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浜屋道場に行こう! 3

名無しのアヒル氏

余計な話しまくりでなかなか事(エロ?)が進まなかったが、よーやく入門試験の準備が完了し
(普通の)防具姿で正座する二人。
「では、お願いします。」
「こちらこそ。」
二人は真面目に一礼すると、竹刀を構えた。
「手加減はなしだよ!!」
今までのアホアホな雰囲気とは一変して、ただならぬ闘気を発する寿丸。
「わかりきったことを・・・。参る!!」
菊之丞は少し微笑んだ後、刀を構え、素早い動きで寿丸へ向っていき、竹刀を振る。
『早いっ!!』
寿丸は菊之丞の素早い動きに驚きつつもその剣撃を受け止める。
しばらくググッっと鈍い音を響かせながら竹刀を合わせたが、そのうち菊之丞がはじかれる様に下がった。
「力勝負ではオレの方が有利みたいだね。」
「・・・・・。」
菊之丞は自分の弱点を見抜かれても、顔をしかめるどころか、むしろ楽しそうな顔を防具の下から浮かべた。
「寿丸殿、師範代だけあって実力は本物みたいだな。」
「あっ、疑ってたでしょ。」
「・・・ばれたか。」
「ひどーい。ま、今に始まったことじゃないけどぉ。菊ちゃんこそ華奢そうなのに結構やるじゃん。
見た目どーりっていうか、力はないみたいだけど。」
「まぁな・・。でも、動きには自信があるつもりだが。」
そう言うと菊之丞は再び竹刀を構えた。
「そうだね・・・・・。」
闘気を発する菊之丞に今までとはまるで別人の様に真面目に応える寿丸。菊之丞の言う通り、彼の動きは
侮り難いものがあると寿丸は見抜いていた。
『力ではオレが勝ってるんだから・・・あの動きに翻弄される前に勝負を付けなきゃな・・・。』
寿丸は冷静に戦況を分析した。ほんとにあの自分の名前を間違える程バカな奴とは思えない姿である(ひどっ!)。
「・・・・・。」
菊之丞は寿丸の思惑に気付いたのか、再び素早い動きで寿丸の懐に入り込もうとする。
「わぁ!・・・させるかぁ!!」
寿丸は突然の剣撃に驚くが、寸前のところで竹刀を受け止める。
「くっ!」
菊之丞は受け止められ、不利と感じたのか自分から後ろに下がる。
『『できる・・な。』』


前回のダジャレに漢字間違いに落書き防具、そして実験屋様が公式に認めてくれた道頓堀カーネルの起源とは
うって変わった真面目な展開に作者も驚きです。

「嬉しいよ、菊之丞。実力は申し分なさそうだね。」
寿丸は嬉しげな声を上げた。
「合格・・か?」
寿丸の言葉に菊之丞は試験の結果を問いただす。
「まだ内緒。もうちょっと勝負させてもらうよ。」
寿丸は「はぁとまぁく」が付きそうなお茶目な言い方をすると、それとはうって変わって真面目な表情に変わる。
「成程。勝負は最後までと言うことか。」
菊之丞は寿丸の表情に合わせる様に本気の表情になる。
「せっかくの試合だからね。いくよっ!!!」
今度は寿丸から先手を打ち、菊之丞の方へ向っていく。菊之丞は微動だにせず向ってくる寿丸を見つめている。
そんな菊之丞に向って渾身の一振りを寿丸が振るおうとした瞬間、菊之丞はまるで瞬間移動でもした様に
素早く寿丸の剣撃を避ける。
「まずいっ!!」
そうは言いつつもある程度は予想してたのか菊之丞の動きを冷静に目で追い、反撃の剣撃を受け止める。

「!!!」
三度剣撃を受け止められ、流石に顔色を変える菊之丞。寿丸の力攻めから逃れる為に菊之丞は再び後ろに下がろうとする。
しかし寿丸はそれをさせずまいと、渾身の力を籠め、菊之丞の動きを食い止める。
『くそっ!!まずい!!』
力の差は歴然なので菊之丞にとってこの状況は不利である。隙が出来る危険を覚悟しながらも菊之丞は一気に
寿丸の竹刀を合わせていた自分の竹刀に籠めていた力を抜き、後ろに下がろうとする。
「逃すか!!!」
予想されていたのか、寿丸は後ろに下がろうとした菊之丞に向けて素早く竹刀を振った。
「くぅ!!!」
菊之丞も隙をつかれることを予想していたので竹刀を必死で構える。しかし、元々の力の差と先程までの
手加減ない寿丸の力攻めで疲労が出始めていた為、ついに菊之丞は大きくはじかれてしまう。
「くああっ!!」
「隙あり!!!」
はじかれ、隙が出来た菊之丞に寿丸は胴に一太刀入れる。

