それは確かに甘くあり
■-5
衣装を返却し、四人で帰路に就く。家へ辿り着く頃には夜も更けており、子供も帰宅したのか周囲に姿は無かった。玄関を軽くノックし、やや声量を抑えて呼びかけると程無くしてルイセが出迎える。
「おかえり」
「ただいま、あのね――」
急いてナユルが口を開くが、ルイセは四人へ手招きしながら背を向けた。
「土産話は余りのクッキーを食べながら聞こう」
玄関先で騒げば近所迷惑にもなるだろう。一旦話を諦めて家へと入り、全員で台所へと向かった。
「あっ、一つ減ってる?」
食卓の紙袋を見たアユルスへ、ルイセが珍しく楽しげに答える。
「可愛らしい幽霊が来てくれたんでな」
「そうなんだ、気に入ってくれたかな」
「多分な」
曖昧な言葉とは裏腹にルイセは上機嫌に見えた。ルイセとルルム以外が食卓へ着くと、ナユルが改めて冷めやらぬ興奮を口にする。
「お父さん、あたし、お兄ちゃんのお母さんに会ったの」
「……何だって?」
信じ難い内容に目をしばたたかせるルイセへアユルスが続いた。
「俺もジダルドも見たから間違い無いよ」
「いや、それは、そうだとしても……」
判断基準であるアユルスの説得力に若干気圧されるルイセへ、一足早くクッキーに手を付けるジダルドが追い打ちをかける。
「はぐれたナユルちゃんを連れてきてくれてさ、ナユルちゃんを守ってくれたんじゃないかなって、みんなで話してたんだよねえ」
「んん……」
一連を聞いたルイセは考え込んだが、やがて納得したように小さく笑った。
「ふふ、實鷺らしいといえばそうか。きっと、我が家一番の頑張り屋に会いたかったんだろうな」
「一番?」
ナユルが否定するように首を傾げてアユルスを見るが、アユルスはルイセの言葉に頷く。
「もしナユルが一度でも諦めてたら、今俺は此処にいないよ」
感慨深げなアユルスの言葉に、咀嚼していたクッキーを呑み込んでジダルドが続いた。
「ナユルちゃんがアルの事探し当ててから急展開だったもんねえ」
言い終わりにジダルドはクッキーをもう一枚口へ放り込む。それに倣って三人もクッキーへ手を付け始めた。
「そうなんだ……」
塔を上ると決意したあの日、それから続く鍛錬の日々、紆余曲折を経て起こった十階での出来事と、様々に事が起こった中でも諦める選択肢は無かったが、諦めてもおかしくはなかった程の厳しい日々だったとは思える。ナユル自身も漸く納得し、込み上げる温かさに表情を綻ばせた。
ルイセはナユルへ歩み寄り、その頭をそっと撫でる。
「實鷺もしっかり見てくれてたんだろうな」
「うん……!」
噛み締めるように頷くナユルの目の端に光るものは、満ち足りたものだった。
深夜、ブランケットの中でルイセは寝入る前に考えを巡らせる。
もしもまた会えたとしても、喜ぶ前に頼み事をする己の姿を想像するのは容易かった。二度と会えない現実に未だ血を吐くような思いをしておきながら、子供達を優先してほしいと願う自身しか浮かばない。
そのようなルイセを全て見透かしていたのだろう。そしてそのような人物であると、誰よりも知っていた。ナユルから伝えられた願いには痛い箇所を突かれたが、一人の力で出来るものではないと、そして手段を選り好みするものではないとの戒めなのかもしれない。
明日からはまた厳しい日々もあるだろうが、この温かな心地は間違い無く支えとなるのだろう。そうして己が出来る事は、これからも懸命に生きていくと誓うのみだ。
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