忙しいとは心を亡(な)くすこと。
漢字の成り立ちを聞いた時、ああと納得した。
周りに構ってなんかいられない。
目の前のことをやっていくだけ。
そう、私は忙しかった。
なのに・・・
椅子に座って、机に向かい、分厚い本をめくる私の横には
ベタッと床に座りこんで、長い腕を私の腰に巻き付け
私の膝の上に、金髪頭をゴロリと置いて暇そうに指先を遊ばせる男。
まるで、大きな猫科の動物のようだと思った。
一応、今日は休日だった。
休日のはずだった。
でも、どうしても気になることがあって
だから、ほんの少し調べるだけのつもりだった。
最初はナルトも巻物を持ってきて、
何やら術の練習をしていたみたいなんだけど、
飽きてしまって・・・というより、部屋の中で練習できるものでもないんだろう
すぐに巻物からは目を離してボーッとしているようだった。
私が忙しいのはわかっていて、だから喋りかけてくることもなく、
でも、私の反応を窺いながら
徐々に距離を縮めて寄ってきて
それで、この体勢になったのだ。
悪いなぁ、とは思っていた。
だから、文句は言わなかった。
そうしたら、その手は段々エスカレートしてきて
腰元から、徐々に上へ
脇腹を滑り、背中を撫で上げ、肩から柔らかく降りてくる。
それも一言も喋らないまま。
二の腕の内側を通られた時に、さすがに咎めの言葉を口にした。
「・・・ちょっと!何よ、この手は!」
「えー・・・」
ナルトが抗議の声を上げる。でも、手は止まらない。
「えーじゃない」
思いっきり手の甲をつねり上げてやる。
あいててて、と言いながら
「オレじゃないよ」
そう、うそぶく男。
「は?」
「オレの手が勝手にサクラちゃんを触ってるんだもの」
オレじゃあないない、と頭を振る男。
「あー、もう」
私はナルトに向き直って、鋭く睨みつける。
「何なのよ、そのヘリクツ」
「あ、やっとこっち見た」
嬉しそうな顔に頭が痛くなる。
「あんたさぁ・・・ひどいと思わないわけ?」
「え?」
ちょうどいい機会だわ、ずっと前から不満に思っていたことをぶつけてあげよう。
「あんたはさ、自分の修行の時は、私なんか全然、全っ然気にしないで
いつまで経っても音沙汰なしで帰ってこないくせして
私が仕事してる時は、どうして平気な顔して邪魔するのよ!」
「邪魔はしてないってばよ!」
「してる!」
「喋りかけてないもの!」
「喋るより邪魔よ!気になって仕方ないじゃない!!」
「だって・・・」
「だってじゃない!」
「だあーって・・・」
・・・何、この甘ったれた応対。
こいつは、今や里の英雄。
木の葉で知らぬ者の一人もいない
次代火影もほぼ内定。
絶賛人気沸騰中の男。忍。ヒーロー。
外で見かけると、いつも周りに誰かがいて、
その中心で、自信たっぷりの笑顔を見せている。
ああ、立派になったなぁ、
かっこよくなったなぁ。
ほんのちょっと寂しい気持ちもありながら、
でも、嬉しく思っていたのに、
なのに、何コレ。
私が付き合っている男は、実は 5歳の子供だったのだろうか。
それとも、男なんて皆こんなもの?
「わかった」
ナルトが手をパーに開いて前に出して見せる。
「何よ」
「じゃあ、触らない」
聖人君子のような神妙な面持ちで、そう言う。
「・・・わかればいいわよ」
ぷい、と再度机の上の書物に取り掛かる私に声がかかる。
「触らないからさ、ちょっとだけなら喋ってもいい?」
しおらしい言葉に、一応頷く。
「・・・少しならね」
・・・そうよね、悪いのは私だものね。
うん、早く終わらせよう。
「サクラちゃん」
「はいはい」
振り返らずの返事。だけど、文句の気配はない。
少ししたら、また呼ばれる。
「サクラちゃーん」
「はいはい」
とりあえずまた返事を返すのみ。
そして、また少しして、
「サクラちゃーん、サクラちゃーん」
「・・・はいはい」
段々声が大きくなってきているんですけど。
そして、しまいには
「サクラちゃん!サクラちゃん!サクラちゃん!!」
嬉しそうに連呼する様子は、
ワフワフッ!と犬の呼吸音まで聞こえてきそう。
「うるさいっ!あんたは犬かっ!?」
「へ?」
怒られながらも嬉しそうなその顔に、がっくりと肩が落ちる。
・・・ああ、もう!
