堂上夫妻はひっついてりゃいいさー、なんて思って妄想。
描くもの描かないで、なんて言わないで…!
・別冊I以降、お正月辺りに夫婦で奥さんの実家に里帰り。
***
年の瀬の雰囲気に街が沸く頃、堂上夫妻は水戸に降り立っていた。夫婦揃って特殊部隊所属であるため他の部署よりも正月休みは少ないのだが、年末年始に休みが割り振られた為に里帰りということになったのだ。堂上班の休みが正月を挟んだものになったのは、郁と堂上が付き合い始めて初めての正月の時と同じように気遣いがあったのかもしれない。
北関東とはいえ内陸という地理的条件の為か、冬の水戸は風が冷たい。しかも仕事を上がってからその足で電車に揺られたので、夜もとっぷりと更けてしまっている。
「ひゃあー、さっむい!久々の水戸の冬はきつい!寒さがしみるー!」
郁が生まれてから十八年過ごした地とはいえ、正月にすら帰らなくなって久しい。体がすっかり東京の気温に慣れていたのだろう、身を刺すような冷気に郁は自らの体を抱きしめるように両腕を抱いて肩を竦めた。
隣に立つ夫を見れば、やはり寒そうな様子ではあるが郁ほどではなさそうだ。男の方が体温が高いからなのか、それとも日頃の訓練によって基礎代謝が違うのか、はたまた我慢しているのか。全部当てはまりそうだな、などと思いながら堂上の方に心持ち身を寄せる。郁の動きに気付いた堂上が顔をこちらに向けると、すぐ上戸に入る上官のようにぷっと吹き出してくつくつと笑った。
「っちょ、なんで人の顔見て笑うの!?」
「だってお前、耳も鼻も見事に真っ赤になってる」
「仕方ないじゃない、寒いんだからっ!それとも何、心頭滅却すれば、とか言うのか!?」
肩を震わせて笑いを堪える夫に勢い良く噛み付く。本当に仕方ないだろう、冬なんだから。なのに笑うなんて、とふて腐れていると、ようやく笑いを収めた堂上が宥めるように郁の頭をぽんぽんと叩いた。少し撫でてから、その手が滑り降りて耳から頬にかけて包み込む。冷気から遮断されたそこが、ほんのりと温かい。
「ほれ、拗ねるな」
「そんなこと言うくらいなら笑わないで下さいよ、もう」
でも篤さんの手、温かいから許してあげます。そう言うと、夫の顔がふわりと綻んだ。その優しい表情を目にした郁は、包まれた顔だけではなく心までほっこりと温かくなるような気がした。
*
~おまけ~
篤さんの手、気持ちいいなぁ。目を伏せて温かさを堪能していた郁は、首筋にひやりとした空気を感じた。と思った瞬間。
「ぎゃああああ!冷たい!冷たいー!」
「あー、お前温い」
「あ、あたしは冷たい!何すんの馬鹿ー!」
郁の顔を包んでいるうちに冷えてきた堂上の手が、いつのまにやらマフラーを掻い潜り、冬の冷気から遮断されて温かさを保っていた首筋にぴたりと添えられている。わめきながらその手を剥がすべくじたばたともがくが、やはり経験の差や鍛え方の差には叶わない。
堂上の手の冷たさと隙間から入り込む空気の冷たさのダブルコンボに身を竦めていると、更に追い討ちが来た。
「うひゃぁあ!」
「なんつー声出してんだ。つーかもう少し静かにしろよ、家じゃないんだから」
咎めるような堂上の声は、竦めている首の辺りから聞こえてくる。恐る恐る声のする方へ目を向けると、短めの髪の毛が視界一杯に広がった。そして首から伝わる感触は――おそらく、堂上の頬の感触だ。気付いた瞬間、郁の頬に血が上った。
「な、何してんの篤さん!家じゃないんだからそんなことしないでよ!」
「気にすんな。少しだけじっとしとけ」
ほんと、お前温いな、とご満悦の夫を尻目に、カイロか湯たんぽの代わりにされた郁はその場に立ち尽くすしかなかった。
***
『耳とか鼻が真っ赤になった旦那様を奥様が手で包んであっためてあげるといい』
って妄想から発展。
この後、郁のお父さんやらお母さんやらお兄さんに見つかったら楽しいと思う。
逆に堂上家に里帰りなら、静佳さんに見つかってしまえばいいよ!
すぺしゃるさんくすは、毎度お馴染みとみいさんへ。