かかあ天下
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No.11
DB
三つの名前を持つ男
普段無愛想にしといて良かった。
名前
は今日ほどそう思ったことはない。
昨日のことはクラスメイトの殆どが知っているようだった。四方八方から投げかけられる視線がそれを物語っている。
けれど
名前
に話しかけようとする強者は存在しない。
ただ一人を除いて。
「怪我がないならいいけどさ」
「ぴんぴんしてる」
お馴染み友人Aである。登校して真っ先に話しかけてきた。それをきっかけに
名前
の周りに人が集まるかというとそんなことはなく。
「目付きの悪さに磨きがかかってるわよ」
「ほっとけ」
誰も話しかけられない理由はこれ。
ただでさえ不機嫌に見られるというのに、それが仏頂面で口を噤んでいたらあまりの迫力に教師だって怯えるというもの。
「休んでもよかったのに」
「連絡すんのもめんどかったんだよ」
「……見られるのは?」
「うざいけど、黙ってれば誰も何も言わん」
「まあ、確かに……」
今の
名前
に話しかける度胸を持つ人間などいるはずもなかった。
「今日は甘い匂いしないのね」
「あー……まあ」
あんなごたごたの後でお菓子作りが出来るほど、
名前
は菓子作りに傾倒しているわけじゃなかった。そもそも小麦粉のストックが底をついていたりするわけで。昨日買おうと思っていたのだが、それどころではなかったし。
母親の買ってきた弁当を食べた後、風呂に入ってすぐ寝てしまった。
「悟飯君もがっかりしてるんじゃない。
ま、理由知ったら『しょうがないですよ、
名前
さんに怪我がないのが一番です』とかって言ってくれるかもだけど」
「がっかり……」
「うん」
名前
はぽつりと呟いた。まるで叶わない思いを抱く少女のように。
「……してくれるかな……?」
「………」
お母さんお赤飯炊いたげてー。
友はついそんなことを考えてしまった。
悟飯君、快挙。心の中で、人の良さそうな少年に賞賛を浴びせる。
どんなに自分があーだこーだ恋愛話に持っていってものらりくらりとかわされ続けてきたというのに。
まさか
名前
のこんな顔が見れるとは思ってもいなかった。
そりゃあ、確かに悟飯と
名前
がくっついたら面白いかな~、とは思っていたけれど。だからって本当にそうなるかもなんて、想像外だ。
名前
は小さくため息をついた。
まるっきり恋する乙女である。
……周囲からしてみれば向けられる視線を鬱陶しがっているように見えるのだけれど。
「つーかまじウゼぇな」
鬱陶しがってもいたらしい。
先ほどまでのアンニュイな雰囲気は何処へやら。一瞬にしてどこぞの組の幹部である。懐からチャカを取り出しても不思議は無い。
名前
にロマンティックを期待するだけ無駄なのかもしれない。
「まーまー、人の噂も七十五日、って言うし」
「七十五日間もかよ」
「いやまぁ……確かに二ヶ月以上だわ」
うげぇ、と顔を顰める
名前
はやっぱりラブロマンスには向いていないようだった。
午後の授業とは眠いものである。
くあ、と欠伸を一つ。午前中までは我慢していた
名前
だが、結局視線に耐えられなくなって午後を屋上で過ごすことに決めた。それに人が大勢いるところは、やっぱりちょっと不気味だった。
幸い今日はピーカン晴れ。日陰で目を瞑ればさぞ気持ち良かろう。中庭でも良かったのだが、そこには生憎と先客がいたもので。
「めがろぽりすわにほんばれ……」
あまりに気持ちのいい天気に脳みそが思考を拒否している。某赤いデカの口癖を起きているのか怪しい呂律で呟き、太陽の恵みに感謝しつつ目を閉じていると。
バタン!
