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■ テニプリ@ペアプリその後立海にて | 2014. 1. 4 |
「あれっすよ、山吹中のちょっと怖そうな奴!」 「怖そうな奴? あ〜、髪の毛逆立ててる奴のことか? 目つきが悪い奴」 放課後、慌しげに部室にやって来た切原は、先に来て着替えにはいっていたジャッカルと丸井に、昨日の放課後に起こった事を怒涛の如く喋りだした。昨日から誰かに話したくてたまらなかったのである。 「そっす! そいつ、イヤその人っす! 」 「ああ、アイツなんて言ったかな……あんまり良い噂聞かない奴だよなぁ……不良で手がつけられないとか」 「で、そいつが何なわけ?」 生真面目に話を聞いて切原の言う人物の事を思い出そうと頭に手をやっているジャッカルを尻目に、丸井は着替えつつ話の続きを促す。その口調はあまり興味が無いと如実に語っていたけれど、切原はまったく気にしない。 「その、なんとかさんがっすね、絡まれてる俺を助けてくれたんっすよっ」 「はぁ? お前を? なに、そいつと知り合いなわけ?」 切原の言葉に、丸井は脱いだ制服のシャツをロッカーに入れる手を止めると、横に立つ切原にくるりと見開いた瞳を向けた。当の切原は丸井の言葉に、困ったように眉を顰める。 「いやぁ、全然っす」 「まあ、名前さえ知らないなら当然だろうが。しかし、どうしてそいつはお前を助けたんだ?」 何か心当たりとか無いのか? そう尋ねるジャッカルに、切原は表情を変えぬまま頭を振る。 「それが全くなんすよ。そこでお二人心当たりが無いかなっーて」 「お前が無いのに俺らがあるわけ無いだろー?」 「それか、そいつが本当は良い奴で、困っている奴を放っておけないとか?」 皆思い思いの事を勝手に喋っていると部室のドアが、ガチャっと開く。 「貴様ら、まだ準備が終っていないのか?」 「げっ」 入ってきたのは元副部長の真田と柳。全国大会が終り三年は実質的に部活を卒業するのだが、大学までエスカレーター式のため受験らしい受験が無く、多くの部員は依然として部活に顔を出している。 真田の視線は未だ制服のままテニスバックを持っている切原に向けられていた。他の先輩二人は着替えは終えていたけれど、まだ制服などが奇麗に片付けられていない状態。でも、すぐにでも出て行くことはできる。 部活前から元副部長の小言なんて喰らっていられないと、ジャッカルと丸井は手早く制服をロッカーに押し込むと、切原を置いて先に行ってしまう。それに習い、切原も慌てて制服を脱ぐというより剥ぎ取っていく。 「赤也、お前が言っていたのは山吹中三年、亜久津仁という男の事だろう」 足音も立てずに、いつの間にか背後に立っていた柳に切原はびくっとしたものの、その事よりも柳の言った内容に反応した。 「さっすが、柳先輩〜。何だ、最初から先輩に聞けばよかったっすね〜」 「ふむ、そういうのはお前の勝手だが、奴がお前を助けた理由までは俺には分からないぞ」 部室の外にまで聞こえ筒抜け状態だった話の内容に、柳は線引きをする。 「え〜、そうなんすか〜?」 柳を答えを何でもはじき出してくれる電卓か辞書と同じくらい信頼している切原は、先に断定されて少し失望したような様子だった。 「まぁ……予想くらいならば、できるがな」 「え、まじっすか?! 教えて下さいよ!」 「解を直ぐに求めようとするな。……そうだな、幾つかの手がかりを与えよう、そこから答えを導き出してみろ」 「ええ〜?」 制服を脱ぎ捨てジャージを頭から被る柳の背中を、切原はずぶ濡れの仔犬のような瞳で見つめる。ジャッカル辺りならば絆されて助けてしまうのだが、参謀はそんなに甘くは無い。 「そうだな……文化祭、手助け、青学あたりだろうか」 「なんすか、その意味の分からない言葉の羅列……」 分かるわけないじゃないっすか! 