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◇◆ 彼が盗んだもの Princess 5! ◇◆
 鶏のように舞い、鶏のように刺す。
 ノリに乗っているルパン十六歳、ここに参上。(デデンとね)

 今日も文子をウォッチングゥ。今は朝だよモーニングゥ。
 さらに文子を迎えにゴーイング。部屋の扉をノッキング。
 けれど文子は、俺の顔を見るなり、妙に真っ赤な瞳を湛えて叫ぶ。
「ルパンっ! 今日はオーロラ姫ごっこやるから!」
 お、お母さんごっこじゃ駄目ですか。
 ちなみに俺、お父さん役なら自信があります。(特に夜の部が)
 何なら、今からでも是非、夜の部上演を。(切に希望)
 というか、オーロラ姫って誰?(アラスカの人?)

 オーロラだかカローラだか知らないが、その名からして、確実に異邦人だろう。
 時代劇なら許せるが、日本人が築き上げた文化を疎かにし、異邦人を演じるなど滑稽極まりない。
 だからどこまでも辛辣に、威圧的に、目を細めて文句を垂れた。
「日本男児たるもの、そのような異邦人を演じるわけにはいかぬ……」
 これぞ、究極のサムライスピリッツっ!(でも英語)

 ところが文子は、まぁアッサリと切り捨てる。
「じゃ、ルパンは不参加ね」
 仕方がない。ここは一発、ビシッと言ってやろう。
「え〜っ! や、やるよぉ〜。やるやるっ!」
 だってなんだか、だって、だってなんだもん……(弱気なハニー風)

 フラッシュになれないハニーのまま文子と並んで歩けば、あちら側から、同類オーラを放つ、憂鬱なハニーがやってきた。
「胃がいてぇ……」
 最早この男の挨拶は、おはようがコレ。こんにちはがカッタリィ。
 まぁ、それは当然だ。魔女と契約を結んだのだから。(ヤっちゃった……)
 だけど思い遣りのある俺は、気づかないふりをしてやろうと思う。(要は逃げです)

 だから挨拶に答えることなく、ドーンと疑問をぶつけた模様。
「おい次元、オーロラ姫って、アラスカ人だよな?」
「いや、アラベスク人じゃなかったか?」
 アラベスクなんて国、あったっけ? いや、でも、そんな感じだ。(雰囲気が)
 そんな悩みあぐねる俺の首に、突如現れた巨体が腕を回してほざく。
「あぁ、カリカリの砂糖パンだろ? 俺、あれ苦手」
 ゴエちゃん、きっとそれはラスクだよね……
 というか、ゴエちゃんに、苦手な食べ物があったんだね。(ちょっと意外)

 さらにそこへ、少し前を歩いていたらしいワトソンが、何故か後進行進しながらやってきた。
「オーロラ姫とは、眠れる森の美女のことですね。チャイコフスキー作曲の古典バレエですよ」
 ワトソン、よく俺たちの会話が聞こえたね……(地獄耳?)
「あら、ちなみに、アラベスクはイスラム美術の一様式のことよ。まぁ、ドビュッシーも、その名の曲を作ってはいるけど」
 へぇ。凄いね。どうでもいいけど。(文子以外は眼中なし)
 それなのに、俺以外しか眼中にない文子は、そんなトリビアに色めき立つ。
「フジコちゃんおはよう。すごい博学ぅ。文子、尊敬ぃ!」
 ふ、文子、だからそれは勘違い……(続行中)

 ところが何やら、両想い云々は勘違いとまでは行かないらしい。
 保健室での一件以来、何故かリアルフジコの言動は、文子を罵るものから、助言へと変化しているから遣る瀬無い。
「悔しければ、貴女も豊富な知識を詰め込みなさい」
「悔しくないよ? 文子はフジコちゃんを、尊敬しているだけだもん」
「では悔しがりなさい。それが糧となり、貴女を向上させるのよ」
 けれどそんな師弟関係を結び始めた二人を、面白くない顔で見下ろす者が俺。
 あ、いやいや、俺ともう一人……

「何度這い上がろうとも勝てず、向上どころか消沈するのがオチだぇ?」
 姉さん素敵です。もっと強く、もっと激しく言ってやってください。(ヒデキっぽく)
 何なら俺、姉さんの鞄を持つことも厭いません。(それはパシリ)
 それでも、そんな姉さんに負けることなく、言い返すフジコもまた、立派な悪魔化してますね。
「夢を見ることもできない、異界の者は大変ね。ねぇ史彦くん」
 が、何故そこで、ワトソンに振るんですかぁ!(来るよ、来るでしょう!)

