| "MANTIS" 第17話 文:えいじー ――互いの切り札が全て出尽くした時。 最後に切り札を出した者が勝利を収める。 エルメスプレート、PM0:40。 空洞の奥深くに造られた空間に、無機質な轟音が響く。 「チェックメイト、か」 牢獄内でスナイパーを犯していたローグは、 轟音と共にぽっかりと開いた遠方の空洞を見ながら呟いた。 「ぇ……何?」 「独り言だ、気にすんな」 「――はぅっ!」 露出した肉芽を摘み上げられ、鎖に繋がれたスナイパーは嬌声をあげる。 片胸を圧迫され、先端を弾かれ、膣内に挿し込まれた指を前後させられるたび、 彼女の口から甘く切なげな吐息が漏れ続ける。 「いい声で鳴くじゃねぇか。もう抵抗はしないのか?」 「っ、はぁ……抵抗しても…どうせ挿れるんでしょ……」 「そりゃな」 言いながらローグは挿し込んだ二本の指を折りたたみ、肉芽の裏側を擦るように愛撫する。 その刺激に敏感に反応し、スナイパーは身を縮ませながら脚をガクガクと震わせた。 「おら、気持ちいいか?」 「…っ、はぁ、はぁ……っ」 ローグの問いに対し彼女は何も答えなかったが、速く短くなる吐息と惜しみなく溢れ出す愛液が肯定の意を表している。 彼女の反応に満足したローグは、懐から取り出した鍵で彼女の両手首を拘束する手枷を外した。 「はぁ、ぁ……?」 自由になった両手を降ろさぬまま、きょとんとした顔を向けるスナイパー。 そんな彼女の様子に構わず、ローグはスナイパーの身体を抱き締めながらゆっくりと横たわらせた。 「素直になった御褒美だ。今日は優しくしてやるよ」 冷たい石畳の上に横になった彼女の脚を開き、その谷間に怒張をあてがうローグ。 そして先端を埋めた後、彼女に覆い被さりながらゆっくりと根元まで挿入していった。 「…っ――はあぁぁ……っ!」 今までの乱暴な挿入とは違い、「挿れられている」感触をはっきりと自覚できる速度の挿入に、 スナイパーは腰をよじらせながら一際高い声をあげる。 自分の最奥まで挿し込んだローグは自分に重なるように寝そべっており、 彼の体重、肩を押さえる指の動き、首筋にあたる細かな息遣い、そして挿し込まれた陰茎の脈動、 全てが、彼女自身のものであるかのように感じられた。 「…動くぜ」 呟き、ローグはゆっくりと腰を動かし始める。 覆い被さりながら行われる抽挿は遅く小刻みなものであったが、膣壁を優しくなぞる雁首の動きは 彼女にとって激しい抽挿よりも遥かに性的興奮を誘発させる動きであった。 「は、やぁ……っ!…はぁっ、は……ぁっ」 スナイパーの肢体がほぐれてきたのを見計らい、上体を起こしながら体勢を変えるローグ。 そして開かれた片脚を抱え、結合されている腰の角度をずらす。 「っ……?」 「指で調べた時、ここが一番弱かったな」 言いながら、ローグは膣内の左奥めがけ一気に腰を突き出した。 「――んぅぅっ……!!」 途端、彼女の肢体がビクンと跳ね、膣壁がローグの肉棒をきつく締め付ける。 その反応に小さく笑うと、ローグは同じ場所を目掛け何度も腰を前後させた。 「…〜〜っ!!だ、だめ……っ、そこ……だめぇっ!」 「気持ちいいか?」 「……っ!う、くぅ……んっ!」 ――自分の立場や敵対関係など、もうどうでもいい。 その些細なものを捨て去る事で、この快楽が続くのならば。 「っ、…きもち…いい……っ」 ローグの腰の動きに対し、スナイパーは涙を浮かべながら力無く首を縦に振った。 「可愛いぜ……そのままイっちまえよ」 豹変した彼女を責めるローグもまた、今までとは違う興奮を自覚していた。 その興奮を暴走しない程度に抑え、ローグは彼女の片脚を抱えながら腰の動きを速めていく。 「ぁ、ひぁっ!……だめ、も…もう……っ!」 「イったら俺も出すからな。出す場所はお前に選ばせてやるよ」 「……っ!こ、このまま…だして……なか……っ!」 