という大きな音がして屋上の扉が開き、その五月蝿さにちょこっと目を開ける。そして。
「……そん?」
扉から飛び出して来たのはいまや見慣れたハニーフェイス。だが次の瞬間。
「……ぐれぇとさいやまん……」
一瞬にしてその姿を変えた悟飯、もといグレートサイヤマンが屋上から飛び立っていった。
夢だったのだろうか、と
名前
はぼんやり思った。いやしかし。
昨日のことを思い出す。
自分はグレートサイヤマンを誰と似ていると思ったのだったっけ。
今日は悟飯とはまだ会っていない。どうせ放課後に会うのだから。昨日何があろうとも約束は約束である。だから本屋には案内するつもりだった。
もう一度。
まだ午後の授業は残っている。もしグレートサイヤマン=悟飯の図式が真実だったとするならば、真面目な彼のことだ。必ず帰ってくるだろう。もう一度それを見たら。
……どうしようか。
名前
は首を捻った。悟飯がグレートサイヤマンだからといって別にそれを吹聴したいわけではない。面倒だし。
まあ、助けてもらった礼をしたいとは思っていたから、ならば悟飯がグレートサイヤマンというのは好都合かもしれない。
そもそもが謎の正義の使者グレートサイヤマンの正体など、
名前
は別段知りたいと思っていたわけではなかったし。
ビーデルは何だか躍起になって正体を探ろうとしているようだけれど。
教えてやってもいいのだが、何となく、嫌かも、とか。思ってしまった。
この秘密を、自分だけのものにしておきたい、なんて。
胸の辺りがむず痒い。だけど掻いてもそれはなくなってくれなくて。首を捻りながら考え込んでみるが三秒で放棄した。
考え事をするにはこの陽気は気持ちよすぎる。
名前
は再びごろりと寝転んだ。そっと目を閉じた数分後。
「あぁ~、六時間目終わっちゃうよぅ……」
なんとも聞きなれた情けない声が聞こえてきた。確定。
名前
の見守る中一瞬にして、妙ちきりんなコスチュームから普段の地味な学生へと姿を変える。
名前
は影から顔を覗かせた。見つかっても構わなかったのだが、悟飯は気付かず校舎の扉を開けて駆け込んで行った。
「あ、チャイム」
結局彼は六限目は少ししか受けられなかったわけだ。
今頃落ち込んでいるであろう同級生の困った顔を思い浮かべ、
名前
はくすりと笑みを零した。
待ち合わせ一〇分前なんだがな。
名前
は目の前に立つ律儀な少年に苦笑してみせた。
「早いな」
「あ、こんにちは」
「悪かったな待たせて。うちの担任HRが長いんだ」
「いいえ、そんなに待ってませんから」
悟飯は人のいい笑みを浮かべて手を振った。そして
名前
はその影に隠れるような場所に立つ少女を見つけてちょっと片方の眉を上げた。
「ビーデルも行くのか?」
そこにいたのはお下げが可愛い英雄の娘。
「え、いえ、ビーデルさんは、ちょっと話してただけで……」
「何よ、私がいちゃマズイことでもあるの?」
不機嫌を顕わにした声で首を横に振った悟飯をつつく。いや、だの、その、だのと哀れなほどに狼狽する悟飯に
名前
は肩をすくめた。
まったく鈍い男である。
自分を棚上げにして思う。ビーデルのそれが好意かどうかはともかく(
名前
は六割好意であると思っている)、自分に寄せられる興味に無頓着なのだ。その視線が奇異でない限りは。
「悪いことはないけどな。本屋に案内するだけだ。行くか?」
「……遠慮しとくわ」
尋ねた
名前
にビーデルは小さくため息を吐いた。
普段ならそそくさと帰宅する悟飯が校門前で誰かを待っている風だったのが気になった。そこで声を掛けたはいいが、誰ぞとの待ち合わせだという。それで少しムッとしたのもある。ビーデルやイレーザが遊びに誘っても乗ってくることなどないのだから。
それにまだ悟飯とグレートサイヤマンとの関係を探るということを諦めていなかった。
だからこうして悟飯に話しかけていたところでの
名前
の登場。不機嫌にもなるというものだ。
イレーザ越しではあるけれど、ビーデルは
名前
を知っていた。悟飯と最近親しくしている女生徒ということは別にして、である。
英雄の娘として有名人であるところのビーデルには知り合いが多い。それに誰にでも臆することなく話しかけることの出来るイレーザならばともかく、ビーデルはクラスの違う
