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キュポポロン

これは少し未来のお話。いつの時代でも子供達がわんぱくなのは変わりません。

「やーいやーい」
「キュポポロンって言えよ、キュポポロンってい言えよバーカ」
「生意気だぞ、ロボットのクセに」

「キュポポロ〜ン」

おやおや、どうやら子供達は仲間の少年をいじめているようです。これはいけませんね。でも大丈夫、いじめられている少年はロボットなのですから。

犬やネコならまだかわいい。いい子いい子とエサをあげたくもなるでしょう。

しかしこのロボット達は見た目人間そのもの、頭は切れるしメンテナンスさえ怠らなければ無限に働く。これでは労働者は立場がないし、たまにムカッとするほどまともなことをいうので人間達には気持ち悪がられているのです。

「博士、今日もまたいじめられてしまいました」
「ふ〜む、一体全体どうしたというのじゃ」
「クラスの全員がおもしろがってウサギを死なせてしまったのをなかったことにしようとしたので、ボクだけが異議を申し立てたのです」
「う〜む、お主はウソをつけぬようにできているからのう。しかしそれはすばらしいことなのじゃぞ、わしら人間はおぬしのように潔癖には生きられぬ」
「それでもボクは早く人間になりたいのです博士。キュポポロンなどとバカにされたくはないのです」
「うう〜む」
「人間になりたいのです、こんな思いはしたくはないのです」

キュポポロンとは彼等ロボットに特有の言葉。プログラムに遊びを持たすための一種おならのようなものなのです。ガス抜きなのです。
ですが当然マヌケ極まりない、それゆえ、しばしばロボット達を侮蔑するための言葉として使用されます。少年にはそれがひどく耐え難いことなのです。

「人間にしてやりたいのはやまやまじゃ。やまやまなのじゃがの、ワシには残念ながらそんな技術はないのじゃ。わかっておくれ……」
「キュポポロ〜ン」



数日が過ぎました。

博士に頼まれたおつかいの帰り道。ロボット少年は道端につっぷしている老人を見つけます。周りの人間は見てみぬフリ、それはそうでしょう、だって老人は見るからに汚らしい不潔なコケの塊みたいな風体だったからです。

「おじいさんおじいさん、どうしましたか?お体が悪いのですか?」
「げふんげふん、もうダメじゃ、もうダメなのじゃー」

少年は老人を担ぎ上げると近くの木陰で休ませます。そこは少年、科学技術の結晶であるからには最新医療技術など当たり前のように搭載済み。チャッチャカと老人の治療を始めるとあら不思議、老人はまたたくまに元気を取戻したではありませんか。

「おお、おお、これは一体どうしたことか」
「もう大丈夫ですよおじいさん。それではお気をつけてお帰りなさい」
「待つのじゃ、待つのじゃ少年。お礼をさせてくれぬかの」
「はい?」
「実はワシは神様なのじゃ、なんでも一つ願いを叶えてやるぞ」
「ははあ」

少年は老人の頭のどこかに異常があるのだろうと狙いを定め、スキャンを開始しようとするのですが老人はガンとしてこれを拒む。残念ながら少年にはそれ以上強引な医療行為は許可されていません、あきらめるしかないのです。

「ふう、はあ、ふう、おのれ少年、ワシの言うことが信用できぬのか」
「残念ながらまったくできません、ロボットなので」
「なるほどのう。ではお主、人間になりたくはないか?」
「それはなりたいです。そうすればキュポポロンといわなくて済みますから」
「そうか、ではしてやるぞ、ホラなった」
「はあ……」
「これでお主はあらゆる束縛から自由になったのじゃ。キュポポロンというもいわぬもお主しだい、ウソだってつけてしまうし、道端でぶっ倒れている老人をスルーすることだってできるのじゃ」

そういうと老人は走って帰ってゆきました。残された少年、最初はなんのこっちゃ分かりませんでした。そりゃあそうでしょう、へんなじーさんがちょちょいのちょいで少年を人間にできるなら誰だって苦労しない、そもそも本当に神様ならなんで道端に倒れていたりしたのでしょう、自分で治せばいいのに。

それでも少年は、家に帰る途中からわくわくが止まらなくなりました。もしかしたら本当に神様だったのかも、そう思い始めると、本当に自分が人間になった気がして、バグったように思考の秩序が失われていくのです。

最後は小走り、勢いよく博士のラボの扉をブチ開けます。

「博士!ボク人間になりました!!」

どっすぃーん

にぶい音。

それは起こってはいけないことでした。

博士は白目を向き、口からはいやなにおいのする泡がこぼれています。2・3の痙攣も、すぐに止まりました。即死です。その手は恨めしげに一度だけ持ち上がり、すぐに崩れました。

少年が開けたドアのせいで、博士は死んだのです。少年は、なにがなんだかわかりません。本当にもう、なにがなんだか。



「やあやあ、なんだい今の音は。我々はたまたまそこを通りかかった警察の者だが」
「やや、人が死んでいるじゃぁないか!お前か!お前がやったのか!?」
「まあ待て相棒、様子がおかしい。ひょっとしてこいつはロボットなんじゃあないのか?コイツがロボットならこれは事故だ、この世界にはロボットを裁く法律が整備されていないからな。だが人間だったらアウトだぜ、故意であろうとなかろうと、人一人が死んでいるのだからな」
「それはそうだな、やい少年、どうなんだ、お前は人間なのかロボットなのか……」




「キュポポロ〜ン」



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