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Z〜第9話〜 (1)

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

俺はずいぶんと弱くなったようだ・・・。

『Z〜第9話〜』

「ゼットだ!!ゼットが出た!!」
いつものように前線へと躍り出る俺。目の前には数百の敵兵が武器を片手に
臨戦態勢となっていた。
「・・・人をバケモノみたいに言いやがって・・・気に入らねぇ。」
前もって練っておいた呪文を解き放つ。一瞬の後に目の前に炎の壁が大波となって
敵軍を飲み込んでいく。炎が敵本陣まで辿り着く中、あちらこちらで敵兵の絶叫が
木霊して行った。
ヒュン!!
「くっ・・!!」
突然肩に激痛が走った。見れば柄の短い矢が左肩に突き刺さっていた。
「チッ・・クソッ。」
己の油断から負傷したことを忌々しく思いながら矢を引き抜く。
「ガハハ!!参ったかゼット!!」
「ん?」
品の無い笑い声の先を見やると白い甲冑に身を包んだ恰幅の良い中年の男と
その男を守るようにして囲む白装束の集団がいた。人数は見たところ10人程度だろうか。
「我こそは王国軍白騎士団のゲント様だ。」
「あっそ。」
とりあえず、相手の名前が分ったので光熱波を相手に打ち込んだ。
「甘いわ!!」
「!?」
ゲントとか言う男の声と共に奴を囲む白装束の集団が連携して防壁を展開した。
どうやら連中は魔導士のようだ。連携技とはいえ俺の攻撃を受け止める防壁の
強さ、展開速度の速さを見る限り結構な猛者とみた。
「ガハハ。驚いたかゼット!!こやつ等は魔導隊と言って今日まで温存してきた
 王国軍の切り札だ。」
「どうりで結構強いわけだ。」
とはいえ、そんな切り札が何者かを暴露してしまう所を見るとあのゲントと言う男、
大した事無い奴なんだろうな。エリスが言うには貴族のボンボンが親の金だけで白騎士団に
入る事もあるそうだ。家柄の品質の保持らしい・・・・金持ちの考えることは分らないな。


「ゼットよ、貴様の傍若無人もここまでだ。やれ!!」
ゲントの命令で魔導隊が一斉に詠唱を始めた。次の瞬間、魔方陣が浮かび上がり
ほかの次元と直結した。
「召還魔法か・・・。」
以前、ドランから聞いた話では王国には単独で魔方陣を描ける人間はいなかった、と聞く。
どうやら複数の連携でそれを可能にしたようだ。
「ギィィ!!」
陣の向こう側から出てきたのは巨大な竜人だった。とは言うもののその姿はかなり異形で
三本ある指の爪はすべて鋭利に伸びた剣状の形をしており、呪文で覆われた軽装の鎧を身に着けていた。
恐らくはあの鎧の呪文で竜人を制御しているのだろう。
「ガハハハ!!どうだゼット、貴様にこいつが倒せるか?」
「問題ないね。」
俺は至って余裕の笑みでゲントを見返した。
「フン、生意気な。やれ!!奴を殺せ!!」
「ギィィィァァ!!」
ゲントの命令で竜人が方向をあげながら突進する。
「チッ。」
矢を引き抜いた時から肩にかけてあった回復魔法による治癒が思ったよりも進まない。
先端の矢じりに毒が塗ってあったのだろう。解毒を優先している為に回復が間に合わなかった。
「ギギィ。」
竜人の爪が俺の喉を目掛けてくる。
「よっと。」
直前まで爪を引き寄せ、身をかがめてそれを回避する。同時に魔力を込めて威力を増したパンチを
竜人の腹部に向けて殴りつける。
「ギャャャ!!」
俺の攻撃に腹を押さえて苦しむ竜人。その隙に地面を蹴りながら後ろへと下がる。竜人が体勢を立て直す
前に奴に光熱波を打ち込んだ。
「くたばれ。」
光熱波が竜人を包む。
「ギィッ!!」
「何!?」
突然竜人が翼を展開し身体を覆い隠すように丸まった。
ドオォォォン!!
光熱波が命中しても翼が完全に光熱波の威力を相殺し竜人は無傷だった。