 アスファルトに無数の罅が入り、全身の毛を逆立てた悪魔が宙に浮く。(ように見えた)
 そんな悪魔に対抗するよう、フジコが両手を広げ、片足を上げる。(何の舞い?)
 悪魔の舌が裂き割れ、撓る鞭の如く口内から飛び出し、フジコを打つ。(最早幻覚)
 そこで、地に足を着いたままフジコが大きく仰け反り、強靭な鞭を躱した。(キアヌ? キアヌなの?)
 すれば当然始まる、お決まりアフォ会話……

「み、見ましたか! マトリックスです!」
「わりぃ。俺はニベア派」
「ゴエモン、それはアトリックスじゃねーか?」
「ばっ! ママの手は魔法の手って歌、知らねーのかよっ」
「それは味噌屋のCMだろ」
「味噌に魔法はいらねーだろっ。素朴な味を楽しめっ!」
 ゴ、ゴエちゃん、ハンドクリームにも魔法はいらないよね……
 いやいや、それよりも、逃げないでいいんですか、俺たち。(否、逃げようよ!)

 米俵の如く文子を担ぎ上げ、道路勾配15%の坂を駆け上がる。
「ルパン、パスっ!」
 そんな俺の隣に次元が並び、両手の甲をカムカムと折り曲げ、荷物を渡せと合図した。
「おっしゃ〜!」
 片手で自分と文子の鞄を次元へ投げつけ、気合いの入った掛け声をあげれば
「フォーメーションB発動!」
 何故かワトソンを担いだゴエモンが、次元を挟んで隣に並んだからビックリです。
 ゴ、ゴエちゃん、朝からフルパワーだね……

 多分これが、フォーメーションBだっぽい感じで校門を潜れば、登校指導で校門へ佇む桜庭が、呆れを通り越した軽快さで手を振った。
「お? 今日はフォーメーションBか? 頑張れよ!」
 い、いいんですか、そんなんで……(ちょっとは止めようよ!)
 そんな桜庭に、生活指導の柴田が、眉間に皺を寄せすぎるほど寄せて物申す。
「あれがフォーメーションBなんですね? 凄いなぁ」
 否、だからさ、あんたも止めようよ……(感心すんなっ)
 けれど養護教員の水戸ちゃんだけは、仁王立ちにて怒鳴り声を上げる。
「何でCじゃないのっ! 桜庭先生に負けちゃったじゃないっ!」
 そ、そっちかよ。というか水戸ちゃん? 負けたってことは……(トトカルッチョ!)

 昇降口にて文子を降ろし、息を整えながら、払拭できない疑問を次元の耳元で囁いた。
「何がBで、どれがCなの?」
 すると、合計五個の鞄を放り投げた次元が、息苦しさ満載の顰め面で文句を垂れる。
「知らねーよっ! かったりぃ!」
 次元お前、それはお昼のご挨拶じゃ……
 けれどそこで、携帯用酸素ボンベを口に宛がうワトソンが、俺の疑問を解決してくれた。
「誰が真ん中か、です。Aはルパンくん、Bは次元くん。Cが……」
 ちょっと待て。ワトソンよ、君は走っていないよね?(何故酸素)
 しかもまた、何でそんな物を持ってるの?(それがカレヌスです)

 大騒ぎしながら階段を上り切ったところで、教室のドアを開ける文子が、突如叫びだす。
「なんてったってオーロラ! あたしオーロラ!」
 そう言えば昔、そんな歌があったよね……(ユアマィ、アイドル)
 けれど最早誰もがそんな戯言を、本日のフェアと認識するクラスも凄いです。
「何よ、今日は文子主演のプリンセスごっこ? じゃ、私は育ての親の妖精かなぁ?」
 中島、やっぱりお前は自覚してるのね……(お母さん)
「どうせ私は、カラス止まり……」
 小島、お前もまた、自分のポジションを掴んだね……(by端役)