――パアンッ

道場内に音が響いた。
「・・・・参りました。」
防具の上から感じた寿丸の鋭い剣さばきに菊之丞は竹刀を下ろし、寿丸に降参の礼を述べる。
その言葉に応える様に寿丸は道場の真ん中まで移動する。菊之丞もそれに合わせて移動をし、試合開始時同様、向き合う。
「・・・ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
二人は礼を交わした。


「・・・負けてしまったな。・・やはり不合格・・・か?」
菊之丞は防具を脱ぎながら残念そうな声を上げた。その顔は少し不安げだ。
「やっだなー。そーんな顔しないでよぉ!菊ちゃんカワイイからさー捨て犬見てるみたいじゃん。」
試合が終わった途端、真面目な雰囲気は失せ、元のおどけた雰囲気に戻る寿丸。
「この子を拾って下さい。名前は菊之丞です。オスです。・・・菊ちゃんって男だよね?」
昔の漫画風に捨てられている犬の様子を菊之丞に当てはめて見る寿丸。箱に入れて捨てられてる犬猫なんて
見たことある人いるのかって思われそうだが、作者は箱に入れられた状態で捨てられた猫を見たことがある。しかも二回。
「人を動物、しかも捨て犬扱いしないでくれ・・。お、男に決まっているだろ・・・・。」
そうは言っても動物好きなのか動物扱いは嫌そうではない菊之丞。しかし、自分を男だと告げる声は心なしか戸惑っていた。
「ほんとかなぁ〜。」
戸惑う菊之丞を見て、顔を近づけからかう様な言い方をする寿丸。
「・・・・・・。」
その視線に顔を赤らめる菊之丞。
――やばっ!ほんとにカワイイ・・・。
照れる菊之丞を見て自分まで照れてきた寿丸。近づけてた顔を離した。
「ちょっとぉ、菊ちゃん、オレを男色家にする気?女の子とも付き合ったことないのに。」
「そ、そうなのか・・。」
「うん、彼女いない歴十七年だよ。」
「安心してくれ、私もいない歴十五年だから。」
そう言って菊之丞が微笑みかけた。
「えー、菊之丞も彼女作ったことないの?もてそうなのになんか意外ー。」
「あ、ああ・・・。剣の修行に入れ込んでて、そんなの・・考えたことなかったから・・。」
菊之丞は指を合わせながらもじもじした。やはりというか、その手の話には疎い様である。
「よし、今度はどっちが先に恋人を作るか勝負してみる?」
寿丸は意気揚々と言った。
「遠慮願いたい・・・。今度・・と言うことは?」
菊之丞は寿丸の言葉が気になり、顔を上げる。
「やる?でも、菊之丞相手じゃ負けそうだなぁ。」
「いや、そうではなくて・・・・・。入門試験の結果を・・。」
前回程バカ話はしてないものの、やはり話が逸れてしまい、大事な話が後回しになってしまっていた。
「ああ、ごめんね、菊ちゃん。忘れてたよ。だってさ、結果は言うまでもないじゃん。」
「・・・やはり・・。」
菊之丞が沈んだ声を上げた。
「合格!!」
「・・・え?」
寿丸の通告に菊之丞は意外といった声を上げた。
「なんでそんな声上げんのさー。菊之丞の実力ならとーぜんじゃん!!」
「しかし、試合には・・・。」
「勝敗だけじゃないって!つーか元々新しい門下生が欲しかったんだしー。」
「そうじゃ!!」
「「えっ?」」
その場に寿丸とも菊之丞とも違う低い声が響いた。
「親父!」


