誰にも言わない

如月の様子が変だ。いや、いつも変だけれど、今日は群を抜いて変だ。泣きそうな、笑いそうな、怒り出しそうな、なんとも曖昧な表情をしたままベッドの上にちょこんと座り、頬杖をついて、窓の向こうを見てはため息を吐く。時折絡みやすい細いその髪の毛をぐしゃぐしゃにしてみたり、ぱたりと横になってみたり。ずっともぞもぞしている。おかしい。絶対変だ。
「如月、どうしたの、」
「なにが、」
「変だよ」
へん…と呟いた如月は次の瞬間こう言った。
「変と恋って…似てるよね」
変だ。絶対変だ。どうかしている。
春眠は暁を覚えず、春は恋を運ばず、ただ変にしてしまった。
どうしたっていうの?

2007年03月14日(水)22:05
さつきときさらぎ * 変になるのをメルヘンチックに言うと、恋

500Wの場合は3分半

ずっと文句ばかり言っていた彼と彼女がある日突然、それはもう電光石火の如く、あるいは愛情だとかを電子レンジに放り込んでチンしたみたいに、それはそれはあっさりとよりを戻した。
きっかけは本当にささいなことだ。はじめも、おわりも。
それはよかったねと、彼女と電話していたのだけれど、本心としてはああくだらないな世界ふしぎ発見見たいなとか思っていた。
彼女は彼女で話をやめる気配もないし。ああ雨が降ってきたよ、洗濯物取り込まなきゃ。
であったりわかれたり、もううんざりする。回転が速い。ついていけない。ついていきたくもないけれど。
そんな簡単なことでいいんですか?そんな安易でいいんですか?

でもさっさと電話切りたいから、そんなこと言わない。
「よかったね」

2007年03月10日(土)22:06
簡単でいいよね

ミッドナイトマジック

カーテンを開けると飛び込む夜景の海に溺れやしないかと不安になった。瞬間、ぐるりと回転するかのような目眩がした。
夜なのに外は暗くない。星ひとつない。無音が掻き消された。
目に映る灯の一つ一つに、それぞれの人間がいる。いないかもしれないけれど、辿れば同じだ。どこかで誰かが作り出したから、そこで放つ明かりだってあるだろう。
ここにあるのは全て、知らない誰かだ。
僕はここで君の知らない誰かになっていく。
なんて恐いことなのだろう。
君が何に怯え、何に傷つき、何に斃れるのかは知らないが、少なくともそれを共になぞることなど出来ない。
いつか君と出会うとき、この街で僕は君を見つけられるだろうか。
回転と反転を繰り返して瞬く僕らの狭い宇宙は、今夜も煌々と光り続ける。

2007年03月08日(木)21:37
昨日のわたしが今日のわたしを見て、気づけるか不安

思い出すも思い出さないも なにも

すごくどうでもいい話なのだが、山育ちだからか小さい頃は水が恐くて恐くて、水中で目を開けるどころか冷たい水に肩まで浸かることすら恐い子供だった。ちゃぽんと頭を沈めることもできなくて、手や足に触れる水の感触が恐くて仕方なかった。いつか慣れてしまったら、魂ごと引きずり出されるような感覚すらあったのだ。元来目はいい方ではなかったし、ただでさえぼやける視界が水の中では何倍もぼやけるのだ。そりゃあ恐いはずだよと今なら思えるけれど、あの頃は何故それができないのかがさっぱりわからなかった。ただひたすらに恐かったのだ。
ちゃぽんと水が落下する浴室で、ふとその頃を思い出していた。どうしてあんなにも怯えていたのだろう。
そういえば、風呂に入るのも何故だか恐かった。今は恐くない。しかしながら、なんだかこう、水というものを通して薄い皮膚を突き抜けて私が消えてしまいそうな感覚になるのだ。境界を失ってしまいそうな、そんな感覚。
どうしてだろう。失うもなにも、最初から私という存在なんて水で満たした蛋白質の塊が+と-とを纏っているだけだというのに。
懼れるなら塩だろうよと思いながら、ちゃぽんと頭までお湯に浸かった。

2007年03月06日(火)21:52

みずいろになりたい

濃い翠の苔が私の背中を支えていて、向こうに見える珊瑚は珊瑚色より甚三紅。極彩色の魚が戯れる石牡丹は、波に形を作っていた。さかさまに見える景色は、空なんか映さないで同じ世界をただ反射しているだけ。
みずいろになりたい。みずいろになりたい。どこまでも透き通るようなみずいろに。
そうすればこの景色に溶け込めるのに。欠けている色を私で埋めて、まるでなにもなかったみたいに空のフリができる。
そうでもなければ、ここに私がいる意味なんて見出せないの。

