8-eight-

8つの事件

目次

本編

Prologue
磯野 鰹(仮名)12歳。狂気に満ちた、殺人鬼。
第1章 0

全ての始まりは、1997年5月6日、ゴールデンウィーク明け。 ある政治家K.Tが射殺され、金を盗まれた。強盗殺人だった。
だが、犯人が残したこの手紙が、全ての恐怖の始まりだった。 刑事をしていたH.Tは、我が目を疑った。

 
 今まで愚民どもは平和に暮らしていたことでしょう。
 しかし、日常にはスリルが必要です。
 愚かなる警察諸君、平和を望むなら私を捕まえるがいい。
 命を駒とした楽しい楽しいゲームの始まりだ。
 私はこれから8のゲームを起こす。
 君たちは一体いくつ止められるかな?
 ではまず1のゲームについて少しだけヒントを与えよう。
 場所は東京都千代田区内のどこかの中学校だ。
 そこで悲鳴が聞こえるから駆けつけてごらん。
 最初のゲームのスタートだ。       死神K   

この手紙はすぐ警察署に届けられた。 ちょうど警察署は保険金殺人の捜査をしていた。
政治家が1人殺されたのも大事件だが、何人も騙され殺されているこの事件のほうが重要らしい。
一応の捜査はされたが、あまり深く調べられはしなかった。 ——保険金殺人など、どうでも良かったのだ——
最初のゲームが始まったとき、誰もがそう思ったはずだ。 世界第二位の経済大国日本。
治安大国日本。 豊かな日本。 全てが、崩れる。

第2章 GAME START

2ヵ月後、1997年7月13日。
一時期テレビで騒がれたあの手紙のことを気にしているものはいなかった。
大きくは報道されなかったのだ。
騒いだのは一部の地域の一部の人間。
覚えている人はいても、心配する人はいなかった。
 
午前8時15分、A中学校前。
いつもと変わらぬ朝。
「おう、おはよう。」
「おはよ〜」
人々は幸せでなくとも、平和だった。
午前8時23分。
深く帽子をかぶりマスクをし、夏でこんなに暑いのに厚着をしている、身長140cmぐらいの男が現れた。
中学生から見ると小さい。
「なんだ?こいつ————」
そう思った、瞬間だった。
その男は何か光るものを取り出して、
「グチャッッ」
中学生は血を流して倒れこんだ。
周りの人間の悲鳴が上がった。
「ククク・・・ゲームは始まった・・・」
そう言って、血のついた手袋を捨て、逃げた。
用心深いことに、手袋の上から手袋をはめていた。
指紋が検出されることは無い。
そして、手紙を置いていった。
もちろん————わかっているだろう、犯人は磯野鰹。
「クク・・・これで警察もまじめにゲームに付き合ってくれるかな♪」
狂気に満ちたその声を、聞く者は誰もいなかった。
 
周囲の人間が、携帯で警察に連絡した。
警察はすぐに現場に駆けつけた。
手紙を見て、彼は頭が真っ白になるほどの恐怖を覚えた。

 
 さて、これで冗談なんかじゃないと分かってもらえたでしょうか。
 次は死人が何人出るか分かりません。
 いったい何人死ぬのか僕も楽しみです。
 さて、1つ目のゲームはこんな甘いもんじゃありません。
 1つ目のゲームは  ロシアンルーレット。
 ヒントなしではゲームにならないので
 ヒントを出しましょう。
 日時は8月3日午後6時6分6秒。
 では愚かな警察諸君。ゲームを楽しもうではないか。  死神K 

1つ目の戦いが、始まる。

第3章 1

1997年8月3日午前9時29分。
3ヶ月前の保険金殺人の犯人が逮捕され、新聞の一面を飾るのは死神Kのことだった。
警察も総力を挙げて捜査している。
筆跡鑑定、指紋、聞き込み、情報収集。
どれも無駄だった。
今日が死神Kの予告の時間、マスコミも総力を挙げて取材し、テレビでも騒いでいた。
そんなテレビを見ながら、磯野波平(仮名)は言った。
「鰹、今日はどこへも出るでないぞ!」
すると鰹は言った。
「ええっ!!?今日は友達と遊ぶ約束をしてたのに。」
「・・・そうか。ならいつも以上に気をつけるんじゃぞ!!」
「・・・・・・・・は〜い。」
平和な家庭のようだが、波平は気付いていなかった。
目の前にいるのは死神だということに。
 
午後5時51分。予告の時間まで、あと15分。
場所が分からない以上、警察も捜査のしようが無かった。
「くそ・・・どこだ・・・何が来る・・・・!!」
その頃。R株式会社。20階建ての建物を持つ大企業。
こんなところが死神に狙われることは無いだろうとたかをくくって、
平常通り会社は動いていた。
午後6時6分6秒  運命の時間。
鰹は笑った。
「結局、誰も俺を止めることは出来ないのだ————」
そして、爆弾の起爆装置である携帯のボタンを押した。
その頃、R株式会社。
18階でエレベーターに乗っていた古川 弘雅(仮名)は、19階へ書類を届けに行くところだった。
その時。
「ゴオォォオオォオォオォオォォォォンン・・・・」
「ゴオォォオォオォォオォォォンン・・・・」
遠くで何かが爆発する音が聞こえた。2回。
そして————
「ボゴオオオオオォオォォォオオオオン!!!!」
頭上で何かが爆発した。
その音で、古川の鼓膜が破れた。
「ぐわああぁあぁああぁああ!!」
そんなことを言っているうちに、エレベーターが無重力状態になった。
落ちているのだ————
そしてそのまま
「ドゴオオオオオォオォォォオオオオン!!!!」
1階に直撃した。
1回のエレベーターのドアが落下の衝撃に耐え切れず吹き飛んだ。
その破片にあたり大怪我をする者もいた。
エレベーターのワイヤー破壊によるロシアンルーレット————
標的は、R株式会社。そして、3つのエレベーターが破壊された。
————警察は、この後の捜査により、破壊されたワイヤーの上に手紙がくくりつけられているのを見つけた。

