smoking (お題:煙草) 冬の明け方、寒い空気に、ふぅっと白い煙を吐き出す。 「煙草の煙なのかそれとも吐息なのか、分からないねぇ」 笑って僕はそう言った。 「朝ぐらい煙草吸わないことできないの?」 ユウは顔をしかめてそう言い、火のついている煙草を奪おうとした。 「まだ日出てないから」 そう言って逃げた。最後の一本なのだ。奪われてしまっては困る。 「せっかくのきれいな空気なのに・・・」 ユウはブツブツと言いながらフェンスに寄り掛かった。 フェンスはカシャンと音をたて、冷たい朝の空気に響く。 「身体に悪いのは百も承知ですよ」 笑って僕がそう言い、煙草をくわえたままユウの髪を撫でる。 「分かってるなら、本数減らすとかしなさいよ」 ユウが僕の手を払って小言を言った。 始まったなぁ、と聞き流しながら煙を吐いた。 ゆらゆらと揺れて空気中を漂う。 「結構、キレイだと思うんだけどねぇ・・・」 「何が?」 「煙。昼間見るよりも、朝とか夜中の方がキレイだと思うんだよ」 「わけ分かんない」 ユウもまた始まったみたいな顔をして、そう言いきった。 「いいよ、別に」 短くなり始めた煙草を吸い込む。 「あーあ、カナタについてくるんじゃなかった」 デカイ声でフェンス越しの町に向かってユウが叫んだ。 手をかけたフェンスがカシャンと鳴る。 「僕の所為なの?」 その言葉と共に煙と苦笑いが出た。 屋上に締め出されて一晩が経つ。 腹は減る、眠れない、煙草は終わる、勿論ユウの機嫌は最高に悪い。 けれど、屋上に上がった原因は『星が見たい』と言ったユウ本人だ。 『見られるわけがない』と言ったのに、 大丈夫と言って階段を駆け上がったのはユウなのだ。 「カナタが止めなかったのがいけないのよ」 「はぁ・・・」 煙を吐き出して返事をした。 「カナタが止めてたら、締め出されることなんてなかったの」 「止めたんだけどねぇ・・・一応。まぁいいじゃんか」 また小言を並べ始めたユウを横目で見ながら、 フィルター近くまで短くなった煙草を一気に吸い込み、言った。 「何が?星は見られなかったのよ」 振り返ったユウがそう言った。 「朝陽が見える」 煙を吐きながらフェンスの向こうを指さした。 ちょうど、太陽が町中から昇ってきていた。 「締め出されるのもいいんじゃない?」 眩しいと思いながらそうユウに言った。 フェンスにしがみついたまま、ユウは目を輝かせて見入っていた。 「・・・たまにはね」 振り向かないままユウが言った。 「そう、たまにはね」 笑いながらユウと同じ言葉を繰り返した。 そして、煙草を揉み消して立ち上がった。 太陽が丸くなる頃、キィとドアの方から音がした。 2人で振り向くと、ドアを開けた管理人がビビって立っていた。 「閉められちゃったもんですから」 と笑いながら言うと管理人は本当にすまなそうに謝った。 「いいですよ。夜中に出た僕達も悪いので・・・」 そう言うと管理人は謝りながら階段を下りていった。 『カナタのお人よし』とユウは呟いて、僕を残し階段を下りていく。 「世の中お人よしも必要なんだよ」 笑って、階段を下りてくユウにそう言った。 ユウが踊り場で振り返り、 嫌なほどににっこり笑って屋上にいた僕に向かって叫んだ。 「吸殻拾っておくのよ」