その場に現れたのは寿丸の父で浜屋道場の師範、薙丸であった。寿丸によく似た顔をしているが
少年ゆえかあまり背は高くない寿丸に比べて、体格がよく、たくましい身体つきでいかにも武芸にたしなんでいるといった
感じであったが、息子譲り(←逆)のおどけた雰囲気も醸し出していた。
「ん!寿丸!お前普通の胴着を使ったのか!!」
「げぇ!!まずい!」
父に約束を破ったことがばれ、顔色を変える寿丸。
「罰だ!!明日衛門君とポッキーを端っこから食べ合う、内兵衛からもらった南蛮の甲冑を着て町内一周する、
相撲取り数人が無人島で遭難する漫画を描くの内どれを選ぶ!!!」
「ひ、ひえーーーーー!!!!」
罰則の厳しさに悲鳴を上げる寿丸。ちなみに明日衛門とは道頓堀カーネルの起源と言われる「土座衛門に謝れー!!!」を
あみだした力士のことで、内兵衛とは薙丸のマブダチの商人のことである。つまり、薙丸はデブ・・・おっと失礼
巨漢とよく合コンやお水なんかで見かける(どっちも行ったことないけど)両端からポッキーを食べ合い、
場合によってはちゅーになるアレをやれって言ってるのである。そりゃいやだわ。えっ、時代考証?
そんなもの今までの話を見ればわかるでしょう。
「ちょっと待てよ親父!!男装少女萌えスレで、主役(男)がデブとポッキー食い合って、しかも接吻すっかもしれないとか
デブ数人が無人島で鯖威張る(時代物らしい(?)当て字)ネタとか、んなモン見せちゃやばいだろ!!!」
確かに男装スレに限らず、そんなもの見せるのはやばいでしょう。文章な分まだマシだろうけど。
それでも男がデブとポッキー食べ合いっこやデブのみの無人島サバイバルなど、我々男装萌えの敵(?)腐女子すらも
受けつけないでしょう(全国のデブ・・じゃなくて太めの方および腐女子の方すみません)。
「俺だってデブとポッキーの食べ合いっこやデブのみの鯖威張る漫画執筆なんてやりたくないっ!
やりたくないことをやらせるから罰なんだ!」
「うわっ!ごもっとも!!でも、勘弁してーーー!!!」
寿丸が必死で哀願すると菊之丞が口を開く。
「あの、どうか寿丸殿を許してやって下さい。拙者が普通の胴着を使う様言いくるめたのですから。」
「き、菊ちゃん!!!」
寿丸は自分に助け舟を出そうとしてくれてた菊之丞にすがる様な視線を向ける。
「おおっ!君が入門希望の!先程の試合見させてもらったよ!」
「親父、見てたのかよ!!」
「ああっ!菊之丞君だったね。俺からも合格を授けよう!今日から君はここの門下だ!」
「あ、ありがとうございます・・・。」
師範直々の合格通知に頭を下げる菊之丞。
「寿丸、新しい門下生が出来た記念に勝手に普通の胴着を使ったことは許してやる。」
「ほんと!やたーーーー!じゃ、ついでに普通の胴着に使用許可も出して。いっつもじゃ大変だから。」
「よし!今の俺は機嫌がいい!!でも、時々は使えよ!何度見ても面白いから、あれ!」
薙丸が寿丸に落書き防具を使わせてた理由は罰というより、見ててお気に入りだったかららしい。流石寿丸の父。
なかなかのアホである。そんなアホ親子のやり取りを少し呆れながらも微笑みを浮かべ見つめる菊之丞。
「ところで菊之丞君、君は佐助の子供だろう?」
「えっ!父のことを・・・。」
父親の名前をずばり言われ、少し驚く菊之丞。
「そりゃあ知ってるさ。俺と佐助は親友だったからねぇ。これからは俺が佐助に変わって、保護者として
弟子として大事に扱わせてもらおう。ここに住み込みでいいよね?」
「あっ、はい・・。ここに来るまでは旅をしてたので、家はないですから・・・。」
「わーい!菊ちゃんここに住むんだぁ!嬉しいな!」
寿丸は浮かれながら、菊之丞の肩を掴んだ。
「ちょ・・寿丸殿・・・。」
菊之丞は再び肩を掴まれる感触に照れくさげな声を上げた。
「はっはっはっ!仲良きことはいいことってな!!」
寿丸と菊之丞の様子に薙丸は息子とM・Kさんと同じ発言をしながら豪快に笑った。