 
 最初のゲームは僕が勝つことになるだろう。
 予想していたことだ。
 じゃあ、次の2のゲームを始めよう。
 次も爆弾で幼稚園を吹き飛ばす。
 ただし、東京とは限らない。
 爆発日時は9月1日午後12時。
 楽しみにしているよ
 血が流れ人が死ぬ瞬間を見るのを。  死神K

第1のゲーム——死者4名負傷者12名。
だが悲しんでばかりはいられない。
次の事件を阻止しなければならない。
それが、警察の使命だった————

第4章 2

1997年8月30日。
夏休みも終わりに近づいた頃、鰹は友達と野球で遊んでいた。
もちろん友達は鰹が2日後何をしようとしているか知らなければ、正体も知らない。
何も知らぬ周りの人間に映るのは無邪気な子供の顔————
彼の本当の顔が、悪魔を超えた殺人鬼であることは誰も予想しなかった。
午後6時。
家から帰ると、軽いいたずらを鱈ちゃんにしてやった。
その後、鰹はサザエに怒られた。
鰹は心の底でこう思った。
「そのくらいのことで怒るな・・・そんなに鱈ちゃんが大事なら明後日、消す。」
そう。鰹の目標は鱈ちゃんの通う幼稚園————
このときすでに定まっていた。
鱈の命日は。
 
9月1日午前8時35分。
警察庁。
警察は今日の幼稚園を休みにするよう勧告したが、
私立の幼稚園は大抵聞かなかった。
勧告というだけで、法的拘束力は無かった。
それに、学校では始業式など、大事な行事のある季節。
全国でたった一つの幼稚園のために休みにする幼稚園は少なかった。
とはいっても、どこの幼稚園でも爆弾が設置されていないかの確認ぐらいはした。
どこにも無かった。
午前11時58分。
建物が爆破されるのを恐れ、念のためグラウンドに避難した。
鱈ちゃんも然り。
59分。
鰹が笑った。
「誰が地雷を踏むのかな♪」
午後12時。
鱈ちゃんの真下の地面が盛り上がった。
「?」
次の瞬間。
「ボゴオォオォオォオオォオォオオォオンン・・・」
幼稚園が一瞬にして血に染まる。
鱈ちゃんもろとも、大量の子供が死んだ。
近所の住民はすぐさま警察に連絡した。
警察が駆けつけると、警察はその惨事に目を覆った。
赤くなった子供がそこらじゅうにバラバラ落ちているのだ。
腕が千切れているのもいる、
顔に大やけどを負っているものもいる。
死者32名。負傷者40名。
「2」のゲームが幕を閉じる。
そしてまた、地雷の下から鉄の箱に入った手紙が出てきた。
まだまだゲームは始まったばかり、
すぐに「3」のゲームが始まる。

第5章 道標<ガイドポスト>

警察は手紙を読んだ。
震える手で。

 
楽しんでいただけたかな?このゲーム。
 盗んだ金でダイナマイトが大量に手に入ったもんでね。
 次もビルを爆破しようと思う。
 ただし、「1」のときのようにエレベーターだけ破壊するなんてせこいことはしない。
 ビルを丸ごと破壊する。
 貴様らごときにこの僕が止められるかな?
 哀れな警察諸君、ゲームを楽しもうではないか。
 ではヒントを与えよう。
 今回は場所と日時を暗号で伝えることにする。
 日時はd@(4えあt@zd@(4b@いあ
 場所はーw。Rv。r@
 「3」のゲーム、ビルが崩れ去るのを楽しみに待っているよ。     死神K  

警察はすぐさま、本部にこの手紙を届けた。
警視総監は言った。
「ふざけやがって!!警察で遊んでやがる!!」
「しかし・・・国民の命を守ることが先決です!!」
「うむ・・・そうだな。」
「・・・今は死神Kとやらが残した暗号を解くことが人命を守ることにつながります。」
この暗号が示す時間————それがタイムリミット。
しかし、そのタイムリミットが分からない。
暗号を解くまでは、いつ爆発するか分からない恐怖。
暗号を解くまでは、どこで爆発するか分からない恐怖。
警察がこの謎を解くのは、一体いつになるのだろうか。
 
11月14日。午後9時。
2ヶ月たった今も、あの暗号は解けていなかった。
というよりも、あきらめムードが漂い、
今になってはあの暗号に着手するのはわずかな人間だけだった。
そのわずかな人間も、手書きの手紙を見つめながら、ボーっとしていた。
いつ爆発するか分からない。
それは同時に、しばらく爆発しなければ「爆発しないのではないか」と期待を持つ。
愚かとしか言いようが無い。
爆発するまで時間が無いのに。
11月15日。午前10時。
暗号を解いている刑事が偶然パソコンに向かって考えていると気がついた。
「キーボードの配置って・・・何故かむちゃくちゃだよな・・・」
無駄だと思いながらも、暗号の文字をキーボードに当てはめていった。
すると————
「!!」
「・・・日時は11月15日・・・場所は・・・ホテルRヒルズ・・・!!」
すぐさま刑事は連絡した。
爆発日時は今日という、恐ろしい事実を。

第6章 真の恐怖

もう爆弾を探し出して撤去している時間は無い。
すぐさま警察はホテルRヒルズに避難命令を出した。
その頃ホテルRヒルズ。
従業員はすぐに爆発の危険性を放送した。
宿泊客は我先にと出口に向かった。
パニックになった。
午前11時52分。
それでも全員避難し、ビル爆破の衝撃に備えて建物の中に入った。
正午。
「ズゴッゴオオォオオォオオォオオオォォ・・・」
ものすごい音と共に、地面が揺れる。
————————————
音も収まったころ、外へ出てみた。
一つの人類の技術の結晶は、瓦礫に帰した。
だが死傷者負傷者はいない。
「3」のゲームは警察の勝ちに見えた。
一週間後。
瓦礫の掃除をしていると、やはり鉄の箱から手紙が出てきた。
その鉄の箱は開けられずに警察に送られた。
警察は箱を開けた。
そこには戦慄が書かれていた。

