かかあ天下
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No.12
DB
上手な秘密の隠させ方
駅までは単調な道である。そもそも
名前
は電車通学なわけで、だからこそ件の本屋を見つけることが出来たのであるが。
「電車って僕、初めて見ました」
「……それはまた……いいもん見た……な?」
目を輝かせて見るものでもないと思うのだが。
悟飯の住むパオズ山付近には鉄道も通っていなければ、駅と言う存在すらも伝え聞くだけらしい。
しかし、鉄道オタクというわけでもないのにここまで輝く瞳で駅及び電車を見つめる人間もまた珍しい。好奇心は向学心の元と呼べるかもしれない、と
名前
は好意的に解釈し、けれどこのまま眺め続けられても本屋にはたどり着かないからと悟飯を促す。
悟飯も頷き、最後に少し駅を振り返った。そこまで珍しいか、と
名前
は苦笑した。
その時である。
ギュルルルル!!
かなりの近距離で車のスチール音が響いた。
「暴走車か?」
首だけで振り向き、道路を見やる。角の向こうの通りを一台の車とパトカーが恐ろしいスピードで走って行った。
風圧で店のウインドウがビリビリと震えている。巻き上がった埃で子供が咳き込んでいるのが見えた。
この町ではそう珍しい光景でもない。
大きな町なのだ。色んな人間が集まる。善人も、悪人も。
そう、自分を納得させた。でなければ外など歩けない。
しかしそれらを見送る
名前
とは正反対に、悟飯はそわそわと落ち着きを無くしている。
暴走車が消えた通りを心配と憤りがないまぜになった表情で眺めるのだ。
よくもまあ、と思う。きっと今すぐ飛び出して行きたいのだろう。よくぞ好き好んで危険の中に身を置こうなどと思えるものだ。
けれど、悟飯らしいな、とも。思ってしまう。
曲がったことが嫌い。正直な人が正直に生きていられる世界が好き。自分を曲げずに生きていたい。
そんな奴だと分かるほどには彼のことを知っているはずだ。
名前
の自惚れでなければ。
甘っちょろい、奇麗事だと
名前
は思う。思うが、決して嫌いではない。そんな悟飯がいいな、と思っているのは事実だから。そしてそんな彼に助けられた今となっては、尚更。
名前
は堪えきれなくなって小さくふきだした。幸い悟飯には気付かれなかったけれど。
「孫、待っててやるから行ってこい」
「なっ!? ……んのことですか?」
グレートサイヤマンのお仕事だよ、と
名前
は言おうとして、止めた。本人が隠したがっているだろうことを、わざわざ言及する必要もない。
「トイレだよ。さっきからもじもじしすぎだ」
そう言えば悟飯はあからさまに安心した表情を見せる。何とも隠し事に向いていない男だ。
「あはは、そうなんです。さっきからちょっと行きたいかなぁ~、って!
すぐに帰って来ますね!」
「慌てなくていいぞ」
怪我しないようにな。
言外に告げて手を振る。
常識ならば、ここは止めておくべきなのかもしれないけれど。
グレートサイヤマンの怪力を目の当たりにし、規格外の活躍を耳にしている身としては心配するだけ無駄のような気がしてならないのだ。そしてそれは多分に正しい。
名前
はふと考えた。
もしかして、そういう家系なのだろうか。それで友達を作る暇もなくなってしまったんじゃ……。もしかしてあの変な服の所為かもしれない。
妄想とは歯止めをかける人間がいなければ何処までも突っ走るものらしい。
しかもある意味で正解である。服に関してはむしろ悟飯は喜んで着ているのだが。
そんなことを考えながら待つこと数分、お湯を入れたカップラーメンが伸びるだろうな~という頃に、漸く悟飯が帰ってきた。
怪我どころか服に汚れも見当たらない。
「よし、行くか」
「はい」
少し遠いところで煙が上がっている。悟飯が敢えてそちらを向こうとしないところを見ると、そこが現場だったのだろう。
正義の味方ってやつは大変だなぁ。
名前
はぼんやり思う。隣で物珍しげに繁華街を歩く人物がそうだとはとても思えないが。
手助け、しようとは思わない。そもそも出来ると思っていないし。自分が正義の味方向きとは思えないのだ。どちらかと言えばそれはビーデルの方が向いているだろう。悪事を見逃せないと明言し実行している彼女だから。
自分にはその周辺で「アレは何だ!? 鳥だ! 飛行機だ! いや人間だ!」と言っている役回りが似合う。むしろ一度くらいは言ってみたいものだ。
そこでふと思い出した。丁度グレートサイヤマン出動後なわけだし、この際言っておこう。
「そう言えば孫」
「はい?」
「昨日、噂のグレートサイヤマンに助けて貰ったってのは知ってるよな」
「え、えぇ、まあ」
「そんでなぁ、死ぬ寸前だったわけだ」
「へ、へぇ……」
ぎくりと悟飯の顔が強張った。そんなに分かりやすい反応で、よく今までバレなかったものだ。
しかし
名前
がしたいのはグレートサイヤマンの正体を暴くことではなく。
「……お礼、したいっつったら迷惑だと思うか?」
「へ?」
「正体不明のヒーローだから、つけまとったら迷惑かと思うんだけど……お礼はしたいし、困ってんだ」
「あ、あぁ! そうだったんですか! いやぁ、そんな迷惑だなんてことないですよ! グレートサイヤマンは正義の味方ですから! きっと喜んで受け取ってくれますよ!」
あはは、と乾いた声で笑う。その中に含まれる安堵を、
名前
は礼儀正しく気付かないふりをした。
「だといいな。……まあ、また会えるかは分からないんだけど……」
「だ、だったら」
もごもごと口ごもり、悟飯は意を決したように顔を上げ。
僕が渡しておきます!
