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◇◆ Cantine 1 ◇◆
 透明なガラスのボウルに小麦粉の塊を投げつけて、こんなもんかと汗を拭ったところで、高遠さんに声を掛けられた。
「ねぇ満月ちゃん、やっぱり浅海さんのお相手は、三番さんよね?」
「Nonna、一体何のお話をしているの?」
 ボウルを湯煎にかけてシャワーキャップを被せ、エプロンで手を拭きながら振り返る。
 するといつの間にか、番号のふられた数枚の履歴書が調理台の上に置かれていて、三番を指差しながら高遠さんがサラリと言葉を繋ぐ。
「浅海さんの縁談ですよ。寛ちゃんも満月ちゃんという素敵な伴侶を娶ったことだし、浅海さんがいつまでも独身なのはおかしいでしょ?」
「え? で、でも、Pareはきっと……」

 彼の好物であるパニーニを、武頼パパから直々に教わってみたものの、やっぱり何かが違う。
 昨日今日でパン作りを始めた私にとって、天然酵母の扱いが容易くできるわけなどないけれど、習うより慣れろだ。
 それでも困ったときにすぐ助言がもらえるよう、相変わらず高遠家で練習を積む私の図々しさは素晴らしい。
 そして、返答に困る助言を私へ求める高遠さんも、相変わらず健在だ。

 そこに、台所の床を軋ませながら寝ぼけ顔の武頼くんが現れて、右手で首を揉み揉み、開口一番言い出した。
「ま〜た、ばあさんのお節介が始まったな?」
 家具職人の父がよく言った。 『木はね、切られてからも呼吸をやめないんだよ』
 だから私は、木が呼吸をしている証拠のようで、床の軋む音が昔から好きだったりする。
 けれど高遠さんの意見は違うようで、武頼くんの台詞に反応することなく話をすり替えた。
「あら嫌だわ、床が軋むだなんて。やっぱりリフォームよ! 満月ちゃんは、どんなキッチンがいいかしら?」
「はぁ、これだよ。ばあさん、あんたは絶対に長生きするよ……」

 やっぱりこれも、習うより慣れろの精神だ。
 高遠家の一日は、このようにして始まり、このようにして終わる。
 そして高遠さんの質問に、答えようが答えまいが、結果はどちらも変わらない……
「マンションのキッチンは木目で統一されていることだし、ここは白で統一したらどうかしら?」
「ノ、Nonnaのお望みのままに……」
「あら、それでは駄目よ。私は満月ちゃんに聞いているのですもの」
「じゃ、じゃあ、空色なんてどうかな?」

 ヤレヤレ顔の武頼くんが、軋む板の上でわざとらしく足踏みしながら言い出した。
「そんなことより満月、コーヒー淹れてよ?」
「なんですか武頼、満月ちゃんに失礼ですよ」
「失礼なのはこいつだろ? 朝っぱらから、ドッカンドッカン!」
 鼻筋に皺を寄せて強烈な文句を放つけれど、その言動ほど武頼くんは怒っていない。
 逆に数日でも高遠家から足が遠ざかると、彼や新月を通して私のことを心配する。

『ねぇ満月、具合でも悪いの? 満月が来ないって、武頼が心配してるよ?』
『満月さん、祖母と武頼から、満月が現れないといった内容の、夥しいメールが送られてくるのですが……』

 なんだかんだと言っても、自分を心配する人が居てくれることはとても嬉しい。
 だから実家よりも頻繁に、ここへ足が向いてしまうのだけれど、こんな私でも少しの遠慮と罪悪感はある。
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
「俺は繊細だからね。で、寛兄はまた出張?」
「ううん、今は本社。浅海さんが先月からフランスだから」

 浅海さんは、日本でも有名な酒造会社の社長さんだ。
 特に近年は、ワイン部門に力を入れているため、彼も浅海さんも海外出張がとにかく多い。
 子どもが居るわけでもなく、彼の居ないマンションで一人淋しく過ごすのも物悲しいから、こうしてチョロチョロとマンションと高遠家を往復しているのだけれど……

