弟という立場






「君はカガリの弟だろう?キラ・ヤマトくん」
・・・以前、ユウナ・ロマという男に会ったときに言われた言葉だ。
「それは・・・そうですけど・・・。でも、弟であっても別に、僕がカガリのことを勝手に想っている分には問題ないでしょう?」
これは、僕の最後の砦。この想いを否定されるわけにはいかない。
否定されたところで、聞く耳なんて持っていないけれど。
「問題ない?大ありだよ!カガリは僕の婚約者だ。オーブの代表という立場もある。・・・分をわきまえて欲しいな」
嫌みったらしい口調に、粘着質な声。
それでも、言っていることは事実。
それが余計に腹立たしかった。
「・・・カガリが好きなのは、アスランですよ」
言いたくないけれど、認めたくないけれど、これも、事実。
カガリが好きなのはただ1人。アスランだけ。
僕でも、この男でも、ない。
「アスラン・・・アレックス、ね。知ってるさ。気付かないわけがない。まぁ、本人たちはあれで秘密の恋愛ごっこのつもりらしいけどね?」
「恋愛、ごっこ・・・?」
認めたくはない。けれど、彼らは本気なのだ。だからこそ、辛い。
「言い方が気に食わないかい?けど、ごっこだろうが本気だろうが変わらないだろう?どの道カガリは僕のものになるんだから・・・」
ユウナ・ロマ・セイラン。カガリの婚約者。この男は、これでも本気でカガリを愛しているらしい。
「僕は君らがカガリに出会うずっと以前から彼女を見てきたんだ。そしてこれからも、彼女は僕の大切な人だ。・・・とは言え、先はまだまだ長いからね。ちょっと横道にそれることを見逃してやれないほど、僕は酷い男じゃないよ・・・」
どんなに寄り道をしようとも、最後に自分のところに戻ってくるのなら、それで良い。彼はそう考えているらしい。
婚約者という立場がある限り、彼の勝ちは確実だ。彼も、それを分かっているから強気に出れる。優位に立てる。
対する僕は、カガリの弟。この立場があるおかげで、誰よりも不利であることは明白だ。
けれど
「カガリは、僕が弟だから、僕と居ると安心できるんですよ」
知らなかったとはいえ、僕らは互いに唯一の、血を分ける存在だ。
カガリは弟である僕になら頼ってくれる。弟である僕の頼みなら、断れない。
・・・恋人という立場には、決して立てないけれど。
「カガリは、僕が何をしても、理由さえ正当であれば許してくれるんですよ。僕が弟だから」
たとえその理由が感傷的なものであっても。
カガリが認めてくれる理由があれば、それで許される。
だから
「だから僕は、いざとなったら僕の我が儘を押し通します。弟という立場さえも利用してみせる」
僕の言葉を受けて、今の今までずっと余裕を見せ続けていた彼の目に、一瞬、疑念の色が燈る。
「・・・君に何ができる」
これは、戦いだ。彼と僕と、どちらが勝つか。どちらが、相手の戦意を奪えるか。
「何だってできますよ、カガリのためなら」
そう、何だって。
「婚約は認めても、結婚なんてさせない。絶対に」
カガリのためなら、何だってしてみせる。
「婚約者という立場に甘えて何もしないあなたなんかに、負けない」
カガリは渡さない。
カガリが僕のものにならないくらいなら、あなたになんて絶対に渡さない。
だから、僕は――――――




ユウナ・ロマとの結婚の話は、意外に早く持ち上がった。
カガリからの手紙にも、急な話だとの動揺が伺えた。
そして、彼女がその結婚を望んでいないことも、はっきりと伝わってきた。
ユウナ――――宣戦布告は、した。
「皆、聞いてもらえますか?」
容赦は、しない――――――














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