「さ、ここが菊之丞くんの部屋だよ。」
菊之丞は、薙丸に今日から暮らすことになる部屋に案内された。
「はい・・、ありがとうございます。」
菊之丞は薙丸に礼を言うと、部屋へと入り、辺りを見渡した。
「気に入ってくれたかな?」
「はい・・。いいのですか?居候の拙者にこんなちゃんとした部屋を与えたりして・・。」
「全く気にすることはないさ。この家、部屋数多いし、居候というより、れっきとした家族だと思ってるつもりだからな、俺は。」
「オレも、オレも!きょーだいが出来たみたいで嬉しいぞ!」
薙丸の言葉に寿丸が明るく反応した。
「かたじけない、寿丸殿、薙丸殿、・・いや、師範。」
「いやいや、稽古とか以外は名前でいいぞ。菊ちゃん。」
「な、薙丸殿!その呼び方は・・・・。」
寿丸に続き、薙丸にまで『菊ちゃん』という呼び方をされたことに照れの混じった声を上げる菊之丞。
「ハハハ、よいではないか!佐助のことも『さっちゃん』って呼んでいたからな。」
「さ、さっちゃ・・・・。」
「バナナが好きそうな呼び方だなぁ。」
父の軽い調子のあだ名を知って少し戸惑う菊之丞を尻目に、寿丸は都市伝説や怪談で有名で
ちょっといわくつきなあの歌の話を持ちかけた。
「本当に遠くに行ってしまったしな。菊之丞くん、父のあだ名とはいえ、あの歌は間違っても夜中に歌ってはダメだぞ。
バナナを枕元におかないと殺されるからな。」
「ひえー!さっちゃん、怖いよー!!ぜってー夜中には歌わないぞ!」
薙丸の怪談話に寿丸は大げさに驚いた。
「・・・大丈夫だと思うぞ、寿丸殿。夜中に歌った程度で殺されるならその犠牲者は洒落にならない人数になってると思うぞ。
所詮ただの噂さ。」
「そうか、そうだよね!そりゃそうか。口裂け女だって人面犬だって件(くだん)だって実在しないし
志村○んだってつ○やきシローだってちゃんと生きてるし、ドラえもんやサザエさんの最終回は作風に似合わない
現実的でダークなものじゃないし、升沢だってユウタンだって黄色い救急車に連れてかれる心配ないもんね!」
相変わらず江戸時代離れした知識(?)を見せ付ける寿丸。ちなみに件とは江戸時代から伝わる人面犬の先祖の様な妖怪で
一言で言うと人面牛。妖怪のくせに寿命が数日で、虫並みに短いが予知能力があるらしく、太平洋戦争のとき
「日本が負ける」と予言したとか。以上どうでもいいムダ知識(○リビア?)でした。

「ところで、菊之丞くん、この部屋は君にとって特別な所なんだぞ。」
ずれまくりな話をぶった切って、薙丸が意味深なことを言い出した。
「えっ?」
「なにそれ!知りたい、知りたい!!」
当事者である菊之丞より、話に食いついてきて薙丸に迫る寿丸を押さえ付けながら、薙丸は口を開く。
「内緒だ。ま、その内わかるから、それまでの楽しみにしといてくれ。」
「親父のいけず!(京都人か、お前は) せめてオレだけにも教えてくれよ!」
薙丸に抑え付けられながらも、寿丸が声を上げた。
「だーめ。お前も菊ちゃんと同じく、楽しみに待ち続けろ。」
「はいはい、わかりましたよ。なー菊ちゃん。一緒に待とうか。」
寿丸はあっさり薙丸から離れると、菊之丞のそばへと近寄った。
「ああ、そうだな・・。」
菊之丞は薙丸の言葉が気になりながらも、笑顔を浮かべながら答えた。


