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 降りそそぐ花 4






 ランプを手に二階に上がり、自分の部屋の前に立つ。後ろにいるザークを意識しながら、ユメルは戸を開けた。
 夕食前に窓の木戸は閉めてある。入口を閉めると、ランプの光だけが光源だ。
「ユメルの部屋、木と花の良い匂いがする」
 ザークが部屋を見回している気配がするが、ユメルは緊張で顔を上げられない。足元に見えるザークの踵についていくが、ベッドにあと一歩のところで止まってしまう。
 戸惑うユメルの髪をザークの手が優しく撫でた。肩を抱かれ一緒にベッドに座る。
「少し待ってろ」
 何も言えず固まっているユメル。
 その横でザークは懐から蓋のついた缶を取り出し、ベッド横の机に置く。
 キュッキュと横で聞こえるのに合わせ、部屋が暗くなっていく。ランプの明るさを絞っているようだ。カタンと机に置かれる音がした。
 いつも寝る前は全て消してしまうけれど、仄かに残された灯りが、これからすることを意識させる。
「手を開いて。それ、机に置いておくぞ」
 ユメルが大事に握っていた角のペンダントが、ゆっくりと取り上げられる。
(黒い手……)
 ザークの黒い肌は、暗がりでは見えにくい。ランプしか光源のない部屋で、ザークの大きな体の影に入っているユメルには、横目で見るだけでは彼を捉えられず、逸らしていた視線を彼に向ける。ペンダントを置いて振り返った彼は、顔を上げたユメルに気づいて微笑んだ。
「おいで」
 ザークはユメルを抱きしめて、背中からベッドに倒れた。
「……っ」
 彼に体重を預け、その胸に頬をすり寄せている状態だ。
「ユメルは今日摘んだ花の匂いがする」
「……ザークさんも同じです」
 何をするでもなく、ゆっくり髪を撫でられる。

(ザークさん……)
 緊張がだんだん解れていく。目が暗さに慣れて、彼の穏やかな表情が見えるようになってきた。
(格好いい……)
 愛しい人と床に入っている。じわじわと実感してきた。幸せで、頭がぼーっとする。

 彼に引き寄せられ、唇が合わさる。
(柔らかい……)
 自身の重さに任せ、彼にぴったりとくっつく。唇の柔らかさと、体の硬い感触を味わう。
 彼の手がユメルのボタンを外し、シャツの中に忍びこんできた。
「あ……」
 胸を撫でられる。そっと揉むような動き。
「小さそうとは思っていたけど、本当に可愛い」
 乳首を摘まみあげられる。
「……んっ」
 乳首の大きさ……?
 男の胸なんて意識していないから、通常の大きさが分からない。けれど、
(小さいのが好きなんだ)
 ザークが褒めてくれるなら嬉しくなる。
「直接見たい。いいか」
「は、はい」
 男同士なのに、わざわざ言われると意識してしまう。
 ”小さそうとは思っていた”って、いままでユメルの体、服の下を想像されていたってことで……。
 彼が上体を起こし、ユメルのボタンを一番下まで外し、シャツから腕を引き抜いた。
「良い……」
 情熱的な視線に、体が震えた。ただの平らな胸なのに。好きな人の視線って、すごい。
 赤くなって戸惑っているうちに、彼に倒され、今度はユメルが下になる。
 ザークも上を脱いで、二人のシャツを近くの椅子に投げた。
「……ザークさん……」
 溜息のような細い声。ザークはいつもの優しい笑みを返してくれたが、ランプが浮かび上がらせる彼の表情は、目の前に横たわる獲物をどうしてやろうかという、隠せぬ欲が滲んでいた。
 ゆっくりと上に被さってくる、愛しい人の体。
「っ……はぁ……―」
 彼の滑らかな肌に、肩で、胸で触れている。手のひら以外の触覚なんて、とても鈍いものだと思っていたけど、意識を向けていると、こんなにも気持ちいい……。

「ひぁっ」
 乳首が熱いものに包まれた。彼がそこに口を寄せている。彼の口の中で、蠢く柔らかいもの。
(舌……気持ちいい……っ……)
 もう片方は、また指で弄られる。
「ぁん……! ゆび、まで……」
「気持ちよさそうだな」
「んっ……い……」
 声が掠れる。縦に頷いたけど、伝わっただろうか。彼の手管に翻弄されて、喘ぐことしかできない。

