なぁ、オビト・・・
お前との約束のためではなく、
オレの・・・オレ自身の意志で、
これからのリンを守っていってもいいか?
月明かりの中、世界にはオレ達しかいない。
ただ、ひとえに、ひたすらに、静かな夜だった。
ずっと待たせていた。
オレの気持ちの整理がつかなくて、無駄に時間を費やした。
いや・・・、結局整理なんてつかなかった。
でも、惹かれ、引きずられた。
「リン、お前が医療忍者でよかったよ」
「どうして?」
「医療忍者なら戦闘の激しい所に行く機会も少ないし
例え捕虜になっても死ぬことはないからさ」
オレは、リンの長い髪を指にクルクルと捲きつける。
「カカシ・・・」
リンはもたれかかっていたオレの胸から頬を離し
そして真正面から目を合わせた。
「私は大丈夫よ。
それより、カカシの方が暗部で・・・
危険な場所に行くことが多いんだから
絶対に無茶しないでね?」
心配そうに、心細そうに揺れる瞳。
「あ?誰に言ってんの?」
オレは笑って、リンの肩を抱く腕に力を入れる。
”幸せ”という気持ちを久しぶりに手に入れた、と思った。
翌日は抜けるような青い空。
でも、何故か空気がピリピリと痛くて、喉が焼け付いた。
早く、また夜が来るといい。
「・・・え?」
悪い知らせは、いつも突然に届く。
「カカシ先輩・・・」
後輩のテンゾーの言葉が信じられなくて聞き返す。
あまりにひどい冗談だ、と思う。
リンが・・・どうしたって?
「リンさんが、仲間をかばって・・・」
ひどい耳鳴りがして、そこから先は聞こえなくなった。
リンは医療忍者だ。何かあろうはずが・・・ない。
リンの遺体と対面しても、まだオレには
それが現実ではないように感じられていた。
ナルトがようやく、その想いを遂げて
サクラと付き合いだしたらしいと聞いた。
ナルトの永い春を知らぬ者はおらず、
皆が皆、サクラのカカァ天下だろうと笑った。
サクラは綺麗になった。
無垢な少女の気配が消え、華やかな色が付いた。
ふとした仕草は咲き誇る花のように色香を漂わせる。
だから、ああ、本当なんだな、と思う。
まだ恋に憧れていた下忍時代、
サクラのその恋は愛に昇格したと同時に終局を迎えた。
ナルトの修行と共にサクラも綱手様に弟子入りし、
オレはサクラに会う機会がほとんどなくなった。
たまに見かけても、まるで心を閉ざすように
懸命に力を求める彼女の姿がそこにあった。
折れそうに、崩れそうに、でも凛と立つ
その一厘の花のような姿が、とても気になっていた。
全ての事柄が一区切りを迎え、
そして、サクラはナルトの想いを受け入れた。
いや、ナルトがサクラの想いに扉を開けたのだと思う。
ズカズカと人の心に入っていって、気付くと人を惹きつけているナルト。
でも、ある日を境に、サクラに対しての感情を表に出さなくなった。
サクラの心を思い遣ってのことだろう。
だから、サクラが、サクラ自身が動いたのだろう。
もう随分前から、サクラにとってのナルトが
仲間以上の存在であったことをオレは知っている。
良かった、と思う。
ナルトもサクラもよく頑張った。
ふとした時に見せる、切なげなナルトの瞳が思い出される。
心を殺して、笑顔も消して、前を見据えるサクラの瞳も。
とても辛い思いをした二人だからこそ、
幸せになって欲しいと思う。
ただ・・・
同時にどこか寂しい気持ちがしたのは何故だろう?
