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 自分の想いを断ち切るきっかけは、いつもオレンジスコーンだった。

 亜柚子が好きになる人には、いつでもすでに素敵な恋人がいて、彼女の入れる余地はなかった。
 いや、たとえあったとしても、彼女の正義感が強いとも融通が利かないとも言えるまっすぐな性格が、
友人の恋人を奪うことを許さなかった。
 これ以上、好きになってはいけない……。悩み、悶々とした挙句、結局はあきらめる。
 そのきっかけとして、いつのまにか、趣味のお菓子作りが生きるようになってしまった。
 英国風の焼き菓子である、オレジンスコーン。

 作りすぎちゃったの。良かったら、食べてくれる――?

 そんなセリフと共に、オレンジスコーンを好きな男に渡す事が、彼女の想いを胸の内に秘めて鍵をかける儀式だった。
 特別な存在の男に渡す、特別な手作りのオレンジスコーン。

 お菓子を渡した男は、気づいてくれたのだろうか。自分が亜柚子にとって特別な存在であったということを。
 その素朴な焼き菓子にこめられた想いを。いや、気づいて欲しいなんておこがましい。
 自分から、忘れるために渡したものではないか――。

 渡した日の夜は、自分でもそのモッサリとした感触の焼き菓子を、目を腫らしながら食べたものだった。


「彼」に惹かれていく自分がいる。あぶない―――。
 学校での彼の表情。夜の礼拝堂での出来事。
「彼」を好きになってしまっている自分がいる。いけない――。
 自分は教師で、「彼」は生徒、教え子なのだ。

 だめ、これ以上は。私は、彼を好きになっては、いけないんだ……。
 彼にも、オレジンスコーンを渡そう……。

 そう思っていた亜柚子だったが、小雨の降る中で彼に抱きすくめられたときの胸のときめきと、
こみあげてくる熱い快感は、その決意をたやすくぐらつかせてしまった。

 渡せないかもしれない……彼には、あのお菓子を……。

「んっ…、んくぅっ……っ、あぁぁっ…、もう……おねがい…もっと……もっとして……ください……」

 亜柚子はお尻を掲げたまま後ろを向き、涙目のまま、男に懇願するようにつぶやいた。
 頬を朱に染め、目は潤み、唇からは、唾液がかすかに垂れてしまっている。
 男は優しくうなずくと、両手を彼女の乳房から再び腰に移し、花弁に埋めた男根を半ばまで引き、
またすぐに奥まで入れ込む……ピストン運動で責め始めた。

 グチュッ、ジュプ…ジュプ…、グチュ…、ヌプッ…グチュ…ヌプッ……

 男は亜柚子の花弁に、男根を奥まで入れては先端まで抜きかけ、また奥まで突きこむ。
 男根で抜き差しされるたびに亜柚子は甘い吐息をもらし、お尻をヒクヒクと男に押し付けるように振り、
男ももはや荒い息遣いで、彼女の膣を味わっていた。

 これが…セックス…、愛する男との……セックス……

「んっ…!んっ…!あんっ…!、いいっ…、いいっ…、いいの…、あはぁぁ・・・いいっ・・・い……いっ、…んくぅっ……」


 亜柚子はもうマットに伏せ、ただ後ろから花弁に打ち込まれる男根の感触に酔いしれていた。
 がくがくとお尻を振るわせ、身体をくねらせ、おとがいを反らし、あえいだ。
 亜柚子の花弁からは、男が男根を抜き差しするたびに淫靡な音が響き、愛液が糸を引いてマットに垂れていた。
 彼女は細く頼りないよがり声をあげつづけ、男のひと突きひと突きを肉壁で受け止める。
 男が亜柚子を激しく突き上げながら、右手でそっとクリトリスを撫で上げたとき、
たちまち新たな快感の波動を子宮にもたらし、その波はもはやどうしようもなく激しく高まっていた。

「ぁ、あ、…!、はぅっ…ぁ…ッ…!、ぁっ、ゃぁ…っ、あっ…、も……お…、あっ…」

 亜柚子のそんなあえぎ声に応えるかのように、男は腰をさらに小刻みに突き上げ、
クリトリスを優しく、指先で何度も何度も転がし、愛撫する。
 押し寄せる快感の津波の中、亜柚子は愛する男に抱かれる女としての望みを、口にした。

「あっ…、お……ね……が……い……、だ……い……て…」

 男は、亜柚子の望みを違えることなく理解した。
 両手を亜柚子の腰に当てると、腰を引いて亜柚子の膣の奥に打ち込んでいた男根を引きぬく。

 いやらしい音と共に男根が抜かれる時、また亜柚子の口から吐息を漏れた。
 引きぬかれたその男根の先端は、また愛液の糸で彼女とつながっていたが、
男は亜柚子を仰向けに寝かせると、その両膝に手かけて強引に開かせた。
 亜柚子の股間はもはや愛液の洪水で、黒い茂美が淫靡な光沢を放ち、
ピンク色のワレメははっきりと露出してヒクヒクとうごめいているのだった。