 一人でする時は下半身だけ触り、そこだけ反応するけど。今、直接触っていないはずのそこが熱くなって、もちろん触られている胸も熱くてぞわぞわしている。
 視界には、夢を見ているかのような光景。彼の凛々しい顔が、秘め事の色に染まり、私の体を食んでいる。厚い上半身の筋肉が、吹きかけられる吐息とともに上下する。
 嬉しい。幸せ。気持ちいい―。
 夢中で乳首を吸っている彼の頭を撫でる。
「いっぱい吸って……」
 指で遊ばれている方は、その指の上から一緒に摘まむ。
「ん……」
 ザークは乳首から口を離さないまま、隣で摘ままれたもう片方の乳首と自分の指を見る。催促するようにきゅっと指に力を込めると、驚いた目でユメルを見つめ、そして、甘く、いやらしく、表情を崩した。
「あ…ぁん!」
 舌で激しく、乳首を刺激される。ぐにぐにと押されたと思ったら、きつく吸われて。指で苛められている方は、激しく擦られ、引っ張られる。初めての行為で、何が起こっているのか分からないけれど、
 ―ザークに好きにされている。
 そう思うだけで、全てが最高の幸せになる。
「ひッ…あぁ―……っ!」
 絶頂するユメルを、ザークは蕩けそうに甘い目で見ていた。

 ザークはユメルの隣に横たわった。
「……ハァ、……あ……」
 ユメルは荒く呼吸する。ザークの手が、鎖骨から胸を撫でた。ゆっくりと繰り返される動きに合わせて呼吸をすると、だんだんと息が整ってくる。
 呼吸が落ちつくと、先程弄られた部分が、うずうずとくすぐったい気分になってくる。
 寝返りして、彼の首筋に軽く頭を乗せ、
「続き……して」
 と甘えた。
 彼は静かに笑って、ズボンの上からユメルの尻を撫でた。
「最後までしていいか」
「……はい」
 また濡らしてしまったズボンを早く脱いでしまいたい。今度は自分のではなく、
「貴方ので濡らされたい……」
 ユメルがねだると、尻を掴んでいる手に一瞬力が入って、外側に開かれるような感覚があった。
「ん……」
「その……、俺と君とでは子供ができにくいが、可能性はゼロではない。いいんだな」
「え?」
 ―子供?
 呆けているユメルの顔を、不安気な表情でザークが覗いた。
「できるんですか」
 男同士なのに。
「できないと思っていたのか……。不可能な組み合わせも多いし、確率は普通より低くなるが、ちゃんと知り合いにも産んだ者がいる」
「知りませんでした……」
 植物なら同じ株から雌雄ができるものがあるが、思いもよらなかった。人間では聞いたことがないから、鬼人族の特性だろうか。
「あの、宿るのなら、私のお腹にでしょうか」
「ああ、もちろん。……俺が子種を注ぎたいのは、君だけだ」
 ……ユメルの確認にザークが返してくれた言葉を聞いて、お腹がきゅんと収縮した。思わず顔を伏せてしまう。
(良かった。私なら自由が利く)
 ユメルが仕事の状況に考えを巡らしていると、
「ユメル」
 不安そうな声が聞こえた。
「心の準備ができていないなら、今日ではなく……」
 そう言いかけたザークの唇に、慌てて人差し指を置く。彼が黙ったのをみて、指を離した。
 これ以上待てない。この人の恋人だと、体に刻み込んでほしいのだ。
「ザークさんとの子供、産みたいです」
 手を、下の方に伸ばし、盛り上がった彼の前に触れる。彼の喉がごくんと動く。手のひらにじんわり伝わる布越しの熱。人差し指でその形をなぞり、中心線を探り当て、ツーっと撫で上げる。
「……ッ」
「注いで」
 ザークが耐えるように目を瞑っている。ユメルに促されて、ちょっとした波がきたのだろう。
(色っぽい……)
 眉を寄せ、薄く開いた唇。
 追い打ちをかけたら、彼もユメルのように下着のまま濡らしてしまうのだろうか。少し見てみたいけど、注いでとお願いした手前、指の動きを止めて待つ。
 ほどなくして、ザークが目をじっとりと開けた。
「……君は、男を煽るのが上手いな」
「男……というか」
 ユメルは言葉を区切った。同性の友達とでも、こういう話はしないので慣れない。ましてザークは恋愛対象だ。言いにくい。
「自分が高まる方法を探していたら、なんとなく」
 そう言って、ベッドに自分の顔を押しつける。
「一人でこういうことをするのか」
 ザークの声色がなんだか興奮していて、さらに羞恥心を煽った。
 大体の男がすると思うが、変だろうか。
 そういえば最近、急に頻度が増えた。ぎゅっと握って擦るより、優しく触って、むしろ触るのを我慢して高めるので、一度の時間も長くなっている。
(あ……)
 変わったの、ザークさんに山で助けられた頃だ。
 ベッドに顔を伏せたまま、後頭部に枕を乗せ、ぎゅーっと隠れた。
「意地悪な質問してごめんな」
 ザークは笑って、ユメルの体ごとひっくり返した。
「…………」
 仰向けにされ、ザークが真上から見下ろしている。枕は後頭部の下、本来の位置に収まっている。
 力の差をまざまざと感じていると、ザークが目を伏せ、その整った顔がゆっくりと近づいてきて、柔らかい感触が唇に触れた。
「ん……」
 口を薄く開いて、彼の舌を受け入れる。
「ユメル……」
 ユメルの顔の両脇に彼は肘を着いていて、その片方が下の方に動く。
「今度は、俺が……」
 彼の手が、ユメルのそこに触れた。

