君を守りたくて


■-2

 正体も、企ても、その結果も、全て話した。そして偽りの姿も解いた。時空間移動を繰り返した結果、早くに老いてしまった姿でもジュピターは優しく手を握っていてくれた。
「無様だろう」
 吐き捨てるような言葉は、普段通りのボラージュのものだった。漸く落ち着いてきたようだ。
「いいや。やはり君は、私が考えも付かない事をするな。とんでもなくて壮大だ」
「そんな訳が無い……」
 一頻り零した涙がまた溢れてくる。
「俺は我が身可愛さにこの未来を選んだ、お前をこんな体にしてしまった」
 ジュピターは片手で、ボラージュの涙を拭った。
「ボラージュ。私が其処で出てくるのは、どうしてかな」
 まだその名で呼んでくれる事がどれ程に嬉しいか、言えもしない。その勇気は無い。だが問われた理由には、勇気を示さなければいけなかった。
「俺はお前を助けたかったんだ」
 頬に触れるジュピターの手を取ってみる。質感こそ人のものだが、その中身は無機質だ。
「生きてきた中で、初めて、守りたいと思ったんだ、お前に関わる全てを守りたかった、その為なら何でも出来た、けれど、どうしても! どうしても! 自分だけが邪魔をした……!」
 己の世界と引き換えにだけは出来なかった。苦悩の末に選び、あの世界は今も存在している。しかし身を潰すような後悔があった。
 ジュピターは穏やかな表情の侭、ボラージュを見詰めている。見られたくはないが、その視線を痛く感じる事は無かった。
「ボラージュ。誰しも、自分は必要だ。自分がいて、初めて世界を認識出来る。君のした事はごく自然な事だ」
 ジュピターの言葉ではあるが、受け入れられなかった。ボラージュ自身とジュピターとを天秤にかける事そのものが、凄まじい嫌悪感を呼ぶ。
「それに、寧ろ君には感謝したい」
「どうして」
「デューン……私の息子と、その友人達、あの子達は、君が手を加えなければ消滅していたんだろう? あの子達は滅びの未来から来たから、破棄された未来と共に消えてしまう筈だったんじゃあないのか」
 ボラージュは無言だった。これは肯定なのだろう。間違いは強く否定する人物だ。
「さっき言っていたな、私に関わる全てを守りたいと」
 ジュピターは立ち上がり、ボラージュの前で頭を下げた。
「本当に君は守ってくれた。私と、私の息子と、大切な友人を。本当に、ありがとう」
 ボラージュは必死に声を殺す。嗚咽すら出せなかった。いっそ叫んでしまいたいが、湧き上がる感情を抑え込むしか出来ない。
 ジュピターが頭を上げる。待っているような姿であり、それにまた涙が溢れてくる。声が出せない代わりに必死にかぶりを振って否定した。そのような事はしない。
「それで、困らないか?」
 ボラージュは頷くばかりだった。



「やっぱり、その姿のほうが見慣れていて落ち着くな」
「見た目で判断するのか」
「目に映るものは目で判断するしかないからな。けれどどちらの君でも、君ならば安心するよ」
「贅沢者だな」
 そうして二人で笑い合った。



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