影法師の涙痕
■-4
寝台が二人分の重みに悲鳴を上げるが、構う余裕は普段以上に無かった。
ジダルドは膝の上に乗せたアユルスへ性急に口付けながら、最大限の努力としてその窄みへと指を差し入れて広げる。
「んぅ、ふぅう……んむっう……」
扱き上げてくるアユルスの両手に促され、ジダルドの体は熱に仰いだ。手が動く度に耐え難い衝動に襲われるが、理性へひとひら残ったアユルスを傷付けたくない思いだけが寸でのところで抑えを利かせている。
「んん、ぷは……、もう……」
奥深くが徐々に弾力を増す頃、手と口を離したアユルスが苦しげに告げた。潤んだ赤い瞳が頼り無い常夜灯に照らされ、何処か眩しく見える。指を抜くとジダルドの肩を掴んだアユルスが腰を上げ、反応しきっている体へゆっくりと下ろしていった。
「はぁ……んぅう、うぅ……ふぅ……」
時間をかけて全てを埋め、アユルスから震えた吐息が漏れる。ジダルドはアユルスを努めて優しく後ろへ倒すと、足を抱えて体を突き入れた。
「はっ、んぁっあ、はふっ……あぁっ」
律動にアユルスが喉を反らして喘ぐ。途端に汗ばむアユルスの体を常夜灯が妖しく光らせ、不明瞭な筈の姿はジダルドの視界へ鮮明に焼き付くようだった。
不意にアユルスが両腕を伸ばす。アユルスへ負担がかかるとは解っていたが、断る余裕はジダルドにも残されていなかった。ジダルドはアユルスの腕の中へ収まるように覆い被さり、アユルスの体を掻き抱く。同時にジダルドの背中へアユルスの腕が回り、その指に乱暴な力が篭もった。
「んんぅっ、は……、ジルぅ、うんんぅっ」
背に立てられた爪の与える感覚は熱く、何処か遠い。届かない感覚に恐怖すら湧き上がる。
「ね、え、アル……」
ジダルドに囁かれ、アユルスは揺れる視界の中で頷いた。
「ん、んっ……」
「今回、だけ……、ぶっ壊れて、みてよ……、ぶっ壊すから、さ……」
アユルスを傷付けたくはなかったが、その寸前まで行かなければ確かめられないとジダルドの恐怖が訴える。
「うぅ、あ……」
また流れ落ちるアユルスの涙は、ジダルドの恐怖と同じものだ。
「いっしょ、に……」
涙声に引き込まれ、ジダルドは苦笑を浮かべる。アユルスは全て解っていたのだ。
動きを速めるとアユルスがいよいよ悲鳴を上げる。
「ああっあ、ひぁあっあぁああっあああぁっ……!」
奥深くを強く突くとアユルスの体が大きく跳ね、仰いでいた体が連動するように白濁を撒き散らした。蠢動する内部に促されてジダルドもまた欲を注ぐが、到底足りない満足感が次を求めさせる。
ジダルドは体を離すとアユルスを半ば無理に起こし、背中を向けさせると熱を失いかけている体へ片手を滑り込ませた。余ったもう片手はアユルスの胸元を這い、指先が先端を弄り回す。
「はぁ、は、ぁあっ、うぅんっ」
内部の余韻がもたらす強い感覚を煽られ、アユルスの体が断続的に跳ねた。
ふとアユルスがジダルドへ身を委ねて凭れる。ジダルドの首筋へかかるアユルスの吐息は熱く、その熱は存在を生々しく伝えた。だが同時に弱さも伝え、頼り無いものがジダルドの恐怖を疼かせ、深く求めさせる。
ジダルドはアユルスの足を抱えて開かせ、白濁に塗れた窄みへ再び熱を帯びていた体を突き込んだ。
「あ、はぁ……ふ、うぅ……」
すぐに奥深くまで突き上げる体にアユルスが身を震わせる。そうして二人で仰向けに倒れ、ジダルドが手をその侭に動き始めた。
「んうっあ、はぁっあぁっ、うあぁっ」
律動の中でアユルスの腰が揺らめき、その手が放っておかれた片胸へと伸びる。先端を指先で転がすと更に強い感覚を呼び、そのさまがジダルドをも疼かせた。内部ではアユルスの努力による締め付けが幾度と無くジダルドを襲い、欲を促される。
「はっ、あはぁあ、ジルぅ……もっと、んはぁ……っ」
痙攣するアユルスを抑える事無く突き上げ、激しい感覚にアユルスが体を反らした。
「あっひっあぁんっいいっ、はぁあっああっんあぁあっ……!」
動きに合わせて限界を迎えたアユルスが粘液を散らすが、ジダルドは動きを止めずに強く突き続ける。手の中の体も激しく扱き、胸元からも手を離さないでいた。
「やっあぁっだめっえっああぁっあんぁあっ」
アユルスの体が逃げようとするが思うように動けず、責め立てるような感覚を全身で受ける。激しさに零れた涙がジダルドへも落ち、熱いアユルスの全身に反してやけに冷たい温度を持つそれは、熱に隠れた凍えるような淋しさをつまびらかにするようだった。
「あぅっああぁっはひっあぁああっ……!」
一段と体を痙攣させるアユルスの奥深くで、ジダルドは再度限界を迎える。手の動きだけは止めず、アユルスの高ぶりをより促した。
「あふ、あぁっ、はふぅっ」
断続的に注がれる粘液にアユルスが悲鳴染みた声を上げる。収まった頃に体を離すと、広がった跡からは生々しい音を立てて白濁が溢れ出した。
ジダルドは強張った侭のアユルスへ囁く。
「アル」
「んっ、あ……」
囁きだけでアユルスが震え、今は鋭敏だとジダルドに伝えた。
「まだ……まだだからね、もっと、壊れて……?」
「は、はぁあ、ジルぅ……」
その呼び声だけで全てが伝わる。それだけで良かった。
力無く寝台へ沈んだ体へ無理矢理に突き入れると、途切れ途切れに声が上がる。
「う、あっ、ぉぐっう、あは、あぁっ」
悲鳴の形さえ保てていない枯れた声は体の限界を示していた。粘液に塗れた全身は痙攣を繰り返し、意識が朦朧としているのか瞳の焦点は合わずにいる。
やがて動きを速め、自由の利かない体を揺さ振った。
「んっぐぅあっえぅっうっあっあっあぁっ……」
深くで果てると共に体が強張り、次に弛緩する。瞼は閉じられ、気を失ったらしい。
体を離し、ジダルドは汚れにも構わず力無く倒れるとアユルスの体を掻き抱いた。熱はこの上無く近く、存在はどうしようもなく遠く感じる。ほとぼりの冷めゆく思考が伝える淋しさに凍えるしかなかった。
目を覚ますと朝であり、自室の寝台にいると気付いた。体に殆ど汚れは無く、丁寧に拭われたのだろう。身の奥にはかなり強い感覚が残っており、今日を過ごすにあたり多少つらさを感じるかもしれない。
傍らにあった服を身に着け、寝台を降りると床に置かれた侭のサイコソードを拾い上げる。長らく使っていなかったものであり、酷く重く感じるのは慣れが抜けただけではないだろう。軽く感じた昨夜こそ、何かが狂っていたのだ。
静かに忍び寄った狂乱から救い出した言葉を、その言葉の主を思う程に涙が滲みそうになるが、今は堪えるしかない。そうして日々を生きていたかった。
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