力強く拳を振り上げられ、
名前
はちょっとびびった。
何もそんなに力まんでも……、と。
「伝手あるのか?」
我ながらちょっとわざとらしい、とは思いつつ
名前
は確認の為に聞いてみる。
「え、あ、は、あの、ぼ、僕の親戚の、えーと、知人が、その、お知り合いらしくて!」
苦しいぞ、と悟飯は思った。
名前
も思った。
どっちにしろ悟飯の腹に入るのだから
名前
としては知人の従兄弟でも兄弟でも隣人でも何でもかまわないといえば構わない。のだけれど。
もう少しマシな言い訳をしてもらわないと、騙された振りをする
名前
自身が阿呆に見られそうでちょっと嫌だった。こうなったらこれで納得するしかないけれど。
何となく、こいつはフォローしてやらないとどっかでボロを出すかもしれない、と
名前
は思った。その予感は後にドンピシャで命中するのだが、この時はまだそんなことを知る由もなく。
「じゃあ頼んでいいか?」
「はいっ!」
首を傾げる
名前
に大きく頷く。悟飯はその時少し感じた胸のもやもやは無視した。そのまま真っ直ぐ歩こうとした手を
名前
に「こっちだ」と握られてすぐに吹き飛んだのもあるし、聞かれても説明出来ないような気がしたので。
#DB
#孫悟飯
2025.1.28
No.12
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「電車って僕、初めて見ました」
「……それはまた……いいもん見た……な?」
目を輝かせて見るものでもないと思うのだが。
悟飯の住むパオズ山付近には鉄道も通っていなければ、駅と言う存在すらも伝え聞くだけらしい。
しかし、鉄道オタクというわけでもないのにここまで輝く瞳で駅及び電車を見つめる人間もまた珍しい。好奇心は向学心の元と呼べるかもしれない、と名前は好意的に解釈し、けれどこのまま眺め続けられても本屋にはたどり着かないからと悟飯を促す。
悟飯も頷き、最後に少し駅を振り返った。そこまで珍しいか、と名前は苦笑した。
その時である。
ギュルルルル!!
かなりの近距離で車のスチール音が響いた。
「暴走車か?」
首だけで振り向き、道路を見やる。角の向こうの通りを一台の車とパトカーが恐ろしいスピードで走って行った。
風圧で店のウインドウがビリビリと震えている。巻き上がった埃で子供が咳き込んでいるのが見えた。
この町ではそう珍しい光景でもない。
大きな町なのだ。色んな人間が集まる。善人も、悪人も。
そう、自分を納得させた。でなければ外など歩けない。
しかしそれらを見送る名前とは正反対に、悟飯はそわそわと落ち着きを無くしている。
暴走車が消えた通りを心配と憤りがないまぜになった表情で眺めるのだ。
よくもまあ、と思う。きっと今すぐ飛び出して行きたいのだろう。よくぞ好き好んで危険の中に身を置こうなどと思えるものだ。
けれど、悟飯らしいな、とも。思ってしまう。
曲がったことが嫌い。正直な人が正直に生きていられる世界が好き。自分を曲げずに生きていたい。
そんな奴だと分かるほどには彼のことを知っているはずだ。名前の自惚れでなければ。
甘っちょろい、奇麗事だと名前は思う。思うが、決して嫌いではない。そんな悟飯がいいな、と思っているのは事実だから。そしてそんな彼に助けられた今となっては、尚更。
名前は堪えきれなくなって小さくふきだした。幸い悟飯には気付かれなかったけれど。
「孫、待っててやるから行ってこい」
「なっ!? ……んのことですか?」
グレートサイヤマンのお仕事だよ、と名前は言おうとして、止めた。本人が隠したがっているだろうことを、わざわざ言及する必要もない。
「トイレだよ。さっきからもじもじしすぎだ」
そう言えば悟飯はあからさまに安心した表情を見せる。何とも隠し事に向いていない男だ。
「あはは、そうなんです。さっきからちょっと行きたいかなぁ~、って!
