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◇◆ 詩聖学院 ◇◆
 止ん事無い身分の子弟のみを受け入れる、それはそれは止ん事無い学院がございました。

 そこへ通う生徒のほとんどが、誰もが一度は耳にしたことのある歴史上人物の苗字で彩られ、家柄だけではなく、経済力にも未来を約束されたお子様方が、帝王学を学ぶため集っておいでにございます。

 都内一等地の武道館数十個分な敷地に、幼等部から大学院までの校舎が立ち並び、一貫教育が成されるこの学院は、どの学年も、松・竹・梅の三クラスで構成されておりますが、毎年執り行われるクラス選抜は、家柄や経済力ではなく、完全試験成績順という実力主義の校風でもありました。

 特に学年トップである松組は、学年順位が各十位までの男女二十人で構成され、校舎・机・制服に至るまで、他の竹組や梅組とは大きく違い、何もかもが優遇された特別環境と待遇で、お過ごしになることができるのです。

 全ての次元が違う、誰もの憧れであり羨望の的である彼らではありますが、ご自分の置かれた幸せ極まりない境遇に、納得しておらぬのが世の常。
 そんな、隣の芝は青いと思われてしまう年頃な彼らが、納得と満足感を極めるために、設立したクラブがございました。

 松組であることが必然で、尚且つ眉目秀麗さを誇る男子だけが入部を許されるという、独断と偏見に満ちたそのクラブでは、まるで平安絵巻の如く、艶やかで麗しい和装の『イケメン』と謳われる彼らが、美しい色とりどりの和菓子に囲まれて茶を立てるという、なんとも奇怪なものでありました。

 なんのために茶を立てるのか……
 そのような理由など、学院生の誰もが解らない状況でありましたが、クラブ設立から数年経った今、そのような他愛もないことを気になさることが既に罪。

 そう。イケメンの麗しい和装姿。
 源氏物語のようなその絵図に、ついときめいてしまうのが、うら若き乙女たち。
 そして今日もまた、全面ガラス張りの部室の周りには、乙女たちの手形・鼻形・口形が、くっきりと残る放課後なのでありました。

 そんな茶道部に、旋風を巻き起こす事件が勃発。
 予てよりお父上の都合で、諸外国を転々とされていた公家橘氏が帰国し、この学院に再編入してきたことから、物語は始まるのでございます――
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Image by ©亡き王女のための研究所