"MANTIS" 第2話
文:えいじー
――あらゆる物事の「構成物」の中に、完全に無駄なものはまず存在しない。
カマキリの器官もまた、同様である。
アルデバラン、PM4:32。
紅を帯び始めた日光が差し込む室内に、肌と肌のぶつかり合う音が響く。
ベッドの上、全裸の男は夢中で腰を振り、全裸の女は男に脚を絡め揺られている。
「はっ、はぁ…俺、そろそろイきそうだよ……」
「……ん?あ、うん」
「…も、もう……な、中に出していいかな……?」
「ん〜……?別に、いいけど……」
女の承諾に男は歓喜し、絶頂に向けて激しく女を責める。
数回も前後せぬ内に男はビクリと腰を震わせ、彼女の胎内で達した。
「…はぁ、はぁ……ど、どうだった?」
「……んー、ゴメン。正直イマイチ」
「え?」
囁きかけ唇を寄せる男を避けるように女は起き上がり、手早く膣内を布で拭う。
そしてそそくさと衣服を整え、そそくさと杖や荷物をまとめる。
「昼食おごってくれてありがと。お返しにここの宿代は払っておくから、じゃあねー」
「え、あ……じゃ、じゃあ」
呆気にとられる男を尻目に、ウィザードの女はそそくさと部屋を後にした。
・
アルデバラン・ルイーナ砦。
強豪ギルドの旗が発する威光を避けるように、その入口は存在した。
いや、恐らく日頃出入りしている者でなければ、そこが入口である事すらわからないだろう。
外来を拒む隙間を器用にくぐり抜け、ウィザードは明かりも灯らぬ瓦礫の中を進む。
数十メートル進んだところだろうか。
暗闇の続いていた視界が突如光に包まれ、明かりに照らされた空間が広がる。
アルデバラン特別アジト。
そして、彼女達の住処。
「ただいまー」
頭をかきながら、ウィザードは気だるそうに声を巡らせる。
程なくして奥にある鉄製の扉が開き、クリエイターが手を軽く振りながらやって来た。
「お、ウィーちゃんお帰りぃ」
「あれ、ケミ子しかいないの?」
「うん。……てか、いい加減ケミ子って呼び方やめてってば」
「いやー、だって定着しちゃってるしさぁ。それにクリ子よりケミ子のが響きが可愛いじゃん」
そう言って笑うウィザードに対し、見てわかるように顔をふくれさせるクリエイター。
元々このギルドは、女性限定である事を除けばごく普通のギルドだった。
だが、当時アルケミストだった彼女が偶然ホムンクルスの作成に成功し、
その噂がプロンテラ城内に広まってから状況は劇的に変化した。
ギルド員達の性欲を満たす為に造られていたホムンクルスは
ルーンミッドガッツ王国がシュバルツバルド共和国に化学面・軍事面で差をつける為の切り札となり、
彼女は王国初のクリエイターに昇進、ギルドにも他ギルドの干渉を受けない専用のアジトと実験所が提供された。
――彼女達が「MANTIS」と呼ばれ始めたのもその頃からである。
昇進やアジト提供の話があまりに突然だったので、
彼女を含む当時のメンバーが状況に慣れるまでしばらくの時間を要した。
その名残か、当時のメンバーであるプリースト・ウィザード・マーチャントの3人は
今も彼女の事をアルケミストと呼んでいるのである。
「そういや、今日珍しくナンパに会っちゃってさ」
「うわ、めずらしー。で?食べちゃったの?」
「食べたんだけどさー……やっぱ人間じゃダメだわ、あたし」
「やっぱねぇ」
さも当然のようにクリエイターは頷く。
ギルドに入って日が浅い皇騎士でさえ理解しているのだ、
長い付き合いである彼女がウィザードの性癖と性欲を理解していないはずはない。
「てなわけで中途半端に高まっちゃってさ。こないだ捕獲したハイオーク、どこに繋いである?」