「ガハハハ。なんだなんだ、そのザマは?」
ゲントが勝ち誇った顔で俺を見下す。
「口の割に大したこと無いではないか。これで貴様も終わりだ!!」
竜人が今度は翼を大きく広げて地を這うような低空を飛びながら俺に向かって切掛かって来た。
「俺をなめるな!!」
真正面から竜人の頭を受け止めて竜人に飛び乗り、共に直進したまま飛ぶ。
「おらよ!!」
竜人の背中に零距離から光熱波を押し当てた。
「ギィィィ!!」
「うわっ。」
激痛にのたうつ竜人。しかし、竜人は尻尾を伸ばして俺を捕らえると地面に叩き付けた。
ズガガガガ・・・
竜人も俺の攻撃に耐えかねて地面へと追突する。
「はぁ・・はぁ・・クソが・・・」
思いもよらない竜人の猛攻に余裕がなくなってくる俺。こんなに追い込まれたのも久しぶりだ。
それ故に対処の仕方は物凄い悪い。
「ギィギィ!!」
「うぐっ・・・・!!」
先に回復した竜人がいきなり跳躍するとそのまま頭突きの体制で突っ込み、俺の左肩に命中した。
「うっ・・・くっ・・・」
完全に直りきっていない左肩に喰らった竜人の頭突きはかなり答えたようで左腕全体が大きく痙攣した。
「ギィ!!」
「クソッたれが!!」
これに俺も少しキレた。竜人の足元に魔方陣を展開させると竜人の足元が沼のように沈み込み
竜人の動きを抑える。
「オラッ!!」
すかさず光熱波を連射し竜人の顔面と首の付け根に命中させる。さらにそのまま竜人に接近し
竜人の頭部の角を捕まえると魔法陣の沼から引き抜き地面に叩きつける。
「これでどうだ!!」
さらに地面に突っ伏した竜人を思い切り蹴りつける。竜人は20m程ぶっ飛んでうつ伏せのまま倒れた。
「ギ・・ガガ・・ギィ・・・」
「・・・終わりだ。」
新たに魔方陣を展開する。今度は消滅魔法の魔方陣だ。竜人を中心に展開した魔方陣が
動けない竜人を消し去ろうとする。


ボン!!
「!!」
いきなり俺に向かって光弾が放たれる。ゲントを守る魔導隊が放ったものだ。
「貴様の相手は奴だけではないぞ。ガハハハ!!」
ゲントの笑い声と共に魔導隊の連中が次々と光弾を発射する。
「チッ・・」
攻撃自体を避けるのは簡単だがこのままでは竜人が・・・・
「ガガァ!!」
「しまった!!」
光弾を避けている間に復活した竜人が魔方陣から抜け出し俺に目掛けて突っ込んできた。
魔導隊の方向に左手で大きな光壁を展開し、右手から光熱波を竜人に向けて放つ。
しかし、単調な攻撃しか出来ずに竜人はヒョイヒョイと俺の攻撃を交わす。その間にも
竜人との距離がどんどん詰まっていく。
「(受けるしかないな・・・。)」
竜人の攻撃を正面から受けようと身構えた。

ヒュン!!

「ギギィィィィ!!!!!!!」
いきなり竜人が奇声を挙げて墜落した。
「なっ・・!?」
状況が掴めずにうろたえてしまう俺。しかし、見てみれば竜人の右目に小型のスローイングダガーが
深々と突き刺さっていた。
「これは・・・?」
「ゼット様!!」
身なりの良い礼服を来た金髪の少年・・・いや少女が俺の元に駆け寄った。
「・・エリスか。」
「はい!!」
エリスは返事をすると俺の負傷した肩に手をやった。
「今すぐ治療を。」
「あぁ・・・スマン。」
肩に暖かい光が当てられ、みるみるうちにケガが塞がっていく。


「ギギギギギ!!」
目からダガーを引き抜いた竜人か怒り狂って突進する。

ババババババ!!!

