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(2)

◆aPPPu8oul.氏

隆也は黙って頷いた。この言葉の少なすぎるやりとりが、一つの契約であったように。
「俺は今から男として、お前を一人の女と見る事にする。だからお前も、俺を教師として見ないでくれ……」
我がままだということはわかっている。お互いに都合のいい詭弁であると。それでも、言わずにはいられなかった。
これから、自分が彼女に何をするのか、わかってしまったから。
逡巡と罪悪感を追いやって、細い司の背に腕を回し、そっと抱きしめる。
「…はい…」
広い背に細い腕を回して、相手の鼓動を肌で聞く。
どくどくと、心臓の音が重なり合う。
隆也の唇が司の頬に落とされる。恥ずかしげに目を伏せた司も、そっと顔を上げて。
「………」
自分から唇を重ねる。
柔らかな少女のそれを、味わい尽くしたい。頭を抱き寄せるよう腕を回し、何度も何度も、唇をついばむ。
「んぅ…ん、ん…」
ドクドクと打つ心臓の音を聞きながら、司は隆也の背中にしがみつき、つたない舌の動きで口づけにこたえる。
それに応えるように舌を絡み付かせ、隆也は少しだけ唇を離して呟く。
「……全く……可愛い過ぎるぜお前は……」
「…ん、んはっ…はぁっ…」
息の上がった司の耳にその呟きが入り、思わず耳まで真っ赤に染める。
「…タラシでしょ、先生…」
「ひでぇな……」
くっ、と喉を鳴らして苦笑した隆也に、司は眉をしかめてみせる。
「…だって、恥ずかしいことぽんぽん言うから…」
「あのくらいの台詞がポンポン言えるような図太い神経じゃないと教師なんかやってらんねーって」
「う、それはそーかもしれないけど…」


口ごもる司の腕を持ち上げてわきの下をくぐり背後に回りこんで。
「これでも一途なんだぜ、俺は」
後ろから抱きしめ、その身体の細さを実感する。
「ひゃ…ちょ…先生、ここ、台所…!」
くすぐったそうに首をすくめる司の反応を可愛らしく思って、頭に顔をつけて、そらっとぼけたように言う。
「ん? 何か問題あるか?」
その手は悪戯に司のお腹周りを撫で回す。
「っん…ある!問題ある!…教育者なんだからもうちょっと生徒に優しく…っ」
司に腕を押さえつけられても、焦りは感じない。
「残念、教育者の時間は定時で終わってっから」
指先でお腹をわきわきしながら耳たぶを甘噛みまでして、司を赤面させる。
「う、ふぁっ…ほんと、ずるい…」
隆也は、自分の口元が緩むのを抑えきれない。顔を見られなくて良かった。
「ま、姫様のご希望は聞かなきゃならんわな。やっぱりベッドがお望みですか? お姫様……?」
また司をからかうように行って、更に首筋へキスを落とす。
「っん、だからそれは…!」
お姫様、という単語にかみつこうとした司は、結局言葉につまる。
隆也にからかわれるのは気に食わないけれど、嬉しい。だからむくれたように言う。
「…ベッドがいい、です…」
それを聞いた隆也は、耳元でうやうやしく答える。
「かしこまりました、姫……」
そのまま、背中と膝裏あたりに腕を回してお姫様抱っこをする。
「うわっ…と…自分で歩き……もういいや…」



あきらめた司の腕が首に回され、満足げに笑んで。
「それでは寝室へ御案内下さいませませ」
額へキスして、お姫様のご指示を仰ぐ。 キスに軽く目を瞑った司も悪戯っぽく笑う。
「…ニ階、ですけど…階段きついですよ?」
「こう見えても学生時代はバリバリの運動部だったんでね。お前一人抱えるぐらいどうって事ないさ」
言葉どおり司を抱えたまま苦も無く二階へ上がり、司の部屋の前で立ち止まる。
「さて、両手がふさがっているのでドアが開けられません。ここは一つ姫様自らお願いしたく存じまそうろう」
「はいはい…」
司が手を伸ばしドアを開けると、持ち主の性別がわからないような部屋が目に飛び込んでくる。
「お邪魔しますっと……何か一貫性の無い部屋だなぁ……」
ぐるりと見渡して苦笑した隆也に、司は丁寧に説明をしてやる。
「あぁ、親の趣味を自分の趣味に塗り替えてる途中だから…」
「…あ、片付けてないや…」
司の呟きを聞き、机の上に教科書をみつけ、思わず教師としての感想が口をつく。
「なんだ、ちゃんと勉強してるんだな……感心感心……」
「まぁ、流石にこの時期になったらやっとかないと…っ!?」
不意に唇を重ねられた。 突然のことに驚き、思わず隆也の首を抱いていた腕に力が入る。
頬は、きっと赤い。
「…っなんなんですかイキナリっ…」
「ん? ご褒美。努力出来る奴は好きだぜ」
しれっと言い放った隆也に唇を尖らせ、司は視線をそらす。
「…今は教師じゃないとか言ってたくせに…」
隆也は司を抱えたままベッドに座り、膝の上に司を座らせる。



「ま、細かいことは気にすんなって」
笑って、隆也は司の髪をかきあげ、再び唇を重ねる。
「…ずりぃなぁ…」
司は大人しく膝の上に座り、されるがままになっている。
戸惑いが胸を満たしていて、自分から動く勇気が無い。
けれどそれが、健気にも見える。
「……本当に良い女だよ、お前は」
唇を離した隆也は真面目な顔つきで呟いて、足を開き、その間に司を座らせて後ろから抱き締めた。
「…センセ…俺…」
とくとくと鳴る心臓の音が聞こえてはいないだろうか。
後ろから抱きしめられて、その腕をつかんで、搾り出すように呟く。
「本気で、惚れちゃうよ?」


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