成田三樹夫ネタ解説 『壮絶純愛クリスマス』(『私闘学園の逆襲』収録)

偉大なる公家役者、成田三樹夫

 朝日ソノラマが今年9月で営業を停止するという報道に接し、朝日ソノラマ文庫の笹本祐一『妖精作戦』、朝松健『逆宇宙ハンターシリーズ』などを愛好する筆者としては、「絶版本の稀少度が上がりAmazonマーケットプレイスでの価格も高騰するだろうと悲しむべきか、それとも他の出版で刊行される可能性が増えたと喜ぶべきか?」と考え込まされた。

 そういった事情で手持ちのソノラマ文庫群をなにげなく読んでいたところ、朝松健の格闘青春小説『私闘学園』シリーズの第二巻『私闘学園の逆襲』に収録された短編『壮絶純愛クリスマス』(P169)のパロディに成田三樹夫ネタが使われているを発見したのでそれらの元ネタを記し、ついでに成田三樹夫の悪公卿俳優としての歴史などもまとめておこう。

 説明不要かつなんのネタバレもない『探偵物語』もあれば、ネタバレをしてしまっている箇所もあるので映画を未見の方は注意されたい。

成田三樹夫パロディ解説〜江戸幕府老中から公家剣豪、悪徳刑事、宇宙帝国皇帝まで〜

 松平伊豆守
 江戸時代の大名、松平信綱(1596-1662)。彼の官職が伊豆守であったことと「知恵出づ」と言われるほどに聡明であったことから、「知恵伊豆」の異名で知られた実力派老中。島原の乱を鎮圧したことと、由比正雪の乱(慶安事件)を防いだことで知られる。
 時代劇・時代小説・映画などでは基本的に名臣・忠臣として描写されるが、作家や監督・脚本家の解釈によっては恐怖政治を行う策謀家・冷酷な官僚といった悪役として登場することも多い(隆慶一郎『死ぬことと見つけたり』、山田風太郎『外道忍法帳』など)。
 成田三樹夫は東映時代劇映画『影の軍団 服部半蔵』『魔界転生』で悪役としての松平伊豆守を演じている。
 沢田研二の忍法髪切丸で殺された
 深作欣二『魔界転生』(1981年)。山田風太郎忍法帖のなかで最も有名な作品を映画化したもので、沢田研二演じる天草四郎の「忍法髪切丸」により成田三樹夫演じる松平伊豆守は江戸城内で惨殺される。
 この映画での忍法髪切丸は自らの頭髪を自在に操り相手を締め付けるというものだが、原作では女の髪で出来た輪を飛ばし相手を切断するという『甲賀忍法帳』での夜叉丸の技『黒縄地獄』に近い術だった。この映画の影響のためかそれ以降『魔界転生』がコミカライズされる際は飛び道具としてではなく、天草四郎自身の髪の毛を操作する操作系能力と描かれることが多い(とみ新蔵版、石川賢版、鳥羽笙子版など)。
 大政奉還をめざし
 山下耕作『徳川一族の崩壊』(1980年)。大ヒットした『柳生一族の陰謀』、深作欣二と萬屋錦之介が対立して不完全燃焼となった『赤穂城断絶』、深作が降板し笠原和夫の脚本を投入するも瞑想した『真田幸村の謀略』に続く東映時代劇路線復興第四弾にして最終作。
 この作品で成田三樹夫は岩倉倶視を演じているため、日本テレビ系『江戸を斬る 梓右近隠密帳』(1973-1974年)の由井正雪(由比正雪)、フジTV系『服部半蔵 影の軍団』の紀州頼宣(徳川頼宣)、映画&TV版『柳生一族の陰謀』の烏丸少将、『柳生十兵衛あばれ旅』の島津家久(薩摩藩初代藩主)といった、彼が他の映画やテレビで演じたキャラクターたちが成し遂げられなかった倒幕を遂に成功させている。
 烏丸中将と名を変え
 深作欣二『柳生一族の陰謀』(1978年)、およびTV版『柳生一族の陰謀』(1978-1979年)。仁義なき戦い時代劇版。成田三樹夫は公家の剣豪・烏丸少将を演じた。烏丸「中将」とあるのは朝松健の誤り。烏丸少将のモデルは江戸時代の公卿・烏丸光広。
 烏丸少将文麿は映画版でも絶大なインパクトを誇るが、TV版ではさらに大活躍し、柳生十兵衛の片目を奪うのも彼である。またこの時の白塗りを深作監督が気に入ったことが後の『宇宙からのメッセージ』や後期深作作品に多大な影響を及ぼした。
 成田三樹夫は以前からテレビ朝日系『破れ奉行』第33話「深川奉行危機一髪!」で公家の殺し屋・夢法師こと反町中納言を演じていたが、改めて希代の悪公卿・烏丸中将の怪演が評価され、NHK大河ドラマ『徳川家康』(1983年)での今川義元役につながった。他の公家・公卿役としては『徳川一族の崩壊』の岩倉具視や、NHK大河ドラマ『新・平家物語』(1972年)の藤原頼長、公家でこそないが貴種であるという点で『戦国自衛隊』(1979年)の本願寺法主・光佐(顕如)が挙げられる。
 NHKドラマ『柳生十兵衛七番勝負 島原の乱』では烏丸少将をリスペクトしたような公家剣豪・円城寺業平が登場している。
 千葉真一と暗闘を繰り返した
