「ちょ・・・っ、待・・・っ、タンマ!!
ストップ、ストップ!!」

なんでこんな状況になってんだ!?

オレは真剣に焦っていた。

− タンマ! −



ここは、サクラちゃんの部屋の中。
女の子らしい、淡い色合いのファブリック達。
サクラちゃんらしく、シンプルで無駄のない落ち着いた部屋。

初めて通された・・・
いや、引っ張り込まれた・・・

だーかーらー、
何でこんな状況になってんだってばよ!!



「タンマって何よ?」

赤い頬の彼女がオレを睨んでいる。
目がカンペキに座ってる。

紅先生ばりのすっげー色っぽいワンピースから
白い太ももが見えていてヤバイ。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

いや、サクラちゃんのスパッツはいつも短いから
この辺りはいつも見えている所だというのに
なんでワンピースだと、こんなにエロく見えるんだよっ!?

おーい、誰か助けてください。
オレは他に誰もいるはずのない部屋の中で後ろを振り返った。
でも、後ろにあるのは、オレが押し倒されそうになってるベッドだけ。

ベッドのカバーがサクラちゃんの髪の毛と同じ
ピンク色なのが、ヤケに目につく。
ちょっと、この色やめて欲しい。
ヘンな気になってくださいと言わんばかりじゃないか。
・・・いや、こんなこと言ったら、殴り殺されるな。

頭の中は既に恐慌状態。

目に映るもの全てが、何だかアヤシイ幻術のように見えてくる。
そう言えば、サクラちゃんは幻術も得意だった。
これって、もしかしてサクラちゃんの幻術・・・?

って、そんなことして、
サクラちゃんに何の得があるんだか。
あー、オレ頭がおかしい。



数時間前のことを思い出してみる。
一緒にご飯食べて、ちょっとお酒のんで
とても楽しく話をしていたんだ。

仕事のこと、同期のヤツらのこと
サクラちゃんが一人暮らし始めたこと
オレ達のこと・・・

『これくらいのお酒は全然平気だから』
って言ってたの
一体誰だったっけ?

目の前で、翠色の瞳が揺れる。
意識があちこちに飛ぶ。



「え?”タンマって何?”・・・って
ああ、もう!!
”ストップ”!”休憩”!!ってこと」
オレはまともに働かない頭に鞭打って、
必死に言葉を紡ぎだしていた。

「休憩?」
サクラちゃんの声がトロンとしている。
「そうそう、”待った”を反対から読んで”タンマ”」
そうだ、どうでもいいことを喋ろう。
とにかく、喋って逸らして
何とかこの状況を打開しないと・・・

「ふーん」
薄桃色の髪の女の子は、その台詞を聞いて
薄く目を細めた。

「”待った”の反対なのね。
じゃあ、いいんじゃない」
そう言って、オレのシャツの首元を引っ張る。

「うわぁ!」

既に上着は半分脱がされていて
彼女の手は、オレのシャツにかかっている。

オレは必死で彼女の手を止めていたんだけれど

それはそれは物凄い力で、
情けないことに抵抗できない。
だって、通常の彼女の力じゃない。

なんで、酔ってるってのに、
こんな普通にチャクラコントロール出来てんだよ?



『あんまりお酒は好きじゃないんだけれど
でも、師匠に付き合って、たまに飲むようになって
大分強くなったみたい。
だから、平気よ、これくらい』

そう言って笑ったサクラちゃんは
頬を少し上気させていたけれど、それでも、まだ平気そうだった。

今日二人で試してみたお酒は、とても甘くておいしくて
サクラちゃんが、とても美味しそうに嬉しそうにのむから
つい、可愛くて勧めてしまって

オレは、ほんの一、二杯呑んだだけ。
元々そんなに強くないから、すぐ頭がボーッとして
ペースを落とした。

それに、途中から、サクラちゃんが珍しく
すっかり酔ってしまってるらしいことに気付いて
慌てたせいか、すっかり酔いはさめた。
酔いはさめたんだけれど、力が入らない。

・・・そりゃ、ほんの少し下心がなかったとは言わない。
言わないけれど、

でも、こんなになるなんて!!

もう、サクラちゃんとはお酒飲まない!
こんなのはご免だ!
なんで、オレが襲われないといけないんだ!!

・・・いや、待てよ。ダメだ。
あまりお酒は好きではないけれど、
お酒の席は好きだと言っていたサクラちゃん

つまり、オレが付き合わなかったら
一体誰と呑むんだ?
サスケ?サイ?カカシ先生?シカマル?

それでもって、あいつらといる時に
こんなことになったら・・・?

冗談じゃない!!

