個人的な銭湯巡礼札所として99番目を迎え、最後の2桁となる節目であったりもする。
その日は雨で、自転車で銭湯に向かうのは難しかったので、何となく地下鉄に乗って、
何となく銭湯マップを眺めながら、何となくこの地に舞い降りた。
同月、同駅からアクセスしやすい江東区3番の第二湊湯が廃業したばかりで、銭湯の数が
減っているのを実感しながら、少しでもお役に立てればと思いつつ銭湯めぐりをしている。
清澄白河駅を下り、いつか清澄庭園に来たいなと思いながら、隅田川にそそぐ小名木川に架かる高橋を渡り、
住宅街を進むと威風堂々とした昔ながらの東京銭湯が姿を現す。この辺りは川沿いにマンション群がそびえ、
まさに都心に見られがちな風景ではあるが、少し住宅街を歩けば、こんな立派な昭和建物も残っているのだ。
また、高橋を隅田川寄りに進めば萬年橋があり、歌川広重が絵に残し、松尾芭蕉が居を構えた場所でも知られる。
ここから見る清洲橋はケルンの眺めと呼ばれ、美しい眺めと定評がある。
さて、常盤湯に話しを戻し、外観は大きな典型的な東京型銭湯で二段の破風構えで懸魚はなく、改装されて
入口が正面ではなく左側に造られている。右側にはコインランドリーがある。入口の暖簾は夏にあわせて花火の
暖簾で、下足箱の鍵は松竹錠で、縦型の傘入れがある。靴を脱いで進むと、男女が分かれる正面入口となり、
番台裏には章仙師の宝船、鶴、松、富士山の立派なタイル絵があり、入浴する前から期待させてくれる。
脱衣場に入り番台を見ると、継ぎ足しもされていない番台に齢80にもなろうかと思われる店主が迎えてくれた。
この歳で23時30分まで営業して掃除もするのだから恐れ入る。大切に銭湯を使わせていただこうと感じる。
やはり体調の関係で何度か店を閉めていた時期があるようで、この銭湯も時代と共に姿を消す可能性があり、
銭湯を取り巻く時代の変化に名残り惜しさを感じる。
折上げ式格天井に、男女の境には丸木の一本柱が使われ、大きな鏡があり、見上げると歴史を感じる時計がある。
古い銭湯によくある朝日新聞の広告も健在で、モーニングと書かれたジュース販売機とアイスが販売されている。
そして古い建物の匂いが残り、床にはカーペットが敷かれ、掃除はけっこう行き届いている。
そして、縁側には椅子と扇風機が置かれ涼みたい気持ちにさせてくれる。縁側にもロッカー置かれている。
男湯のみだが素晴らしい坪庭があり、規模は大きく大きな鯉が泳ぎ、かつて滝が流れていたであろう溶岩石があり、
シダ植物が生え石灯籠が置かれ、夜は灯りがついている。まさに日本人が好む景観で、かなり立派な坪庭である。
そして愛煙者にはありがたく、縁側では喫煙が可能である。
さて浴室に入ると、天井の高い東京型2段天井に、男女の境には幅広に人物の姿が小さい風景画が描かれ、奥には
早川氏による富士山のペンキ絵が描かれている。富士山は男女の境の中央にそびえ、海から眺めた風景となっている。
5×2の島式カランが2列、男女の境に4の単式カランが1列で、温水の立ちシャワーが一つある。桶はケロリン。
浴槽は深湯を含めた三層式で、左から順に低温湯、普通湯、高温湯とあるが、低温湯でもかなり熱かった。
台東区を筆頭に東側の銭湯は全体的に熱い湯が多いように感じる。100箇所近くも銭湯に行っていれば、
最近では熱い湯にも慣れてきて、むしろこの熱い湯にパッと入ってパッと出る東京銭湯の美学に興じている。
貴重なレトロな銭湯で、後世に是非とも残ってほしいと願うのは私だけではあるまい。
訪問日:2009年08月/東京銭湯巡礼・個人的第99番目札所