名前
とはあまり話したことが無かった。
しかし初めて会った時のことを覚えている。
イレーザに同じ委員会だと紹介されて、自分から名乗った後に
名前
は聞いた。
『名前は?』
何となしに言われた言葉。
名前を聞かれたことなんて、七年前からは殆どなかった。名乗る前に知られていたから。
当たり前のように問われたことが逆に新鮮で、未だに覚えている。
変な人。妙な感性を持ってる人。そんな印象だった。
だから、
名前
が一緒ならば悟飯の正体も苦も無く暴けるのかもしれないと思った。
しかし、ビーデルは自分で確かめたかった。もしも悟飯がグレートサイヤマンだったとして、何故かそれを
名前
に知られるのは嫌だと思ったのだ。
それがどういった感情に因るものかはまだ分からなかったけれど。そして同じ感情を
名前
が持っているということも。
残念ながら
名前
は既にグレートサイヤマンと悟飯の相互関係を知っていたりするのだが。
しかし土俵にすら上がっていない二人には些細な違いすらもない。
「そうか。じゃあまたな」
「また来週」
「さよなら」
それぞれ手を振り校門をくぐる。ビーデルの家と駅は反対方向なのだ。
少し安心したようにため息を吐く悟飯を横目で見て取り、
名前
は少し小突いてみせた。少しばかり肩を落とし気味だったビーデルのために。
そしてそれを見て安心してしまった自分を誤魔化すために。
「でもよかったんですか?」
悟飯が首を傾げる。
「何が」
「昨日大変だったんでしょう? お休みでもよかったのに……」
意地になってました、とは言えない。なんか格好悪い気がしたので。
「あー、学生の本分は勉強だしな」
午後の授業をサボっていた人間が言うことではない。
しかし悟飯はそれを真に受けて「
名前
さん偉いんですね!」と目を輝かせている。純粋な視線が痛い。
「だけど今日は差し入れなしなんだ……悪いな」
「しょうがないですよ、
名前
さんに怪我がないのが一番です」
どっかで聞いたような台詞である。誰が言ったのか覚えていないけれど。
それよりも、もう少し残念がってくれてもいいのに、と思った。心配してもらっておいて何だけれど。
しかしその複雑な乙女心を悟飯と
名前
が理解する日は少し遠いようだった。
#DB
#孫悟飯
2025.1.27
No.11
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名前は今日ほどそう思ったことはない。
昨日のことはクラスメイトの殆どが知っているようだった。四方八方から投げかけられる視線がそれを物語っている。
けれど名前に話しかけようとする強者は存在しない。
ただ一人を除いて。
「怪我がないならいいけどさ」
「ぴんぴんしてる」
お馴染み友人Aである。登校して真っ先に話しかけてきた。それをきっかけに名前の周りに人が集まるかというとそんなことはなく。
「目付きの悪さに磨きがかかってるわよ」
「ほっとけ」
誰も話しかけられない理由はこれ。
ただでさえ不機嫌に見られるというのに、それが仏頂面で口を噤んでいたらあまりの迫力に教師だって怯えるというもの。
「休んでもよかったのに」
「連絡すんのもめんどかったんだよ」
「……見られるのは?」
「うざいけど、黙ってれば誰も何も言わん」
「まあ、確かに……」
今の名前に話しかける度胸を持つ人間などいるはずもなかった。
「今日は甘い匂いしないのね」
「あー……まあ」
あんなごたごたの後でお菓子作りが出来るほど、名前は菓子作りに傾倒しているわけじゃなかった。そもそも小麦粉のストックが底をついていたりするわけで。昨日買おうと思っていたのだが、それどころではなかったし。
母親の買ってきた弁当を食べた後、風呂に入ってすぐ寝てしまった。
「悟飯君もがっかりしてるんじゃない。
ま、理由知ったら『しょうがないですよ、名前さんに怪我がないのが一番です』とかって言ってくれるかもだけど」
「がっかり……」
「うん」
名前はぽつりと呟いた。まるで叶わない思いを抱く少女のように。