 すれば当然、順番的にもお呼びでない男の登場です。
「文子がオーロラ? じゃ、フィリップ王子は辞退するよ」
 けれどそんな翔也に向かって、片眉を上げたゴエモンが斬りかかるのも、恒例よね。
「何なら俺が、オーロラやりますかっ!」
 ゴエちゃん、それはどうかと……(発起人は文子だし)

 石川がお姫様だなんて冗談じゃないとばかりに、翔也がプリプリと小言を言いながら自分の席に戻る。
 すると椅子に立膝をつき、偉そうに踏ん反り返った次元が嫌々加減で呟くのも恒例かと。
「もうよ、女子だけのプリンセスファイブでいいんじゃね?」
 次元、なんだかそれじゃ、科学戦隊プリンセス……
「ですがファイブってことは、五人の姫物語ということになりま」
 ワトソン、何でそんな中途半端な箇所で言葉を止めるのよ。
 そこでワトソンの視線を追いかければ、マトリックスな二人がXメンにやってくる……

「エ、エイリアンとプレデター?」
「いやいや、フレディー対ジェーソンだろ?」
「ばっ! スクリームvsラストサマーだって」
「いいえ、あれは、ベストオブB級ホラーです!」
 い、いいの、そんなこと言い切っちゃって……(来るよ、来るでしょうパート2!)

 けれど俺の予想は外れ、来るはずのものは来ませんでした。
 何故ならソレは、何も考えていない文子が、二人の戦いに割って入ったからです。
「由香、フジコちゃん、二人は何のお姫様役をやる?」
 どちらにも、姫という役処は無理があるかと……(魔王っぷりが)
「あ、でも、オーロラ姫はダメだから。それ、私がやんの決定!」
 わ、解った。解ったから、もっと空気を読もうよ……(でも可愛いけど)

 そこで、絞った瞳孔を金色に光らせ、リアルフジコが文子を見た。
 さらに、多分、耳の後ろ辺りにあるのだろう鰓から、蒸気のような音を発した福島も文子を見た。
 拙い。俺の文子が食われる。アンダーワールドに紛れ込んだ、可愛い羊さんが!
「ちょっと待っ」
 だから慌てて止めに入ろうとしたところで、異界の者が同時に同じ台詞を吐き出した。(カブッたわ!)

「シンデレラで」
「シンデレラね」

 む、無理でしょう? 無理です。無理ですから。
 そんな化け物染みたシンデレラなど、舞踏会に招きたくありません。
 何やら、継母継姉になった方々が、気の毒だと思うほどに。
 けれど文子は動じません。朗らかな笑顔にて、自身の意見をホザキます。
「えぇ? フジコちゃんは白雪姫なのにぃ! ほら、薔薇色の唇だし♪」
 文子、それは生き血を啜ったからじゃ……
「そう? 貴女がそこまで言うのならば、ワタクシは白雪姫で良いわ」
 ど、毒リンゴを芯まで貪る光景が見えるのですが……

 更に文子は、仁王立つ福島に抱きつき、小動物目線にて筋の通らぬ台詞を吐き出します。
「いいなぁ由香は。背が高いからシンデレラが似合って」
 ちょっと待て。シンデレラは背が高いんですか?(さぁ?)
 というか、抱きつくなら悪魔ではなく、是非この俺に……(カモ〜ン!)