「そうかい、なら遠慮なく」 変わらぬペースで彼女を突き上げながら、空いた左手で彼女の乳房を揉みしだくローグ。 「ひゃ、ぁく……っ、ん――んんぅ……っ!!」 上下を責められながら、スナイパーは足の指先をぴんと張り詰め長く切ない嬌声をあげる。 彼女の絶頂を確認したローグは、急激に締め付ける膣内の刺激に逆らわずに欲望を暴発させた。 「――っ!ふぁ、ぁ――……っ!!」 自分の膣内で怒張が激しく脈打つ感覚と、下腹部から胎内にまで熱い液体が広がっていく感覚。 その純粋な刺激と「相手が膣内で果てた」という実感に包まれ、 スナイパーは一度絶頂に達した肢体を更に大きく震わせた。 ・ 「…はぁ……ぁ…」 脱力した身体を石畳の上に投げ出すスナイパーを余所に、ローグは手早く後始末を済ませ服を着る。 「いい鳴き声だったぜ。あばよ」 言い残し立ち去ろうとするローグに対し、スナイパーは慌てて声をかける。 「ま、待ってよ!」 「あん?」 「鎖、繋げなくていいの?」 「何だ、縛られるのが趣味なのか?」 「そうじゃなくて!…逃げちゃうわよ、いいの?」 「逃げたきゃ逃げろよ」 ローグはあっさりと言い放つと、遠くで口を開けている空洞に目をやった。 「見えるか?…あれは化け物がここを通った跡だ。 うちのマスターなんかじゃ手に負えない化け物の、な」 「化け物…?」 「てめぇの扱いきれない化け物を呼び出した時点で、このギルドもアジトも潮時って事だ。 お前も巻き込まれたくなかったらさっさと逃げな」 そう言って再び背を向けるローグ。 後を追おうと慌てて服を着ようとしたスナイパーだったが、地面に落ちたネックレスに気付き視線を落とす。 「ちょ、ちょっと!ネックレス、落として――」 彼女が視線を戻した時、既にローグの姿は霞のように消えていた。 ・ 「……なに、これ」 目の前の物体に対し、ウィザードは呆けた声をあげた。 最初は、一本の太く長い針金。 それが完全に姿を現したのとほぼ同時に、無数の細い針金が周辺の地面を抉りながら現れ、 太く長い針金に巻きつくように折り重なっていく。 土埃が晴れた頃には、それは周りに無数の針金を張り巡らせる巨大な筒状の怪物となっていた。 「アサ子!マー子!」 やがて倒れる二人の姿を目視したウィザードは、我に返ったように彼女達のもとへ駆け寄る。 「大丈夫!?」 「ああ。これ以上の戦闘は不可能だが」 商人を庇うように伏せていたアサシンクロスは、ウィザードの声に対し上体のみを起こす。 その右脚には、砕けた鉄格子の金属片が無数も突き刺さっていた。 「私よりもオーナーの状態が危険だ」 言われて商人の方へ顔を向けたウィザードは思わず息をのむ。 金属片だけでなく抉れた地面の欠片も浴びたらしく、彼女は全身から血を流し苦しそうに呼吸している。 「…白ポは!白ポはないの!?」 「オーナーが所持する回復剤は全てカートの中だ。先ほど確認した」 「確認したって…じゃあ、何でカートから白ポを持ってこないのよ!?」 答える代わりに、アサシンクロスは物体や彼女達からやや離れた場所を向く。 そこには中身を散乱させて横転しているドーム型カートがあった。 「カートによって衝撃は和らいだようだが、それでもガラス製のポーション瓶は全て割れていた」 あくまで冷静に、淡々と状況を告げていくアサシンクロス。 彼女の冷めた態度に対しウィザードは苛立ちを見せない。 むしろこの状況で平静を保っていられる彼女に感嘆の意すら抱く。 (参ったわね…さすがにこれは厳しいかも) 見上げる先には、目的の地を塞ぐ巨大な障害。 二名の人質と重傷者、双方向から切迫するリミット。 「――やぁっ!!」 程なくして、必然的に響く悲鳴。 焦燥した表情のままウィザードが見上げた先には、 ハイプリーストに強引に連れられるクリエイターの姿。 ハイプリーストは彼女を連れてプリーストのいる階段の側まで辿り付くと、 抵抗する彼女を引き倒し、強引に服を脱がし始めた。 