母親に構って貰いたい子供が、しつこくまとわりついてるみたい。
「喋るなら、部屋から出てってちょうだい!」
私は一喝した。
ナルトはしゅん、と黙る。
黙るけれど、私の側からは離れない。
ただ、目が物凄く何か不満を伝えてくる。
「何よ?」
「喋っていいって言ったってばよ」
「少しなら、って言った!」
ムムーッと睨みあう私達。
妥協したのは、してくれたのは、やっぱりナルトだった。
「・・・じゃあ、黙るから、くっついててもいい?」
私はため息をついた。
「変な触り方しなきゃね」
ナルトはにっこり笑うと、また頭を私の膝に乗っけた。
ああ、本当に子供みたい。
でも・・・
と思う。
ナルトは物心ついた時からずっと一人で、親の顔も知らなくて・・・。
きっと、
子供らしいことなんて許してもらえなかった。
だから・・・
たまにこうやって甘えさせてあげるのも必要なのかもね。
それに、こんなナルトがいるなんて私は知らなかった。
いつもバカやって、強がって、ドジ踏んで。
でも、
いつも一人で何とかしようと
いつも一人で懸命に立ち上がろうとしていたナルト。
だから、こんな風に人に甘える姿を見られるなんて・・・
私は貴重な体験をしているのかもね。
私はナルトにはバレないようにコッソリと笑みを浮かべる。
フワフワの金髪に一瞬手を落とす。
そして、また知らん顔して書き物を始めた。
そうしてまた少し時が経ち、
気付くと、ナルトは何かご機嫌で鼻歌を歌っていた。
聞いたことのない歌。
ラップみたいなテンポ。
所々小さく聞こえる詩が韻を踏んでるのはダジャレみたい。
喋らないって言ってたくせに・・・
でも、別に邪魔じゃない。
だから、放っておこう。
あと少し。
この部分まで終わってしまえば
落ち着いてナルトと時間を過ごすことが出来るから。
サラサラとペンを走らせる。
ナルトの声が好き。
ちょっと高くて、時々低くて、表情豊かで
でも・・・
一番は、『サークラちゃん』って呼んでくれる時の、少し溜めたあの音程。
ああ、私何やってるんだろうなぁ。
こんな時まで一生懸命仕事しなくてもいいのに。
せっかくナルトとゆっくり過ごせる日なのに・・・。
本当は、私もナルトに寄りかかって
ゆっくりソファーで好きな本を読んだりお昼寝したりがいいのになぁ。
ナルトに触れていると心が落ち着く。
・・・思えば、
下忍の頃から、ナルトに触れることに、ナルトに触れられることに
私は抵抗がなかった。
気付けばそこにいたし、一緒にいることが自然だった。
こうやって付き合い出す前は、
ナルトから私に触れてくることはほとんどなかったけれど
敵と対峙した時など、
必ずと言っていいほど助けに飛んできてくれた。
そう、雲隠れの忍が現れた時も
・・・サスケ君に殺されそうになった時も・・・。
ああ、もう仕事なんて止めにしちゃおうかな。
喋るなって言ったり、触るなって言ったり
本当は自由にのびのび好きなことしたいよね。
こっそりとナルトの表情をうかがったら、チラリと見えた顔は、でも楽しげだった。
イタズラばかりしていた頃の下忍時代のナルトを思い出す。
『サークラちゃん!これからオレとデートしない?』
ナルトごときが図々しいわよ!・・・って、あの頃の私は
怒って殴り飛ばして、相手にもしなかったけれど
でも、今はあの頃の幼い面影が何か懐かしくて嬉しい。
私は本を閉じた。
「はい、おしまい!
もう、好きにしていいわよ」
そう言った途端、ナルトの顔が変わった。
「・・・え?」
私の腰に巻いていた腕をほどいてナルトが立ち上がる。
部屋の中が薄暗くなってる。
ああ、もう夕方になってしまってたんだ、と気付く。
それとも、ナルトが立ち上がったから、
東側の小さな窓からの光が遮られたせい?