「・・・もう、カカシ先生ったら、いい加減、年なんだから
写輪眼を使うの止めたほうがいいわよ」
「ハハ・・・」
優しい光の、治癒のチャクラを放出させながらも、
手厳しいサクラの台詞に、ただ笑って返す。
久しぶりの外任務。
それも、珍しく今回はサクラとサイと一緒だった。
写輪眼を使ってバテたオレを置いて、
サイは任務完了とフォローの依頼の為に、先に里に戻った。
そして、残されたオレとサクラはのんびりと里に向かっている途中である。
確かに写輪眼と体が合わなくなってきているのを感じる。
そろそろ潮時かなぁ。
「でも、サクラが回復させてくれれば大丈夫だよ」
「あのねぇ、もう七班じゃないんだから、
私が一緒とは限らないのよ?」
「・・・まぁねぇ」
そういえば、と思い出したように、サクラは言った。
「先生と同じチームに医療忍者っていたんでしょ?」
「・・・いたねぇ」
ほんの少し間をあけて答える。何を言い出すんだろう?と。
「先生、下忍の時に私に幻術教えてくれたじゃない?
でも、どうして医療忍術のことは教えてくれなかったの?」
サクラの頬が子供のようにふくれる。
「・・・あー、そうだねぇ。何でかなぁ」
と、のんびり答える。
でも、オレのはぐらかしを気にせず、答えを待つサクラ。
「医療忍者は・・・適性があるからねぇ」
「チャクラコントロールのこと?頭脳のこと?」
「・・・あー、まぁ、それだけでなくってね」
「それだけでなくって?」
逃すまいと、真っ直ぐこちらを見つめる瞳。
「医療忍者に一番必要とされる能力が何かって
綱手様から聞いたでしょ?」
サクラは、もちろんよ、と人差し指を立てて答える。
「医療忍者は敵の攻撃を絶対に食らってはならない。
医療忍者が死んだら、隊員を治療する者がいなくなるから」
「そうそう」
「でも」
「・・・だから、我を顧みずに
飛び込んで行くサクラは向いてないと思った」
・・・もう、二度と、あんな想いはごめんだ・・・
その気持ちを込めて、サクラを見る。
サクラは少し驚いたような顔をして
それから、ふわっとやわらかな笑みを浮かべた。
「そっかぁ・・・」
一瞬、見惚れて、言葉が出ない。
「心配してくれたのね。
先生、ありがとう」
何と答えようか迷っていたら、
サクラは大きなあくびをした。
「・・・あー、ごめんなさい」
「サクラ?」
「今日、すっごく眠いの」
「あらら・・・」
確かに先程からほんの少し気だるげだった。
「ほんのちょっとだけ、休んでいい?」
そう言って、サクラはその場に寝転がり、
そして、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。
オイオイ・・・と思う。
年頃の女の子にあるまじき、この行動。
いくら疲れているからって、野外でこんなに堂々と眠るか?
それも男と二人っきりの時に。
サスケやナルトだと警戒するくせに
オレだと警戒しないわけ?
