シチュエーションが浮かんだので堂郁で短文。
時期は別冊Iの1章、清く正しく美しいお付き合いを始めた頃で。
※『こえをきかせて』としてlogに再録済み
***
風呂に入ってさっぱりした後、郁は堂上の携帯に電話を掛けた。何回もコールしない内に、郁か、どうした?と優しい声が電話口から響いた。いわゆる彼氏モードの声音に郁は嬉しくなる。その気分に背中を押されたように話し出した。
「教官、今電話しても平気ですか?」
「ああ。どうしたんだ、いきなり」
「や、あの……なんというかですね」
少し声が聞きたいなーなんて思ってしまいまして、と告げる。
消灯になる間際で、しかも明日も業務があるのだ。我侭を言っているのは分かっている。しかし、ふと考えが浮かんだ途端、どうしても声が聞きたくて仕方なくなってしまった。そして我慢しきれずに電話してしまった。
案の定、堂上は呆れたのか黙り込んでいる。
まずいと思っても発言は取り消せない。いつものように馬鹿だの阿呆だのとも言われないことに逆に不安になり、郁は思わず詫びた。
「すみませんっ、阿呆なこと言って!切りますね!」
「待て、勝手に話を畳むな!誰も阿呆だなんて言ってないだろう!」
「だって教官黙ったじゃないですかー!」
わあっと喚くと、突然爆弾を落とされた。
「お前なあ……あんまり可愛いこと言うから何も言えなくなったんじゃないか」
か、か、かわいいって!なんで!どこが!?と動揺していると、こちらの動揺に気付かないのか、さらっと疑問を投げかけてきた。
「ところでお前、どこから電話してるんだ」
へ?と返事を返せずにいると、柴崎がいるだろう、部屋で電話してて構わないのか、と堂上が尋ねてきた。なので、
「大丈夫ですよー。部屋じゃないですからっ」
柴崎ってばすぐからかうから聞かれないようにしました、と言うと、何やってんだ、どこにいる!と怒鳴りつけられた。
「な、なんで怒ってるんですか!寮の中庭にいるだけですよう」
理不尽なものを感じ、郁は拗ねたように堂上に居場所を告げると、再び怒られた。
「この阿呆が!ちょっと待ってろ。すぐ行く」
と怒鳴りつけられたが、なぜ自分が叱られなければならないのか、そして堂上が自分の居る場所に来ようとしているのかが、郁にはいまひとつ分からない。
その疑問をぶつけようとした途端、堂上はまるで発言のタイミングが分かっていたかのように郁の言葉を遮った。
「声聞きたいなんて言って外で電話してくるくらいなら俺を呼び出せ!」
想定外の言葉と共に、動き出したような気配が電話の向こうから伝わってくる。
突然の堂上の発言に郁は一瞬固まったが、固まってる場合じゃないと慌てる。携帯電話を掴む手に思わず力が篭る。
「そっちこそ待ってくださいよ!なんで来るんですか!」
「お前、俺に来て欲しくないのか?」
「そんなこと言ってないですってば!だからなんでいきなりこっちに来るなんてことになるんですかって」
「馬鹿、顔見たいからに決まってるだろうが」
怒った声音だからすぐには分からなかった。
なにやら甘いことを言われた。それを理解した瞬間、顔が熱くなるのが分かった。こんなの反則だ。郁は力無くその場にしゃがみ込むと、堂上は更に追い討ちを掛けてくる。
「俺は声だけじゃ足りない。だから待ってろ」
電話だから耳元で声がするものだし、声が聞きたくて電話したのだが、今だけは聞こえなければ良かったと思う。
こんな甘いこと、耳元で言われたら、体が持たない。
堂上が来るまで何分も無い。郁はそれまでに顔のほてりが引くことをひたすらに祈った。
***
郁はなんとなく呼び出すのも申し訳ないかなー、なんて思いそうだな、とか「声が聞きたくて」なんて言われたら可愛くて仕方ないだろうなー、なんて妄想が爆発しました。
小話を書いたのも物凄く久しぶりなので、ぼろぼろでも大目に見て頂ければー。
ああでも楽しかった。