「やぁ、やだぁっ!!やめて…助けて……っ!!」 「ケミ子!?…っ、この……っ!!」 彼女を助ける為、ウィザードはユピテルサンダーを叩き込む。 しかし雷光球はハイプリーストに届く前に怪物に阻まれ、跡形もなく消滅した。 「くっ――邪魔よ、どいて……っ!!」 炎、水、雷、土。 あらゆる属性の魔法を放つウィザードだが、そのどれもが海に投げ入れた火種のように掻き消される。 「くく…無駄だ、こいつには魔法など効かん」 試行するウィザードを嘲笑い、抵抗するクリエイターを制していくハイプリースト。 やがて引きちぎるようにショーツを取り去ると、貞操帯のつけられていない無防備な秘所に顔を埋めた。 「嫌ぁぁ――っ!!」 泣きじゃくりながらハイプリーストの頭を引き離そうとするクリエイターだが、 ハイプリーストは無視して彼女の膣口に舌を這わせ続ける。 しばらく、口による陵辱が続いた後。 抵抗する力の弱まったクリエイターから顔を離すと、そのまま身体をずらし彼女に覆い被さる。 そして準備の出来た怒張を取り出し、唾液で濡れた膣口に擦り付けた。 「――っ!?やっ、だめ……っ、お願い、許してぇ…っ!!」 「言ったはずだ、裏切ったらこうなると」 「やぁぁっ!!ウィーちゃん…ウィーちゃん……っ!!」 悲痛な呼びかけがウィザードに届く。 駆け寄りたい。 魔法が通じないなら、駆け寄るしか彼女を助ける方法はない。 ほぼ間違いなく、何も出来ず怪物に殺される事がわかっていても。 「――っ!!」 杖を握り締め、ウィザードが決意のこもった一歩を踏み出そうとした時。 「ぇ……?」 間の抜けた声と共に、ハイプリーストの身体がクリエイターから離れた。 「姉、さん?」 ハイプリーストの身体を引き起こしたプリーストの表情には、 不満と悲しみ、そして僅かな嫉妬の色が含まれている。 その表情を見て、ハイプリーストの表情が困惑に揺れた。 「ち、違うんだ姉さん!これは制裁であって、決して姉さんからの心変わりなんかじゃ……」 ハイプリーストの弁解を聞かず、プリーストは彼の股間に跪く。 そして何も言わず、いきり立った怒張を優しく口内に含んだ。 「く、ぁ……」 下腹部を駆け抜ける甘い痺れに、ハイプリーストの注意がクリエイターから逸れる。 その隙を見てクリエイターは立ち上がると、プリーストに目をやり僅かに躊躇しながらその場を離れた。 逃げ出す彼女に対し一瞬だけ視線を移すハイプリーストだが、すぐにその関心をプリーストに戻す。 プリーストもまた、自分の元に戻った彼を愛でるように窄めた口を前後させる。 「ごめん、姉さん…制裁はローグに任せればいいんだよね。 こいつが階段を守る限り姉さんが奴等に連れ去られる事はないから、安心して……」 優しく髪を撫でつつ、四つん這いになったプリーストの赤い法衣を捲り上げる。 そして露出した尻に手を回し濡れた秘所を愛撫しながら、ハイプリーストは彼女の口技に溺れた。 ・ 「ケミ子!」 階上の通路をぐるりと回ってきたクリエイターを追い、ウィザードは階下の端まで走る。 「ウィーちゃん!」 「ケミ子、飛び降りて!」 「む、無理!高過ぎるよー!」 「大丈夫、あたしが受け止めるから!」 「駄目、あたし最近ダイエットしてなかったもん!」 「あーもう、いいからさっさと飛び降りなさい! 今はマスターに気を取られてるけど、あんたがヤられちゃうのは時間の問題なのよ!?」 早口にまくしたてるウィザードだが、それでもクリエイターはぶんぶんと首を振り続ける。 「も〜……飛び降りるのが無理なら、あの化け物をなんとかする方法とかわからないの!?」 「わからないよ!あんなの見た事ないし……ケミ君、何か知らないかな?」 「ケミ君?」 クリエイターの指差す先には、気絶したままカートから投げ出されたアルケミストの姿があった。 