少女漫画的新福


福ちゃんの恋路(勘違い)に協力したら、逆にその女の子に告白される新開さん(新→福)


 ある日、教室に呼び出されて女の子に告白されると新開は心底がっかりする。
『こんな子に寿一を任せられない』
 慣れた断りの文句を言おうとすると教室のドアが開いた。そこには福ちゃんが立っていた。
 新開と女の子を見ると、慌てたように乱暴にドアを閉める。
「寿一ッ」
――誤解だ。
 新開は女の子に一言詫びると背を翻した。教室を出るとすぐに福富は見つかった。
 廊下の歩くその背は常とは違い寂しそうに見えた。
 ぎゅっと心臓を掴まれる想いがした。
「寿一」
 待てよ。
 わざと明るい声を出しながら新開は福富に追いつく。
「いいのか」
 廊下の先を見つめたまま福富が問う。
「いいんだ」
 それに応えながら新開はどう話したものか考える。
「あのさ」
「付き合うのか?」
 言い澱む新開の言葉をぶっきらぼうに福富が遮った。
「え」
 それがあまりにも唐突で新開は一瞬思考が停止する。
 間の抜けた新開に焦れたのか福富がこちらへと顔を向けた。
 意思の強い視線が新開を射抜く。あ、と息を呑む。その顔すごく。
――好きだ。
 また惚れなおしてしまったようだ。新開は心の内で苦笑して大きく息を吐いた。
「付き合わねェよ」
「そうか」
 新開が言い終えた時には福富は既に前を向いていた。自分が訊いたくせに気のない返事を残して。
「それならばいい」
 何がいいんだ。そう言いたい気持ちを新開は必至で飲み込む。
 新開があの子と付き合わなければ、自分にチャンスがあるとでも言いたいのか。
 暗い影が心をよぎる。
 寿一の魅力に気付かないで、上辺だけで新開を選んだあの女子がそんなに好きなのか。
――オレの方が。
 みしりと心が軋む。
――オレの方が寿一の事を何倍もわかっているのに。
 苦しくて苦しくて。新開は笑った。そうしなければ窒息してしまいそうだった。
「それってさ。オレに彼女ができなくて良かったってこと?」
 からかうような強がりの言葉が空気を震わす。
 この振動が福富の耳に伝わらなければいい。新開は自分の発言をすぐに後悔していた。
 なんてな。
 そう続けようとした矢先、隣の男が口を開いた。
「お前は……残酷だ」
「寿一?」
 それっきり福富は何も話さない。
 新開も何故か訊いてはいけないような気がして、黙って廊下を歩いた。
 そこでようやく新開は教室に件の女子を残してきたことを思い出したのだった。

 新開が福富の言葉の意味を知るのはまだもう少し先の話。



【少女漫画的新福】

2015/05/31