eight
何で私だけが呼ばれたのだろうか。いつもは皆も呼ばれるはずなのに。その微妙な気遣いのような仕打ちに嫌気が差した。カフェに行くまでが憂鬱で、いつもより廊下が酷く長く感じた。擦れ違う生徒達が私を見る度に振り返って小声で会話をして駆けて行く。心臓がキリキリ痛くなった。雑巾絞でもされているみたいだ。
「…失礼します」
「遅い」
恐る恐るカフェの扉を開けてて中に入ると、間髪入れず名護先輩の文句が飛んだ。遅いと言われても放送が入ってからすぐに向かった筈なんだけどな。て言うか、何で素直に来たんだろうか。無視しておけば良かったのに。こんなわざわざ獰猛な猛獣ばかりが集う場に、武器も何も持たないちっぽけな蟻が来たって、結果は目に見えてるんじゃなかろうか。トボトボ歩いて遅くなったことは謝ろう。
「すみま」
「謝れ」
このめが。謝りの言葉を遮られて、謝る気も失せた。どうしてこの人達は人の話を完璧に無視できるのだろうか。不思議で仕様がない。人の話を聞くということをまるでしないのだ。自分中心に世界が回っている人達が四人も集まって、何故やっていけるのかも摩訶不思議だ。おまけになんかは豪華な椅子に踏ん反り返って腰掛けている。この椅子を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、そんなことをしたら暁には私の命なんぞ明朝にはこの世から消えていることだろう。とか何とか考えていても、謝らなければコイツの気は晴れないんだろう。一瞥して小さく溜息をついた。嫌々ながらの前まで行って深く頭を下げる。
「すみませんでした」
「よし」
何がよしだ。何たる屈辱。怒りのバロメータがどこまでも上がる。
「で、用って何ですか」
「用だと?今更そんなことを聞くのか、テメェはよ」
ギロリと睨まれる。昨日、今日で私の寿命はかなり縮んだ。これ以上その眼力で私の寿命を縮めないで欲しい。長寿大国日本に生まれたからには八十そこそこまで生きたいと思っているんだから。私は溜息をついた。
「チェックメイトされたので来ました。私に何をしろと?殴りたいんならどうぞご勝手に」
「いや、実は女は初めてなんだよ。まあ、何だ、まだその不細工な顔に傷は付けられたくねェだろ」
気を使ってるのが貶してるのかどっちなんだろうか。もう怒る気にもなれない。
「傷付いてもさほど変わりないと思いますけど」
「そりゃそうだ。ここで提案」
「提案?」
椅子から乗り出しては言った。コイツの口からでる案だ、とてもじゃないが良案だとは思えない。聞きたくない。耳を塞ぎたい。威圧感に押し潰されそうになる。所詮四人の男児なんだ。別に熊やライオンを相手にしている訳じゃない。
「俺達の下僕になれ」
こんなことだろうと思いました。貴方の考えなんて筒抜けです。
「は?」
「学園から追い出されるよりはマシだろ」
追い出された方が幾分マシだったかもしれない。それほどこの学校に魅力を感じないし、追い出されても未練を感じることもない。両親への罪悪感が残るだけだ。私の生き方はどこでどう間違ったんだろうか。普通で良かったんじゃないのか。何でこんな道を外れた奴らと言葉を交わしているんだろうか。
「断ると?」
「分かってんだろ?」
「どうしても?」
「テメェに断ると言う選択肢はねェよ」
唇を噛んだら口内に鉄の味が広がった。吐き気がする。ちくしょう、チクショウ、畜生。何か下僕だ、ふざけるな。と言う人格を全否定?凡人以下?私はあんたらの何?あんまりだ。この野郎、悔しい。間違っているようなことはやってない。
「…」
「返事は?」
「…ッ」
「オイ」
ここで某漫画の主人公みたいにその面を拳で殴ることができるのなら、どれだけ良かっただろう。だけど私にはそんな勇気も力も何もない。悔しい、ただ悔しい。私は無力だ。この状況を打破できるものを持ち合わせていない。どうして漫画のような主人公にはなれない?どうして手や足や言葉が出る前に涙が出るの?
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