「満月さん、寛弥さんからお電話です」
 高遠家の家政婦である道子さんが、はるか向こうの電話機を手で示しながら台所に足を踏み入れた。
「あ、はい。今行きます」
 濡れてもいない手を、意味もなくエプロンで拭きながら、長い廊下の中央に置かれた電話機を目指して小走りすれば、 後方から聞こえる高遠さんの声。
「ねぇ道子さん、満月ちゃんには、空色よりも白が似合うと思わない?」

「もしもし? 寛兄?」
 昔ながらの黒く重たい受話器を取り上げて、のんびり加減で応答した。
 けれど受話器の向こうから聞こえてきたのは、少し切羽詰ったような彼の声。
「満月さん、携帯は携帯してくださいね」
「え? あ、忘れてきちゃった……」
「これから帰りますから、そこで待っていてください」
「もう帰ってこられるの?」
「いえ、実は……」

「Nonna! Pareが倒れちゃったんだって!」
 バタバタとスリッパの音を立てて、大声で喚きながらキッチンへ飛び込んだ。
 どこから取り出したのか、高遠さんはキッチンのカタログを調理台の上へ広げていて、呆れ顔の武頼くんと、苦笑いの道子さんが隣に佇んでいる。
 けれど私の叫び声を聞き届けると、三人三様に驚きの表情を浮かべて私を見た。
「まぁ! それで、容態は?」
「命に別状はないらしいけど、これから寛兄がここに迎えに来て、一緒に病院に行くって!」
「行くってお前、浅海さんはフランスだろ?」
「え? あ、あ、そうだ! パ、パスポート!」

 ここで待てと言われたけれど、海外へ行くとなれば話は違う。
 けれど、あれもこれも用意しなければならないと慌てふためく私へ、なぜか平然と道子さんが告げる。
「満月さんのトランクでしたら、寛弥さんが定期的にこちらへ運んでいらっしゃいますが?」
「お、え、は?」
「さすが寛兄、全てを把握! そして満月は孫悟空!」
「あはは! その表現はピッタリですわね。寛弥さんはお釈迦様役がお似合いですもの」
「な、そ、え?」
 全く状況が読めない私を無視した、武頼くんと道子さんの会話に花が咲く。
 そして最後は、状況などどうでもいい高遠さんが、目を輝かせて呟いた。
「やっぱり、浅海さんには伴侶が必要ね……」

               ◆◇◆◇◆◇◆

 道子さんをはじめ、数人の使用人を雇う高遠家が、無人になることはあり得ない。
 さらに、マンションから空港までの道すがらに、高遠家が存在する。
 だからこんなときのためにと、季節ごとに洋服を入れ替えた私のトランクを、彼は高遠家に預けていた。
 そんな彼の、相変わらずな手際の良さに感心するものの、やっぱり何かが腑に落ちない。

「少し寝ておかないと、向こうで時差ボケになってしまいますよ?」
 エールフランスの、パリ直行便に乗り込んでから数時間。
 大好きなワインには手を付けず、コーヒーを啜りながら彼が囁いた。
 きっと、浅海さんが心配で、飲む気になどなれないのだろう。
 平静を装ってはいるけれど、口調も歩調も、いつもの彼より少し速い。

「ねぇ寛兄、寛兄は、Pareが倒れちゃうんじゃないかって思ってたの?」
 ずっと考えていた不安材料を、そのままの形で口にすれば、少し間を置いた後、彼が別の角度から切り返す。
「トランクのことですか? あれは祖母の提案なんですよ。私の出張が続いていたので、事故などを心配した祖母が、予備のトランクを我が家に預けて欲しいと」
「でも、パスポートもあったし、予備じゃないじゃん!」
「そんな顔をしていると、本物の大福になってしまいますよ?」
「なりません!」

