極道用語の基礎知識

 た行

代貸 【だいがし】
 博徒組織のなかで、貸元(親分)の下で実際に賭場を取り仕切る役職。戦後の近代的組織では舎弟頭がこの地位を兼ねることが多い。
 東映やくざ映画で描かれる代貸としては、『人斬り与太 狂犬三兄弟』『仁義の墓場』で暴走する主人公に苦労させられる中間管理職の室田日出男が印象深い。
ダイナマイト 【だいなまいと】
 ニトログリセリンを主剤とする爆薬の総称。構造が簡単で制作が容易なことから、「ピース缶爆弾事件」などで過激派がテロに使用した。同様のメリットはやくざにもあるため、第二次広島抗争では山村・打越両陣営ともにダイナマイトを利用した手製爆弾で拠点攻撃を行った。服部武の指揮による田岡邸爆破事件は当初本多会の仕業と偽装しようとしたものの、ダイナマイトを抗争に用いるのは広島やくざぐらいなものであるため、警察・山口組双方にその正体をすぐに見抜かれてしまった。
代理戦争 【だいりせんそう】
 米ソ冷戦時代、核保有国同士は共倒れになる危険があるため直接の交戦ができなかった。そのためそれぞれの陣営が支持する勢力へ兵器や資金を援助行い、それにより引き起こされた局地戦のこと。朝鮮戦争、ベトナム戦争などが代表例。またそのようなシチュエーションをあらわす用語として使われる。
タコの糞で頭に上る 【たこのくそであたまにのぼる】
 自分は思い上がって偉そうに振舞っているが、他人には馬鹿にされていること。蛸の内蔵が頭にあることに由来する(実際にはあれは頭ではなく胴体)。
 余談だが、広島は蛸の水揚げ量では全国有数の土地であり、なかでも呉はいまや三原市に代わって蛸壺漁(たこつぼ)の本場として知られている。
「おどりゃ、タコのクソ頭のぼりやがって!」広能昌三
立合人 【たちあいにん】
 式に立合い後日の商人となる役柄。見届人よりは格下の人間が担当する。
旅 【たび】
 広島弁でよそ、という意味。
「広島極道はイモかもしれんが、旅の風下に立ったことはいっぺんもないんで」  武田明
タマ 【たま】
 相手の命のこと。「タマをとる」のように用いる。
たれこむ
 自分で喧嘩ができずに他人に頼ること。警察に走り込むこと。
たれこみ
 もめごとを警察へ持ち込むこと。

 ち行

筑豊 【ちくほう】
 旧国名の筑前と豊前のこと。福岡県および大分県北部に相当する。
「男は筑豊たい」
チラシ 【ちらし】
(1)回状のこと。
(2)やくざ社会の儀式(襲名披露、結縁式、放免祝い)や冠婚葬祭の案内状。奉加帳。
 やくざは義理事を重んじるため、仲の良くない組織であってもチラシに名前を載せたり、チラシを配るのが慣習となっている。東映映画『日本の仁義』ではチラシを巡って抗争が勃発するが、これは本多会二代目会長・平田勝市と松葉会会長・藤田卯一郎の縁組の際、チラシに山口組系列組織の名前がないことが問題になったことをモデルにしている。
チャカ 【ちゃか】
 拳銃のこと。弾倉の回転する音に由来する。主に関西方面の隠語。
仲介人 【ちゅうかいにん】
 抗争の手打ちの際、当事者の間を取持つ役柄。大物でなくては勤まらない大役。仲裁人。
頂上作戦 【ちょうじょうさくせん】
 東京オリンピック開催を期に、やくざ組織の巨大化に対抗すべく全国警察が一体となって実施した暴力団の組長・幹部の逮捕および組織解体作戦のこと。ことに連日新聞でも大きく取り上げられた広島抗争が主原因のひとつ。第一次(1964年〜1969年)から第三次(1975年〜1978年)までの計三回行われた。全国のやくざの1/3にあたる5万人が検挙され、多数の組織が解散に追い込まれた。反面、企業舎弟などに代表されるシノギの合法化、麻薬・売春など非合法部門の地下組織化、二次団体・三次団体の再編成、広域暴力団が群小組織を吸収し系列化するなどのやくざ組織の近代化改革をもたらした。
朝鮮ピー 【ちょうせんぴー】
 朝鮮人娼婦のこと。“ピー”は売春婦または女性器を意味するが、その語源は中国語とも英語とも言われ定かではない。
チンコロ 【ちんころ】
 警察に密告すること。
「おい、若杉の兄貴の隠れ家を地図に書き込んでサツにチンコロしたんは、おどれらか?」 広能昌三
チンピラ 【ちんぴら】
 かけ出しのやくざのこと。最低の数詞「チンケ」と平社員などに使う「ヒラ」が合わさったもの。盗賊用語で子供を意味する、という説もある。

