは、蛮ちゃんが優しいからだよ・・・」 蛮は優しいから。優しすぎるから。 「オレはただ自分を守りたいだけ・・・でも蛮ちゃんは、その人を、守ってあげたんだよ・・・」 ――――分かっているはずが無いのに。 銀次は時々、不意に蛮の核心を突くようなことを言ってくる。 オレが何をしたかなんて、分かってなんかいるはずが無いのに・・・ 銀次にとっては、無意識のうちに、なのだろう。 けれどそれをしてしまうのが雷帝だ。それが、銀次という人なのだ。 「そうか・・・」 「うん・・・」 正しい答えなんて無いのかもしれない。 どの答えが合っているのかなんて分からないのかもしれない。 それでも、間違ってはいないのだと、そう言う。 犯した罪が許された訳ではないけれど。 ほんの少し、ほんの少しでいいから、罪深い記憶を優しいものに。 「サンキュ・・・」 許して欲しい訳ではないけれど。 今はただ、優しい人の言葉に甘えて・・・ 『夕暮れを待って剣を盗んだ』 『重たい剣を引きずる姿は』 『風と呼ぶには悲しすぎよう』 『カルマの坂を登る―――――』 |
ギリギリまで読み直しては書き直したので下書きとはだいぶ違ったことになっております。 どっちにしろ銀ちゃんを慰める蛮ちゃんの話のはずが最後には逆になってしまったことに驚き。何故だ。 「カルマの坂」はポルノグラフィティの曲の題名から。ってゆか『』内はその曲の歌詞を引用したものです。 なんかこの曲を題材に絵やら文やら書いてる方って意外と多いみたいですね。私なんかは水杜っちょがカラオケで歌わなければ今もこの曲のこと知らなかったんじゃないかと思われますが; ちなみに私は『人は皆平等などと、どこのペテン師のセリフだか知らないけど』って部分が大好きです(←聞いてないよ。)ということで皆さんぜひ聴きましょう(笑) 題名を「カルマの丘」だと思ってたことは私とあなたの秘密です(恥) |