 結局、なんだかんだと言いくるめられ、有耶無耶なまま強引に寝かされて、目覚めたときには着陸準備に入っていた。
 シャルル・ド・ゴール空港に降り立った途端に降りかかる、サッパリ分からない異国の言葉。
 微かに英語も混ざっているけれど、英語すら侭ならない私には意味がない。
 彼は幼い頃から、浅海さんに語学を叩き込まれたらしく、どこの国へ訪れても、流暢な現地語を繰り広げる。
 そして彼に促されるまま税関を通過し、彼の右手を握り締めたままロビーへ躍り出た。

「Hiroya! Je suis ici!」
 キョロキョロと、辺りを伺っていた彼に放たれるフランス語。
 声のする方へ振り向いた彼は、探し物が見つかったときのように、ゆったりと笑みを広げた。
「向井さんがこちらにいらっしゃるし、田崎さんも同行していると聞いていたので、安心していられましたよ」
 フランス語で彼に呼びかけた、明らかに日本人であろう男性と、握手を交わしながら彼が言う。
 すると顔を赤らめた男性が、少し照れながら返答する。
「いえいえ、私など何の役にも立てませんよ」

 いわゆるこれが、日本の社交辞令と言う代物だ。
 いくら日本在住歴が長くても、社会人歴のない私には、やっぱりこれもサッパリと分からない儀式だったりする。
 それでもこれだって、習うより慣れろの精神で乗り切れるはず……
「……満月さん?」
「ん? あ、あ、初めまして。浅海の家内です」
 慣れるまでに、とてつもない時間が必要かも知れないけれど……

 こうして、空港まで迎えに来てくれた向井さんと共に、浅海さんの入院する病院へ向かう。
 向井さんたるこの男性は、どうやら浅海さんの会社のフランス支社長らしい。
 そしてもう一方、名前の挙がっていた『田崎さん』たる方は、浅海さんと一緒に現地入りした社長秘書さんだ。
 そんな向井さんと彼の仕事話が、車内で延々に続く。
 だから私は、聳え立つエッフェル塔を半口開けながら見上げ、本来の目的を忘れて、イタリアとは違う、フランス独特の雰囲気や趣に酔いしれた。

 慌しく車を降りて、いつもよりも早足な彼に必死で歩調を合わせ、ようやく浅海さんに面会する。
「なんだお前か。わざわざ来なくても良かったのに。というか、来るなら満月に来て欲しかったのに……」
 彼の影で、浅海さんには私が見えないのだろう。
 子どものように唇を突き出して、ぶすったれた浅海さんが彼に向かって文句を放つ。
 けれど、そう言いながらも浅海さんの瞳は嬉しそうに輝いていて、そんな元気そうな浅海さんの姿を見ることができて、私も少しだけ安心した。

「Pareどうしたの? 大丈夫?」
 彼の影からヒョッコリ飛び出して、両手を差し伸べながら駆け寄れば
「満月! あぁ、もう君を死ぬまで放さないよ……」
 相変わらずな口説き文句とともに、力いっぱい抱きしめられて、その力強い抱擁にまた安心する。
 けれど数秒後、浅海さんと私の間に手が滑り込み
「さ、もう気が済みましたね。サッサと満月さんを放してください」
 そんな台詞とともに浅海さんから引き剥がされ、今度は彼が私を抱きしめた。

「まぁ、お見えになっていらっしゃったのですね。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
 花の活けられた花瓶を手に、彼よりも少し年上だろう女性が、病室に現れた。
 派手でもなく地味でもなく、洗練された品のある大人の美しい女性。
 なんとなくだけれど、その女性は高遠さんの若い頃を想像させた。
 そこまで考えて、ようやくこの女性の名を思い出す。
「さ、三番さんだっ!」

 その場に居た全員に僅かな沈黙が訪れて、その後また、全員が一斉に話し出す。
「そんな朗らかな満月を、僕は命がけで愛し抜くよ」
「抜かなくて結構ですから」
「いや、その、すみません……」
「いいえ、何のことかは分かりませんが、その言葉に素敵な響きを感じますわ」

 誰に何を問われるわけでもなく、それでも、ヒヤヒヤしながらその場をやり過ごす。
 高遠さんお勧めの三番さんは、噂の社長秘書『田崎さん』であることが、その後すぐに判明したけれど、 拭いきれない想いが残る。
 一体、高遠さんはどうやって、三番さんの履歴書を手に入れたのだろう……