「…あ〜……ゴメン」
「ん?」
「実はさっき合成実験に使っちゃって……」
「……まさか」
「えへへ」
照れ笑いをしながらクリエイターが指差す方向には、「処分」と記された鉄製の籠がある。
「〜〜っ!また失敗したの!?もー、やっぱあんたケミ子でいいよ!」
「痛い痛い!そんな事言ったって、元々あれは合成実験用に捕獲してきたんでしょー?」
「合成実験用兼あたしが楽しむ用なの!せめて実験に使う前に一言声かけてくれてもいいじゃん!」
「いたた、ってか泣かないでよ!?……もう、わかったから!もう1体、製造に成功したホムがあるから!」
「え」
クリエイターの言葉に手を止め、ウィザードは咳払いをしつつ衣服を整える。
「コホン、うん、まあ、ケミ子の言い分も最もだしハイオークの件はいいわ。てなわけでホム見せて」
「…ギルド員用じゃなくて顧客用だけどね。それもまだテストしてないやつだよ?」
「いいからいいから、今回もあたしがテストしてあげるから!」
目を輝かせるウィザード。
本来、ホムンクルスの性能テストは製作者であるクリエイターの仕事だったが、
性欲処理用のホムンクルスに関してはウィザードが積極的にテストに協力していた。
……最も、前回のテストは以前述べたような結果に終わっているが。
「まぁいいけど……テストに合格したら顧客に引き渡すんだから、取り扱いは慎重にね?」
「おーけーおーけー!ホムは実験室でしょ?先に行ってるねー!」
飛び跳ねながらホムンクルスの実験室へ向かうウィザードの後ろに、
道標のように彼女の武具や衣服、下着が落ちていく。
その様子を見届けた後、クリエイターは頭を抱えながら実験室の上部にあるモニタールームへと向かった。
・
「今回の型は『An-91Ma』。見た目は人間だけどベースはマーターだから、逃走する程の知恵は働かないと思う。
戦闘力は抑制してるけど、そのへんはまだテストしてないから一応気をつけてね」
「動物ベースかぁ……王国の重臣さんはそういうのが趣味なのかねぇ」
「んー、まぁ顧客の趣味なんて受注側には関係ないからね。準備はOK?」
モニタールームから響くクリエイターの声を聞きながら、
ウィザードは腕を組み、一糸纏わぬ姿で実験室の中央に直立していた。
目前には鉄製の檻にしがみつくホムンクルスの姿がある。
「いつでもOKよ」
ホムンクルスを見つめたまま、ウィザードは答える。
その返答に頷き、クリエイターは機械を操作して檻を引き上げる。
「…さあ、いらっしゃい。お姉さんが相手してあげ――」
――言い終えぬ内に、ウィザードは吹っ飛ばされる。
檻から解放された獣が弾丸のように突っ込んできたのだ。
「ウィーちゃん……っ!?」
クリエイターが思わず声を上げるも、獣は止まらない。
止められない。
機械で制御されているのは扉の施錠と檻の操作くらいであり、
実験体の動きを遠隔的に止めるなどという都合の良い装置は存在しない。
「っ……なかなか、激しい、わね――」
壁に身体を打ち付け、つぶやきながら起き上がろうとするウィザード。
しかし獣がそれを許さない。
「く、あっ……!」
一足飛びで彼女の吹っ飛んだ地点まで到達した獣が、起き上がろうとする彼女の両肩に飛び掛り、押し倒す。
その身体は人間に近い外見をしているが全体的に薄黒く、毛髪がない頭に生えた耳と赤く尖った瞳が
人間とは違う存在である事を示している。
そしてその下腹部には、不自然に長くどす黒い陰茎が獲物を求めビクリビクリと脈打っていた。
「ぁ――」
その象徴を見て、ウィザードはわずかに声を漏らす。