「…………」
「……んッ」
 彼の大きな手を感じて、ユメルは震える。動かされてもいないのに、その体温を感じるだけでどんどん血が昇っていく。
「…………」
「…………、……?」
 しばらく待っても、ザークが動かない。
「ザークさん?」
「! ああ……」
 ザークの手が、そこを揉んだ。
「ふ……ンンッ」
 だが、数度揉んで、手が止まる。
「……?」
「脱がしていいか」
「……はい」
 ユメルが腰を浮かせると、ザークがズボンを下ろしてくれる。下着の腰紐の内側に彼の手が入りこみ、一気に引きずり下ろされた。
 濡れた下着から解放された性器が、白い残滓をまとい立ち上がっている。

 ザークは何も言わず、ユメルの股を見下ろしている。
(ザークさんに見られてる……!)
 それだけで、ユメルは気をやってしまいそうだ。足を閉じようという思いと、開いて迎え入れようという欲が去来し、結局彼の前で、股がピクピクと震えてしまう。
「ザークさんも、脱いで……」
「……分かった」
 衣擦れの音。顔を伏しがちにした彼の、その手元に、どきどきしながら視線を下ろす。
 ベルトを緩めても、彼の前の膨らみに引っ掛かって、下衣は落ちようとしない。彼がその部分の布を引っ張り、性器を外に出した。彼が手を離すと、布は黒い腰から足へ、音もなく落ちていった。
 ユメルは喉が渇くのを感じた。
 愛しい人が、一糸纏わない姿で目の前にいる。
 男の、性の象徴。彼に焦がれる苗床を突くための肉棒。ランプの灯りが、その艶やかさを絡みつくように照らす。腹につきそうなほど反りかえり、くびれがくっきりと現れるほど張りつめている。
(入れて……っ、入れて……)
 一回りも二回りも小さいユメルのそれが、必死に充血して、涎のように透明な液を零して、彼に支配されるのを待っている。

「ユメル」
 彼の手が頬を撫でる。
 はしたなく欲情した顔をしている自覚はあるのに、彼から目を離せない。
「こんな小さな穴に、入れていいのか」
 落ちついた声と表情。彼の指が尻の間に当てられ、つん、と押した。
―ッ……。入れてほしいです……」

 ザークはナイトテーブルの上に手を伸ばし、缶を手に取り蓋を開ける。
「初めてのようだから、用意してきて良かった」
 彼はその指先で、白いクリームをすくう。体温で蕩けて、透明になって、黒い指先を艶めかせる。粘度をもってゆっくりと指を伝い、手のひらに零れ落ちる前に、ザークの指はユメルの後ろに触れた。
「……っ…」
 穴が、彼の手によって広げられている。
(本当は、そのための入れるところがあればいいのだけど)
 彼の様子を伺うと、
「痛くないか」
 傷つけないよう慎重に指を動かしてくれている。
「はい」
 ユメルは話す余裕はなく、ただ静かに耐える。
 先程からザークも最低限の声を掛けるのみで、声色もどこか淡々としている。
 けれど、彼の姿を頼りにして、じっと見つめているユメルには、彼の目がだんだんと心配から欲情に変わっていくのが見えた。
「んッ」
 苦しさにユメルが声を出すと、また心配の色に染まる。
(……幸せだな)
 ユメルのことを、大事にしてくれる人。
 この人に身を任せて、良かった。