2007年03月05日(月)18:41

タダイマ

したたかだと言われて、はぁそうですかと答えたら褒めてるんだけどなぁって返された。あなたならどこにいっても大丈夫ってよく言われるけれど、なんだかそれって見放されてるみたいでちょっと寂しい。
季節が変われば変わるほど、知っている人が知らない誰かになっていく。わたしだって変わっていく。変わらないものがあるとすればそれは思い出くらいで、それも簡単に忘れていく。
硬くて分厚い殻なら力ずくで壊しちゃえばいいけど、見えるくらい薄いしなやかな膜ならそう簡単に壊せない。
いつか誰かが言っていた言葉が今なら沁みるみたいにわかる。
したたかでしなやかなのは、とても悲しい。わたしも、誰かも壊すことなんてできない。
帰る場所なんてたぶん、何処にもないんだ。

2007年03月04日(日)21:26
行く場所も帰る場所も、本当はないんだと思った

重なり合う 生命は 途切れながら 一定のアルゴリズムを維持して

先生、聞いて欲しいことがあるのです。
永遠についてです。時間というものは果たして無限なのであろうかということです。
ボクが考えるに、答えはイエスでありノーです。同時に存在しているまったく別の世界のことをよくパラレルワールドだなんて言いますが、一つの生命体ごとにそれが存在するのではないかということです。一つの生命体ごとに一つの世界が、まるでレイヤー構造かの如く存在し、それは互いに多少の影響を伴いながら同時に存在しているのではないかと考えたのです。二次元の世界を繰り広げている紙を重ねて束ねると三次元としての本になるようなイメージです。紙も本も同時に存在しているけれど、それは別のものです。それと同じです。
ええ、わかっています。くだらない話かもしれませんが最後まで聞いてください。
ボクはその一つの構造が、一つの命を終らせるのと同時に消滅し、その空間にまた同じように一つの構造が発生するのではないかと考えたのです。それはその前に存在していたのと同じように運動し、それらが重なり合うことによって一種のアルゴリズムのようなものを作り出しているのではないかと考えたのです。いくら心に誓っても、死んでしまえばまたリセットされて同じような悲劇を繰り返すのはその所為なんじゃないかと思ったのです。例えば戦争とか。
つまりそうして、同じことを何度も繰り返して、一つの輪の中を堂々巡りしている。そこには有限も無限もありません。
何故なら、ボクらは一つの構造でしかないから。
先生、ボクは間違っていますか?

2007年02月25日(日)23:05
レバンネと先生

ユメイロ

夢の中で未来の私を見た。

私は今よりだいぶ痩せていて、それなりの女らしい服を着ていた。髪の毛はだいぶ長くて、綺麗な巻き髪だった。マクドナルドのシェイク片手にどこかの鉄塔みたいなところの展望室にいた。隣にいるのは誰だろう。ああ、見えない。思い出せない。
今より綺麗に笑っていた。

目覚めてしばらくぼーっとしていた。ショートカットの髪の毛を指先でくるくると弄ぶ。いつだろうか、あれは。
まぁいいか、何れ来る。
一人、呟いて布団を出たものの、寒さに負けて同じ体勢に逆戻り。
綺麗なレディには当分なれそうもない。

2007年02月20日(火)21:44

耳を塞いで

耳を塞いで目を閉じると、目の前に広がるのは大海。もしくは大宇宙。なんの雑音も聞こえない。ただ大きな何かがそこにあるだけ。
恐くはない と、口にした。涙がぽろりぽろりと落ちる気配がした。
恐くはない。恐くはない。
一定のリズムを孕んで、音は大きくなる。見たこともない海、真っ黒な宇宙はわたしの内側にあったんだ。

衣擦れの音がして、障子に影が浮かんだ。母だ。
上等な畳に染みができてはいけないと着物の袖で拭ったけれど、もはや遅い。ふやけた青がぽつりと一つ畳に浮かぶ。
嘘で涙を隠した。声は震え一つなく、凛と澄んだ声だった。
恐くはない。何一つ。

2007年02月19日(月)23:24
過難のイメージ

掲げた旗に染まる文字は

ねぇ、夕咲。蛹ってね、輪切りにしたら中身がどろどろに溶解しているのよ。気持ち悪いでしょう。芋虫として存在していた体が一旦全部蛹の中で溶けるんだって。外から見たら全然そんな風には見えないでしょう?もしかしたら芋虫が綺麗な蝶になるなんて、実は嘘なんじゃないかしらって、私思うのよ。同じであって同じでない。
ねぇ、それってまるで私たちみたいだと思わない?

標本を見つめながら未月はそう言って、ガラス越し、色とりどりの蝶に細い指先で触れた。
僕の耳には、薄い翅がぱりぱりと音を立てて粉々になるみたいに見えたんだ。
(所詮美しい姿なんて僕らの幻想でしかないということ 真実はいつだって目に見えないということ そして僕らはそれを知らずに塗りつぶしていく)

2007年02月18日(日)23:25
未月さんと夕咲