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◇◆ Mythology 2 ◇◆
 その頃魔界は、魔族たちの間で混乱が起きていた。
 元々、魔界に魔王はおらず、幻魔、妖魔、妖精、夜魔の四つの種族が、それぞれの領域を侵すことなく暮らしていた。
 ところがそこへ、希望という名の大甕が天より落とされた。
 四つの種族たちは、その大甕を奪い合い、激しい戦いを繰り広げたのである。

 大甕を天より落としてしまった神族の『パンドラ』は、ラノンの怒りに触れ、魔界へ堕ちた。
 そんな魔界の隅で嘆き悲しむパンドラに、夜魔族の長『エンプ』が囁いた。
「私がラノン様に取り次いで、お前を天へと戻してやろう」
 エンプの囁きにパンドラは心底驚いて、そのようなことは有り得ぬことだと反論するが、 エンプはパンドラを説き伏せ、天界への道しるべを授かった。



 初めて天界へ昇ることの許されたエンプは、その美しさに魅入られ、神の座を奪おうと策謀を巡らせた。
 けれど、一種族の長であるエンプに、神の座は奪えない。
 そこでエンプは神族の王『ラノン』に取り入り、小さき一つの星を、我が物にしようと試みた。
 ラノンはエンプとの接見を拒み続けたが、エンプの誘いという囁きに我が耳を疑った。
「龍族の長と、貴方の愛する娘を引き離さねば、あの星は滅びてしまうでしょう」
 そこで初めて事の次第に気がついたラノンは、余りもの怒りと嘆きから、我を忘れ、闇の力に取り込まれていく。

 一方、ラノンが魔王になる姿を見た予言の神『アポロ』は、必死でそれを食い止めようとした。
 けれど時すでに遅く、エンプにそそのかされ、魔王と化したラノンに白蛇の姿へと変えられてしまう。
 それでもアポロは、ラノンの傍を離れることなく、バールの未来を語り続けた。
「ラノン様、どうか、どうか、お目覚めに……正気を取り戻してください……」
 けれどアポロの願いは届かず、闇の力に支配されたラノンは、エンプをアポロの姿に変えバールへ放ち、 自ら創り上げた世界を、自ら破壊しようとしたのだった。



 ある日、魔力の神『ディーネ』は神殿に招かれ、『レイア神』より命を下された。
「魔界での混乱を、お主も知っておろう? 魔界の門番ディーネよ、お主自ら魔界へ降り立ち、元凶となった大甕を回収せよ」
 ところが、神殿より戻ると、苦渋の色を浮かべるアポロが、ディーネの帰りを待ち侘びていた。
 そして、悲感に暮れながら予言を告げた。
「大甕は、ベラ様でなければ回収できない。ベラ様がお一人で魔界を訪れなければ、バールは崩壊するだろう……」
 アポロの不可解な予言にひどく驚いたディーネは、その旨を戦いの神『クレス』へと溢した。
 けれど、アポロの予言的中を、幾度となく眼の当たりにしたクレスは、その言葉に驚愕する。
「ディーネよ、アポロの予言は絶対なる真理……」
 こうして二人は、偽アポロの真の姿に気付くことなく、悩み苦しみながらもベラを魔界へ送り込む。
 ところがクレスはその時、魔界の入り口でトグロを巻く白蛇を見て、それがアポロだということに気がついた。
 けれど無情にも魔界の扉は閉ざされ、ベラが異形の魔に連れ去られて行く。
「なんということだ……なんということをしてしまったのだ……」
「あぁクレス……どうしたら……私たちはどうしたら……」



 アポロに成りすましたエンプの企みにより、バールは着々と崩壊へ向っていた。
 エンプは使者を龍族まで使わせ、ベラが魔界へ堕とされたと告げた。
 そこで怒り狂ったピューボロスは、若き眷族神である『ゼロ』を連れ、単身でバールに乗り込んだ。

 その頃バールでは、エンプによって夜魔族が闇より解き放たれ、人々を襲い始めていた。
 けれどエンプは、慌てふためきながらラノンに告げる。
「龍族がバールを襲い、人々が逃げ惑っております!」
 龍族の襲来に憤慨したラノンは、自らピューボロスを迎え撃つため、魔界を後にした。
 そこで機転を利かせたアポロは、怪物と化したベラと同体し、ラノンの後を追い魔界を出でる。

 魔界から脱出したベラは、その無残な光景に打ちのめされた。
 そして、戦いの中心で傷つくピューボロスを見つけ、無心に走り寄る。
 ところが、ベラの存在に気付いたエンプが、ピューボロスに駆け寄り、ベラを指差し叫んだ。
「あの化け物が、ベラ様を殺したのです!」

 その叫び声を聴きつけ、ようやく偽アポロを見つけたクレスは、雄たけびながら剣でエンプを貫いた。
 さらに、魔の戯言に耳を貸すなとピューボロスに叫ぶが、その声はピューボロスへ届かなかった。
 ベラを失った悲しみで巨大な龍へと化したピューボロスは、腕を振り上げ、一直線にベラ目掛けて飛んで行く。
 そして躊躇うことなく、鋭く尖った爪で、ベラの喉を切り裂いた――

 エンプの死によって、ようやく幻覚から解放されたものの、正気に戻ったラノンを襲ったのは、愛娘ベラの死。
 砂のように、ピューボロスの指の合間を零れ落ちて行くベラの姿を見取り、違えるほどの狂気を身に纏い、ピューボロスへと襲い掛かった。



 ベラを自ら殺してしまったピューボロス。
 ベラを自ら怪物へ変えてしまったラノン。
 愛する者を失った互いは、絶望の戦いを繰り広げた。
 そして美しき星バールは、その形を残すことなく崩壊した――
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