 
 愚かな警察諸君、このゲーム私が勝ったかどうか分からないが一ついいことを教えてやろう。
 今回のビル爆破は実験だ。私が手に入れたダイナマイトの性能のな・・・
 では、本当の「3」のゲームを始めよう。
 ビル爆破によるドミノ倒し・・・
 一体何人死ぬだろう。
 ヒャハハハハ。貴様らの絶望の顔が目に浮かぶ・・・・
 ヒャハハハハハハハハハハハハハハ!!!                死神K    

始まる。真の「3」が。
 
11月21日午後10時。
再び政治家が殺され、莫大な金を奪われた。
その頃鰹は家にいた。
ワカメがひっそりと帰って来た。
大きなトランクを持って。
「お兄ちゃん・・・資金・・・調達してきたよ・・・」
「あ、ワカメ。よかった。これで「3」のゲームが始められるよ。」
次の日、鰹は港へ行った。
ダイナマイトを密輸するために。
————もはや逃げられぬ運命————
罪の無き多くの人間が天に昇る日も近いだろう。
悪魔たたずむこの家は
世界を動かすまでになる。

第7章 3

年も明けた1998年1月1日。
平凡な家庭ではもちを食べて御節を食べて
まさに平和と呼べるものだった。
————それがたった一人の12歳に————
K県Y市I区。
閑静な住宅街。
7〜9階建てのマンションがずらりと立ち並ぶ、
平和な場所。
彼らは考えていたのだろうか?
理路整然と並べられたこのマンションが、
ドミノ倒しの駒にちょうどいいということを————
 
午前9時警察本部。
「3」の序曲から1ヶ月。
さすがに年末年始といえども、働いている人間は多かった。
ドミノ倒しの標的になるような場所を探していた。
「2」を除いて今までの事件は東京に集中していた。
東京の高層ビル、マンション、大きな建築物を徹底的に探していた。
国民がパニックになるのを恐れ、内密に。
しかし————
「爆発するのは午後2時。ドミノ倒しのテープを撮らなくちゃ。」
鰹はK県に出かけ、ドミノ倒しを撮ろうとしていた。
 
午後1時55分
小学校低学年の子供も帰ってくる頃。
マンションの裏で穴掘りをしている幼稚園児。
スコップを片手に、泥まみれになって。
そんな幼稚園児が下へ掘っていくと、なにやらオレンジ色の円柱状のものが現れた。
幼稚園児はそれを持って誇らしげに、うれしそうに親に見せた。
「見て見てー、こんなの出てきたー。」
親がそれを見て息を呑んだ瞬間が
2時。
ダイナマイトが光を帯びた。

第8章 3(後編)

地響き。
轟音。
熱き風————
マンションの片側だけが吹き飛ばされた。
鰹は温かい風に吹かれ、
「どこまで倒れるかなー。」
と言って、事の成り行きを見ていた。
マンションは音と共に隣のマンションの方に倒れた。
そして隣に突っ込んだ。
その衝撃に伴い、また一回り大きな地響きが、来た。
震度3〜4の地震に近い。
マンションがその重みで周りを巻き込み、崩れ行く。
3つ目のマンションの辺りで————
ドミノは止まった。
地響きも収まり始めた。
「ちぇ・・・もうちょっと倒れてくれればよかったのに・・・」
鰹は悔しそうに、ビデオカメラをしまい、手紙を紙飛行機にして飛ばせた。
黒い煙の中を飛ぶ白い紙飛行機は、鳥のように————
 
10分後、警察救急車、自衛隊が駆けつけた。
人を救い、守ることを使命とする正義。
自らの快楽のために、人を殺める悪。
止める術はあるのだろうか————
 
次の日の警察本部。
「今までの事件は東京に集中していた・・・そうすると、死神Kの本拠地は東京にあることになる。」
その推理は間違っていなかった。
「だから・・・1月1日に東京からK県に向かった交通手段・・・電車、新幹線、全て調べろ!!」
その推理も間違っていなかった。
鰹は電車でK県に来ている。
「あの日東京からK県に向かった交通手段を利用したもので15歳以上の人間を探せ!!」
ここで警察は大きな推理ミスをした。
というよりも、想像できなかったのだ。
今までの惨事は、わずか12歳の子供によって行われたことを————
 
死者約600人。負傷者約2000人。
今度こそ「3」のゲームは終わった。
しかしまだ5つのゲームがある。
警察も必死に追っているが、手がかりが間違っていたのでは、捕まるわけが無い。
無駄、としか言いようが無い。
そして————
絶望はまだ続く。
残された手紙に————…

第9章 Searchin’

残された手紙にはこう記されていた。

 
 無駄な努力お疲れ様。
 では次の「4」のゲームを始めたいところだが・・・
 資金が無い。
 しばらくゲームは中断、PAUSEする。
 「4」のゲームを始めるときは、また手紙を・・・ 死神K

しばらく事件は起こらない。
警察に現れた表情は安心か————
だが、警察はこの手紙に絶望する。
定例の指紋鑑定。
今までは出なかったが、今回————
「警部!!警部!!指紋が出ました!!」
「何!!?」
「・・・とは言ったものの、あのマンション爆破の煙で形は崩れDNA鑑定も出来ませんが————」
「じゃあ、何が分かったのかね?」
「それが————」
会話は途切れた。
刑事は下を向き、小さな声で話した。
「・・・年齢です。」
「一体何歳ぐらいだというのかね?」
「・・・・・・小学校高学年くらい、子供です。」
「何!!?」
指紋の大きさ、圧力から鑑定して、指紋の主は10〜13歳ぐらいと断定されたのだ。
あの惨事は子供によって————
それがこれからも続くとは。
仮に捕まえようとも、逮捕することは出来ない。
だが、止めなければならない。
さっきの捜査条件の中に、小学生もしくは中学生という条件を加えた。
独りで元旦に小学生が東京を越えて電車に乗るのだ。
そう多くは無い。
その条件で調べていくと————
 
その頃鰹。
マンションが思ったように倒れなくて不機嫌になっていた。
ポケットからタバコを取り出し火をつけた。
そこへ。
「ん?」
不機嫌そうなにらみつけるような目で見上げると、黒い服、黒い覆面を着けた男が現れた。
そして何も言わずに銃を取り出した。
鰹は息を呑んだ。
その男は銃の引き金を————
「パァン!!」