そこで初めて気付いたように、ウィザードは彼のもとに駆け寄り叩き起こす。 「ん……」 「おい、敵ケミ!あの化け物は何なの!?」 「なんだよ…化け物?」 気だるそうに身体を起こそうとしたアルケミストの表情が、階段付近の光景を見て固まる。 「――げ」 「げ、って事は知ってるのね!?何よあれは!?」 「…ふん。知ってたとして、お前なんかに教えると思ってるのか?」 「……へぇ、また可愛がって欲しいんだ」 にっこりと笑うウィザードに対し、明らかに動揺したように身じろぐアルケミスト。 そんな彼に、真上にいたクリエイターも呼びかけた。 「ケミ君、お願い!最低限の情報だけでいいから!」 その声を聞き彼女の存在に気付いたアルケミストは、ちらりと真上を見上げた後すぐに視線を戻す。 そして気まずそうに俯きながら、階上に届くぎりぎりの声量で呟いた。 「……識別名『ネマトモルファ』、全長約15メートル。頭足類の特徴も持つが便宜上環形動物として扱う。 構成物質は第1環帯から順に雑鉱物、雑鉱物、ゼロイド含有鉱物、有機物、以下雑鉱物。脚部同様」 アルケミストの言葉に対し、ウィザードは顔をしかめる。 「ちょ、ちょっと。それで終わり?」 「終わり」 「あのねぇ…もうちょっとこう、弱点とか属性とか……」 「――うん、充分。有難う、ケミ君!」 笑顔で駆け出すクリエイター。 彼女に顔を向けず、アルケミストは片手をあげて応えた。 「ウィーちゃん、あの化け物の先端のちょっと下に色の変わったところがあるでしょ?」 「うん。あれが弱点?」 「あの下に見え隠れしてるピンク色のが脳だと思うんだけど、あの部分が周辺の魔法を無力化してるの。 だけどあの部分は物理攻撃に弱いはずだから……」 「まずあの部分を物理攻撃で破壊して、剥き出しになった脳みそにあたしが魔法をぶち込めばいいのね」 「そそ。…ただ、問題はどうやってあれを破壊するかなんだけど……」 「…わたしが、やります」 二人の会話に割り込む声。 ウィザードが振り返ると、皇騎士が剣で身体を支えながら二人を見つめていた。 髪が乱れ白濁の付着したその身体は、度重なる陵辱によって消耗しきっている。 「ろ、ローちゃん…その身体じゃ、あの部分まで辿り付くのは無理だよ……」 「でも、アサシンクロスさんがあの状態では私しか適任がいません」 「……ロナ子。あたしが何とかするから、あなたは休んでなさい」 「む、無茶です!それにウィザードさんだって…その、先程……!」 「あなたよりは犯され慣れてるわ」 皇騎士の肩をぽんと叩き、ウィザードは階段前に向けて歩き出す。 (あの脚をかわして、胴体をよじ登って、あの部分を叩き壊して零距離からユピテルサンダー…か) 頭の中で組み上がった作戦の無謀さに、ウィザードは思わず吹き出すように笑う。 成功率はゼロに等しい…だが。 「マスターとケミ子を見捨てて逃げるくらいなら…無茶して死んだ方がマシね」 声に出して呟き、ウィザードは再び標的を見上げた。 周りに無数に張り巡らされた細い針金状の脚、そしてその中央にそびえる巨大な胴体。 その上部にある弱点、あそこまでの距離と高さは―― 「……?」 そこで、ウィザードは気付く。 標的の周りを徘徊する飛行物に。 「え……まさか」 確かにこのアジトまで来る際、あれが上空を追って来ていたのは気付いていた。 しかしアジトに入った所で追って来なくなったのを最後に、彼女の思考から忘れ去られていた。 いつの間に、ここまで辿り付いていたのか。 「シン・リジィ……?」 怪物の射程外ぎりぎりを優雅に羽ばたく白銀の鷹は、 広間を回りながらゆっくりと降りていく。 降り立った下には、先刻まで閉まっていた階下の鉄格子と、そこに立つ主の姿。 真紅のマフラーをなびかせて立つ、スナイパーの姿があった。 「――待たせたわね!」 小走りで近づく彼女の姿に、ウィザードの顔から思わず笑みがこぼれる。 「ハンタ子……!」 