オレだってオトコなのになぁ。
「おーい、サクラ。イタズラしちゃうぞー?」
幸せそうな笑みを浮かべて眠るサクラ。
ともすればキツイ印象を与えることもある翡翠の瞳は
今は瞼によって軽く閉じられ、長い睫毛が頬に影を落とす。
少し伸びた薄紅色の髪、赤い唇。
愛しい少女・・・。
でも・・・手を出せるわけがない。
オレにとって、サクラは大切な仲間で、
そして同じ大切な仲間は、サクラのことを愛していて
そして、サクラもそいつのことを愛している。
オレは何も言えない。何も出来ない。
あの日、リンを失ってから、
気持ちというものの持って行きどころがわからなくなってしまった。
警戒心のない、無垢な表情で眠る少女。
いや、一人の女。
穏やかな微笑をたたえたその頬。
その頬を優しく撫でる。
穏やかな、穏やかな秋の昼下がり。
永遠に続いて欲しいような、幸せな・・・
でも、空気が動いた。
「カカシ先生!大丈夫か!?」
勢いよく飛び込んできたのは、金髪碧眼の少年。
いや、もう青年、のナルト。
「・・・って、サクラちゃん、どうしたんだってばよ!?」
ナルトはその場に伏しているサクラに顔色を変える。
幼さが少し残った顎のライン。
でも、男の顔になったなぁ、と思う。
「チャクラ切れで眠くなっちゃったみたいだね」
草原に、正体なく眠るサクラと、
そのすぐ横に腰掛けているオレ。
ナルトは立ち位置を悩んだか、その場に立ちすくむ。
「まーったく可愛いよね・・・」
「先生?」
「全く警戒心ってもんがないんだから」
サクラの顔を上からのぞきこみ、
チョイチョイと頬にかかる髪の毛を払ってやる。
一瞬、殺気を感じたのは気のせいではないだろう。
が、気にしない。
若いねぇ・・・
そう心の中で呟くのは嫉妬からか。
「サイに言われてきたの?」
「・・・ああ、カカシ先生がバテたって」
「もうサクラに回復してもらったよ。
代わりにサクラがバテちゃったけどね」
「・・・この所、病院も忙しかったんだ」
それは断定の言葉。サクラのことを知る言葉。
「あ、そうなんだ?ナルトも忙しいんでしょ?」
オレは今度はサクラの耳たぶを軽く引っ張ってみる。
ナルトからの返事がない。
顔は見えないが、きっと、どうしたもんだか
困った顔してるんだろうなぁ、とおかしくなる。
まぁ、いじめるのはこの辺にしておくか。
オレは名残惜しげにもう一度サクラの寝顔を眺めると立ち上がった。
「さて、じゃあナルトに任せるわ」
「・・・あ?ああ」
少しホッとしたようなナルトの声。
「・・・ナルト」
「え?」
「サクラを離すなよ」
軽く手を上げて、歩き出す。
「カカシ先生・・・?」
訝しげなナルトの声。
そんなナルトも、そしてこんなオレも、全ておかしくて
そして、ふとした寂しさと温かさと切なさと
全てを呑み込んで、オレは里への道を歩き出した。
草原の風の中、すやすやと気持ち良さそうに眠るサクラちゃん。
・・・はぁ・・・とため息をつく。
さっきのは何だったんだろう?
カカシ先生は、もしかしたら
欲しいものを欲しいと言えないのかもしれないと思った。
欲しいもの・・・サクラちゃん?
でも、やらない。絶対やらない。
やっと手に入れた、オレの・・・
その時、サクラちゃんが起きた。
「・・・あれ?ナルト?」
不思議そうな顔をしてオレを見つめる瞳。
警戒心のかけらもない。
オレは、大きなため息をもう一つ追加した。
「サクラちゃん・・・」
「なあに?」
「気をつけてくれってばよ・・・」
「え?何に?」
「え、いや・・・」
・・・それには答えられない。
いいんだけど、いいんだけど・・・
サクラちゃんは、そのまんまでいいんだけど、でも・・・
「頼むよ・・・」
「何よ?なんなのよ?」
他の男には指一本だって触れさせたくない。
薄桃色の髪、透き通るような白い頬、やわらかな耳たぶ。
ゴシゴシゴシ
「ちょ・・・っ、痛いっ!何やってんのよ!?」
サクラちゃんが悲鳴をあげる。
カカシ先生が触れていた頬を袖口でぬぐいとる。
髪に手を伸ばして、グシャグシャとかき回す。