第10章 真実

1月1日午後7時、捜査本部。
調査の結果が出た。
該当者は7名いた。
K県ではちょうど祭りがあって、独りでも電車に乗っていく人は思ったより多かったのである。
しかし、探せない人数ではない。
その中に死神Kが含まれている。
それで十分だ。
もしそれが真実ならば————
 
一方、鰹。
「お兄ちゃん危なかったわね・・・」
撃ったのはワカメだった。
その男は倒れこんだ。
鰹が懐を探ってみると、カードが出てきた。
「FBI」————そう、書かれたカードが。
「何だ?どうしてここまでやって来れた!?」
「FBIは最初から子供に的を絞ってたみたいね・・・」
「どうして分かる?」
ワカメは懐から別のものを取り出した。
「これ・・・お兄ちゃんの手袋。一番最初に中学生を殺したとき、捨てた奴。」
「それがどうして?」
「気付かないの?この大きさ・・・子供用よ?」
鰹は我に帰って、
「そうか・・・うっかりしてた。・・・まずいな・・・FBIに嗅ぎつけられてるのか・・・」
そこにワカメは明るい顔で、
「大丈夫みたいよ?ここにたどり着いたのは偶然みたいだから。」
「・・・?」
財布の中身を見ながら言った。
「ほら・・・お兄ちゃんが倒し損ねたマンションのカードキー・・・」
鰹はまだどういうことか良くわかっていなかった。
「偶然日本に住んでたFBIがこの騒ぎで外に出て、お兄ちゃんが紙飛行機を飛ばすのを見てたんでしょう。」
「・・・・・・・・あの飛行機、目立つからな・・・」
「大丈夫。突然のことで無線機を持ってないみたい。今始末したから仲間には知れ渡ってないわ。」
それを聞いてようやく鰹は安心した。
「良かったじゃない。これで警察にもFBIにも嗅ぎつけられなさそうよ?だって————…」
「警察に調べられないようにお前の提案でわざわざ遠回りしたから、ってか。」
警察が調べている7人の中に鰹は含まれていなかった。
警察が調べているのは東京からK県まで直接行った電車。
死神が遠回りしているなんて、考えていただろうか————
複雑に入り組んだ真実は、正義を苦しめる。

第11章 覚醒

あれから1年。1999年2月10日。
1年たった今でも、深い傷跡は残っている。
人々はあの悲しみを乗り越え、復興を目指していた。
警察のあの事件の捜査は膠着していた。
例の7人を調べたが全員白だった。
警察の落胆の様といったらすごかった。
そこへ立て続けに日本に潜入捜査していたFBIの死亡の報告。
その時警察は何を考えていたのだろう————
 
・・・最近銀行強盗が多い。何でも二人組で手の込んでいて、鮮やかに金を奪っていった。
気になることが一つある。妙に小さいのだ。
小さい、といっても身長が150〜155ある。
小学生にしては大きすぎる。
奴らかと疑いはしたものの、仲間がいるなんて聞いてないし、大きい。
別人物として捜査された。
だが、この日。
いつもの様に銀行で働いているFさん。
いつも通りの日だったが、突然例の銀行強盗がやってきたのだ。
金を奪った後、こう言った。
「これで強盗は終わりだ・・・」
そう言って、手紙のようなものを出すと、ポイと置いて逃げていった。
その手紙が、永い眠りから覚めた「4」の始まりだった。

 
 諸君、サリンというものを知っているかな?
 某団体から譲り受けたので早速使ってみようと思う。
 日時は3月11日。
 さらに場所のヒント。
 FBIに嗅ぎつけられているということで、今度はフィールドを世界に広げて欲しい。
 では楽しみにしているよ。                    死神K    

FBIにこの手紙が届けられた。
「くそっ!!」
机を叩いた。
「このままでは・・・わが国にも甚大な被害が起こる・・・」
「ご安心を・・・」
FBI捜査官W.Jは自信を持って言った。
「死んだ捜査官の敵討ちだ。それに・・・」
しばらくの間をおいた。
「彼のおかげで、尻尾はつかめてます。「4」は起こさせません。」
顔を上げて、高らかに叫んだ。
「必ず捕らえて見せます!!」

第12章 4(前編)

3月11日午前8時東京N空港。
世界へ飛ぶビジネスマンが集まる。
ワシントン行きAKU427便————
磯野 マスオさんは仕事の関係でアメリカに行くことになった。
飛行機に乗り込んで離陸を待つ。
離陸は8時23分————
 
その頃鰹。
空港から少し離れた倉庫。
「まさかこのスイッチを押すだけで飛行機の中にサリンが噴出すなんて誰も思ってないよなぁ・・・」
上を見上げる。
隣にいるワカメが言った。
「お兄ちゃんいつスイッチ押すか分かってるの?」
「ああ、もちろんさ。飛行機が着地する寸前、午後6時17分ごろだろう?」
「そうね。」
「・・・しかしお前もあくどいこと考えるなぁ・・・」
「何が?」
「空中じゃなくて着地する寸前に出して着陸失敗による二次災害を引き起こそうとは僕も思いつかなかったよ。」
「それくらいしないと楽しめないわよ。」
二人とも軽く笑った。
 
午後4時56分。
「折角・・・俺の仲間が死んでまで・・・囮になってまでくれたチャンスだ。」
FBIの捜査官が倉庫にたどり着いた。
「絶対に・・・失敗するわけにはいかない!!」
心の中でつぶやいた。
「あの日————俺の仲間は自分が囮になって情報をくれた。そして————撃たれた。」
手に汗を握った。
「他の人に危険な目にあわせたくない。ここにいるのは俺一人で十分だ!!」
彼らが犯人であることを、彼はFBIに伝えてなかった。
彼のプライドが許さなかったのだ。
 
そして午後6時16分。鰹が
「じゃあそろそろ押そうか。」
と言った時、彼は銃を構えて飛び出した。

第13章 4(後編)

