あなたがいる

あなたがいた

たった一文字の違いなのに

なんでこんなに違うんだろう

「あなたがいる」時

私はいつも笑ってばかりいた

ぐうたらな旦那にはほとほと困ってはいたけれど

それはそれなりに

また少々の楽しみがあった

なのに。

（暗転）

「あなたがいた」時は

泣きくれてばかりいた

あなたがいないという事実が

重く心にのしかかり

酷く私を苦しませた

（回想）

まだ幼い子ども

あんたはこの子をどうするつもり？

厳しく躾るんじゃなかったの？

あんたみたいに強い子にするんじゃなかったの？

いってることとやってること

全然違うじゃない

ほら、なんとか言いなさいよ

黙ってちゃわからないでしょう？

ほら

ねえってば

なんとかいいなさいよ？

（静寂）

何もない世界

何もないこの家

そして・・・

残ったのは

あなたの息子

見るたびに嫌がおうにも

私を悲しみへと追いやる、

哀しい貴方の忘れ物

いっそのことこんな忘れ形見なんて

残さずに逝ってくれればよかったのに

つくずくアンタって

嫌な男ね。

（転換）

夜が明けて私は息子を起しに行く

「朝よ」

あなたのいない朝

息子を起しに行く朝

怠慢な夜明けが騒然とした朝焼けに変わるとき

また一つ

私は思い出す

「あなたがいる」こと

「あなたがいた」こと