 居ても立ってもいられず、半ば夢遊病にて文子に近づき、福島から引っぺがす。
「痛っ! 何すんだ、この…グエッ」
 俺の胸の中で暴れ狂う、可愛いお姫様は、可愛いからこのまま放っておこう。
「放せっ! やめっ、放せって言ってん…モエェ」
 あぁ幸せ。あぁ気持ちいい。このプニュプニュとした、ロリロリ感が堪らないのよね♪

 そんな俺の行動を止める不届き者など、もう何処にも居ない。
 各々が各々の好き勝手に、今後の展開を語り出す。
「あ、由香にシンデレラを取られちゃった。じゃ、私はラプンツェルかなぁ?」
「えぇ? じゃあ私は、人魚姫にし」
「だめぇ! 人魚姫は、ゆうこりんなのだっ!」
「ひっ、あ、じゃ、じゃあ私は……」
「あんた親指!」
 親指姫ってさ、お姫様なのに、何か存在感が薄いよね……
 というか、魔女はいつ来たの? そして、何時までいるの?(学活始まるよっ!)

               ◆◇◆◇◆◇◆

 そんなこんなで授業開始のチャイムが鳴り、生活指導柴田の現国が開始されたのだけれど……
「じゃ久島、この小節を…お、おい久島?」
 柴田に指名されているにも関わらず、腕を枕にした美しい姿勢で、文子が堂々と朝寝中。
 そこで、この状況を説明しようと、ワトソンが眼鏡を正して物申す。
「先生、只今オーロラ姫は、眠りの呪いに罹っています」
 ワトソン、そんな言い訳を、何でそこまで真顔……
 いやいや、それよりも何よりも、文子、お前眠かっただけなんじゃ。(寝顔も可愛いけど)

 一瞬どころか、唖然としたまま開いた口の塞がらない柴田を尻目に、プリンセスたちの物語は、プリンセスたちによって着々と進む。
「柴田先生がお困りのようですから、此処は白雪姫のワタクシが」
 リアルフジコが、自称を戯けながら、教科書を片手に優雅と立ち上がる。
 そして、どうしてなのか歌う。
 右手を頭上高くひらと舞い上げ、居もしない架空鳥をその指先に乗せ、一文字だけの音階を、ピアノの端から端っこくらいまで、歌う。
「ああああああああぁぁぁ〜」

 耳を劈くその歌に、誰もが手で耳に蓋をするけれど、オーロラ姫は起きません。
 それどころか、主演娘役の座は渡さないとばかりに、このお方が立ち上がります。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああ〜」
 えぇ、下げたわ。天界まで突き抜けそうな白雪姫の声を、それはもう見事に地中深く埋め込んだの。
 こんなことができるのは、悪魔だと思うでしょ?
 でも違うの。これをやったのは、ラプンツェル!(ゴエちゃん凝固中!)

 白雪姫の薔薇色唇から、鋭い犬歯がちらと覗いて髪長姫を威嚇する。
 けれど髪長姫も負けていない。自慢の長い髪をヌンチャクの如く振り回す。(歯には髪を)
 そんな二人に挟まれた、小さな親指姫は言葉を失い縮こまり、ボソボソ何かを呟き中。
「うっそ、なんで、久恵こわっ」
 そしてここまでくれば、御存知、堂々の真打登場。
 それはオブラートに包んだような、麗しの甘く低い声で、歌うは魔界のシンデレラ!

「夢は望むもの〜眠りの中〜 悲しみも〜消える〜 ……地中深く眠り続ければ、だがな」

 その歌声は誰も彼もを石化させた。と、思ったら、一人だけ元気な者がおりました。
 彼女の場合、心地良い眠りのお蔭で、歌声を聴かずに済んだようです。
 そして、手の甲で口元のヨダレを拭きながら、いけしゃあしゃあと言いました。
「みんな何やってんの? 授業中だよ?」
 ふ、文子、お前はある意味、真の勇者だ……(そこが好き♪)

「あんたが言い出しっぺでしょっ!」
「ラプンツェルよ、あやつに怒るだけ無駄だぞえ?」
「ワタクシとしたことが、ラプンツェル如きに……」
「オ、オーロラぁ! おっかなかった。おっかなかったの!」
「えぇ? 恵子、オーロラって何?」


 〜その頃のティーチャー柴田〜

 ほんと、ヤダもう、このクラス……
 どうしてこのクラスだけは、いっつもこうなの?
 で、でも、桜庭先生よりマシだよね。
 よかった俺。このクラスの担任じゃなくて。
 あぁ桜庭先生、南無阿弥陀仏……
 
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photo by © Lovepop