「ギャギィィ!!」
竜人が自分目掛けて放たれた電撃をすんでの所で交わす。
「・・・避けたか。」
「ヘタクソだね〜。」
「黙れクソガキ。」
貴族の服を模した戦闘服を着た二人が現れた。
「ドラン、キノイ。」
「久々ですね。コマンダーが苦戦してるというのも。」
黒い戦闘服に袖の無いロングコートを纏った黒髪の長髪長身の青年、ドランが皮肉を込めて言う。
「うるさいな、嫌味か?」
「モチロンです。」
副官と言うポジションをエリスに渡してから僻みか、遠慮が無くなったのかドランは最近、こう言った
物言いが多い。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。」
ドランと同じ形の戦闘服、しかしこちらは丈や袖に白いラインが入って半身のみを覆うマントを
身に纏っている緑色の髪の少年、キノイが横から茶々を入れた。
「過小評価して痛い目見ただけだ。もうこんな失態はせん。」
エリスの治療が終わり、大きく肩を振り回す。
「ゼット様、あまり無茶をなさらないで下さい。」
「あぁ・・分ってる。ありがとうエリス。」
礼を言うとエリスは安心したように微笑んだ。
「ウルフとフランは?」
「「ここに。」」
転移用の魔方陣が展開し、真っ赤な戦闘服にそれに負けないような赤い髪を逆立てた青年ウルフと
それとは逆に白い戦闘服にフードのついたローブを纏った銀髪の青年フランが現れた。

こいつ等が俺の腹心の四天王だ。


「さて・・・ここは我等が貰い受けてもよろしいですかな?」
脇に携えた片刃の長刀を引き抜くドラン。
「コマンダーを手にかけた輩と戦ってみたいです。」
何も無い空間から巨大な蛮刀を取り出し手に持つウルフ。
「いや、死んでないから。」
マントに隠された半身から二本の短刀を取り出すキノイ。
「直接戦闘は好みませんが・・・。」
一息ついて袖口からカタール(手甲に付いた諸刃剣)を両腕から出すフラン。
「いいだろう。ただ竜人は殺すな、面白いことを考えたんでね・・・いけ!!」
「「「「承知!!」」」」

一斉に散開した四天王は竜人を囲むように陣形を取った。
「フン!!いくら増援が来ようが無駄な事だ。殺せ!!」
ゲントが命令すると竜人はまず、ウルフ目掛けて突進した。
「その程度のパワーで・・・」
ウルフは蛮刀を大きく振りかぶった。
「ギギギィ!!」
「俺は倒せんぞ!!」
バキィィ!!
振り下ろした蛮刀と竜人の爪が激突し竜人の両手の爪が粉々になった。
「ギッ・・・ギギガガァァ!!」
キレた竜人が四つん這いになり尻尾を突きつける。 しかし、
「ギァァ!!」
竜人が痛みに身を屈める。
「隙だらけだ。」
音も無く竜人の後ろに回り込んだドランが竜人の尻尾を何枚もの輪切りにした。
「あらよっと!!」
その隙に竜人の背中にキノイが飛び乗り翼の付け根に短刀を差し込んだ。
「ギャッ・・・・ギ・・・・」
戦意を削がれたのか竜人はそのまま地面に伏して動かなくなった。


「ええぃ!!何をしておる魔導隊。さっさと奴等を殺せ!!」
ゲントの命令で魔導隊が俺に向かって光弾を放った。
「・・・美しくない攻撃だ。」
フランが俺の前に立ち指を軽く弾いた。すると的の光弾が宙に霧散していった。
「美しい攻撃とはこうするものだ。」
フランはそう言うと両手を前に差し出し雷にも匹敵するような電撃を放電した。
「ふ、防げ!!」
腰が引けたゲントが命令し魔導隊が防壁を張った。
「なかなか頑丈な結界をお持ちで・・・では・・。」
フランはさらに電撃の威力を増した。
「そ、そんな・・。」
ゲントは驚愕した。完全に魔導隊の結界が押されているからだ。
そして、
「面白そうだな。」
ドランが加わり電撃を放ち。
「どれくらい持つのかな〜?」
「あんなもの簡単に消し去ってくれる。」
キノイとウルフも攻撃に加わった。
「「「「はっ!!」」」」

バババババババババ!!!!

