知らないことの方が多いよ。無知にもほどがあるよ。でも、でもね。あの時、死んでもいい、なんて。帰れなくてもいい、なんて。何でそんなことを思ってしまったの?
死にたくないよ、会いたい人達がいます。帰りたいよ、お母さん、お父さん。会いたい、話したい、帰りたい、帰りたい、おうちにかえりたい、
「………ごめん、ごめんね、わたし…」
お帰りと言ってください。ただいまって言うから。温かいご飯を食べて、ううん、家で食べれるならインスタントでもいいけど、俎板で切る音が聞きたい。水道の音が聞きたい。鍋の音が聞きたい。フライパンの音が聞きたい。笑い声が聞きたいです。好きなテレビ番組を見て、温かいお風呂に入って、浴槽に浸かって鼻歌なんか歌っちゃって、風呂が長いなんて嫌味を言われて、温かいベッドに入ってぐっすり寝れる。学校へ行って友達に会う。会いたいな、声が聞きたいな。つまらない授業だって、受けてみたいよ。色んなことがしたい。あれもしたい、これもしたい。死ぬなんて嫌、未練がいっぱいだ、
「帰りたい、帰りたいよ…。私にはお母さんと、お父さんが待ってる…から。ごめん、死にたいなんて嘘よ、生きたいよ、生きたいよ、ずっとずっと、死ぬまで生きたい」
そう、生きてるだけで、しあわせだったの。
「…でも、帰れない」
帰る手段も、帰るべき方法も見付からない。今すぐ、飛んで行きたいのに。
「……手伝うよ」
「え?」
「やっと生きようって思えたんだろ。だったらお前に力を貸してやる。おやっさんだって、手伝ってくれる」
初めて笑う顔を見た。凄く優しそうに笑うんだな。凄く綺麗に笑うんだな。そのままでも格好良いのに、ずるいな。人間って不平等だ。でも涙が、出た。止まらなかった。
「あの、部屋を使っていいって言われたんだけど…」
「だったら隣の部屋でいいだろ」
「あ、うん」
「それよりお前、二百年後から来たんだって?」
「えっ、何で知って…」
「盗み聞き」
さっきの喧嘩が嘘のようだった。よくよく顔を見れば私と大して歳は変わらないような感じがする。今度はニヤリと彼は笑った。ああ、ひとの笑顔ってどこへ行っても変わらないんだ。ひとの優しさも変わりはないんだ。
「あ、自己紹介…」
「…あん?」
「私、って言います。宜しくね」
「ああ、俺はだ」
握った掌の温かさも変わらなかった。その内きっと、未来に帰れるんだろう。この人がいるんだったら大丈夫だと思えた。私も帰れるって信じてるから。また強く手を握り締めた。
生きれるなら、ずっと、いっしょに。