 男は手早く男根の先を亜柚子の花弁にあてがうと、そのまま一気に奥まで押し入った。
 亜柚子の歓喜の吐息と共に、彼女に覆い被さると、腰をくねらせて彼女の奥をかきまわす。

「アアッ…、うれ……しい……の、あ……、ほんと…に…、いい……あっ…!ンっ…!」

 男はしっかりと亜柚子を抱きしめながら、男根を何度も何度も花弁の奥に打ち付け、
亜柚子は男の背中に両手を回してしがみつき、より深く男根を迎え入れようと白い両脚を男の腰に絡みつけた。
 膣の中で男根が抜き刺しされるたびにこみあげる摩擦の快感は、この正常位での、
しっかりと男に抱かれる中での交わりによって、ついに一線を超えようとしていた。

「ああっ……、いくっ!、いくっ、!いっちゃう……!」

 男も限界らしく、男根を小刻みに突き入れ、亜柚子の耳元で、彼女の名前を囁く。

 出して……、私の中に……、いっぱい…、ください…

 声にならぬかのような細い声で亜柚子が応えた時、男の男根が彼女の奥に打ち付けられた。

「あっ……・・、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ………!」

 男の腰に絡めていた両足がしびれたようにピクピクとうごめく。ついに亜柚子は絶頂に達したのだった。
 かすかに薄らいでいくような、夢のような意識の中で、亜柚子は自分の膣の奥に、
男の荒い息遣いと共に、生暖かい精液が注ぎこまれているのを感じていた。


 ぼんやりとした意識の中、亜柚子は男の胸上に抱かれていた。
 男の手が、優しく彼女の髪の毛を梳いている。
 亜柚子は男の胸に身体を預けているが、実はまだ、性器はつながったままだった。
 男は精液を亜柚子の奥深くに注ぎ込んだ後、しばらくしてから彼女を貫いたまま、そっと彼女を自らの胸上に抱きなおした。
 精液が、亜柚子の花弁からもれ、二人の局部を濡らしていたが、男も亜柚子も気にせず、ただ互いの体温と心臓の鼓動、
それに文字通りつながっている性器だけを感じ取っている。
 男の男根は、精を放った後でも萎えることなく、亜柚子の中を満たしていた。

 ひょっとして…私の身体では、満足させてあげられなかったのかしら……

 そんな不安がよぎり、思わず口にしてしまった。

「……、わたし、その……よかった……?」

 男はそっと頷き、そして亜柚子の髪を、優しい手つきで愛撫し始めたのだった。
 やがて、男の両手は亜柚子のお尻を撫でまわし始め、彼女はまた、甘い声をもらし始めた。

「あ…、あ……、ダメ……、また……あっ……」

 亜柚子が徐々に腰を前後に動かすと、男も腰を動かし始め、男根が彼女の中に、じわりじわりと快感のうずきを生んでいく。

「ああ…、こんな……、やっ……、あっ……んっ……また……」

亜柚子は男の腹に両手をつくと、男根をもっと感じようと、おとがいを反らして身体をくねらせていた。


 亜柚子が教員用の自宅に戻ったのは、午前0時を回っていた。
 あれからのことを思い出すと、顔から火が出そうになる。
 男との初めてのセックスを終えてから、結局立て続けに2度交わった。

 3回目など、男のものを、含んだ。
 導かれるままに、亜柚子は小さな口で男根をほおばり、口内で愛撫していくうちに、彼女の花弁はまた、濡れた。
 それから我を忘れて男にまたがり、自分からリードしたのだ。
 教え子との、禁断のセックス――だが亜柚子にとっては、彼はまぎれもなく、異性としての男だった。
 もっとも、ただの男ではなかったのだが……

 窓の外は相変わらず小雨が降っている。
 今ごろ彼は、もう遺跡深くもぐっているころだろう。学校の墓地のあの場所から。
 3度にわたる情交付きの、恋人との逢瀬の後でも、トレジャーハンターとしての仕事をさぼるつもりはないらしい。
 亜柚子は、ため息をついた。

 彼は、私に安らぎとぬくもりを与えてくれる。でも、私は、彼に何がしてあげられるのかしら―――

 窓のカーテンに頬を寄せ、外を眺めていたその時、不意に携帯が震えた。

「メールが届きました」

 差出人は――男からだった。
 内容は――

 亜柚子は、身支度を整えると、小走りに駆け出す。

”解けない碑文がある。力を貸して欲しい”

 私にも、彼にしてあげられることがある。

その腕には、丁寧に包まれたオレジンスコーンが抱かれている。
 自分にとって特別な人に渡す、特別なオレジンスコーン。
 彼に渡すのだ。想いに鍵をかけるためのお菓子ではなく、自分の想いをより強く伝えるためのお菓子として。

 亜柚子は雨の中を走る。
 彼の待つ遺跡へと向かって。

【終】