 大分時間が経った。彼の指が馴染んで、何度目かの悪戯を受けていた時、隙間風でランプの灯りがひと揺れした。
 ザークがランプの中を覗きこむ。
「……満杯にしておけばよかった」
 今日は油を足していないから、二時間足らずで切れるはず。今どのくらい経ったのだろう。
「あの、下から取ってきましょうか。……ァ……」
 指が抜かれた。その感覚だけで、息を詰めて震えてしまう。
「とても立てそうにないが」
「ちょっと……待てば……」
「待たない」
 ユメルの足に軽く触れていた手が、両の太腿を抱えなおす。
 剥き出しの股を彼に開かれている。上掛けは足元に丸まっていて、二人の体を隠すものは何もない。
「あ……」
 広げられた穴に触れる、熱いもの……。
「もう我慢できない」
「私も」
 彼と繋がるのを待ちわびていた。
「ン―……ッぁ……」
 初めて開かれる感覚。覚悟はしていたのに、それ以上の圧迫感。
「痛くないか」
「……はィ、……ッ」
 大丈夫と言おうとしたタイミングで、ちくっと走った痛みに顔を歪めてしまう。
(痛くてもいいから)
「……ごめん」
 ザークも狭すぎて痛いのかもしれない。辛そうな表情をしている。
「いや……」
 優しいザークは止めてしまうかもしれない。
(止められたくない……!)
「ザークさん……。……!?」
 予想とは裏腹に、一気に深く入れられた。
「すまないッ! こんなこと……! 痛いに決まっているのに」
「あ……!」
 ザークの腕力は、ユメルとは桁違いだ。痛覚に刺激され反射的に逃げる―、それさえも一切許されない。がっしりと脚を掴まれれば、仰向けのユメルは身動きできない。そんなユメルの穴を、ザークの肉棒が容赦なく突く。
「ひッ…あッ……」
 みっしりと筋肉に覆われた脚と腰で、何度も、何度もユメルを穿つ。
(ザークさん……)
 広げてくれたけど、やっぱり少しは痛い。痛いけど。
(気持ちいい……!)
 夢中で腰を振るザークの姿が、最高に高めてくれる。
「君を……! ……手に入れたい!」
「あなたの……ものです……」
 快感に震え、使いものにならない腰をふんばり、自分からも彼の腰に押しつける。
「ユメルっ……」
 彼の声に歓喜が滲む。逃げる気配の無くなった腰から手を離し、ユメルの手を握り、指と指を絡める。
「君がなんだったとしても、もう俺の妻だ」
「……―っ」
 唇を重ねられながら、中で、熱い飛沫が注がれた。


 呼吸が速い。
 ユメルは気づかぬうちに絶頂していた。
 激しく突かれ、口付けされて、注がれ、……嬉しい言葉をもらって。どれが引き金だったか思い出せない。
 ザークはユメルの中に入ったまま、ユメルを支えながら横に寝転んだ。
「ん……」
 呼吸を整えるユメルの口を塞がないよう、頬や耳を、優しく啄んでいる。
 彼の黒い腹筋に散った白濁。ぼーっと指を伸ばし、筋肉の割れ目に沿って延ばした。
(子種……)
 股をもじもじと動かし、お腹の中の性器の存在を確かめる。少し柔らかくなったけど、まだ芯を感じる。
(すごかった……)
 激しく突かれているところから思い起こして、
(そう、すごい……)
 中に液体が出される感覚を、脳と体の記憶を頼りに、もう一度味わう。
 呼吸は整いそうにない。
「ユメル、そんなことされると」
「……そんな?」
「さっきから、俺のを……」
 しゃぶっているみたいだぞ、と耳元で囁かれる。
「あ……」
 止めようと意識すると逆に、きゅっと締めつけてしまう。
「抜いた方がいいか」
 彼の声色には挑発の色が含まれている。絶対ユメルの答えを分かって言っている。
「やだ……このまま……」
「このまま、待った方がいい?」
「もっと……、ください」
「ああ」
 ザークはまたユメルを見下ろす体勢で、ユメルを穿ちはじめる。
「ザークさん……」
「なんだ」
「赤ちゃん、できる?」
 ザークの動きが一瞬止まるが、
「できるよ」
 すぐにまた甘い律動が与えられる。
「俺のをいっぱい、搾りとって」
「ァン……。どうすれば……」
「大丈夫。ユメルはとっても上手だよ。咥えているここに、集中するだけでいい」
「はい……。―ッ」
 締めつけようとしたユメルは、思わぬ弾力を感じて、喉をのけ反らした。ザークの男根はすでに硬さを取り戻し、ぎちぎちにユメルの中を埋めている。
「ほら、ユメル。白いの欲しいんだろう」
「ほし…ぃ……」
 たどたどしく、お尻に力を入れたり抜いたりする。
「そこ……、ダメェ……」
 浅い位置に動いたザークのものが、ユメルのとても感じてしまう部分に当たるのだ。締めつける度にいきそうになって、これではザークに奉仕できない。
「じゃあ、ユメルが良いと思う位置に動いて」
「……ッ」
 浅い位置はだめだから……。恥ずかしさに躊躇するユメルを、ザークは微笑みを浮かべ見つめている。
「…………」
 ザークの腰に手を添えて、ゆっくりと自分の腰を押しつける。
「あ……あ……―」
 苗床として、自ら肉棒を入れている。
 のけ反った視界の隅に、ナイトテーブルに置かれた角のペンダントがあった。
(……これが、妻……)
 彼の秘め事に、寄り添う伴侶。

 彼の頬に、手を伸ばす。
「ザークさん……、好き……」
 その手を、ザークが握り返す。
「愛してる。ユメル……」
 深い口付けを受けながら、自分では穿てない深いところをザークに突かれた。


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