叫ぶ切原を尻目に、先に着替え終えた柳は涼しげな表情で切原の事を振り返る。その口元は心持上がっているように、切原には見えた。 「そうか? これがごく簡単な問題だと思うが……そうだな、もう一つ加えるのならば幼馴染だろうか?」 「切原、いいかげんに着替えないか! たるんどる!」 柳同様着替え終えていた真田の一喝が部室内に響き渡る。空気を揺らすほどの声量に、切原はひいっと肩を竦める。 「分からなければ部活が終った後にでも教えよう……俺たちは先にコートに行くぞ、弦一郎」 残された切原は、着替えなきゃと思いつつ頭の隅で柳から与えられた言葉を反復していた。分からないままで部活に向かうとモヤモヤして集中できないし、ここまでされた後に柳に聞くのも何だかプライドが許さない。 切原の頭の中で、柳から与えられた四つの単語がくるくると回る。 四つの単語の中で、最も今の切原が身近に感じているのは文化祭だった。開催にはまだ時間はあるけれど、今から準備期間に入るわけで。そう言えば数日前に買出しに行って、何だか舞台に立つ方になれといわれたなーと、思い出して切原は一人ブルーになる。 折り紙を買ったのは悪かったのかもしれないけれど、模造紙が売り切れていたのが一番の原因だし、俺は悪くない筈だしと一人憤慨した切原は、そう言えばそこで青学のテニス部員に会ったっけと思い出した。 確か河村さんって人で、そこで一騒動あって、先輩のお陰で何とか事態は丸く収まったんだよな。 「ん?……青学と、手助けって、この事?」 と言う事は柳先輩が示していたのはあの日の事? それとも河村さんの事? そこまで考えた切原は、最後に齎されていた言葉を思い浮かべる。幼馴染と言う事なら、人間同士って事だから、河村さんの事なんだろうか。多分、そうなんだろうけど。 「……幼馴染? 河村さんと……亜久津さんがっすか? ……ああ、だから!」 柳から与えられた幾つかのキーワードを元に導き出した答えを元に、切原は柳が言いたかったであろう事を探し当て嬉しそうに叫んだ。 「なるほど、俺が河村さんを助けたから、そのお礼みたいなもんって事すか〜。なーるほど〜」 「情けは人の為にならず、だな赤也」 「!」 再度背後から聞こえてきた声に、流石の切原もビクッと戦いた。部室のドアを開ける音なんて聞こえてこなかったのに、である。 「ふむ、少々簡単すぎたようだな。呆気なく分かってしまい面白みが無い」 「なんすか、面白みが無いって」 「そのままの意味だといっておこう。それよりも赤也、どれだけ待っても来なかったので様子を見に来たのだが……弦一郎が怒り狂っているぞ」 「!!」 さっと切原の顔が青褪める。その様を他人事のように冷静な様子で見た柳は、さっさと来いと言いながら出て行ってしまう。 「ぎゃー!」 部室には切原の叫び声が木霊した。 『ふむ、そう言った事態になっていたとは。意外だな。亜久津も人の子だったと言う事か』 「俺は実際に亜久津と言う人間に対面した事ないのだが、それほどの者だったのか?」 『まあ、今回のような行動をとる人間だとは到底思えないような振る舞いを、青学ではしてくれたよ。その被害者である越前が聞けば、驚くだろうな。"あの人頭でもうったんすか?" と言った具合にな』 電話口からくっくっと愉快そうな笑い声が聞こえてきて、柳もつられたように笑う。 「そんな奴がよくもまあ、更正したものだな。その河村と言うお前の仲間の仕業か?」 『さあ、俺が知る範囲で二人が会話していたのは山吹中戦の時だけだしな。しかしその可能性は大いにある。なんと言っても全国の準決勝で様子を見に来たくらいだからな。俺を含め青学の皆は驚いていたよ、あの亜久津が? とな』 「なるほど……では亜久津の弱点は河村と言う事か」 『そういって、差し控えは無い筈だよ、蓮二。俺の方もデータを更新しておかなければ……』 言って二人、同時に笑って。電話はそこで終った。 *** 立海メンバー初書。 |