「……してくれるかな……?」
「………」
お母さんお赤飯炊いたげてー。
友はついそんなことを考えてしまった。
悟飯君、快挙。心の中で、人の良さそうな少年に賞賛を浴びせる。
どんなに自分があーだこーだ恋愛話に持っていってものらりくらりとかわされ続けてきたというのに。
まさか名前のこんな顔が見れるとは思ってもいなかった。
そりゃあ、確かに悟飯と名前がくっついたら面白いかな~、とは思っていたけれど。だからって本当にそうなるかもなんて、想像外だ。
名前は小さくため息をついた。
まるっきり恋する乙女である。
……周囲からしてみれば向けられる視線を鬱陶しがっているように見えるのだけれど。
「つーかまじウゼぇな」
鬱陶しがってもいたらしい。
先ほどまでのアンニュイな雰囲気は何処へやら。一瞬にしてどこぞの組の幹部である。懐からチャカを取り出しても不思議は無い。
名前にロマンティックを期待するだけ無駄なのかもしれない。
「まーまー、人の噂も七十五日、って言うし」
「七十五日間もかよ」
「いやまぁ……確かに二ヶ月以上だわ」
うげぇ、と顔を顰める名前はやっぱりラブロマンスには向いていないようだった。
午後の授業とは眠いものである。
くあ、と欠伸を一つ。午前中までは我慢していた名前だが、結局視線に耐えられなくなって午後を屋上で過ごすことに決めた。それに人が大勢いるところは、やっぱりちょっと不気味だった。
幸い今日はピーカン晴れ。日陰で目を瞑ればさぞ気持ち良かろう。中庭でも良かったのだが、そこには生憎と先客がいたもので。
「めがろぽりすわにほんばれ……」
あまりに気持ちのいい天気に脳みそが思考を拒否している。某赤いデカの口癖を起きているのか怪しい呂律で呟き、太陽の恵みに感謝しつつ目を閉じていると。
バタン!
という大きな音がして屋上の扉が開き、その五月蝿さにちょこっと目を開ける。そして。
「……そん?」
扉から飛び出して来たのはいまや見慣れたハニーフェイス。だが次の瞬間。
「……ぐれぇとさいやまん……」
一瞬にしてその姿を変えた悟飯、もといグレートサイヤマンが屋上から飛び立っていった。
夢だったのだろうか、と名前はぼんやり思った。いやしかし。
昨日のことを思い出す。
自分はグレートサイヤマンを誰と似ていると思ったのだったっけ。
今日は悟飯とはまだ会っていない。どうせ放課後に会うのだから。昨日何があろうとも約束は約束である。だから本屋には案内するつもりだった。
もう一度。
まだ午後の授業は残っている。もしグレートサイヤマン=悟飯の図式が真実だったとするならば、真面目な彼のことだ。必ず帰ってくるだろう。もう一度それを見たら。
……どうしようか。
名前は首を捻った。悟飯がグレートサイヤマンだからといって別にそれを吹聴したいわけではない。面倒だし。
まあ、助けてもらった礼をしたいとは思っていたから、ならば悟飯がグレートサイヤマンというのは好都合かもしれない。
そもそもが謎の正義の使者グレートサイヤマンの正体など、名前は別段知りたいと思っていたわけではなかったし。
ビーデルは何だか躍起になって正体を探ろうとしているようだけれど。
教えてやってもいいのだが、何となく、嫌かも、とか。思ってしまった。
この秘密を、自分だけのものにしておきたい、なんて。
胸の辺りがむず痒い。だけど掻いてもそれはなくなってくれなくて。首を捻りながら考え込んでみるが三秒で放棄した。
考え事をするにはこの陽気は気持ちよすぎる。
名前は再びごろりと寝転んだ。そっと目を閉じた数分後。
「あぁ~、六時間目終わっちゃうよぅ……」
なんとも聞きなれた情けない声が聞こえてきた。確定。名前の見守る中一瞬にして、妙ちきりんなコスチュームから普段の地味な学生へと姿を変える。
名前は影から顔を覗かせた。見つかっても構わなかったのだが、悟飯は気付かず校舎の扉を開けて駆け込んで行った。
「あ、チャイム」
結局彼は六限目は少ししか受けられなかったわけだ。
今頃落ち込んでいるであろう同級生の困った顔を思い浮かべ、名前はくすりと笑みを零した。
待ち合わせ一〇分前なんだがな。
名前は目の前に立つ律儀な少年に苦笑してみせた。