 前述の映画およびTVシリーズ『柳生一族の陰謀』だけでなく、テレビ朝日系『柳生十兵衛あばれ旅』(1982-1983年)でも成田三樹夫は反幕府勢力の首魁である薩摩藩主・島津家久として千葉真一の柳生十兵衛と敵対している。
 それ以外の映画やTVドラマでも成田三樹夫は千葉真一と敵対する役を何度も演じている。やくざ映画・空手映画では『仁義なき戦い 広島死闘篇』『沖縄やくざ戦争』『宇宙からのメッセージ Messege from Space』、空手映画では『けんか空手 極真拳』『吼えろ鉄拳』、時代劇映画では『伊賀忍法帖』『影の軍団 服部半蔵』、TVドラマでは『服部半蔵 影の軍団』『影の軍団2』『影の軍団4(影の軍団 幕末篇)』でそれぞれ敵対し、時には一騎打ちを行い、時には暗闘を繰り広げた。
 市川雷蔵と出会うことによって殺し屋として目覚め
 森一生『ある殺し屋』(1967年)。市川雷蔵が演じる普段は料理屋の店主だが凄腕の殺し屋・塩沢に弟子入りを志願するやくざ・前田を演じたのが成田三樹夫。大映時代の作品では唯一パロディとして使われている。あのラストシーンがはたして殺し屋に目覚めたと言えるのかどうかははなはだ疑問だが。
 暴力団の幹部になって菅原文太と対決する。
 このふたりの名前が並べば当サイトのメインコンテンツでもある『仁義なき戦い』を思い浮かべる人も多いことだろう。だが『仁義なき戦い 広島死闘篇』『仁義なき戦い 代理戦争』では成田三樹夫が演じる松永弘と、菅原文太が演じる広能省三は非常に友好的なためこの条件には当てはまらない。敵対どころか松永は広能と対立することを拒み、やくざを引退して堅気の実業家になるぐらいだ。
 東映映画で暴力団幹部を演じる成田三樹夫と菅原文太が敵対する作品は、『新仁義なき戦い 組長の首』『新仁義なき戦い 組長最後の日』『県警対組織暴力』『まむしの兄弟 二人合せて30犯』などがあり、非やくざ映画でも『トラック野郎 一番星北へ帰る』など多数あるために特定不能だ。
 新宿署の刑事になり、テディ服部と名乗をかえ、松田優作をいびって楽しんでいた
 松田優作の代名詞ともいえるTVシリーズ『探偵物語』(1979-1980年)。米映画『探偵物語 Detective Story』並びに、松田優作も出演してるが薬師丸ひろ子主演の角川映画『探偵物語』とは無関係。
 成田三樹夫は愛すべき悪徳刑事・服部警部を演じ、彼の代表作となっている。服部警部の所属警察署は不明であり、「テディ服部」はバニー服部の誤りと思われる。また服部警部は『探偵同盟』(1981年)にもレギュラーキャラクターとして登場している。
 最近では探偵物語そのものよりも、「主人公・工藤」「ライバル・服部」の構図をいただいた名探偵コナンのほうが有名かもしれない。
 顔の色を変えて、リアベの実を持った八人の戦士たちと戦うことになる。
 深作欣二『宇宙からのメッセージ Messege from Space』(1978年)。仁義なき戦いスペースオペラ版。ヒロインのエメラリーダ姫が志穂美悦子というだけでスターウォーズよりも数段上の作品だ。
 成田三樹夫はガバナス皇帝・ロクセイア12世として、南総里見八犬伝からのいただきである八人の勇士たちと(深作もこの時点では『里見八犬伝』を撮るとは思いもしなかったようだ。ちなみにリアベの実=八犬士の珠である)、『柳生一族の陰謀』の白塗りからさらにパワーアップした銀塗り姿で戦うことになる。
 しかもその八人の勇士たちの主力メンバーが、ほとんど柳生十兵衛化していて王子様に見えない千葉真一、戦うお姫様・志穂美悦子、根来衆から宇宙暴走族にクラスチェンジした真田広之といった『柳生一族の陰謀』同様のメンツなのがいかにも東映といった感じで楽しい。クライマックスではは『柳生一族の陰謀』であっさりとトリックに倒れた烏丸少将の敵を討つかのように、ハンス王子こと千葉真一と壮絶な立ち回りを繰り広げる。
 成田三樹夫は出演していないので無関係だが、テレビ朝日系『宇宙からのメッセージ Messege from Space』(1978-1979年)で組んだセットを再利用して東映京都撮影所(京撮)で撮影された特撮番組『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』が存在している。本来は子供向け番組は東映東京撮影所(東撮)で撮影されるのだが、『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』はそういった事情から普段は子供たちがお目にかかることがないやくざ映画・ポルノ映画俳優が大挙出演したという快挙?で知られる。

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