「あんたが新しく入門した菊之丞君かい。いや〜、かっわいいねぇ。おまけに賢そうで、ウチのバカ息子とはえらい違いだよ。」
菊之丞を見て豪快に笑いかける女性は薙丸の妻で寿丸の母の美江(みえ)である。非常に恰幅のいい
いかにも肝っ玉かあちゃんといった感じである。
「はい、美江さん、これからよろしくお願いします。」
菊之丞は美江に丁寧に挨拶した。
「あら〜。ウチの寿丸より二コ下だってのにちゃんとしてるねぇ。さっちゃんは真面目だったからねぇ。
ホラ、寿丸も見習うんだよ!」
美江は真面目な菊之丞の態度に感心すると、息子に厳しく諭す。
「なんだい、なんだい。バカ息子ってさ。他の子と比較する親はロクなモンじゃないぞ。」
寿丸は拗ねながら反論した。
「じゃああんたは外で感心される様なことやってるんかい。茶屋で門下生と団子食べてるとき、大声出して相手が視線を逸らした隙に
残ってた団子食べたのはどこの誰だい?」
「うっ!!!」
ずばり自分の悪事を指摘され気まずくなる寿丸。
「寿丸殿、そんなことしたのか・・。」
「そうだよ、菊之丞君もこいつと外で食べるときは気をつけるんだよ。」
「ちょ・・おふくろ!!!食いもんのことでは人の事言えるのかよ!!オレ、知ってるんだぞ!!おふくろが
某忍術学園の学園長みたいに台所の戸棚や自分の部屋にお菓子を大量に隠してんの!!!
で、オレや親父の目を盗んでこっそり食べてんの!!」
「そんなこと人前で言うんじゃないよ!!!」
美江が寿丸の頭をげんこつで叩いて、『ごち―――――ん!!!』と勢いのよい音を鳴る。
「て―――!!!なにすんだよ!!!しんちゃんみたいなたんこぶが出来ちまったじゃないか!!!」
「ははは、寿丸殿、少し背が高くなったな。」
しんちゃんのごとくな寿丸のたんこぶを見て菊之丞が笑い出す。
「ちょっと菊ちゃん、そりゃないよー。」
「フフフフフ。」
「はっはっはっはっは。真面目そうに見えてなかなか面白いこというねぇ。」
寿丸の情けない言葉に菊之丞と美江は関を切った様に笑い出した。
「なんだい、二人してオレを笑いものにしてさ、ちきしょー。」

「さて、すっかり菊之丞君とも打ち解けられたし、そろそろ夕食の準備でもしようかね。今日はご馳走だね!」
「わーい。そういや一試合したから腹減ったな。菊ちゃんは?」
「私もだな。少々疲れたし、さっきの話で甘いものが食べたくなってきたな。」
「じゃあ、茶屋にでも行ってきな。夕食にはまだ時間があるし。はい、お金。」
「わーい、ありがとうございまーす、世界一美しい母上。」
「こんなときだけ調子のいいこと言ってんじゃないよ。菊之丞君のお菓子を騙して取るんじゃないよ。」
「ちょ・・・おふくろぉ!」
「大丈夫です。気をつけますから。」
「菊之丞は笑いながら美江に答えた。
「もおー菊ちゃんまで・・。」
どこまでも主人公らしからぬ情けなさの寿丸なのであった(昔話風)。とっぴんぱらりのぷう。


とっぴんぱらりのぷうと前回、読者に誤解されそうな言葉を書きましたが、まだまだ続くのじゃ。

話の都合で既に茶屋に着いた寿丸と菊之丞。
「菊之丞、何頼む?オレは団子にする。」
「そうだな、私もまず団子だな。取られたら困るし。」
菊之丞は笑いながら答えた。
「もう、菊ちゃんのいけずぅ(口癖?)。あれ、『まず』って?」
「次は・・、饅頭と大福と・・後、羊羹も。それとかすていらと桜餅と柏餅も。」
「ちょ、ちょっと菊ちゃん!!そんなに食べんの!!?」
「うん。」
菊之丞は臆面もなく返事をした。
「晩飯前だしさぁ、そんなに食べると太るよ。せめて2、3種類に絞れば?」
「おやつはいつもこれぐらい、場合によってはこれより食べてるから平気さ。」
「・・・・(-∇-;) 」
寿丸の驚いた表情を顔文字で表してみましたがどうでしょう。
「ま、甘いものは別腹ってとこかな。」
菊之丞、極度の甘党である事が判明。やっぱりお○な○子は甘いものが好き。