――次の瞬間、獣は無防備に晒された彼女の胸に、そして秘所の上に一気に圧し掛かった。
「ぁ……ぁぁああ……っ!!」
ウィザードの表情が苦悶に歪む。
別室から見下ろすクリエイターの視界には、彼女の秘所に深々と挿さった獣の剛直が映し出されていた。
「……っ!!ぁ、ぁあ――っく、うぅっ!」
根元まで埋まった余韻を楽しむ間もなく、獣は激しく腰を振って彼女の中で高めていく。
実験室に入る前から既に彼女の秘所は濡れており、挿入による苦痛は緩和されていた。
しかしそれは同時に獣の快感を増す結果に繋がり、ウィザードは夢中で腰を振る獣に翻弄され続ける。
「っ、は…はぁ……きつ…ぃ……っぁ…あ!!」
長く太い陰茎に膣を、子宮をえぐられる感覚に、ウィザードは首を振りながら必死に耐える。
そんな彼女に対し、獣は加減をする事もなく、胸や唇を弄ぶ事もなく、言葉でなじる気配もないまま、
ただ己と獲物の下腹部のみに集中し、ひたすら前後運動のみを続ける。
そんな獣の行動は、すぐに結果となって現れた。
「――ひうぅ……っ!!」
激しく動いていた腰の動きが、根元まで埋められた所で突然止まる。
言うまでもなく、獣は彼女の膣内で目的を果たしたのである。
「っぁあ……っ、なか、ぁ…っぅう……っ!」
彼女の最奥を越え、子宮内まで達した獣の陰茎は、
メスの性器に挿し込まれた事を喜ぶかのように脈打ち、精液を注ぎ込む。
その脈動や子宮内に直接注ぎ込まれていく感触に、ウィザードはがくがくと腰を震わせた。
「……く、ぅ…はぁ……」
射精が終わり、ウィザードに訪れる束の間の安息。
しかし、陵辱はこの1回では終わらない。
終わるはずがない。
獣が己の精力を使い果たすまで、捕えたメスに受精させるまで、
その本能が止まるはずがない。
「――っ!?、く、くぅ!…や……ぁっ!」
彼女の乱れた呼吸も全身に浮かぶ汗も気にせず、獣は再び腰を動かし、再び高めていく。
子宮内に収められた精液は抽挿によって溢れる事はなく、
淫らで透明な液体だけが水音を立てながら二人の結合部から溢れ出している。
「ひぃん――っ!!」
獣はすぐに腰の動きを止め、2度目の精液を彼女の最奥で撃ち出した。
そしてわずかな停止の後、再度激しく腰を動かす。
数刻後、3度目の射精。
「…ぁ……は、ぁ……」
強烈な力で圧し掛かられ、跳ね返す事も逃げる事も出来ぬまま、
ウィザードは息を荒げ獣の精液を胎内に収め続ける事しかできなかった。

・
「……ぅ……」
あれから、1時間は経っただろうか。
腰の動きは遅くなっているものの、獣はまだ彼女を貫き続けていた。
射精の回数は既に数え切れないが、子宮内を満たし膣内を満たし、
新たに注ぎ込まれても溢れ出す精液がその回数と凄惨さを物語っている。
彼女自身もまた、抽挿と射精の刺激のみで2回ほど絶頂を迎えさせられていた。
「…はぁ…はぁ……もう……」
虚ろな眼で、彼女は自分を犯し続ける獣を見上げる。
――いや、違う。
彼女の視線は、獣を越えた先に向けられている。
実験室の上部、モニタールームで陵辱の様子を眺めていたクリエイター。
そこまで、彼女の視線は到達していた。
助けを求める懇願の眼か。
安全な場所から見下ろされている事に対する憎悪の眼か。
――どちらも、違う。
彼女の眼は、虚ろながら充足感に満ちている。
「…もう……」
もう、満足だ。
そろそろ、終わりにしたい。
「あ」
ウィザードの痴態をのんびり眺めていたクリエイターは、
彼女と目線が合った事でようやく伝えるべき事を思い出した。
「ごめんウィーちゃん、すっかり忘れてた!