四天王の電撃が魔導隊の防壁を破壊し、ゲントを含む相手側全てに命中した。
「ま・・魔導隊の結界が・・・・バカな・・・」
瓦礫の中から比較的軽症だったゲントが這い出てきた。
「魔導隊よ何をしておる!!さっさとワシを守らんか!!」
倒れている魔導隊を叩き起しながら自分の身を守るよう命令するゲント。その姿は滑稽だった。
「ヒィィィィ!!」
「殺される!!」
「た、助けてくれ〜」
立ち上がった魔導隊はそう叫びながら散りぢりに逃げ出していった。


グサッ!!

「グワァァ!!」
ゲントの足にエリスが投げたスローイングダガーが命中する。
「それで白騎士ですって・・・情けない。」
エリスは冷ややかな侮蔑の視線でゲントを見下した。
「な・・なにを・・!!・・・貴様はエリック!?」
目の前にいるのが、かつての同僚と知りゲントは驚いた。
「貴様なぜ・・・裏切ったのか!?」
「アナタ達とは信じる物が違った・・・ただそれだけよ。」
「さっきから女言葉を・・・ん?・・・まさか・・オマ・・エ」
ゲントは先ほどから感じていた違和感の正体に気づいた。目の前にいる元同僚は
格好こそ男のものだが良く見れば・・・。
「エリスに触るな。この愚物が。」
エリスが女と察し手を伸ばしたゲントの手を俺は払いのけた。
「貴様・・・女だったのか?」
「エリス、騎士団の中に知っている奴はいたのか?」
「いいえ。誰にも言わないで隠していましたから。」
「そうか・・・隠し通すなんて凄いな。」
そっとエリスの髪に触れ撫で下ろす。
「こっちは終わった。オーイ、ここへ来なさい。」
俺はある者を呼び寄せた。
「ギギィ!!」
「なっ!!」
ゲントは恐怖の色を顔に浮かべた。魔導隊が召還した竜人が俺の横に立っているからだ。
「昨日の敵は今日の友。コイツ、お前等の呪文に括られてて可哀相だったから開放してやった。
 怪我も直して、改めて契約をし直したら『ぜひ俺のために戦いたい』そうだ。」
魔導隊が竜人を制御するために着せていた呪文が刻まれた鎧はすでに脱がせてある。
「ヒッ・・ヒェェ・・・」
「本来召還は契約して使うものだろ?無理やり操っちゃあ卑怯ってもんだ。」
竜人の肩をポンポン叩きながらゲントに言う。
「た、たしゅけて・・・お願・・・ぎゃ!!」
ゲントが言い切る前にエリスのダガーがゲントの左肩に突き刺さった。
「ゼット様の身体に傷を付けておいて助かろうなんてふざけてるわ。」
「・・・だそうだ。ちなみにこの竜人、名前は『ギーガ』というらしい。」
俺はゲントを指差しながらギーガに話しかけた。
「ギーガ・・・・あれ食事ね。」
「ギギィ!!」
「ひ・・・ギャァァァァァァ!!!!!!」

こうして、白騎士ゲントは俺の新たな友人のランチになった。


「コマンダー、怪我の方は?」
「心配するな。もう痛くもなんとも無い。」
「一応肩貸しますか?」
「いいから。心配しすぎだ。」
本陣へ戻る最中、四天王が俺を気遣い声をかけてくる。嬉しくは思うが甘やかされている様で
何ともうっとおしい。
「ゼット様・・・」
エリスが心配そうに俺を見つめる。
「大丈夫だから、そんな顔するなって。」
「でも・・」
「エリスの治療が良かったからな。もう全快だ。」
「・・・・はい。」
これ以上いっても俺が無理して振舞うと思ったのか、エリスは何も言ってこなかった。
「(・・・悪いことしたかな。)」

