「オレさ、結婚するぜ。」 いつものように、ラディッツが作ったさして美味くない夕食を 口に放りこんでいく二人の男の前で、 常ならば我先にと争うようにして食べ物を呑みこんでいくカカロットが 若干頬を赤く染めながらこぼした一言に、二人の男は同時に箸を落とした。 「そ、その子家事はできるのか!?」 「・・・さぁな、できるんじゃねぇの。」 気になるのはそれだけなのだと言わんばかりに身を乗り出すラディッツに、 祝いの言葉どころか、おめでとうという一言すら掛けてもらえなかった カカロットが、頬杖をつきながら低い声で答えを返す。 それでもやっと家事から解放されると歓喜するラディッツには、 弟の複雑な心情をおもんばかることなどできなかったのだ。 「ついに家にも女がなぁ・・・。」 「ああ、言っとくけど女じゃないぜ。 そこらの女よりよっぽど可愛くて色っぽい男だ。」 さすがに驚きを隠せなかったバーダックがしみじみと呟いた言葉に、 だらけた顔で惚気を聞かせるカカロットへの反応は、やはり両者相反するものであった。 「おお、さすがは俺のガキだ。」 「えぇ、お前ホモだったのか!?って何言ってんだよ、親父!!」 納得したように何度も頷いて見せるバーダックと 目を見開くラディッツのそれは、カカロットが予想した通りのものだ。 何を言っても無駄だと分かっているのに喚きちらすラディッツを前に、 うちの家系もつくづく単純だとカカロットは心中密かに溜め息を吐くのだった。 こんな家族嫌だ・・・ラディッツのか細い独り言は騒々しい居間で 誰の耳に届くこともなく静かに散っていった。 もはや彼の常識では考えられない会話が父と弟の間で交される様子に、 ラディッツは本気で家出しようかと一人頭を抱えていた。 息子の状態などどこ吹く風と、硬い肉を食いちぎりながら話す バーダックが立てる不快な音に、蒼白い顔色をした兄をちらりと見やった カカロットの反応は、しかしただ眉をしかめるに終わった。 「けど大丈夫か?前に来たジュ何とかって奴は、ここが汚すぎるって逃げやがっただろ?」 「なっ、あれはお前がセクハラしまくってたからじゃねぇか、エロ親父!!」 憤激から立ち上がり顔を赤く染めて詰め寄るカカロットに、 バーダックはにやりと嘲笑を浮かべて見せた。 苛立ったカカロットの比類ない握力を受け、安っぽい箸が悲鳴をあげる。 「勘違いしてんじゃねぇよ。あれはてめぇが下手クソなセックスばっかヤッてるせいで、 飽きちまった女の方から誘ってきたんだぜ。 俺があんな下品な女相手にするとでも思ったか? せいぜい新しい男も取られちまわねぇように、鎖でもしてる、ッ!」 続けられる筈だった言葉はカカロットの拳に撃たれ、 生み出される前に藻屑となって消えていった。 「ベジータに何かしやがったら、いくら親父でも許さねぇからな。」 頬に滲んだ鮮血を美味そうに舐めながら、バーダックは久しぶりに感じた 身体を焼き切るような興奮に目を細めた。 先程の衝撃で剥がれた壁のかけらを握りつぶしながら、湧き上がる本能に身を任せる。 唯一自分が本気で殴れる相手であるカカロットが珍しく自分に激昂したのだ。 こんな機会もったいなくて逃せねぇ・・・疼く右腕に全体重を乗せ重いストレートを放つ。 「へぇ。許さねぇってのはどういう意味だ?」 「・・・焦るなよ。今から教えてやるさ。」 ゆっくりと立ち上がったカカロットの顔に、見る者を総毛立たせるような薄笑いが浮かんだ。 今日もまた飽きもせず井戸端会議に精を出していた女性たちは、 鈍い音が響く古びた家を見つめにっこりと微笑んだ。 「バーダックさんちはいつもにぎやかねぇ。」 本日も晴天なり。 |