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◇◆ Sei bella... ◇◆
 俺の様子を心配した浅海と、同じく満月の様子を心配した義理父が、タッグを組んで仕組んだ今回の帰国騒動。
 正直言って、今回のことではこの2人に頭が上がらない。
 もう限界だったんだ。俺も。そして満月も――

 著しい回復を見せる新月。誰もが諦めかけていただけに、その奇跡を心から皆が喜んでいた。
 そして今日は、面会謝絶が取り払われた。
 武頼や祖母をはじめとする高遠側は、これでようやく新月に逢うことができる。
 待ちに待ったことだけに、それに関わる家族全員が、報告を兼ねて集まった高遠の家で久しぶりに心から笑えるときを過ごす。
 そして月が優しく輝きを放つ頃、それに促されるようにそれぞれの家に引き上げた――

 久しぶりに帰る日本の部屋は、レモンの香りに包まれていた。
 義理父が丹精込めて造った家具を、満月がレモンで磨いたのだろう。
 夢中になりながら家具を磨く満月を思い浮かべ、頭の中に広がるその光景に思わず笑みがこぼれる。
 けれど想像から我に返ると、頭の中の満月と、現実の満月の微妙な違いに内心ドキッとした。
 本来は、俗に言うスポーツ刈りほどまで短く髪を切ったはずだ。
 そんな髪も少しは伸びて、今はベリーショートと呼ばれるほどの長さになっている。
 けれどそれでも、満月の髪を指で梳く癖のある俺にはショックが大きく、溜息を零さずにはいられなかった。

 潔いことをしたものだとつくづく思う。
 果たして新月はそんな満月の行動を、快く思ったのかどうか気になるところだったけれど
「私、何もわからないけれど、これだけは解るの。満月のことだけは、今も昔も大好きよ」
 そっと自分の髪を触りながら、泣きそうな顔でつぶやく新月の言葉で、それが大きな意味をもたらすことだと悟った。
 だから満月が愛しい。
 自分はいつも受け身だと、誰かのお荷物だとしょんぼりと肩を落とすけれど、決してそんなことはない。
 不器用さの中で、考えて考え抜いた結論は、いつも周りを暖かな気持ちにさせてくれるから――

 鼻歌交じりにコーヒー豆を挽く満月の姿を、無言のままソファーから眺める。
 髪がなくなったせいで、目鼻立ちの整った綺麗な横顔が、より綺麗に見えることに気がついた。
 シーツに広がる黒髪姿は、後数年見ることができないだろう。
 けれど、隠されてきた首筋が露になったことで、逆に前よりももっと淫らな妄想を掻きたてる。
 コーヒーよりも、満月を味わいたい……

 音もなく満月の背後に忍び寄り、吸血鬼のように満月の首筋に歯を立てた。
 驚きの小さな悲鳴をあげ、音を立ててマグカップをテーブルに倒す満月に
「火傷をしませんでしたか?」
 心配するふりをして声を掛けながら、そっと瞳を覗き込む。
「寛にぃが驚かすからでしょ!」
 頬を膨らませ、布巾を取りに走る満月を捕まえて
「洋服が染みになってしまいますよ」
 そう言うよりも先に、指はシャツのボタンを外していた。

「コ、コーヒーを拭かなくちゃ……」
「妖精さんが飲んでくれますよ」
 俺から必要以上に目を逸らし続ける満月に、痺れを切らし罠を仕掛ければ
「そんなものいません!」
 罠とは気付かず、鼻の頭に皺を寄せて満月が俺を見上げた。

 既にシャツのボタンを外し終え、肌蹴た満月の素肌に沿って上から下へと指を這わせながら
「Ti amo Luna piena……」
 瞳を覗き込んで囁けば、満月がハッと息を呑む。
「ん……っ」
 抵抗する隙を与えず抱きしめて、開きかけた口の中に舌を滑り込ませ、舌先で上あごをまさぐる。
「……ふ……っ」
 満月の最後の抵抗は、甘い吐息に変わり
 足元がおぼつかなくなっていく満月を抱き上げて、首筋に唇を這わせながら寝室へと運ぶ。

 既に朦朧としている満月を横向きに寝かせ、丹念に背中を唇で弄る。
 遮る髪を失った満月の背中は美しい弧を描き、月明かりに照らされて艶やかに光っていた。
 ゾクゾクする興奮に溺れながらも、背骨のラインに沿って舌を這わせれば
「……っ」
 身体が弓なりに反れ、溜息に近い吐息が漏れる。
 耳たぶを軽く噛み、後ろから鎖骨を舐めあげるたびにピクンと揺れる満月の身体。
 そして横向きの姿勢に耐えられなくなった満月が上を向き、俺に向かって手を伸ばした。
「Rilassa……」

「どうして欲しい?」
 恥ずかしさで頬を染め、唇を噛む満月をよそに、わざと音を立てて胸を吸い上げる。
 柔らかい先端が、その一瞬で固く尖り
「うん……っ」
 頭を仰け反らせた満月の指が、俺の髪に差し込まれた。

 好物のチェリーを口の中で転がすように、執拗に固く尖った乳首を舌で転がしながら
 右手は内腿を滑り、溢れるほど濡れた敏感な場所へと到達する。
 固く小さな突起を、円を描くように指で擦り
「俺が欲しいって……ほら……」
 低く、意地悪く満月の耳元で囁く。
「ちが…っ……ん……っ」
 痙攣するように小刻みに揺れる満月を尻目に
「満月……足…開いて」
 湿り気を指ですくい上げ、満月が素直に足を開くまで突起を攻め立てる。
「や……っ」
 言葉とは裏腹に、徐々に開かれていく満月の足を持ち上げて、素早くその中に滑り込んだ。
 今度は舌で突起を吸い上げ、指は熱いほどに熱を帯びたヒダの中をかき回す。
「…あ…っ…いや…っ…いや…あ」
 これほど感じながらも、上体を捻り抵抗する満月。
 満開の桜のように鮮やかなピンク色に染まる肌と、あえぎ乱れる表情。
 髪型が違うだけで、ここまでゾクゾクさせるものなのか……
 やばいな。この分じゃ、俺が持ちそうにない。
 そう考えたとき、あることを閃いた。

「だめ…っ……いやっ……」
 快感で頂点に向かいながら叫ぶ満月の、その言葉にわざと反応し
「ダメ? 嫌? ならば止めましょう」
 全ての動きをピタッと止めて、微笑みながら満月を見下ろした――

It continues.

※ Luna piena(満月・マツキの愛称) / rilassa(寛ぐ・寛弥の愛称)
  Ti amo(愛してるよ) / Sei bella…(綺麗だよ…)

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photo by ©かぼんや