サクラちゃん、お酒禁止!!

やっと想いが通じて
付き合い始めたばかりの
可愛い可愛い彼女に

まだ、キスしかしてない彼女に

オレ以外の男を触れさせてたまるもんか!



でも・・・
この状況
絶対、サクラちゃん、先に進もうとしてる。

オレはブルブルと頭を振った。

絶対ダメだ!ダメだ!ダメだ!!!

だって、絶対覚えてない!
明日の朝覚えてないって言われる。

オレが襲ったことになっちまう。

それに、オレはこんな状況でやるのは
絶対、絶対、絶対イヤだっ!!!



お店でのんでいた時、
あ、もしかして酔っちゃったのかな?
そう思った次の瞬間には
サクラちゃんは眠そうに机にへばっていた。

だから、
ああ、疲れてたんだな、悪かったな、とおぶって帰った。

サクラちゃんが一人で暮らしている部屋の入り口まで送ってきて、
そこで鍵を出してもらう為に一旦起こした。

小さな声が「寄って行って」と言ったんだけれど
でも、さっきまで寝ていたサクラちゃんの部屋に入るわけにもいかず

にっこり笑って、「また明日ね」とドアを閉めようとしたら
引っ張り込まれた。スゴイ力で。
そのまま、奥の部屋へと連れ込まれて

で、この状況。

玄関は鍵が開いたままだし
さすがにドアは閉めてきたけれど
サンダルも散乱したまま。
それで、ふと気付く。
あーあ、サクラちゃんなんかサンダル履いたままだ。

オレを押し倒そうとしているサクラちゃんの手を
何とか押し留めて

とにかくサンダルを脱がせないと、と
サクラちゃんの足元にかがんだら
生のふくらはぎが目の前に見えて頭がクラクラした。
普段、ブーツを履いているから
尚更、その白さが際立って、眩し過ぎる。

その途端、押し倒された。
ベッドに。
サクラちゃんがオレの上にのしかかる。
オレのシャツの裾がズボンから引きずり出され
そこから侵入してくる、彼女の細い指。

そのまま、彼女の指はシャツをまくりあげながら
脇腹を通っていく。

うわ、ダメだ。
オレは目を瞑って、必死に叫んだ。

「だから、タンマって!!サンダル!!
サンダル脱いでないって、サクラちゃん!!」

その時、サクラちゃんの動きが止まる。
あれ・・・?
ほんの少し力も抜ける。
オレは起き上がって、サクラちゃんのサンダルに手をかける。
じっと大人しくして、オレのなすままにさせるサクラちゃん。

もしかして・・・
オレは、サクラちゃんの目を見た。

そうしたら、ふっと外された翠の瞳。

あれ・・・
・・・酔ってない・・・?

この顔の赤さは
お酒じゃない・・・?

「サクラちゃん・・・」
呼びかけたオレの声に、
サクラちゃんがビクッと肩を震わせる。

・・・あー、そういうこと。



オレは、サクラちゃんのサンダルを指にかけ立ち上がる。
玄関の鍵をかけて
サクラちゃんのサンダルを置いた。

そして、反対側を向いているサクラちゃんの横に座る。

「意気地なし」
座った瞬間喰らったその言葉。
ムカッ
さすがに腹が立つ。

「何でだよ?」
サクラちゃんを睨んで言うと、サクラちゃんは
ツン、と顎を突き上げた。

「何よ、本当は私なんかと付き合って、
しまったとか失敗したとか思ってんでしょ」
「へ?」

「どうせ、私は色気ないわよ」
「え?」
「可愛くないわよ」
「は?」
「どうせ、その気にならないでしょうよ!!」
「その気!?」
思わず、素っ頓狂な声をあげてしまう。

でも、サクラちゃんは気にせずに続けていく。
「だけど、仕方ないじゃない。
私、あんたのこと大好きなんだから!」
うわーん、と泣き始めるサクラちゃん。

ど・・・どうすればいいんだ?
何が起きたんだ?
これは所謂泣き上戸ってヤツか?

とにかく、サクラちゃんを宥めようと肩に手を伸ばす。

「触るなっ!」
手をバシッと叩かれる。
オイオイ・・・
これが、さっきオレを襲っていた人の台詞かよ。



でも、つまり
彼女は先に進みたかったんだ。

何と言うか、気恥ずかしいというか
くすぐったいというか、
ドキドキというよりも、フワフワと心が躍る。

それに何よりすげー嬉しい言葉聞いちゃった。

オレばっかりが好きだと思ってた。
ずっと、ずっと・・・

あまりに長過ぎた片恋で
それは既に自分の一部となっていて
付き合い出してからも、夢のようで嘘のようで
だから、さっきの言葉が
ダイレクトに胸に響いた。

ああ、オレ、生きてて良かった。

オレはバカみたいに感動してしまって、
肩を震わせて泣いている彼女を、ただ見つめた。



でも・・・
このまま、ってわけにもいかないよな。
さて、どうしよう?