「早いな」
「あ、こんにちは」
「悪かったな待たせて。うちの担任HRが長いんだ」
「いいえ、そんなに待ってませんから」
悟飯は人のいい笑みを浮かべて手を振った。そして名前はその影に隠れるような場所に立つ少女を見つけてちょっと片方の眉を上げた。
「ビーデルも行くのか?」
そこにいたのはお下げが可愛い英雄の娘。
「え、いえ、ビーデルさんは、ちょっと話してただけで……」
「何よ、私がいちゃマズイことでもあるの?」
不機嫌を顕わにした声で首を横に振った悟飯をつつく。いや、だの、その、だのと哀れなほどに狼狽する悟飯に名前は肩をすくめた。
まったく鈍い男である。
自分を棚上げにして思う。ビーデルのそれが好意かどうかはともかく(名前は六割好意であると思っている)、自分に寄せられる興味に無頓着なのだ。その視線が奇異でない限りは。
「悪いことはないけどな。本屋に案内するだけだ。行くか?」
「……遠慮しとくわ」
尋ねた名前にビーデルは小さくため息を吐いた。
普段ならそそくさと帰宅する悟飯が校門前で誰かを待っている風だったのが気になった。そこで声を掛けたはいいが、誰ぞとの待ち合わせだという。それで少しムッとしたのもある。ビーデルやイレーザが遊びに誘っても乗ってくることなどないのだから。
それにまだ悟飯とグレートサイヤマンとの関係を探るということを諦めていなかった。
だからこうして悟飯に話しかけていたところでの名前の登場。不機嫌にもなるというものだ。
イレーザ越しではあるけれど、ビーデルは名前を知っていた。悟飯と最近親しくしている女生徒ということは別にして、である。
英雄の娘として有名人であるところのビーデルには知り合いが多い。それに誰にでも臆することなく話しかけることの出来るイレーザならばともかく、ビーデルはクラスの違う名前とはあまり話したことが無かった。
しかし初めて会った時のことを覚えている。
イレーザに同じ委員会だと紹介されて、自分から名乗った後に名前は聞いた。
『名前は?』
何となしに言われた言葉。
名前を聞かれたことなんて、七年前からは殆どなかった。名乗る前に知られていたから。
当たり前のように問われたことが逆に新鮮で、未だに覚えている。
変な人。妙な感性を持ってる人。そんな印象だった。
だから、名前が一緒ならば悟飯の正体も苦も無く暴けるのかもしれないと思った。
しかし、ビーデルは自分で確かめたかった。もしも悟飯がグレートサイヤマンだったとして、何故かそれを名前に知られるのは嫌だと思ったのだ。
それがどういった感情に因るものかはまだ分からなかったけれど。そして同じ感情を名前が持っているということも。
残念ながら名前は既にグレートサイヤマンと悟飯の相互関係を知っていたりするのだが。
しかし土俵にすら上がっていない二人には些細な違いすらもない。
「そうか。じゃあまたな」
「また来週」
「さよなら」
それぞれ手を振り校門をくぐる。ビーデルの家と駅は反対方向なのだ。
少し安心したようにため息を吐く悟飯を横目で見て取り、名前は少し小突いてみせた。少しばかり肩を落とし気味だったビーデルのために。
そしてそれを見て安心してしまった自分を誤魔化すために。
「でもよかったんですか?」
悟飯が首を傾げる。
「何が」
「昨日大変だったんでしょう? お休みでもよかったのに……」
意地になってました、とは言えない。なんか格好悪い気がしたので。
「あー、学生の本分は勉強だしな」
午後の授業をサボっていた人間が言うことではない。
しかし悟飯はそれを真に受けて「名前さん偉いんですね!」と目を輝かせている。純粋な視線が痛い。
「だけど今日は差し入れなしなんだ……悪いな」
「しょうがないですよ、名前さんに怪我がないのが一番です」
どっかで聞いたような台詞である。誰が言ったのか覚えていないけれど。
それよりも、もう少し残念がってくれてもいいのに、と思った。心配してもらっておいて何だけれど。
しかしその複雑な乙女心を悟飯と名前が理解する日は少し遠いようだった。
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