捜査官は銃を抱えて飛び出し、
「手を上げろ!!」
そう言った瞬間だった。
「パァンッッ!!」
小型のハンドガンで足を撃たれた。
「・・・・誰だ・・・・!」
撃った男はそのまま逃げていった。
「あいつにバックアップ頼んどいて良かったな。」
鰹は笑みを浮かべた。
そして拳銃を取り出し、
「お前には聞きたいことがいくつかある。」
そういって拳銃を突きつけた。
捜査官は無線機を取り出し、
「犯・・・人・・・は・・・・パァンッッ!!」
「何だ?どうした?犯人は・・・プツッ・・・」
鰹は無線機の電源を切った。
「ちぇ・・・情報を聞き出せなかった・・・」
「まぁいいじゃない・・・」
ワカメは上を向いて言った。
「あの時・・・私がFBIを撃ったときもあの人を念のためバックアップさせといてよかったわ。」
「あの人ねぇ・・・」
「あのもう一人の捜査官は私たちが存在を気付いていること分からなかったみたい。鈍いわね・・・」
「・・・そんなことを話しているうちに、もう17分だよ。」
「あらいけない。」
そう言ってすぐにボタンを押した。
何の躊躇(ちゅうちょ)もせずに。
 
そのころマスオさん。
「ん・・・・?なんか臭うかな・・・?」
どうもその臭いは操縦室からしてくるらしい。
すると急に————
「うわっ!!?」
機首が下がり始め、急降下した。
そのうちに、においが立ち込め、気絶した。
飛行機はそのまま————
————マスオはもう、目覚めることは無かった。

第14章 理想

飛行機はワシントン手前のA山脈に墜落した。
人がいなかったので、二次災害は起きなかった。
死んだのは乗客だけだった。
午後10時。
鰹はすでに家に戻ってきていた。
サザエさんはまだマスオさんが死んだことを知らない。
それを知ったのは————
「えー、今日のニュース出です。今日午後6時、ワシントン行きのAKU427便が・・・」
ニュースだ。
サザエはハッとしてテレビを見た。
「A山脈に墜落し、乗客143人は全員死亡しました。なお、この飛行機は・・・」
サザエは崩れ落ちた。
鰹とワカメもがっかりした。
「ワシントンに落ちなかったのか・・・二次災害は起きなかったね。」
「まぁ、そう何もうまくいくはずが無いか・・・」
何も全て理想どおりいくわけではない。
現実は、正義にも悪にも甘くない。
 
その頃FBI。
二次災害が起きなかったため被害はそれほど大きくないが、
止められなかったことを悔やんでいる。
おそらく、また一人捜査員が殺された。
無線機から聞こえた銃声————
わずか数秒の音が全てを物語る。
死んだ。
殺された。
・・・ついにFBIは決定した。
「総力を挙げて、犯人を捕まえる!!」
その声と同時に、「5」は始まる。

第15章 Continue

鰹は「5」についての手紙を書いていた。
もちろん筆跡鑑定で調べられないように定規を使って字体を変えて。
資金はある。
さぁ、何をしようか。
隣を見ているとワカメがあるゲームをしていた。
「そうだ。これをやってみよう。」
鰹はしばらく考えた。
「日本を標的にすると自分まで被害が及ぶな・・・」
そう思いながら、地図帳を開いた。
偶然、イギリスが目に入った。
「ここにするか」
偶然は、一人の少年によって一国の運命をも変えようとしている。
そしてそれが————
 
しばらくして、手紙が書きあがった。
鰹はそれに「愚かなる警察諸君へ」と書いて
切手も貼らずにポストへ入れた。
 
悪はとどまることを知らない。
半分のゲームが終わり、なお休むことなく「5」へ続く。
休むことなく————
 
4月1日午前8時10分。
都内某ポスト。
いつも通り郵便物の回収に来ていた郵便局員が妙な郵便物に気付いた。
「なんだこれ」
よく見ると「愚かなる警察諸君へ」と書いてある。
血の気が引いた。
白い顔で彼は急いで郵便局に戻ってきた。
そして封を開けずに警察に送られた。
その手紙————
封を開けないのは正解だった。
なぜなら今回の手紙は————
最悪のプレゼント付きだったからだ。

第16章 バイオハザード

警察は封を開けた。
手紙が妙に重かったが、誰も気にしなかった。
文が長いだけだと思ったのだろうか、油断したのか————
中から白い粉が現れた。
「何だこれは」
手紙の内容を見るとおぞましい内容が書かれていた。

 
 西アジアのテロリスト軍団から炭疽菌を買収した。
 諸君にも少し分けてやろう。
 さて、「5」のゲームだがこれを空からばら撒くことにする。
 ターゲットはどこかの国だ。
 飛行機のどこかにこれを取り付けるから探せるもんなら探してごらん。
                         死神K     

その粉は炭疽菌だった————
そうと気付かず舞った白い粉————
すでに数人の肺に入っていた。
すぐさま病院へ運ばれた。
 
今回は発症する前に手当てできたが————
これが空高く舞い上がるとき————
「死」が待つ。
何万人も感染したら手に負えない。
早急に止めなければならない。
が————
手がかりがあまりにも少なすぎる。
とめる手立てはあるのか————
 
ちょうどその頃ワカメはターゲットになった国の地理を調べていた。
被害をより拡大させるために————
そしてふと見ると
「偏西風?」
そう。ヨーロッパには常に西から風が吹いている。
ワカメは楽しくなってきた。
「どれくらい飛ぶのかしら。」
あえて鰹には知らせなかった。
予想外の被害拡大に胸を躍らせ————
そして数週間後ワカメは鰹と共に空港へ出かけた。
「5」を起こすために。

第17章 5(前編)

