『少年は生きるため、盗みを覚えていった―――――』 カルマの坂 『パンを抱いて逃げる途中』 『美しい少女に目を奪われ立ちつくす』 『うつむいているその瞳には涙が・・・』 「―――んじ?銀次ーっ」 先ほどから、呼びかけても呼びかけても一向に返事をしない銀次に痺れを切らし、様子を見に立ち上がる。 銀次は買ったばかりのMDプレーヤーと見つめ合って真剣に何かを聴いているようだった。 (そーとー夢中になってんのな・・・) 無限城にはMDプレーヤーなんか無かったのだろうから、夢中になるのも無理はない。 蛮は、銀次の背中に軽く微笑みかけながら、銀次の邪魔をしないようにそっと部屋を出て行った。 『夕暮れを待って剣を盗んだ』 『血で濡らし辿り着いた少女はもう』 『こわされた魂で微笑んだ』 『最後の一振りを少女に―――――』 バタンッ 大きな音と共にいきなりドアが開いた。 「?」 この家に居るのは蛮と銀次だけなのだから音源は銀次の他に無い。 案の定、蛮が振り返るとそこには銀次が突っ立っていた。 だが、どこか様子がおかしい。 「銀次・・・?」 銀次は開け放ったドアの所から微動だにしないまま俯いている。 「・・・泣いてるのか?」 蛮に声を掛けられ、やっと、無言のままではあるが蛮に覆いかぶさるようにして抱きついてくる銀次。 銀次の普段あまり見せない振る舞いにほんの少し戸惑いを覚えながらも、蛮は優しく銀次を抱きしめ返した。 「何かあったのか?」 蛮の言葉に銀次はただ首を振る。 蛮は軽くため息をつきながらも、銀次が落ち着くのを待つことにした。 「ぎーんじぃ?」 なるべく銀次を刺激しないように、優しく言葉を掛ける。 そんな蛮に応えるように、ようやく落ち着きを取り戻した銀次は、ゆっくりと蛮から離れた。 「・・・えへへ、ごめんね蛮ちゃん」 力なく笑う銀次。 その目は、赤く染まっていた。 一体銀次に何があったというのか――――? 「銀次・・・大丈夫だな?」 ひどく心配そうな蛮の声音。 余計な心配を掛けてしまったと反省する一方、それが妙に心地好い。 「ありがとう」 今度の笑顔は少し嬉しそうなものになった。 一つ息を吸って、それから話し始める。 「あのね、すごくバカみたいなことなんだけどね・・・」 困ったように笑いながら。 そんな時でも、蛮は静かに見守るように話を聞いてくれる。 そういったさりげない気遣いが、たまらなく愛おしい。 「さっき聴いてた歌の歌詞で、通りすがりの女の子のためにその女の子を・・・殺しちゃう、っていうフレーズがあったんだ・・・」 銀次はそう言って、どこか言いにくそうに説明を始めた。 |