「…うん、再会のハグとかここまで来れた説明は後回しの方がよさそうね。 とりあえずあのデカいのを何とかしなきゃならないんでしょ?」 頷き、状況を説明するウィザード。 隔離された二人の人質、戦闘不能になった二人の負傷者。 そしてアルケミストがクリエイターに伝えた怪物の弱点。 スナイパーはアルケミストとクリエイターを交互に見ると、 にやつくように笑いながら頷いた。 「オーケー、わかったわ。あの部分はあたしが破壊するから、ウィズさんはユピテルサンダーの準備をしてて」 「でもハンタ子……弓はあるの?」 ウィザードの問いにスナイパーは首を振る。 「牢獄からここまでの間、自分の弓は見つけられなかったわ。でも……」 言いながら、斜め上を見上げる。 「あたしには、頼れる相棒がいる」 ・ 「――っく、ふぅ……」 プリーストの口内で絶頂を迎えたハイプリーストは、頭を撫でながら彼女に精液を飲下させる。 その後何度か頭を前後させ肉棒を掃除させると、ゆらりと立ち上がり法衣を整えた。 「何やら一人増えているようだが…くく、弓もないスナイパーに何が出来る」 虚ろな表情のプリーストを立ち上がらせ、手を引きながら歩き出す。 連れ添う最愛の人として、そして同時に人質として。 「…ハンタ子!」 クリエイターに向かってゆっくりと近づくハイプリーストの姿を確認し、 ウィザードはスナイパーを急かす。 「わかってる……」 白銀の鷹を見上げながら、スナイパーは呟く。 「ごめん、シン。一度だけ力を借りるね」 右腕を真っ直ぐに突き出し、鷹を呼び寄せるスナイパー。 餌掛けによって保護されていない腕に降り立つのを躊躇うように羽ばたく鷹だったが、 スナイパーは構わずに左手で招き続ける。 「いいから、停まって」 間近で何度か羽ばたいた後、ゆっくりと右腕に着地する鷹。 鋭い爪を立てられた右腕に血が滲み、スナイパーは僅かに顔を歪ませる。 「――ウィズさん、この1発が最初で最後だからね」 「わかってるわ」 言いながら、ハイプリーストの歩みを横目で確認しながら、ゆっくりと詠唱を始めるウィザード。 瞳を閉じ、隣で淡い光を感じながら小さく深呼吸したスナイパーは、 左手を添えた右腕を怪物の方向へと向ける。 狙うは、ただ一点。 「ファルコン――アサルトっ!!」 ――弾丸のように撃ち出される白銀の鷹。 鮮血を迸らせながら大きく跳ねる右腕、そしてその反動を懸命に堪える右足。 白い閃光は彗星の如き疾さで怪物の脚を掻い潜り、その中心部へと一直線に向かっていく。 ウィザード達が、アルケミストが、そしてハイプリーストがその軌跡を目視した瞬間、 轟音と共に怪物の第3環帯が砕け散った。 「なっ――!?」 呻きながら大きく脈打つ怪物の巨体に、ハイプリーストの表情が一転する。 「今よ、ウィズさん!!」 「まかせてっ!」 弾け飛ぶ甲殻の破片、そしてうねりを見せる怪物の巨体。 その合間にはっきりと見える心臓部を凝視しながら、ウィザードは巨大な電撃球を練成させる。 「全力でぶち込んであげるわ……ユピテル・サンダー!!」 大きく広げられる両腕。 解放された電撃球が、火花を散らしながら怪物へと放たれる。 ファルコンアサルトをも凌ぐスピードで直進する光球に対し、 迎撃の為に突き出した怪物の脚は何の意味も為さない。 ――かくして、それは無数の脚や胴体ごと、怪物の心臓部を貫いた。 ・ 地響きをあげながら崩れ去る巨体。 その土埃がおさまり、怪物の動きが完全に止まったのを確認した頃には、 ハイプリーストとプリーストの姿は階上から消えていた。 「パーちゃん、大丈夫!?」 「っ……あたしは平気だから、マーさんとアサさんを、早く!」 血に染まりだらりと垂れ下がった右腕を庇いながら、 階段を駆け下りてきたクリエイターを促すスナイパー。 「あたしはあいつとマスターを追うわ。ロナ子、着いて来れる?」 「もちろんです!」 