両手で頬をはさみ、両親指と人差し指で耳たぶをこねる。
「痛いってば!」
咄嗟に繰り出されるサクラちゃんの拳をよける。
よけてその手を掴み、腰に手を回した。
「〜〜〜〜!?」
そして、そのまま抱えて飛ぶ。
「帰るってばよ」
短くそれだけ言うオレに、サクラちゃんはオレの顔を見上げる。
「・・・か、帰るってどこに?」
「オレんち」
「ちょっとナルト!?」
サクラちゃんがなんか言ってるけど気にしていられない。
自宅に着いて、そのまま風呂場に連れて行く。
「ちょ・・・!一体なんなのよ、急に!」
「脱いで」
「えっ?」
「脱がないなら、このままお湯かけて洗うけど」
「えぇっ!?」
一歩も譲らないオレを感じてか、
サクラちゃんは真っ赤な顔をして横を向いて、それから言った。
「ぬ・・・脱ぐから・・・」
「え?」
「脱・・・シ、シャワー浴びるから
とにかく出てって!」
オレは問答無用で追い出される。
少ししてシャワーの音がした。
オレは脱衣所の外で壁によっかかって座りこむ。
また少しして、シャワーの水音がやみ、
サクラちゃんが脱衣所に出てくる気配がする。
「・・・シャツ借りるわよ」
オレがここにいるのに気付いてか気付かずか
サクラちゃんの声がして、箪笥を開ける音がした。
それから少しして脱衣所の扉が開き、
サクラちゃんが出てくる。
オレのシャツを着てるが、下は自分のスパッツを履いている。
脱衣所の前で座り込んでるオレを見て
サクラちゃんは一瞬ビクッとして、
それから、ふいと横を向いて去ろうとする。
オレは素早く立ち上がると、その肩を掴み、
それから、薄桃色の髪の一房を摘んだ。
「まだ髪の毛洗ってない」
「・・・だって!」
オレは黙ってサクラちゃんを抱え上げた。
そのままベッドに連れて行く。
「ナルト・・・!」
何かを言おうとしている口を塞いで
そして、そのまま押し倒す。
深い口付けを繰り返しながら、手を下に伸ばす。
シャツの裾から手を差し入れ、スパッツを下着もろとも下げおろした。
「あ・・・!」
逃げようとする肢体を腕で囲い、首元に唇をあてる。
温かく、すべすべとした太ももに手のひらを当て
そのまま足の付け根、腰、くびれへとゆっくり沿わせる。
「・・・んっ・・・!」
最初あった抵抗は、途中で消えた。
サクラちゃんの白い細い腕が伸びて
薄暗がりの中、艶めかしく揺れる。
細い指がオレの頬を髪を撫でる。
甘く切なげな息づかいが更にオレの気分を高揚させ
オレは酔った。
自分の欲望だけを処理して、力尽きて、今の気持ちときたらどうだろう。
オレは・・・何をやっているんだ?
サクラちゃんの顔が見られない。
オレは何も言えずに、ただ枕に顔を埋めた。
「ナルト・・・」
沈黙を破ったのはサクラちゃんだった。
「・・・ナルトは私のこと好き?」
「好き」
即答する。でも、枕で声がくぐもる。
オレは、パッと枕から顔を上げて強く告げた。
「すっげー好き」
視線の端に映っていたサクラちゃんは、こちらを見ていた。
「うん」
そして微笑む。
ああ、ダメだ・・・。
負けたという気持ちなのか、なんなのか
とにかく、サクラちゃんを直視出来なくて、オレはまた枕に顔を埋める。
「・・・ごめん・・・」
くぐもった声で、小さい声で言う。
聞こえないかも、と思う自分、別に聞こえなくていいと思う自分。
でも、サクラちゃんは
「何で謝るのよ」
そう言って、よしよし、と頭を撫でた。聞こえてる。
『女は生まれながらにして、母であり、妻であり、娘である。
じゃが、男は生まれたときは本能だけのサルだ。
そこから成長していくんじゃよ。大きくな』
エロ仙人の言葉を思い出す。
ああ、そういうことか。
理解する。
オレはまだまだサルだ。
「オレ・・・大きくなれるのかな」
そう呟いたら、
サクラちゃんは
「大丈夫!もっともっと大きくなるわよ!!
今日は野菜料理作ってあげるからね」
そう言って、またオレの頭を撫でた。
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