 彼が浅海さんの担当医を訪ねるために席を外し、そこへ案内するため、田崎さんも一緒に病室を後にする。
 二人の影が消えるのを確かめてから、浅海さんがいつになく真剣な表情で切り出した。
「満月、ちょっと頼みがあるんだが……」
「うん、なあに?」
「……やっぱりいいや。なんでもない」
「えぇ? なんだかとっても気になるんですけど……」

 二人に。というより、彼に聞かれたくない話を、浅海さんはしたかったに違いない。
 それでもその後は、何度尋ねてもはぐらかすばかりで、二人の帰館とともに、その話は打ち切りとなった。

               ◆◇◆◇◆◇◆

 コンコルド広場と、サントノレ通りに隣接した優雅なホテル。
 ライトアップされて輝くホテルに一歩足を踏み入れれば、まばゆいばかりのロビーが広がっていた。
 そんな荘厳な雰囲気に満ち溢れたホテルのレストランで、遅めの夕食を彼と済ます。
 田崎さんが私たちのために、急遽予約を取ってくれたのだけれど、  外観だけではなく、この料理内容からしても、相当敷居の高いホテルに違いない。
「寛兄、ここのホテルって、何星?」
 恐縮しながら彼に小声で尋ねれば、ようやくワインを口にした彼が、臆することなく、ごく自然に答えを返す。
「最上級ですよ。普通、早々予約の取れるホテルではありませんから」
「じゃ、田崎さんは普通じゃないんだね……」
「そうですね。彼女は恐ろしいほどのやり手です」

「Nonnaは、やっぱり見る目があるな……」
 野いちごのケーキを頬張りながら、一人心地に呟いたところで閃いた。
 田崎さんなら、浅海さんが私へ言いかけた言葉の続きが分かるかもしれない。
 明日また病院へ行ったときに、田崎さんへ聞いてみよう。
 フォークを握り締めたまま、コクコクと小刻みに肯いたところで、 私の心の中を読み透かしたような彼の台詞が響く。
「その悪巧みに輝く瞳は、誰に向けられているのでしょうかね?」
「人聞きが悪いよ寛兄。悪巧みなんてしてませんっ」
「ではその瞳を、いつになったら私へ向けてくれるのでしょう?」
「え?」

 レストランを出て、部屋の扉を閉めた途端、私の髪に巻きつく彼の両指。
 ドアに寄りかかったまま彼の唇を受け入れて、激しくなる彼のキスとともに、そこら中の壁にぶつかりながら、ジグザグ歩行を繰り返す。
 互いの洋服を撒き散らしながら、部屋の中央に置かれたトリプルソファーの上まで雪崩れ込み、いつの間にか露になっていた私の胸を、彼の両手が優しく包み込んだ。
 久しぶりのその感覚に、思わず身震いが起こる。
 そんな私の様子を見逃さない彼が、息を継ぐ合間に囁いた。
「Vorrei essere vicino a te……」
「Io anche……」

 センターテーブルに置かれたウエルカムチョコレートに、彼が手を伸ばす。
 一口サイズのトリュフチョコを無造作に口の中へ放り投げ、 彼の熱で溶け始めたそれを私へ口移すから、チョコの甘さとキスの甘さに、私まで溶けそうになる。
 柔らかい彼の舌が、私の舌に絡みつく。
 そして口の中にひろがるチョコを、余すことなく舐め取っていく。
「……ふ……っ」
 甘い吐息が私の口から零れ出るけれど、そんな吐息さえ彼の唇が吸い取って、また甘いチョコが私の中へ入り込む。

「浅海に感謝しなければ。ここのところ忙しすぎて、満月の身体を堪能できなかったからね」
 不意に唇を離した彼が、私を見下ろしながら呟くから、堪らず飛び出す私の不安。
「身体だけ?」
 けれど、不安げに見上げた先には、輝く銀色の瞳と濃いブルーの輪。
「Ti penso sempre…Luna piena」
 掠れた低い声で囁かれ、ブルーの輪に包まれて、私の理性はそこで跡形もなくなった――