 つ行

つとめ
 刑務所入りのこと。服役。

 て行

出入 【でいり】
 一家をあげての喧嘩のこと。やくざの抗争にはいずれ仲裁が入るのだからお互いの顔を立てるために、喧嘩ではなく出たり入ったりしただけということにしておくことから。
手打ち 【てうち】
 和解が成立すること。
テキヤ 【てきや】
 露天商、大道商人、香具師。漢字では的屋、テキ屋と書く。神農皇帝を商売の神として崇めることから神農とも呼ばれる。
 本来のテキヤは露天経営者の自治組織としてやくざに似た擬制的血縁関係を結んではいてもやくざとは異なるものだったが、明治維新以降は博徒同様のやくざと見なされることが多い。関東大震災や敗戦により博徒社会が衰退するとテキヤ集団は闇市を支配し、やくざとしてその勢力を大きく拡大した。
 映画『仁義なき戦い』では、テキヤ大友組の跡取息子である大友勝利が博徒村岡組のシマで博奕を開いたことにより抗争が勃発するが、実際の第一次広島抗争ではテキヤの領分である闇市の利権を岡組(村岡組のモデル)が握ったことに村上組(大友組のモデル)が反発したのが原因である。
鉄砲玉 【てっぽうだま】
 行ったきりで戻ってこない人間のこと。やくざ社会では、他の組織の縄張りに送り込み、相手を挑発することで抗争のきっかけをつくる人間を意味する。多くの場合は殺されることでその役目を果たすことになる。近年では敵対組織幹部へのヒットマンを意味することが多い。
 実在の人物では、山口組が九州へ侵出するきっかけとなった博多事件(夜桜銀次事件)を引き起こしたことで知られる、夜桜銀次こと平尾国人 が有名。ヒットマン型鉄砲玉としては、ベラミ事件(京都のクラブ・ベラミで山口組組長・田岡一雄を銃撃した)の鳴海清が挙げられる。この二人は伝説的な鉄砲玉として、映画、小説、漫画などさまざまな媒体でその生涯が語られ続けている。
映画では鉄砲玉に仕立て上げられる無知なチンピラといえば渡瀬恒彦の演技が絶品で、ATG『鉄砲玉の美学』、東映『日本の首領』でその死に様を見ることができる。
手のすける 【てのすける】
 歯が浮く、見え透いた、という意味。
テラ 【てら】dt>
 博打のあがり。語源は「江戸時代、隠れ蓑のために寺で開帳して場所代を払ったから」という説と、「ドテラ(温)、テテラ(褌)などのテラと同義で、布や布団の意味である」という説がある。
天ぷら 【てんぷら】
 戦後の流行語で偽学生という意味。衣=学生服をつけているという駄洒落。

 と行

道具 【どうぐ】
 抗争で使用する武器のこと。主に拳銃をさす。
「こんな、道具持っとるんか」 坂井哲也
トコロ 【ところ】
 地元のこと。
所払い 【ところばらい】
 ヤクザの処分のひとつ。地域を限定した追放処分。
ドス 【どす】
 刃物のこと。長いものは長ドスという。現在では刃物は「長いの」といい、ドスは「ドス」を効かすのように口先を指すようになった。
渡世 【とせい】
 無職渡世の略語。博徒の世渡りのこと。テキヤの場合は無職ではなく商売(バイ)をやっているので渡世とはいわない。
渡世人 【とせいにん】
 博徒のこと。
渡世名 【とせいめい】
 博徒の渡世上の名前。博徒の場合は“稼業名”。芸名・ペンネーム・リングネームのように本名とかけ離れたものではなく、縁起を担いで名前を変えたり、優しそうな名前をいかつい名前にするようなものが多い。
 ありふれた苗字のやくざの場合、警察・新聞の資料を当たるときには渡世名を把握していないと混乱を来たしてしまうことがある。
ex.美能幸三→美能武雄、稲川角二→稲川聖城(稲川会総裁)、篠田建市→司忍(六代目山口組組長)
突破者 【とっぱもん】
 向こう意気の強い直情径行の人間のこと。宮崎学の著作『突破者』のタイトルはこの言葉に由来する。
賭場 【とば】
 博奕をするところ。狭義には盆の敷いてあるところを意味する。道場ともいう。
取持人 【とりもちにん】
 親子、兄弟、跡目相続の杯などを取持つ役柄。一家の幹部がこの役になる。
トル 【とる】
 殺すこと。漢字では当て字で「殺る」と書く、と東映宣伝部がデッチあげた。
「広島のケンカいうたらよ、殺るか殺られるかの二つしかありゃせんのじゃけぇ」 広能昌三
「広島やくざ用語≪トル≫=殺す!」
「殺れい! 殺ったれい! こいつらは何回、そう叫んだか!?」 以上二点、仁義なき戦い広島死闘篇新聞広告