炎色反応 第四章・20



「オレは愚かな人間も愚かな魔法使いも大嫌いだ。両方の機嫌を取り結び、平和ごっこがやりたい風の阿呆どもの思惑など知ったことか」
心底下らなさそうにオルバンは吐き捨てる。
ややあって、ディアルは盛大にため息を吐いた。
「…………だろうな。お前はそう言うと思った」
答えは読めていた、と言いたげだ。
それでもご丁寧に忠告してくれる辺りがディアルという男なのだろう。
「ティス」
ふとまたティスに目を戻した彼が近付いて来る。
広い背中を屈めた彼は、驚くティスの前髪を軽くかき分けその額に口付けをした。
触れた唇からかすかな温もりが伝わり、それはじわりとティスの肌に浸透して全身に広がる。
「ささやかだが、守りだ。この先風とやり合う羽目になった時、何かの役に立つかもしれない」
心なしか体が暖かくなった気がした。
じゃあな、とつぶやいて体を離そうとするディアルにティスは慌てて言った。
「あの…………これはッ」
口付けのことではなく、ディアルが被せてくれた彼の腰巻の布のことだ。
ディアルはかすかに笑って言う。
「ひどい目に遭わせた詫びにやる。貴重なものだ、大事にしてくれよ」
「は、はい」
ひどい目、という言葉を聞くと彼に組み敷かれた時のことを思い出してしまう。
鼻先を赤くしたティスから離れ、ディアルは今度こそ二人に背を向けた。
「オルバン。ティスを、まあ、出来れば大事にしてやれ」
オルバンという魔法使いを多少なりとも知る男は、控えめな言葉を残すといきなり地に吸い込まれるように消えた。


***

丘の上に静寂が戻る。
何となくディアルが消えた場所から目を離せずにいたティスは、いきなりオルバンにあごを取られてぎょっとする。
「どうしてくれるんだ?」
頭上から降ってきた声にはからかうような笑い声が含まれていた。
あごを持ち上げるようにして無理やり掴み上げられたため、思わず開いてしまった唇に長い指が差し込まれる。
「ん、ん…」
「どうしてくれるんだ? え? 水の魔法、オレは結構気に入ってたんだぜ」
「ん、んう……ふ、ふいま、せ…………、んん」
濡れた舌に絡み付き、愛撫するように動く指先に翻弄されながらティスは謝罪した。
だがてっきり非常に怒っているかと思えたオルバンは、意外なほど機嫌が良さそうである。
「あの朴念仁をたらし込むとはな。やるじゃないか、ティス」
ディアルの取った態度は彼にとっても少々予想外のものだったらしい。
「全くお前は、どうしようもない可愛い淫売だ」
唾液に濡れ、ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てる指先をなしくずしに舐めながらティスは彼の声を聞く。
「このオレ様に言うことを聞かせた人間なんぞ、後にも先にもお前だけだろうよ」
一度目はイーリックの命を。
二度目は、願うところまで行かなかったがディアルの無事を。
「だからお前は、これからもずっとオレのものだ。いいな」
「……ふぁ、い……るばん……さまぁ…」
いつしか積極的に彼の指をしゃぶりながら、ティスは甘えるように答える。
好きも嫌いも越えたどこかで、自分はオルバンに惹かれている。
やっとそれを認められる気がした。
飢えた穴を太いもので満たし、熱い精液を注いでくれる相手なら誰でもいいわけじゃない。
調教されたこの肉体はそれを喜ぶけれど……何よりの悦楽は、彼からしか手に入らない。
残忍で冷酷な、人間を奴隷としか思っていない男だとはよく分かっている。
分かっているけれど、灯された炎は消えないのだ。
全てを焼き尽くすまで。
「……んんっ」
口から引き抜かれた指がゆっくりと下がっていく。
ディアルが被せてくれた布の下に入った指は、いきなり小さな尻の狭間に潜り込んだ。


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