彼らは空港に到着した。
4月29日みどりの日————
そのみどりが意味するものは一体————
何なのだろうか。
答えは彼らだけが知っている。
成田空港。
彼らは荷物に紛れ込んで貨物室に入った。
そして持っていた炭疽菌————
数十キロを荷物の中に忍ばせ————
それから、しばらくして。
ロンドン上空。
彼らはハッチを開いた。
そして炭疽菌を————
その頃のコクピット。
「ビーーーー・・・・ビーーーー・・・・」
アラームが鳴り響く。
「機長!!ハッチが開いています!!」
「何!!?」
従業員が貨物室に向かった。
ただハッチが開いていただけで、何も無かった。
鰹たちは逃げた後だった。
飛行機の裏に炭疽菌を設置して————
4月29日午後8時。
高度8000メートル。
タイマーは・・・炭疽菌を撒き散らすタイマーは・・・あと15分を指していた。
着陸態勢に入る。高度を下げる。7000メートル。
そして時は経つ。
15分。
高度6500メートル。
飛行機は飛ぶ————炭疽菌を撒き散らし————
そして風に乗り————
東のかなたへ————

第18章 5(後編)

4月29日午後10時————
イギリスでは午後1時。平凡なお昼時。
イギリスの東部の都市。
とある診療所。
今日はいつもより患者が多い。
皆同じ症状を訴えている。
「風邪でもはやってるのかな」
医師はそう思った。
 
イギリスではこの程度の被害に過ぎなかった。
その東の国、ドイツ。
 
ドイツ時間4月29日午後4時。
何人かが白い粉のようなものが樹に降ってきているのに気がついた。
みどりの森に、降り注ぐ。
「何だこれは」
途端に、気分が悪くなった。
そういう症状を訴えるものが多く、容態の重いものまでいる。
それはもちろん、炭疽菌によるものだった————
「奴だ!!」
ドイツから連絡を受けたFBIが言った。
そうこうしているうちに、多数の死者が出た。
苦しみ、悶え、この世の中に絶望しながら————
被害はオランダにも広がっていた。
病院はパンク状態。
次々と死者が出る。
日本に戻った鰹はその様子をテレビで見ていた。
「あれ・・・イギリスじゃなかった。」
想いはそれだけだった。
そんな鰹を横目で見ながら、ワカメが笑う。
 
死者1万人以上。未だ増え続ける。
 
ついに鰹たちは全面的に世界を敵に回した。
ヨーロッパ諸国は全てFBIに協力することを約束した。
わずか数人の人間と、世界の戦い————
「6」も近い。あと三つのゲームは世界を————

第19章 6(前編)

あの飛行機の上に手紙が残されていた。

 
 さぁすぐ「6」のゲームを始めよう。
 息をつく暇など無い。
 今回はあえて場所と日時を宣言する。
 場所はアメリカ、M油田。
 そこに火をつける。
 さてどうなるか・・・楽しみだ。
 日時は日本時間で4月30日の正午。
 つまりもうタイマーはセットしてある。
 さぁ、せいぜい急ぐがいい。   死神K

今は日本時間で午前5時。
あと5時間しかない!!
「5」の対応もろくに終わらぬまま、FBIはM油田へ急ぐ。
今までと違い、今度は止められる可能性がある。
急げ。
 
M油田。あの知らせが届くまでは、いつも通り石油を採っていた。
あと4時間、FBIが油田に到着する。
そして、着火装置を探す。
あらゆるところを調べた。
「くそっ・・・ない・・・・!」
もし見つからないまま時間がきたら、自分たちは死んでしまう。
必死の捜索が続く。
探してから2時間。
「あった!!」
油田から700メートルほど離れたパイプに、見つからないよう裏に設置してあった。
あと2時間で解除しなければならない。
すぐに解除隊が駆けつける。
無理やり取るとその場で火がつくタイプだった。
隊員は汗を流した。
タイマーの不気味な音が響く。
ゆっくりと解体する。
その中にあったのは————

第20章 6(中編)

ふたを開けると、箱の中を埋め尽くすほどのコードだった。
「何だこれは!?」
FBIは絶望した。
だが何かまだ入っている。
手紙だ。

 
 このコードはほとんどダミーだ。
 全部で1000本あるコードのうち、
 正しい1本だけを切ればお前等の勝ちだ。

とはいったものの、コードが多すぎてコードを引っ張り出すことも出来ない。
「どうすれば・・・」
時間は刻一刻と過ぎていく。
あと1時間半。
やはり止めることは出来ないのか————
そこに、大量のコードを持ってきた。
1本1本、繋いで外へ出していく。
恐ろしく時間のかかる作業だ。
あと10分になったころ、また手紙が出てきた。

 
 ご苦労様。一番下に2本の赤と青のコードがある。
 どちらかは正解、どちらかは死だ。
 この2本がどうつながっているか調べようとしても無駄だ。
 着火装置本体のふたをはずすと即座に爆発する。
 さぁ、50パーセントのギャンブルを楽しもうではないか・・・

そうこれはゲームだ。
死を賭した極限の————
あと2分になった。
解除班一人を除いて全員避難した。
ついに決断を下した。
ニッパーを取り出した。
必要以上力の入った手でそれを握った。
今までの人生が走馬灯のように浮かんだ。
青のコードにニッパーをはさんだ。
あと10秒。
その頃鰹は
「青のコードを切ってくれるかなー。着火装置ONになる。」
そしてついに————
「パチン…・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・」

第21章 6(後編)

風が吹いた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・

時間が過ぎた。
「ハア・・・ハア・・・」
切ったのは赤だった。
切る直前に思い直したのだ。
「これでもし爆発したら————」
「6」は止められた。
FBIの勝ちだ。
「ハア・・・やった・・・」
そして我に帰り着火装置を調べた。
「これは!?」
裏に手紙があった。
「7」を告げる手紙が————

 
 次のターゲットは日本だ。
 愚かなるFBI諸君、安心したまえ。

とだけ。
その頃日本。
桜も散り、木々の葉が色づき始める頃————
イクラは幼稚園へ行っていた。
あれから時間が経ち、もう5歳になっていた。
いつものようにサザエも近所でおしゃべり————
舟は買い物、ノリスケは会社————
「7」の舞台は平凡な町並み。
ここで手紙が見つかる。
死神Kからの手紙が————
罪無き人々を地獄へ誘う葬送曲
鰹の周りの人々が、
次々と、
消される。

第22章 7�

ある交番の目の前に落とされていた手紙。
この町を地獄に変える手紙。
すぐに日本警察に届けられた。

 
 最近人を殺してるのに殺したという実感が全く無い。
 やはり自らの手で殺さなければ楽しくない。
 「7」は被害者は少ないだろうが苦しみは多い。
 ゲームの終わりは僕の殺しが飽きるまで。
 狂った僕を止められるかな・・・・    死神K 

