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◇◆ 彼が盗んだもの ミイラとりがミイラ ◇◆
◆ ルパン会議 in ミスド――

「どうよ? 俺様考案の、やきもち大作戦! すっげぇうまくいってね?」
 ドーナツを指でクルクルと回しながら、ご機嫌のゴエモンが切り出した。
 そんなゴエモンに向かって、カウンター越しにミスドの制服姿をした久恵がボソッとつぶやく。
「確かに松島さんは、ルパンにご執心みたいだけどねぇ……」
「でしょ? しかもそんな2人を見てる文子が、やきもちやきまくりって感じ?」
 浮かれ続けるゴエモンに、アイスコーヒーを片手にしたワトソンがちゃちを入れた。
「でも僕は、ミイラ取りがミイラになっちゃう気がしてなりませんよ……」
 ワトソンの方へと振り向いたゴエモンが、その発言に反論する。
「ルパンが? ありえねぇ〜! あいつからふみふみ病を取ったら、何が残るのよ?」
「いや、そうじゃなくてですね?」
 ワトソンが言い聞かせようとする傍から、物思いにふけった由香が口を挟む。
「誰がミイラになるのかね……」
 そう言って、横目で溜息交じりに次元を見つめた。

「はっ? なんでお前ら2人して、次元の顔を見るんだよ?」
 ワトソンと由香の視線が、共に次元に向けられていることに納得できないゴエモンが問う。
 けれど当事者次元は、腕時計ばかりを気にして会話に加わろうとしておらず
「あ、文子を迎えに行ってくるわ」
 いきなり席を立ち上がり、そそくさと店を後にした。
 そんな次元の背中を見送りながら、頭を抱えるワトソンが
「はぁ。 だからミイラがミイラって言ったのに……」
 由香と同じく、深い溜息をついてそう言えば
「ゴエモン、お前 責任とれよ?」
 人差し指を、ゴエモンの心臓にあてがって、脅す様に由香が言い放つ。
 ようやく事の次第を把握したゴエモンの動きが止まり
「マジかよ…… 久恵ちゃ〜ん! コーヒーおかわり!」
 どこまでもマイペースな言動を続けたため、久恵にトレーで殴られた――

◆◇◆◇◆◇◆

 おかしい。かなりおかしい……
 文子の凶暴性は、今に始まったわけじゃないけれど、 なにもしてないのに上履きを投げつけられるってどうよ?
 というよりも、もっとおかしいのは高梨だ。
 ここのところ、なぜかいっつも文子とツーショットってどうよ?

 大体、リアルフジコが編入してきてからというもの、皆がおかしい。
 なんで文子が『エセフジコ』なんて言われるわけ?(俺が言ったんだけど)
 なぜ俺を仲間はずれにして、みんなでドーナツを食べてるのよ?(主人公は俺よ?)
 なのになんで俺は、リアルフジコと一緒に帰ってるの?(意識不明)
 そして、とどめの一発は……

 なんで次元と文子が手を繋いでるの〜っ!(ぶっ殺す!)

「高梨さんと久島さんて、付き合ってたんだぁ!」
 文子と次元の手を見て、リアルフジコがやたら嬉しそうに言うけれど、 だからとて何一つ気にすることなく繋がれたままの2人の手。
 次元が、その言葉の意味に気がつかないわけがない。
 なのに振りほどくことなく、指までからめちゃってる2人の手から目が離せない。

「そっちこそラブラブじゃん? 腕まで組んじゃって」
 繋いだ手をブランコの様に揺れ動かし、嫌味ったらしく次元が言い返す。
 文子は眉根を寄せたままずっと俯いていたけれど、次元がなにやら文子の耳元で囁くと
「ルパンとフジコちゃんは、やっぱりお似合いね」
 そう言いながら、今すぐ抱きしめたくなるような、めちゃくちゃ可愛い顔で笑った。
 やべぇ。ど真ん中入った……

 というか、ちょっと待て。 今、なんて言ったのお2人さん。
 腕を組んでるとか、お似合いだとか言わなかった?
 ふと見下ろせば、いつの間にかフジコの手が俺の制服の腕部分を掴んでいるのが見えた。
 俺の視線が、そこに注がれていることに気がついたフジコは、なぜか頬を染めながら手を離し
「ご、ごめん。だってルパンったら歩くの早いんだもん」
 甘ったるい猫なで声で、モジモジと言い訳を始める。

 本当に最近、皆がおかしい。
 やれバイトだ、委員会だと言って俺の誘いをことごとく断り続け、なぜかその場にリアルフジコを呼び寄せる。
「ルパンが1人じゃ淋しいってうるさいから、一緒に帰ってやってよ」
 とまぁ、こんな具合でリアルフジコを言いくるめ、半ば強制的に営まれる最近の下校。
 挙句に文子は、一昨日起きた『うわばき事件』以来、俺と絶対に目を合わせようとしないし、 メールも電話も返事なし。
 俺は一体、何をしでかしたというのでしょう?

