きっかけは、本当に些細なできごとだった。


金曜日の朝、朝食を食べながら俺はTVを見ていた。
 「コナンくーん、今日雨降るー?」
台所から食器の片付けをしながら蘭が尋ねる。
蘭は空手部の練習で俺より早く家を出なければならない。
小学生の俺の登校時間はまだ遅い。
 「・・・午後から雨だってさ」
俺の返事に蘭が台所から顔を出した。
 「えー、雨!? 降水確率何%? ・・・あれ? ねぇ、コナン君どこを見てたの?」
 「えっ?」
蘭がTV画面を指差しながら言う。
 「ほら、東京の予報は晴れのち曇りじゃない。雨マークは出てないわよ?」
 「・・・あっ」
俺は気づいた。
 「あぁ〜僕、間違えちゃったー、あはは」
 「もう、コナン君ったら。春休みは先週で終わったのよ?」
 「ごめんなさ〜い。でも春休みは短いから、なんだかまだ終わった気がしないんだよね〜」
 「うふふ、そうね。でも雨予報が出てなくて良かった」
 「どうして?」
 「今日授業が終わったら園子たちとお花見をすることになってるのよ。勿論、学校の桜でね」
そう言って蘭は笑いながら自分の部屋に荷物を取りに行った。
・・・彼女は気づかなった。
俺が天気予報を見た本当の場所がどこだったのか、を。
そして俺が思い浮かべる桜の咲く風景はどこなのか、を。




   キーン・・・コーン・・・カーン・・・コーン・・・・

 「コナン君、授業終ったよ〜?」
俺は我に帰った。
辺りを見渡すと、いつものメンバーが帰り支度をして俺の周りに立っていた。
 「あぁ・・・」

学校の帰り道、空を見上げる。
夕方と呼ぶにはまだ早い3時過ぎの東京の空は、曇ってはいるものの明るかった。
雨は降りそうにもない。
 「コナン君? どうして今日は、1日中そんな怖い顔してるの?」
歩美ちゃんが心配そうな顔で俺の方を覗きこむ。
 「えっ、そうかな? 今日は蘭ねーちゃんの帰りが遅いから
夕飯をオッチャンと食べなきゃいけないなぁーって考えてただけだよ」
 「毛利のオッサンとだと、今夜はカツ丼だな」
 「それは元太くんが食べたい物なんじゃないですかぁ?」
いつもと同じ顔。
いつもと同じ会話。
 「わぁ〜、見てみて! 桜の花が咲き始めてるよ!」
 「ようやく咲きましたねぇ」
 「桜餅が食いたくなっちまうな〜」
 「もう、元太くんったら食べることばっかりなんだから」
たわいもない、その会話を聞いて灰原が何かを知っているような顔で微笑を俺に向けた。


 「じゃあね、灰原さん。コナン君。また、月曜日ね〜!」
歩美ちゃんたちと別れ、灰原と二人きりになった時に俺はため息をついた。
 「なによ、ソレ」
 「・・・別に、何でもねーよ」
また、空を見上げる。
 「何か降ってくるの?」
横を見ると灰原も空を見上げていた。
 「それとも、何かを待ってるの?」





 毛利探偵事務所の部屋の明かりは点いていなかった。
オッチャンもまだ帰ってきてはいないのだろう
俺は空を見上げた。
視線の端に、ビルに隠れた赤い塔の一部が見えた。
東京タワーに明かりが灯っていた。
 (あぁ・・・あの街にも塔があったっけ)

俺の足は自然と駅に向かっていた。
環状線から、東京駅へ。
そこから一番早く出る新幹線に飛び乗り、
西に向かった・・・。


車窓から見える風景は次第に灰色の空にかすんで見えづらくなって来た。
雷鳴も稲光もなく、雨は降り始めていた。
新幹線の早さに吹き飛ばされる程の、弱弱しい雨だった。




大阪に降り立ち、俺は行き先を失っていた。
ただ西へと、向かいつづけていた。
心の中でいつも探していた場所だった。
天気予報を見ている時も、桜の舞う街並みを歩いている時も、授業中に窓の外を眺めていても。
いつもこの街が心の中にあった。
 (なぜだ・・・・?)

帰宅ラッシュを向かえた駅前のタクシー乗り場には、傘の行列ができていた。
色とりどりの傘の下にいるのは、帰る場所のある人達だ。
 (俺はこれからどこに帰ればいいんだろう?)


答えが見つからない。
「大阪」がその答えだと、思っていたのに。
この街にたどり着いたのに、答えが見つからないままだ。





 目の前のタクシーの列に割り込むように、車が1台乱暴に止まった。
視線が動いた。
 「おーい、工藤ー!」
その声に頭よりも先に、胸が悲鳴を上げた。
血液が流れを止めるほどの衝撃だった。
 「服部・・・・なんで・・」
彼は運転手に何かを告げると、こちらに向かって走ってきた。
 「やっぱりここにおったんか、この不良小学生が」
本当に、本物の服部平次だった。
彼は腰を落として俺の顔を覗きこむと一笑した。
そして携帯電話を取りだし、どこかにかけた。
 「あぁ、もしもし? 毛利のオッサンか? あぁ、見つけたで。あぁ・・・、一人で来たようや」
そうか、誰にも何も言わずに来てしまったんだった。
 (もう、東京に帰るんだ・・・・)
俺はここに着いた時よりも一層、心がきしんだ。
 「・・・・あぁ、俺も明日から休みやし。ボウズは今晩うちに泊めて
 日曜日には帰すわ。・・・・あぁ、わかった、心配いらん」
会話の内容にあっけにとられ、服部を見上げた。
 「連絡もなしに来たからには、何かあったんやろ?」
携帯を懐にしまうと、彼は視線を合わせるように腰を下ろした。
 「どないした?」


彼の姿を見た時から、俺はもう嘘が付けなくなっていた。

 「あの時の桜が、今年はどんな風に咲いているか・・・。
 雨で散り落ちる前に、・・・お前と二人で、確かめに行きたかったんだ・・・。」




―終―











FAILBOXのひびきさんから。
以前書いた小説を十字路バージョンに直されたのことです

コ平デートコース散策出発前に頂いたので、浮き足だったまま京都へ。
十字路の地上波放送も間近だったから独り前夜祭でした!
コナン君の焦燥に駆られる感が!情景が!平次が!!泣!!!

ウチは常時、桜:十字路:コ平フィーバーなのです
コ平が好きと公言していて本当に良かっ…た…!!
ありがとうございます、ひびきさん!
04/04/23UP