不安げな顔を浮かべたままのエリスに俺の心がチクリと痛んだ。


それから三日して・・・

「はぁ〜。」
自室のソファーに横になりながら俺はいろいろ考えていた。この間の戦い、昔の俺ならば
一人で勝てたはずだ。油断していたのは認めるし、もっと効率の良い戦い方があったのに
感情をむき出しにして戦い結果、逆に追い込まれてしまった。
「弱くなったもんだ。」
原因・・・と言えるかどうかは分らないが、理由ならば察しは着いた。エリスだ。
言い方が悪かったが、エリスにかつて自分が行った仕打ち、あの時に見せた俺の冷酷な顔を
戦いの中で浮かべると嗚咽しむせび泣くエリスの顔が頭に浮かんでしまうのだ。

(まったく・・・ここまで誰かを好きになるなんて思わなかったな。)

今俺の心の中でエリスが占める割合は大きい。エリスには笑っていて欲しい、エリスには幸せで
あってほしい、エリスには俺だけを見ていて欲しい。そんな感情が常に心の中にある。
取り分けエリスに嫌われたくないと言う感情は何よりも大きい。もし、エリスがいなくなって
しまったなら俺は今度こそ完全に壊れてしまうだろう。
「どうしたものか・・・。」
冷酷になればなるほどエリスに嫌われてしまう恐怖心が大きくなり、冷酷さを無くす程
かつての戦い方が出来なくなる。タチの悪い八方ふさがりだ。
どんどん時間は流れて外を見ればすっかり夜もふけている。
トントン

ドアをノックする音がした。
「ん?だれだ?」
「エリスです。」
相手がエリスと知り俺は急いでドアまで駆け出した。


ドアを開けるとエリスが立っていた。
「申し訳ございません。こんな夜中に。」
「イヤ、気にするな。」
俺はエリスを部屋へと招き入れた。
「何か用事か?」
「・・・・・」
エリスはその問いに答えず俯いていた。
「エリス?」
「え・・あっ・・はい!!」
「どうしたんだ?」
何か様子のおかしいエリスを不振に思い声をかけてみた。
「すみません・・・えと・・・その・・・あ・・・」
「ん?」

「あれから・・・えっと・・・抱いて・・・いただいてないので・・・」

「え?」
「すみません!!失礼します!!」
エリスは顔を真っ赤にしながら駆け足で部屋から出て行こうとした。
「エリス!!待てって!!」
俺は出ていくエリスの手を急いで掴んだ。
「あ!!」
俺の手に何かが触れた。
「・・・・涙?」
エリスの顔をみればエリスは目を赤くして目尻に涙を溜めていた。


「・・やっぱり私じゃ・・・ご不満ですか?」
「エリス・・・」
「最近・・・抱いていただいてないし・・・・」
あれから・・俺が過去を思い出しエリスと肌を合わせた時、確かにあの時から俺はエリスを
抱いていなかった。でもそれには訳があった。
俺はエリスと身体を重ねるたびにエリスを泣かせてしまっている。陵辱、犯していたのだから
泣くのは当たり前だ。だが、エリスを抱くたびに彼女を泣かせる、傷つける、という刷り込みが
出来上がってしまい、最後の一線を越える事を恐れて逃げてしまっているからだ。
「私じゃ・・・ゼット様の傍にいるのに相応しくないのかなって思ったり・・・
 もう・・愛してないのかなって思ったら・・・私・・どうしていいか・・・」
「・・・すまなかった。」
俺はエリスを抱き寄せしっかりと抱きしめた。
「そういうつもりじゃなかったんだ。俺がエリスを愛してないわけ無いだろ。」
「ゼット様。」
「ただ、エリスを泣かせるのが怖くて・・・エリスを傷つけたくなくて・・・。」
「ありがとうございますゼット様・・・でも。」
エリスは俺の顔を見つめて言った。
「前にも言いました。嬉しくても涙は出ます。今の私が流す涙はゼット様に愛されて
 嬉しいから流す涙です。だから・・・いっぱい泣かせてください。」
「エリス・・・」
「それとも・・・そんな泣き虫は嫌いですか?」
「いや・・・」
俺はエリスの正面に顔を移した。
「大好きだ。これからも俺のために・・・泣いてくれ。」
そして、そのままエリスに口付けた。


確かに俺は弱くなった。でもこういう弱さなら大歓迎だ。


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