テストは不合格だから、飽きたらいつでも処分していいよ」
待ち望んでいた声が、実験室に響く。
その声を聞いて見開かれたウィザードの瞳には、狂おしい程の歓喜と欲望の色に染まっていた。
「――御馳走様」
獣に組み敷かれた体勢のまま、ウィザードは唯一動く両肘から先を曲げて獣の脇腹に添える。
そして、詠唱。
「ナパームビート!!」
詠唱と同時に起こる激しい衝撃が、獣の脇腹を強く打つ。
休む事なく2撃目、3撃目。
「ナパームビート、ナパームビート!!」
機関銃のように放たれる衝撃が、疲弊していた獣をわずかにひるませる。
その隙を逃さず獣の身体を押し返し、そしてそのまま押し倒し、体勢を逆転させる。
ウィザードが獣の上に馬乗りになった、騎乗位の体勢。
「――ナパームビート!!ナパームビートぉ!!」
獣と繋がったまま、狂喜に揺らぐ瞳のまま、獣の胸に両手を押し付けて詠唱を続ける。
衝撃によって抵抗も許されぬまま、獣の全身が詠唱のたびにガクンと波打ち、
口からは血液を、陰茎からは尿道に残された精液を吐き出す。
「ユピテル……」
弱く、しかし確実に注ぎ込まれる精液の感触に恍惚とした表情を浮かべ、最後の詠唱を行う彼女。
今までの断続的な詠唱とは違う長めの詠唱を阻止しようと、獣は必死で右腕を振り上げる。
――しかしその直後に詠唱が完了し、獣の活路は打ち砕かれた。
「サンダァァ――っ!!」
獣の胸に密着させて放たれた稲妻は、
胸に風穴を開け床をえぐり、獣の全身に強い火花と電流を走らせる。
そして、獣の生命活動を完全に停止させる。
「…ぁ……あぁ……」
最後の詠唱の直後、殺害の直後に3度目の絶頂に達したウィザードは、
獣の胸から噴き出す血で両腕を染めながらその余韻に浸り続けた。
・
「ん〜〜、やっぱモンスターに責められるのはいいわねぇ」
テスト終了後、浴場で身体を流し終えたウィザードは満足そうに伸びをする。
「ま、人間であんな体力と精力を持つ男性は普通いないだろうしね」
「処分」と記された鉄製の籠に蓋をしながら、クリエイターは少しだけ呆れたようにつぶやく。
「そういや、なんでそのホムは不合格だったの?結構いい感じの責めだと思ったんだけど」
「…あれがいいって言うのはウィーちゃんくらいだと思うなぁ……。
テストは最初にウィーちゃんを壁まで吹き飛ばした時点で不合格。危険過ぎて顧客には出せないよ」
「って、それじゃその時ケミ子が不合格だって教えてくれればテストはすぐ終わってたんじゃない!」
「……仮にその時教えてたとして、すぐホムを処分してた?」
「いや全然?」
予想はしていたものの、ウィザードの即答に思わず苦笑するクリエイター。
そして、わずかな沈黙。
その沈黙で思い出したのか、クリエイターは以前から抱いていた疑問を問い掛ける。
「ねぇ、ウィーちゃん」
「何?」
「ホムの処分……まあ、こっちとしては手間が省けて助かるんだけどさ」
「うん」
「いつも思うんだけど…ウィーちゃん、ホムを処分する事を楽しんでない?」
「ん?うん」
あっさりと、ウィザードは肯定する。
「ウィーちゃん、そんなサドっ気あったっけ?」
「ん〜……サドとは違うかなぁ。エッチの最中は激しく責められる方が好きだし」
うーん、と腕組みしながら答えを探すウィザード。
「……存在理由、かな」
「え?」
「ほら、あたしって壊す事しかできないじゃない。ケミ子みたいに創造する事はできないし、
ロナ子みたく誰かを護る事もできないし、みんなをまとめたり金銭管理するのも絶対無理だろうし……」
「うーん」
「だけど、破壊と処分は得意だから…その役割というか、自分のできる事を徹底的にやり尽くす事で、
自分のカマキリとしての存在理由とか、生きてる理由とか、凄く実感できるんだと思う、のかな?」
そこまで言った後、頬をぽりぽりとかきながら照れ隠しに笑う。
そんな彼女を見て、クリエイターは妙に感心させられたように頷く。
「ウィーちゃんって、時々難しいこと言うよね」
「ふ、時々は余計ね。あたしは知的でセクシーなのがウリなんだから」
「…でも、すっぱだかで語られてもちょっと……ね。風邪ひくよ?」
「こ、これはセクシーさの演出なのよ!裸体のシルエットから醸し出される妖しく知的な……へっくし!」
身震いしつつ、慌てて床に散らばった衣服を集めに走るウィザード。
苦笑しながらそれを手伝うクリエイター。
統率する頭、造る生殖器、護る甲殻、破壊する鎌。
それらの器官が全て揃い、初めてカマキリは歩み出す事ができる。
――産み出し、繁殖し、食し、また産み出す。
そんな終わり無き連鎖の道を。
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