本当のことを言うと
すげー、襲いたいんですけど。
進みたいんですけど。

でも、さっきの彼女の台詞聞いてしまった後だと
とてもせまれない。

彼女に言われたからするみたいだし
それは、男としてプライドが許さない。

それに今の彼女だと
「無理しなくていいわよ」
ってスネられるのがオチだ。

でも、可愛い。
どうしようもなくなるくらい、可愛い。
赤いワンピースからのぞく細い肩。
伸びた髪の毛がかかる細いうなじ。

ああ・・・
でも、ダメだ。
仕切りなおそう。

オレは、そっと手を伸ばして
サクラちゃんの肩を抱いた。
途端、
手の甲をギューッとつねり上げられる。
つねり上げられるけど、オレは手を離さない。
その内、つねる力が弱くなった。




彼女が愛おしい。
ひたすらに愛おしい。

でも、今日は絶対手を出さない。
オレはなけなしの自制心を精一杯引きずり出して、
ただ、彼女の肩を抱いて耐えた。

まぁ、こういう時は大抵
女の子は先に寝てしまうか気持ち悪くなるかで
先に進まないオチだって
エロ仙人の本にもあったから
大丈夫だろう。

オレは、笑って、その時を待った。

・・・が、サクラちゃんは元気だった。
いつまでも、いつまでも。

エロ仙人の嘘つき!

・・・いや、そりゃそうか。
さっき、サクラちゃんはここまで寝て帰ってきたんだった。
てか、眠いのはオレだ。

オレは、サクラちゃんの肩を抱いたまま
落ちそうになる自分の首を必死でもたげ耐えた。

ああ、こんな状況で眠ってしまったら
気付いたらサクラちゃん襲ってたとかないよな?
エッチな夢見ちまったりしねーよな?

でも、眠くて眠くて仕方ない。
サクラちゃんはオレの腕の中で大人しくしていた。

真っ直ぐな瞳でオレを見ている。
へにゃ、と笑うオレ。
サクラちゃんの口がムッと曲がって
視線が下に落ちる。
顔がまた赤くなる。

ああ、可愛い。
どうしようもないくらい可愛い。

でも、眠い、眠い、眠い。

頭の中で、何故か九尾のヤツが
小さな子ぎつねになってオレと手を繋いで躍ってる。

ああ・・・もう、どうにでもなれ。
オレはサクラちゃんの肩を抱いたまま意識を手離した。

人と触れ合いながら
うとうとと眠りに落ちる幸せを
オレは、ただひたすらに堪能した。

夢は見たんだかどうだか
ただ、ふわふわと心地が良かった。



翌日?
ああ、オレはサクラちゃん家のベッドの上で目覚めました。
サクラちゃんはとうに起きていて

残念ながら、あの赤いワンピースは既に肌の上になく
いつものサクラちゃんがいました。

「信じらんない!」
で、第一声がこれ。

「女の子の家に来て
よくも平気でグースカ眠れるわね!」

同時に飛んできた平手打ちが、
完全にオレの目をさまし、
ついで、ポイッと玄関から外に出される。

冬の朝の寒さが、寝起きの鈍い身体に堪える。
昨晩脱がされた上着と
昨晩急いで脱ぎ散らかしたサンダルが
後から放り出されて、オレの頭に当たった。

「あてて・・・」

それでも、オレが起きるまで
待っていてくれたサクラちゃん。

「っくしゅ!」
オレはデカイくしゃみを一つして、
「また、後でな!」
ドアの向こうで佇んでいるだろうサクラちゃんに向かって声をかけた。

返事はない。
でも、きっと笑ってる。
いや、苦笑いかな。
真っ赤な顔して。

オレは自分の家に向かって走り出した。
昨日のサクラちゃんの台詞を思い出しながら。

『だけど、仕方ないじゃない。
私、あんたのこと大好きなんだから!』

ホント、オレも大好きなんだから仕方ない。



「うし!」
オレはパン!と頬を叩いて気合を入れた。

とりあえず、今日も頑張ろう、オレ。


おかしいなぁ、どうやっても
18禁話に展開していかない。
すみません・・・
とりあえず、今回は積極的なサクラちゃんを
書いてみたかっただけですー。

イラスト版「タンマ」はこちら。





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