「・・・・・。」
寿丸は菊之丞の前に置かれたお菓子を前に言葉を失う。自分は団子のみなのに対して菊之丞の目の前にはそれを今すぐ
すべて食べるつもりとは思えない位、かなりの種類のお菓子が並べられていた。しかもどの皿も最低2、3個のお菓子が置かれ
多いものでは5、6個位置かれており、普通の人なら一皿分で十分の量である。その大量のお菓子を菊之丞は
すべて一人で食べるつもりなのである。
「さて、いただきます。」
菊之丞は幸せそうな笑みを浮かべながら、まず団子に手を付ける。
「あ、おいしい。今まで食べた団子の中でも一番かも。」
満面の笑みを浮かべて団子を頬張る菊之丞。今までになく楽しげな菊之丞の笑顔に、寿丸は団子に手を付けることも
忘れて見とれていた。
「どうした?寿丸殿。食べないのか?」
団子を頬張りながら菊之丞が口を開いた。寿丸はその言葉にはっとする。
「いやぁ、菊ちゃんがあんまりにもおいしそうに食べてるとこ見てるだけでおなかいっぱいになりそうでさー。」
「ははは、そうか。じゃあ寿丸殿の団子、拙者が貰おうかな。」
「えっ!?まだ食べれるの!!?はー、すごいね、菊ちゃん・・。じゃあ、二本だけあげる。その代わり
かすていらと柏餅一個ずつちょーだい。」
「わかった。」
二人はそれぞれ団子二本とかすていら・柏餅を取り替えた。
――交換とはいえ、オレから団子を盗まれるどころかオレの団子を取ってしまうとは・・。菊之丞、恐ろしい子!!!
寿丸は菊之丞から貰ったかすていらを頬張りながら、七十年代の少女漫画調の顔になりそうな台詞を思い浮かべた。
「寿丸殿につられてかすていらを食べたけど・・、これもすごくおいしい!ここの菓子職人はかなりいい腕だね。」
菊之丞は寿丸の密かなギャグ(笑)も知らず、無邪気にかすていらを味わっていた。


「美江さん。おかわりお願いします。」
「あいよ!でも・・大丈夫かい。もう四杯目だよ・・・。」
菊之丞、極度の大食いであることも判明。
「・・・・・。」「・・・・・・・・・。」
薙丸と寿丸は菊之丞の細い外見からは想像も出来ない食欲に驚いていた。茶屋で一緒にお菓子を食べた寿丸は特に・・。
「流石菊之丞くんとでも言うべきか・・・・。」
「流石って、菊ちゃんの親父さん、佐助さんだっけ。その人も大食いだったのか?」
「いや、佐助は普通だったけど・・・。でも・・・。」
「『でも』って何だ?教えてよ、親父!」
薙丸の発言が気になった寿丸は薙丸に詰め寄った。
「な・い・しょ。」
「またかよ!つーかいい年こいた親父がそんなお茶目な言い方してキモいちゅーねん!!」
「父親に向かってキモいとはなんだ!!キモいとは!!!」
「あんたら!!食事のとき位静かに出来ないのかいっ!!」
美江は騒がしい薙丸と寿丸を怒鳴った。
「「すんません・・・・。」」
「ごめんねぇ、菊之丞君、騒がしい家でさ。」
「いえいえ、楽しいですよ。ご飯もおいしいですし。美江さん、料理上手ですね。おかわりいいですか?」
「いやねぇ、菊之丞君。料理の大天才だなんて(←そこまで言ってないがな)。がつがつ意地汚く食べるだけの
ウチの男共とはエライ違いだよ。」
美江は菊之丞の言葉に喜びながらご飯をよそう。
「もう五杯目だ・・。すげぇ・・・・。」
「食費、大丈夫かな・・・。」
「こらっ!あんた達、全然箸が進んでないじゃないか!!お残しは許しまへんでぇ!!!」
「美江、その台詞似合いすぎ(笑)。」
「体型が体型だけになー。」
「失礼な!!これでも昔は華奢な美少女が売りだったんだから!!!」
「けっ、ありえねー。」
母の言葉に更に失礼な態度を重ねる寿丸。
「いや、それはホントさ。美江があんまりにももてるから、何度ヤキモチ焼いたことか・・・。」
そう言って薙丸は席を立ち、美江の肩を抱く。
「ちょっと!食事中に席を立つんじゃないよ!!早く食事済ませな!!!」
美江にきつく諭され、ちょっと傷ついた顔ですごすごと席に戻る薙丸。
「月日の流れは残酷ってか・・・・。おふくろの場合、見た目も性格もだろうな・・・。」
甘い雰囲気など微塵もない態度の美江を見て、気の毒そうに薙丸を見つめる寿丸。
「美江さん、まだおかわりありますか?」
騒がしい浜屋一家を尻目に六杯目のおかわりを要求する菊之丞。見た目によらず色気より食い気な様である。


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