「やめて、くださっ・・・やめ、て・・・っ」 泣いて嫌がる彼女の言葉は、この時の俺には本当に聞こえていなかった。 彼女も見えず、自分も見えず、その事実だけがぐるぐると頭の中を回っていた。 ラクスはキラのものという、その事実が。 「やめ・・・っ、アス、ランっ・・・!」 ―――――この時、もしラクスがキラに助けを求めていたら俺は止まらなかったかもしれない。 けれど彼女の呼ぶ俺の名が、俺を現実に引き戻した。 「・・・ラク、ス・・・・・・」 私はキラのものだ、と全身で表す。 俺を呼ぶその声で、自分の所有者を示す。 そんなラクスの姿に、俺はどこか冷めていく自分を感じていた。 「キラの・・・どこがいいんですか・・・?」 自嘲気味に問う。 だって答えは分かりきっているのだから。 「キラが・・・キラであるところです」 かつて、そんな真っ直ぐな瞳を俺に向けてくれたことがあっただろうか。 真っ直ぐに、見つめ返したことはあっただろうか。 「キラだから、か・・・・・・」 キラの何が、キラのどこがなんて質問には意味がない。 どんなキラであろうと、それがキラだから好きなのだ。ラクスは。 俺だって・・・キラだから、敵わないと思う。 「どうして・・・・・・っ」 それでも俺を選んで欲しかった。 選んでもらうにはどうすればいいのか、それすらも分からなくなるほどに彼女が欲しかった。 キラから奪いたいのではない。 取り戻したいのだ。 ただ幸せに暮らしていたあの頃を。 日々の暮らしに満足していられたあの頃を。 「俺は・・・貴女が好きなんだ・・・・・・」 あの頃は気付かなかった感情。 そこにあって当然だったものが失われてから気付く、そのものの大切さ。必要性。 「貴女を、愛してる・・・」 取り返しのつかないことをしてきた。 取り戻せないものがたくさんあった。 だから、少しでも取り戻せるものがあるならば俺はそれを取り戻したい。 幸せだと信じていたあの頃に近付きたい。 それが無理なことだとは分かっているのだけれど。 「もっと・・・早く聞きたかった言葉ですわ・・・」 あの頃に戻れたら。何もかもやり直せたら。 けれど、やり直せないことを知っているから欲しがるのだろう。 それでも・・・・・・ 明日は違う未来を連れてくるかもしれない――――― |
ラクスは婚約者時代に「好きだ」という言葉をもらっていればアスランを捨てなかったのかもしれないという話。だったりします。 まぁ結局はアスラクに戻って欲しい私の願望なわけですが。 ちなみにスペエディ前に書いた作品なので「キラはザフトに来れない」のです。だってまさか白服で乗り込んでくるとは誰も思わないじゃないか! |