花占い


 



 その花束を受け取ってしまったのはあまりにも綺麗だったからだ。差し出した彼女の瞳に熱情の色を見いだしていたのに。幸か不幸か恋人は遠方にいる。部屋にいわくある花を飾っても文句は言われまい。こんな綺麗な花を捨てるのは忍びない。
夜中のことだ。囁くような声が聞こえて目を覚ました。すき、きらい、すき

 誰かの声に似ている。ベッドから起き上がって、声が聞こえる部屋のドアを少だけ開いた。声をあげそうになった。黒い影が人の形をなして花びらを摘まんでいる。そのシルエットは恋人にそっくりだった。

 すき、きらい、すき。影はまだ花びらを摘まんでいる。全てむしりととるとまた新しい花へ手を伸ばした。思い悩むように彼は呟く、ゆるしている、ゆるしてない――

 思わずドアから飛び出した。
ゆるしている。喘ぐように告げる。だが、彼は首を傾げると花ごとぶちりとむしりとった。「許してない」気付くと影は消えていた。あとには金城と色とりどりの花びらだけが残された。




【花占い】

2015/11/01
「金福の少し不思議な〜」のおまけとして書いていたものです。