虚空の嘘と、空っぽの世界。
自分の中では、酷く酷似した違うもので。
起こってしまった事象を拒絶できない、
その葛藤を、知られては、
イ ケ ナ イ 。
「ねーねーブレイクー」
「何ですカァ」
サブリエから帰ってきて、4日。
私、ザークシーズ=ブレイクはそのうち3日を深い、それはそれは深い睡眠に使っていたので、実際の感覚は1日しか経っていない様な物だ。
声を掛けてきた金髪碧眼の少年、オズ=ベザリウスは何事もないように接してくれている。その演技力には感心した。
そして、やはり私に似ている部分があるな、とどこか自嘲する様な気持ちで考えながら。
「今日は雲1つない青空で、良い天気だよね」
どこか私と違う形で達観している彼は、そういって情報を交えた会話をしてくる。他人の表情ですら、自然な会話に混ぜ込んでくるのだ。
なんとなくで表情の予想は付くが、そういって肯定してくれるのは正直ありがたい。
口には、出さない。
「そうですネェ」
ぽん、と目前のテーブルの上に手を乗せる。寝間着に、レイムさんが掛けてくれた上着という服装で、屋敷のテラスでお茶会中。
探るように、その探る動作が不自然に見えないようにしながら手をスライドする。ソーサーに手が当たれば、ティーセットを見つけ、ゆっくりと持ち上げた。茶を啜る。
・・・・・・此処にくるのを私は最初渋っていた。
『えー・・・もうちょっと部屋でゆっくりさせてくださいヨー』
『いいではありませんか、短時間でも構いませんわ』
そう言い聞かせるようなシャロン=レインズワースの言葉に仕方がなく従った。妙な心配は、正直掛けたくはない。
来るまではレイムさんに補助をしてもらった。軽く体を支えるようにしてもらい、此処まで。
言い訳は、まだ体調が優れなくて少々の目眩、だ。
シャロンは心配したようなことを言ったが、いいですよ、という私の言葉で押し黙った。にっこり、と笑いかけて私はそれに答えたのだ。
そして、今に至る。
レイムさんは傍らにいてくれているらしく、軽い布ずれの音と呼吸音、彼の匂いが近くでする。
ちなみに、ここにいるのはオズ、シャロン、レイム、そして私。ギルバートとアリスはどうやら不在のようだった。まあ、理由を聞く気は毛頭ないが。
「あ、すいません。少し席をはずしますわ」
シャロンの言葉で、席を立つ音と離れていく足音。扉を開けて、閉めて。完全にどこかに行ってしまった様だった。
今いるメンバーは、事実を知っている。
私が、光を失ったことを。
「ブレイクはさ・・・。いつまでシャロンちゃんに黙っておくの? ・・・・・・辛くない、の?」
「隠せるまでは隠します。辛い? ははっ何言ってるんだか、このガキは・・・」
いつもの軽口のように、笑いながら返す。表情も軽い、軽い笑顔。
「そんなに深刻がらないで下さいヨ。貴方は当人ではないのですからネ? 辛くはありませんよ、来るべき時が、来ただけのようなものデス」
そういって、ゆっくりと席を立ち上がる。支えるつもりなのか、レイムさんが手を出してきたが、「大丈夫ですヨ」と一人で歩き出す。
片手はテーブルを這わせて、大体テラスの入り口であるガラス戸がある位置まで歩けば、次は手を伸ばしてガラス戸に手を当てた。テーブルと同じように手を這わせて、ドアノブを探し出した。きゅい、と開けて入ろうとする。
「辛いんだったら、早く言った方が良いと思うよ。ブレイクの目が視えなくなった事で傷付く人も居る」
「嫌ですネ。・・・・・・それに、辛くなんてありませんよ」
傷付く云々以外には強気にそういいきった。
言い切らなければ、・・・・・・。
「レイムさん、部屋まで連れてってください」
「・・・おまえ、部屋の位置分かってるだろ・・・・・・」
「あ、バレましたぁv?」
あはは、と笑いながらレイムさんがいるであろう方向に手を振る。
その方向が全くの見当違いの方向だとは途中で気付いたが、全く気にしてないような素振りで廊下へと続く扉の方に歩いてゆく。
大体このあたりにソファーがあったかなーとそこに手を伸ばせばビンゴ。ソファーのやわらかい表面が手に触れる。
それを伝って、扉にたどり着いた。
廊下に、出て。右側に二部屋が私の部屋。私の後をレイムさんが出たのを確認して、軽く溜息をついた。
レイムさんがこちらを伺うような気配を感じたが、とりあえず気にはせずに二部屋分の移動。目が見えない、というのは結構大変だな、と考えながら、壁を伝って歩く。
両目が見えないと、歩くのは感覚だけが頼り。下手すれば左右の感覚すらずれて来そうだった。慣れるまで、ボロは出さずに済むだろうか・・・。
部屋に、たどり着いた。きぃ、と扉を開けて中に入る。レイムさんも付いてくるようだったので、扉は開けたまま。
「ザークシーズ・・・・・・」
心配そうな声音。扉を閉じる音。私は軽い足取りでベッドのほうに飛び込んだ。先日のように、シーツに包まる。
自然と、目元に熱い物が集まるような・・・そんな。
シーツに包まったまま、少しだけ鼻を啜った。
「・・・・・・・・・」
ベッドに、自分以外の体重が乗る。頭にシーツの上から手を当てられた。ぴく、と反応を示せば、少しの間を開けてがばっとレイムさんに抱きついた。
シーツに包まれたまま、顔はきっと見えていないだろう。
「うぉっ!」
「・・・・・・・・・ネ、レイムさん。正直言っていいですか」
「・・・あぁ」
「正直言うとね、悔しいですヨ。これから、ってときに、もうその当事者であることは出来ないんです。おきることを、見て知ることは出来ないのですヨ。今、失明したことで気付きました。私の時間は・・・また、短くなったのですネ。これから、私は・・・・・・」
は・・・、と息をついた。これは正直、泣きそうだ。
此処までレイムさんに心を許していたんだな、と今更気付かされて。これから、記憶の中の彼の姿しか知ることは出来なくて。笑顔も、怒り顔も。全て。もう・・・・・・視ることは叶わない。嫌だ、と拒否しようとも、その現実は冷たく暗い影を落としている。
ぎゅ、と暖かい腕に抱きしめられた。匂いがする、レイムさんの。私の糖分的な甘い匂いに対して、落ち着いた彼らしい匂い。
妙に心底安心をくれるそれに、どこか余計泣きそうな気持ちを煽られたが、再び鼻をずず、と啜ることで耐えた。
「何も言うな。言って納得できる状態じゃないんだろ」
泣いとけ。
短くそういわれた言葉。う・・・、なんて声が漏れる。みっともないなあ、とか、彼も成長しちゃったんだなあ、とか。そう考えながら、相手の体に縋りついた。
暫く、嗚咽が続いたのは言うまでもない。
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おはこんばんは!てばさきです。
これは大好きなとばりさんに捧げます・・・!大好きですっ
書いていて萌えられました。なんとか持ち直せそうです。
ブレイクって泣かないイメージがあるのですが、ブレシャロ的にはもうシャロンの笑顔は記憶の中だけ。記憶で、いつか薄れてしまう。そう考えてそう・・・だな・・・。
って考えたのをレイムさんに適用してみました。
ブレイクとしては、レイムさんにかなり心を許してるって気付きつつも、泣き顔見せるほどじゃないって考えてそう。
・・・・・・収拾が付かなくなってきそうなので此処でやめておきます。
返品自由ですので、よければ!
とばりさん、愛してます!
091018