すぐに帰って来ますね!」
「慌てなくていいぞ」
怪我しないようにな。
言外に告げて手を振る。
常識ならば、ここは止めておくべきなのかもしれないけれど。
グレートサイヤマンの怪力を目の当たりにし、規格外の活躍を耳にしている身としては心配するだけ無駄のような気がしてならないのだ。そしてそれは多分に正しい。
名前はふと考えた。
もしかして、そういう家系なのだろうか。それで友達を作る暇もなくなってしまったんじゃ……。もしかしてあの変な服の所為かもしれない。
妄想とは歯止めをかける人間がいなければ何処までも突っ走るものらしい。
しかもある意味で正解である。服に関してはむしろ悟飯は喜んで着ているのだが。
そんなことを考えながら待つこと数分、お湯を入れたカップラーメンが伸びるだろうな~という頃に、漸く悟飯が帰ってきた。
怪我どころか服に汚れも見当たらない。
「よし、行くか」
「はい」
少し遠いところで煙が上がっている。悟飯が敢えてそちらを向こうとしないところを見ると、そこが現場だったのだろう。
正義の味方ってやつは大変だなぁ。
名前はぼんやり思う。隣で物珍しげに繁華街を歩く人物がそうだとはとても思えないが。
手助け、しようとは思わない。そもそも出来ると思っていないし。自分が正義の味方向きとは思えないのだ。どちらかと言えばそれはビーデルの方が向いているだろう。悪事を見逃せないと明言し実行している彼女だから。
自分にはその周辺で「アレは何だ!? 鳥だ! 飛行機だ! いや人間だ!」と言っている役回りが似合う。むしろ一度くらいは言ってみたいものだ。
そこでふと思い出した。丁度グレートサイヤマン出動後なわけだし、この際言っておこう。
「そう言えば孫」
「はい?」
「昨日、噂のグレートサイヤマンに助けて貰ったってのは知ってるよな」
「え、えぇ、まあ」
「そんでなぁ、死ぬ寸前だったわけだ」
「へ、へぇ……」
ぎくりと悟飯の顔が強張った。そんなに分かりやすい反応で、よく今までバレなかったものだ。
しかし名前がしたいのはグレートサイヤマンの正体を暴くことではなく。
「……お礼、したいっつったら迷惑だと思うか?」
「へ?」
「正体不明のヒーローだから、つけまとったら迷惑かと思うんだけど……お礼はしたいし、困ってんだ」
「あ、あぁ! そうだったんですか! いやぁ、そんな迷惑だなんてことないですよ! グレートサイヤマンは正義の味方ですから! きっと喜んで受け取ってくれますよ!」
あはは、と乾いた声で笑う。その中に含まれる安堵を、名前は礼儀正しく気付かないふりをした。
「だといいな。……まあ、また会えるかは分からないんだけど……」
「だ、だったら」
もごもごと口ごもり、悟飯は意を決したように顔を上げ。
僕が渡しておきます!
力強く拳を振り上げられ、名前はちょっとびびった。
何もそんなに力まんでも……、と。
「伝手あるのか?」
我ながらちょっとわざとらしい、とは思いつつ名前は確認の為に聞いてみる。
「え、あ、は、あの、ぼ、僕の親戚の、えーと、知人が、その、お知り合いらしくて!」
苦しいぞ、と悟飯は思った。名前も思った。
どっちにしろ悟飯の腹に入るのだから名前としては知人の従兄弟でも兄弟でも隣人でも何でもかまわないといえば構わない。のだけれど。
もう少しマシな言い訳をしてもらわないと、騙された振りをする名前自身が阿呆に見られそうでちょっと嫌だった。こうなったらこれで納得するしかないけれど。
何となく、こいつはフォローしてやらないとどっかでボロを出すかもしれない、と名前は思った。その予感は後にドンピシャで命中するのだが、この時はまだそんなことを知る由もなく。
「じゃあ頼んでいいか?」
「はいっ!」
首を傾げる名前に大きく頷く。悟飯はその時少し感じた胸のもやもやは無視した。そのまま真っ直ぐ歩こうとした手を名前に「こっちだ」と握られてすぐに吹き飛んだのもあるし、聞かれても説明出来ないような気がしたので。
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