これを読み終わった途端に、凶報は届いた。
「通り魔です!!被害者は磯野 舟、ナイフを頭に突き立てられ・・・」
「奴だ!!」
即座に現場に駆けつけた。
すでに死亡していた。
そしてそのすぐ横に血文字で「1」と書いてあった。
「ダイイングメッセージか・・・?」
だが鑑識は言った。
「あり得ません。この人は即死していますから、書けません。よって・・・」
「奴か・・・」
「1」というのは一人目のことだった。
そしてその1キロ先で————
「うわああぁあぁああぁああ!!」
悲鳴が聞こえた。
ノリスケが殺されていた。
「2」という文字と共に。
「奴はまだ近い!!追え!!」
そして立て続けに————
「キャアァアァアアァアアアア!!」
サザエが犠牲になった。
重症だが、まだ死んでいない。
「3」の文字が置かれている。
この数分の間に次々と人が死んでいく。
この町は恐怖に包まれた。
 
1999年5月7日。
この日は鰹の殺人記念日となろう。

第23章 7�

町のあちこちで悲鳴が聞こえる。
何かと思い出てきた住民を、
殺す。
「4」と書かれた紙を置いていった。
鰹は黒いマントを着て顔を隠し、走る。
彼は満面の笑みを浮かべていた。
「これだ・・・これこそ僕が求めていた快楽だ・・・・」
そして花沢を
「グシャ・・・」
「5」の文字と共に。
次々と街ゆく人を殺す。
「6」・・・「7」・・・「8」・・・
まだまだ殺す。止まらない。
そして「9」の紙を落としたころ、
目の前に警察が現れた。
分散して探しているため、一人だ。
「邪魔だ・・・・」
警察が拳銃を構えた。
それに伴い鰹も。
そして鰹は警察より早く隙を突いて
「キューーーーーーン・・・」
足元を撃った。
警官は倒れた。
そして仕上げにナイフを振り上げた。
「10人目♪」
そして刺そうとしたその瞬間、
「キューーーーーーン・・・」
集まった警察が鰹の右手をかすった。
その衝撃で鰹はナイフを落とした。
そのナイフは地面をすべり、警察の手に。
「さあ・・・観念しな・・・逮捕する!!」
警察はいっせいに拳銃を向けた。
鰹に向けて。
20対1ではあまりにも分が悪すぎる。
鰹は追い詰められた。

第24章 7�

「ちっ・・・分が悪いぜ・・・」
そう鰹が言ったとき、
そこに一人の男が現れた。
同じく黒いマントをはおって。
そしてマシンガンを手にし————
「ドドドドドドドドドドドドドド・・・」
警官20人を一掃した。
生き残りは誰もいない。
鰹はその場に大きく「30」と書いてその場を立ち去った。
鰹はその男の正体を知っている。
だから安心して、殺しを再開した。
道行く人を血まみれに————
「31・・・32・・・33・・・」
逃げる子供を追いかけて————
「34・・・35・・・36・・・」
ナイフは血を欲しつつ————
「37・・・38・・・39・・・」
鰹はかつて、世の中にこんな楽しいことがあるのを知らなかった。
彼の目は輝いていた。
「さあ仕上げだ・・・」
そういって最後に散歩途中の
波平を————
「ぐわああぁあぁぁぁあぁぁああああ!!」
もはや血は黒く染まり、最期にふさわしい死に様だった。
そして「40」。
鰹は飽きたらしく、ナイフを捨てた。
この町はもはや惨劇などという言葉ではあらわされない。
道路も壁も全てが紅く————
だが「7」の終わりではなかった。
鰹は飽きてもまだあの男が血を欲している。
家の屋根の上からその様子を見ていたその男は、ショットガンを取り出し、
「始まりです・・・」
と言って、そのマントを脱ぎ捨てた。
顔に血を塗り、笑っているその男の名————
それは————

第25章 7�

彼の名は、イクラ。5歳にして、
狂気に満ちる。
彼は最近ようやく言葉を話すようになった。
彼は純粋に殺しに興味を持っている。
警察に対峙する鰹とは違う。
「ドドドドドドドドドドドドドド・・・」
ショットガンを乱射した。
家に穴が空き流れ弾は人に当たり————
本人ですら、何を撃っているかすらわからない。
そこらじゅうに煙が立つ。そしてイクラの後ろにある男が立っていた。
鰹だ。
「もうやめなさい。はやく「8」を始めるよ。」
「わかったですーーー。」
イクラは鱈の影響を受けてしゃべっている。
鰹にはそれが腹立たしくてならない。
あの時殺した鱈の面影を、思い出したくは無かった。
 
一つの町は紅き町————
道行けばそこに死体あり————
刺されて撃たれてその元凶は
子供であることを
警察は知っている————
 
残されたゲームは一つになった。
「8」————
地球を破滅へ誘う道標————
鰹は言った。
「さあ、ありったけのダイナマイトを仕掛けるぞ。」
彼の破壊の矛先は————
全ての人間に及ぶだろう。
 
全ての終幕を告げる「8-eight-」は、始まりを告げる。

第26章 捜査

あれから半年が過ぎた。
1999年12月31日————
人々はあの出来事を昨日の様に覚えている。
そんなある日、警視庁の目の前に手紙が落とされていた。

 
 明日全てを破壊する。 死神K

とだけ書いてあった。
「最後の破壊は絶対に阻止する・・・!!」
警察は意気込んだ。
今までの全ての情報を収集し、犯人を割り出す。
今までは被害者の救助が最優先され、証拠を取り出すのが手遅れになっていたが、
・・・あの、「7」の事件で。
実は警察は巨額の資金を投じて、
今警官がどこにいるか把握するGPS、
目の前の様子を克明に記録するCCDカメラ、
そして、音声収集マイクを警官全員に着用させていたのだ。
このマイクが手がかりになった。
市民の命より手がかりを優先した今回、奴を捕まえないわけにはいかない。
あの時鰹が
「ちっ・・・分が悪いぜ・・・」
と言ったとき、その声はマイクに録音されていた。
その声を分析し、周りの人からデータを採取、比較・・・
警察はハイテクを駆使し、ついに突き止めた。
「犯人が出た・・・犯人は・・・磯野 鰹・・・!!」
データの中に、磯野鰹が含まれていた。
ついに、警察はたどり着いたのだ。
すぐさま磯野家に家宅捜索に入った。
・・・当然のことながら、もぬけの殻だった。
残されていたのは、手紙を書いたのに使ったと思われるペンだけだった。
指紋がべっとりとついていた。
鰹は知っているのだ。
もう正体を警察にかぎつけられていることを。
犯人が分かっただけではだめだった。
捕まえなければ、止められない。

