「ひとり……か」
今日は。前回講座でいきなりかっ飛ばしてしまったため、この講座をかっ飛ばす方が
おられるようです。アルコールは少し自重する事にしますので、ちゃんと出席して下さいね。
さて、今回は「ひとり……か」の変格活用についてご説明します。
「ひとり……か」
どうです、言葉全体に漂う荒涼とした悲哀。
これがもし、「ひとり、か」だったらこうはいきません。
「ひとり、か」の後には舌打ちがきてしまいます。ただのひがみです。
「ひとり……か」
この「……」部分こそ、この言葉を活用する上での最大の焦点といえましょう。
では、この言葉を有効に使用した一例をご覧下さい。


ある日の昼下がり。Bクンは幼なじみのCさんに呼び出され、喫茶店へ行きました。
出がけに電話が鳴ってしまったせいで、少々遅刻してしまったBクン。

喫茶店に着いたときには、もうCさんは席に着いていました。

「ごめん、遅くなって。」
「ううん、いいのよ。」
Cさんは微笑みますが、目の前に置かれたカップはからになっています。
Bクンは申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。しかし。
「Aクンもまだ来てないから。」
Bクン、完全に不意を突かれました。イスに座る寸前の中腰姿勢で動きが止まります。
Aが来る?
何故だ。何のために。俺に幸せそうな二人の姿を見ろというのか。
地獄のキューピッド役だけじゃ不十分だっていうのか。
俺がいったい何をしたっていうんだ。何の因果でこんな目に。
しかもこいつら、今日が初デートじゃないのか。
ちくしょう。すみません。勘弁して下さい。
一瞬の間に以上の事を考えたBクン、Cさんが不審に思う前に何とか動きを取り戻しました。
イスに深く腰掛け、コーヒーを頼みます。
「ねぇねぇ、もうすぐAクンの誕生日なんだけど、何あげたら喜ぶかなぁ?」
「さぁ、俺、そういうのうといから……」
んな事俺が知るか。
「あんまり高い物だときっと困っちゃうでしょう? やっぱり時計とかがいいかなぁ。」
「Cが心をこめた物が最高のプレゼントなんじゃないかな。」
君。プレゼントは君。
かわいそうに、どんどん暗くなっていくBクン。
それから程なくAクンが現れ、地獄のショウタイムが始まりました。
何せ今日が初デートの二人。
しかも、実はずいぶん前からAクンもCさんの事が好きだったなんて、
ナイス設定がおまけです。
「昨日学校でね――ひどいでしょー?」
「でも、それは君がかわいいからだと思うな。」
「やだ! そんなこと言って、もぉー。」
「あはは、冗談だよ」
万事が万事この調子。
さすがのBクンも頬が引きつります。
これは一体何だ。何のつもりだ。
頼むから俺の知らないところで幸せになってくれ。
立ち直るにはまだまだ時間がかかりそうな失恋。
傷口に塩を塗ったくり、忘れることさえ許してくれない二人の行動。
このままでは立ち直る前に人格崩壊してしまいそうです。
たっぷり三時間二人の世界を見せつけられたBクンは、映画に行くという二人の誘いを断り、
疲れ果てた体と心を引きずって帰路に着きました。
すれ違うどいつもこいつも幸せ面に見えます。
「ひとり……か」
街はすっかり秋色です。



いかがですか?
あまりにも暗い例で、私まで人格崩壊起こしそうです。
今後この用例シリーズはやめましょう。