負傷者やアルケミストの保護をクリエイターに任せ、ウィザードと皇騎士は階上に向けて駆け出す。 階上のすぐ側にある大きな扉。 他の出入口からの距離を考える限り、ハイプリーストが逃げたのはここしかない。 「ウィザードさん、大丈夫ですか?」 「…だいじょばないのはあたしもあなたも一緒でしょ?いいから、急ぐわよ!」 全精神力を込めて魔法を放った事で疲弊しきった身体。 その身体をひきずり、額に大量の汗を浮かべながらウィザードは走る。 扉から通路へ、散乱したジェムストーンや宝石類を踏みしめながらさらに奥へ―― 「っ!?」 崩れた岩壁を抜けたところで、周りの光景が一変する。 大きく開けた青白い空間と、その中央に配置された巨大な球体。 皇騎士にとっては馴染みのある光景。 「ユミルの心臓……ここに繋がってたなんて」 「マスター達はこの中に入ったの!?」 「いえ、ここに入る事ができるのは転生者とその資格がある者だけです。 敵のハイプリーストは入れますが、マスターが一緒に入る事はできません」 「じゃあ、外ってことね!?」 息つく間もなく駆け出すウィザード、そして後を追う皇騎士。 螺旋状の階段を駆け上がり、さらに続く通路を駆け抜けた先にあったのは、 尊厳さを湛えた空間――セージキャッスル屋内であった。 「マスター!!」 人の気配のない屋内に、皇騎士の叫びが響く。 双方から石像が無言で見つめる通路に、二人の駆ける足音が響く。 ――その中に微かに混じる別の足音。 淡い照明では灯しきれない前方の暗闇の中、ウィザードはハイプリースト達の姿を確かに確認する。 「待ちなさいっ!!」 二人を追い、限界を越えた身体に鞭打って走り続けるウィザード。 やがて、彼女達は無数の本が四方を囲む吹き抜けに辿り付いた。 ・ 「来るな!!」 狭まった通路の行き止まり、青白く輝く魔法陣の上で、 プリーストを抱き寄せたハイプリーストが叫ぶ。 「……終わりよ。マスターを離して投降しなさい」 ハイプリーストの言葉を無視し、ゆっくりと近づくウィザード。 「お前達に…お前達なんかに、姉さんは奪わせない!」 魔法陣の光が収まる。 プリーストの瞳は虚ろなまま、激昂するハイプリーストの腕の中で揺られている。 「口を慎んでください。そのままマスターを離さないのなら…斬ります」 ウィザードを追い越すように歩幅を大きくしながら、皇騎士は鞘に収まった剣に手をかける。 「近づくな…近づくな……」 二人の言葉に耳を貸さず、ぶつぶつと繰り返すハイプリースト。 皇騎士の歩みは止まらない。 再び、魔法陣が青く輝く。 その瞬間、皇騎士は抜刀しながら無言でハイプリーストに向けて駆け出した。 「近づくなぁぁっ!!」 「――っ!?」 瞬時にハイプリーストに詰め寄り、肩口に斬りかかろうとした皇騎士の身体が跳ね返される。 そして、魔法陣の光が再び収まる。 起き上がった皇騎士が見たのは、ハイプリースト達の周囲に張られた四角形の隔壁だった。 「バジリカ……か」 舌打ちしつつ、ウィザードは魔法を発動させようとした両手を元に戻す。 「そんな時間稼ぎが最後の切り札のつもり?その中じゃポタも発動しないし、 バジリカの効果が終わってからポタを詠唱しても余裕で潰せるわ」 ウィザードの言葉に対し、ハイプリーストは静かに笑う。 「くっ、く……誰が逃げるなんて言った?」 三度輝き出した魔法陣の下、ハイプリーストは壊れたように笑いながら さらに強くプリーストの身体を抱き締めた。 「姉さんを奪われるくらいなら……」 その言葉で察した皇騎士が声をあげながら飛び出すが、効果の続くバジリカに跳ね飛ばされる。 「やめなさい!…マスター、マスターっ!!」 皇騎士の呼びかけが届かぬまま。 ハイプリーストは、プリーストを抱きかかえたまま吹き抜けに身を投げ出す。 「マスター――……っ!!」 皇騎士の悲痛な叫びが、底の見えぬ空洞に響いた。 |