「Ti amo…Ti amo…Luna piena」
 口の中で胸の先端を転がしながら、彼が何度も愛の言葉を繰り返す。
「あっ…寛…っ……んっ…」
 迸るその快感に、恥じらいもなく自らソファーの背もたれに足を掛け、喘ぎながら彼を誘った。
 乱れ開いた足の間に、彼がゆっくりと顔を埋め始める。
 彼の吐息を濡れた肌で感じ、ただそれだけでヒクヒクと揺れる私の身体。
 ヌルっとした彼の舌が、敏感に膨らんだ突起を啄ばむと、その瞬間を待ち侘びていた身体に鮮烈な震えが走った。
「あぁっ……あっ…!」

 彼の両指が私の丘を割り広げ、剥き出しの突起にむしゃぶりついた。
「んっ! ああ…っ!」
 頭の先まで一気に痺れが駆け上り、叫び声に近い私の声が部屋の中に響き渡る。
「はぁあっ…やっ…んっ…やあぁぁっ!」
 溢れ止まない蜜を指に絡め、粘った音を立てて私の中をかき回す彼に、 拒む言葉を投げかけながらも、身体はもっと欲しいと懇願する。

 私の身体は、彼が齎す、もっと強烈な快感を知っている。
 その快感が、たまらなく欲しい身体は衝動的に動き出し、まだ露になっていない彼の固い塊を、布越しに握り締めた。
「ここでいいの?」
 意図を汲み取った彼が、少し驚いた様子で囁いた。
 どこでだって構わない。あの快感を、今すぐ味わいたいんだ。
 だから、声にならない言葉を呼吸のように吐き続けたけれど、私の意思とは裏腹に、優しく微笑む彼は、私を抱き上げ寝室に運ぶ。

「ひゃっ!」
 冷たいシーツの感触が、燃える身体に纏わりつき、思わずビクつく私の身体。
 けれど、その感覚は一瞬にして消えた。
「ぐっ ああっ!」
 一気に身体を突き抜かれ、突然舞い込んだ最上級の快感に、驚きと悦びが混ざった叫び声を上げる。
 ピッタリと吸い付くように彼の胸へしがみつき、強烈な波が引いていくのを待つけれど、焦らすようにゆっくりと動き出す彼の腰の動きに、 結局は堪らず懇願の声を漏らした。
「あっ、やっ、あっ…あっ、んっ!」

 彼が私の腰をしっかりと抱き、ペースと力強さを上げていく。
 深く突刺されては引き抜かれ、互いの肌がぶつかり合う音が幾重にもこだまする。
「いやっ、いやっ、あっ、あっ、あっ……」
 リズムに乗って吐き出される声が半音ずつ高くなり、頭の中に眩い光が差し込んで、ついに私は絶叫した。
「あっ、あっ、あ…あぁぁぁぁっ……!」

               ◆◇◆◇◆◇◆

 飽きることなく肌を重ね、朦朧となりながらも彼を求め続けた。
 そして、カーテンから薄っすらと陽の光が差し込む頃、睡魔が限界を迎えて襲い掛かり、彼の胸に顔を埋めて眠りに落ちた。
 彼の指が、優しく私の背中をなぞる。
 その動きがくすぐったくて、モゾモゾと動きながら、唐突な寝言を吐き出した。
「Nonna、私も三番さんに一万点……」
 そこで彼の片眉が跳ね上がり、疑惑に満ちた表情で私を見下ろしているなどとは、全く気付かないのであった――
     


 It continues.


※ Luna piena(満月・マツキの愛称) / Rilassa(寛ぐ・寛弥の愛称)
  Ti amo(愛してるよ) / Nonna(お祖母ちゃん) / Pare(義理パパ)
  Ti penso sempre(いつも君のことを考えているよ)
  Vorrei essere vicino a te(傍に居たいんだ)
  Io anche(私もよ) / Cantine(ワインセラー)
  Je suis ici!(ここに居るよ!)※フランス語

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photo by ©clef