でも・・・と思う。
何よ、その獲物を見るような目は・・・
思わず、ごくん、と喉を鳴らしてしまう。
黙ったまま、私の座る椅子の後ろに立つナルト。
ゆっくりと私の首元に伸びる手。大きな手。
私は身をすくめた。
それは、多分、無意識の恐怖。
ガタンと椅子を鳴らし、立ち上がって逃げようとした私を、
でも、ナルトは逃がさなかった。
後ろから抱きすくめられる。
「好きにしていいんだ?」
耳元で響いた静かな声・・・
その声の意味することを私は理解して
違う、と言おうと思ったけれど、言えなくなった。
ナルトの手が肩に伸び、
私は向きを変えられ、真正面からナルトと向かい合う。
まっすぐの瞳。蒼い瞳。空の色した・・・
吸い込まれそうで、恥ずかしくなって、
思わず目を閉じたら、直後、唇が降ってきた。
でも、すぐ離れる。角度を変えてまた触れる。
何度も重ね合い、それはそして徐々に力を増し
やがて、唇の間を割って舌が侵入してくる。
いつの間にか服の中に手が忍んできていて
温かい、大きな手が私の背中を撫ぜ、そして脇を通り、ゆっくりと前に移動する。
身体の内側から湧き上がった甘い痺れが、ぞくりと背筋をのぼっていく。
口付けの合間、一瞬合った目が、いいの?と聞いているように揺れる。
私は目を伏せて、そしてナルトの腰の両脇に手を添えた。
コツンとナルトの肩に頭を乗っける。
いいの?なんて聞かないでよ。ダメなわけないんだから。
それはさっき・・・自分で考えた通り。
私はナルトに触れられることに抵抗がない。
ううん・・・触れて欲しいと、触れていたいと、そう願っている。
それが合図になったか
ナルトの手が片方おりて、スカートをたくし上げる。
彼の足が、私の下肢を割る。
そして・・・
下着をよりわけて入ってくる指先。
渇いた入り口を丁寧に撫ぜ、奥への入り口をまさぐる。
その蠢きに、下腹部が熱を帯びたようにうずく。
止まないキスと、胸への、陰部への攻め
私はくらくらと眩暈を覚えて、思わず机に手をついて身体を支えた。
「サクラちゃん・・・」
耳元で低く響く声。
薄く目を開けると、ナルトは少し紅潮した頬をして
少し斜めの角度で私を見下ろしていた。
「入るよ?」
え・・・?ここで?
そう思った私がいたけれど、
・・・もう、どうでも構わない。
私は導かれるままに机に肘をつき、そして顔をうつ伏せる。
下着が取り払われ、熱い塊が押し当てられたのを感じる。
直後に来た、後ろから貫かれる感覚。
今まで経験したことのない感覚に、私は悲鳴をあげて、背を仰け反らせた。
・・・部屋の中には本当に光が入らなくなった。
「真っ暗になっちゃったね」
壁にペタンと背中をつけてナルトがそう呟く。
「ごめん・・・」
貴重なお休みが終わってしまった・・・。
「仕事、本当に終わったの?」
「え?」
「やっぱ・・・邪魔だった?」
ほんの少しきまり悪そうな顔に、
「・・・何を今更」
そう、ぼそっと文句を言ってやったら、
「えー・・・」
ナルトは、いつもの困った顔で、キツネ顔で笑って
それから「ごめんってばよー」と小さく呟いた。
「嘘よ、私こそごめんなさい」
すぐにそう伝えたのに、ナルトはそっぽを向いた。
「・・・いいんだ」
「え?」
「どうせ、サクラちゃんは、オレより本の方が好きなんだってばよ」
「は?」
オレは本以下、人以下、まいっか♪
オレの気分まっくろ、くろぐろ、イカのスミ♪
でも彼女はサイコー、イカスー、オーイエー♪
親指が立ち、唇が楽しそうにとんがる。
・・・何でかなぁ。いつからかラップ好きになったのよね。
最初はすごく抵抗があったけれど、もういい加減慣れた。
「・・・はぁ」
色々言いたいことは我慢して、とにもかくにも残りの休みを大切にしようと思った私。
「とりあえず、ご飯でも食べに行こっか?」
『デートしない?』
幼いナルトの誘いを思い出してそう微笑んだら
ナルトは嬉しそうに笑顔で応えて
それから言った。
「ご飯いらない。サクラちゃんがいい」
私達の休日はこれから・・・みたい。
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