第27章 破壊

「さあ・・・2000年の祝いに大きな花火を打ち上げよう・・・」
鰹は外国にいた。
とはいえ、すぐさま国際手配が回ってくる。
彼にとって安全な場所などもう無い。
鰹は各国を飛び回りながらダイナマイトを仕掛けていた。
 
ワカメも同じようにダイナマイトを仕掛けていた。
世界の主要な国————
日本、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ドイツ、オーストラリア、ロシア、ブラジル、カナダ・・・
全部で10の国にダイナマイトを仕掛けた。
2人がダイナマイトを仕掛け終わって、彼らは日本に帰ってきた。
午後10時。
2人は合流した。
ここで鰹は意外な行動に出る。
彼は拳銃を取り出して、
「パァン!!」
 
その頃の警察。
鰹捜索に全力を挙げていた。
手がかりは皆無。
それでも必死に聞き込みを続け、
ある情報を聞き出した。
「今から4時間ほど前に東京の地下鉄駅前で黒いマントのようなもので顔を隠していた怪しい子供を見た、と。」
一般市民は知らされていなかった。
犯人は子供であることを。
もし知っていれば、すぐに通報されていたのかもしれない。
警察の上層部は、子供一人捕まえられないことを世間に知られると責任問題にまで発展すると考え、
事実を世間に知らせなかった。
自らを守るための秘密が、今逆に————
だが、今はそれよりも犯人逮捕が先決だ。
その情報について詳しく聞きだし、あとを追う。
 
鰹は今、一人で東京郊外の丘にいた。
「全ては終わった・・・・」
そう言いながら、月を見た。
となりにあるワカメの死体と共に。

第28章 8-eight-

日本時間で2000年になった途端に全てのダイナマイトが爆発する。
その光景を小高い丘から鰹は眺めようとしていた。
だが、それはかなわなかった。
「磯野鰹・・・・逮捕する!!」
警察が現れた。
鰹は抵抗するそぶりを見せなかった。
おとなしく死刑になるのを待つ、そんな覚悟をしていた。
鰹は逮捕された。
だが、全てはもう遅かった。
1999年12月31日午後11時59分59秒。
鰹は、空を見上げた。
その瞬間

「ゴゴオオォオオォオオオオオォオオン・・・」

遠くで地響きが聞こえた。
「貴様!!何をやった!!」
「・・・・・・・・・・」
鰹は何も答えなかった。
2000年。
東京は地獄とも似つかぬ修羅場になっていた。
鰹は、地下鉄にダイナマイトを仕掛けていた。
まず、地下鉄内で爆発が起こる————
それに伴い地下鉄が崩壊し、地面が崩れる————
それに伴い、地面に立っていた高層ビルが次々と崩れ、ドミノ倒しのように破壊の連鎖を続ける————
そして地震に限りなく近い地響き————
東京に液状化現象が起き、次々と建物が地面の下に沈んでいく————
東京が海に沈む————
それは日本だけではない。
鰹がダイナマイトを仕掛けた全ての国で、このような惨劇が起きていた。
爆死、圧死、焼死、溺死————
鰹が見上げた空は、赤かった。

死者も負傷者も集計不可能。

世界は海の中に沈み、イクラはそれを笑っていた。
 
全てのゲームは終了した。
全てのゲームは・・・

第29章 9

鰹は取調室にいた。
「なぜこんなことをした!!!」
何を言われても、何も言わなかった。
———— 一回だけ、こう口を開いた。
『ゲームは7−1で俺の勝ちだ。貴様らには罰を受けてもらう・・・』
そういったきり、二度と鰹がしゃべることは無かった。
2000年1月2日。鰹は全世界同時中継で処刑された。
 
それから何年か経ったある日のこと。
アメリカの軍事施設。
「ビーー・・・ビーー・・・」
警告音が鳴り響く。
「何だ!!?どうした!!?」
「大佐!!ミサイルが勝手に発射されます!!」
「何!!?」
もう手遅れだった。 何年たってもあの事件からの復興は終わらない。
そんな最中、このミサイルは、あろうことかもう一つの軍事大国ロシアに直撃した。
 
それから、アメリカとロシアの戦争、世界第三次戦争が起きた。
人々は戦いあい、殺し、自らの欲のため、復讐のために息絶える。

もう止まらない世界のうねり————
子供一人にゆがめられた平和————
もう、戻れない。
 
平和とは、所詮空虚な妄想に過ぎなかった。
 
友情とは、所詮裏切りと隣り合わせのものに過ぎなかった。
 
正義とは、悪に過ぎなかった。
 
全ては幻————この地球に、綺麗なものなど何一つ無いことを、世界は知っている。

第30章 ENDLESS

鰹は、イクラにあるものを渡していた。
「4」の前の銀行強盗に使った超厚底ブーツ。
中は小物入れになっていて、鰹はそこに手紙を入れていた。

 
 分かっているな?
 殺しを楽しむ気持ちを忘れるな。
 いずれおまえが人を殺す能力を手に入れたら、
 お前が死神となり、俺のように人間で遊ぶがいい。
 まずは手始めに、あの時重症にとどめておいたサザエを殺せ。
 そのときがお前の『始まり』だ。            

イクラは拳銃を取り出した。
そして前へ走り出した。
悪の根は、いつの時代も絶えることは無い。

   FIN

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作成日時
2004/03/13
最終更新日時
2004/10/05
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