 吸い寄せられる様に、文子へと腕を伸ばし
「ふみ……」
 そこまで言いかけて、その続きを次元に遮られた。
「じゃ、お2人さん頑張ってねぇ〜!」
 ずっと離れることのなかった文子の手を引いて、家とは逆方向に歩き始める2人。

 やってられねぇ……

「ちょっと待ったぁ!」
 2人を追いかけようとするけれど、数歩進んだところで、体がガクンと後方に引っ張られた。
 振り返れば、リアルフジコがまた俺の制服を掴んでいて
「邪魔しちゃ悪いって!」
 文子さながらの眉間のしわを携えながら、首を横に振っている。
 そして、唖然とする俺に躊躇うことなく、延々と続く説教じみた講義を始めた。

「ずっと言おうと思ってたんだけどさ、久島さんとルパンって、ただの幼馴染でしょ?  いい加減、子離れしたほうがいいと思うんだよね……」
 タダじゃなくて、有料の幼馴染だけどね。
「久島さんさ、高梨くんと一緒にいるときだけは、めちゃくちゃ可愛いじゃん?」
 いや、文子はいつも可愛いけど?
「ルパンと高梨くんに対する態度も全然違うしさぁ、あれは恋してるんだって!」
 あぁ、俺に恋してるってことでしょ?
「だからもう、2人を応援してあげようよ!」
 はっ? 応援するのは次元だろ?

 全くおかしなリアルフジコの思想に、瞬きしかついていくことのできない俺は
「えっと、君の言ってることがサッパリ解らないんだけど? 文子はオレの文子であって、高梨の文子じゃないのよ?」
 全世界の人間が、知っているはずの文句を言い放てば、どこまでも続く長い溜息をついてから
「久島さんは、どっちのものでもないでしょ!」
 あっさりすっぱり、そう言い捨てられた。
 余りにも滑稽なザレ言だと、腹を抱えて大爆笑した後
「悪いけど、それだけは譲れないな。 文子はオレのもんだから」
 リアルフジコの肩を軽く叩き、そのまま手を振って立ち去ろうとした。
 ところが、俺の背中に向かって叫ぶ声――

「あんな女のどこがいいわけ? 乱雑で、ただ小さいとしか取り得のない偽者じゃない!」

 こめかみの青筋が、ヒクヒク動く。
 あんな女って言ったよね? 転校したてのお前に、文子の何が分かるのよ?
 けれど、俺は立派な男子だ。(多分)
 レディーと喧嘩するほど野暮じゃない。(はず)
 だから爽やかな笑顔で振り向いて、彼女にこう伝えよう!(やばい思いつかない)
 でももう振り向いちゃったじゃない!(何でもいいから言うんだ俺!)

「お前の母ちゃんデ〜ベソっ!」

 あんぐりと口を大きく開けたまま、リアルフジコが俺を凝視中。
 とりあえず明々後日くらいの方向を見て、この場をやり過ごすしか道はない。
 けれど気を取り直したのか、恐ろしく真剣な面持ちでリアルフジコが言い出した。
「私にも意地があるから! 絶対に、ルパンのこと諦めないからね!」
 彼女はそう言い終えると、勢いよく走り出してこの場を去った――


 やっぱりリアルフジコの思想には、ついていけそうにありません。
 あのセリフは、俺のことが好きだって意味なのかしら?
 いや、待てよ? もしかしたら、彼女も文子のことが好きなのかも?
 ということは、彼女は俺のライバル?
 あぁダメだ。 もう充電が切れる……
 さっきの文子の笑顔、超可愛かったなぁ。
 てか、なんでずっと不機嫌なの文子?
 いいかげん機嫌を直してくれないと、俺死んじゃいそう……

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photo by ©かぼんや